第229話 全員その恰好にさせるのよ
「え? 誰だ、あの美少女」
「ルーク村長だって。ゴリティアが優勝のお願いで、女装してもらったんだとか」
「村長!? マジか。いや、確かに可愛い顔してたけど……まさかここまで……」
「きゃーっ! 村長こっち向いてぇぇぇっ!」
「かわいいいいいいいいいっ!」
村の中央広場。
そこで僕は、人生最大と言ってもいいだろう屈辱を受けていた。
「ううう……恥ずかしい……」
ゴリちゃんの手で女装させられた挙句、大勢の村人の前にその姿を晒す羽目になってしまったのだ。
というか、噂を聞きつけて村人が集まりまくっている。
僕の女装姿なんか見て、一体何がそんなに楽しいのだろうか。
「頬を赤くしちゃって、かわいい!」
「ていうか、女の子にしか見えないんだけど……」
「そもそも女の子だった説」
「それはあり得るかも……?」
ないよ!
僕はれっきとした男だよ!
「ママー、何で村長様が女の子の恰好してるのー?」
「そ、それはね……ええと……(どう説明したらいいのかしら……)」
やめて!
子供の純粋無垢な視線が一番きついから!
「……あの村長なら抱ける」
「ああ、抱けるな」
「付いてても関係ないレベル」
「むしろ付いてるのがいい」
「「「え?」」」
……うん、何も聞こえなかったことにしよう。
「うふふ、思ってた通り大評判ねぇ」
「ねぇ、もういいよね? というか、お願いって女装するとこまでじゃなかったの?」
「あら? もちろん最初からこれも込みだったわよ?」
そう嘯くゴリちゃん。
「せっかくだから、しばらくこれで過ごしてみたらどうかしら?」
「絶対に嫌!」
今だけの辛抱だから耐えられているだけだ。
「残念ねぇ。そんなに可愛いんだから、もっと堂々と楽しんだらいいのに」
逆に堂々と女装しているゴリちゃんは凄いと思う。
「はぁはぁ……ルーク様……可愛すぎです……この姿を……目に焼き付けておけば……一生幸せな気持ちで生きていけます……」
それにしてもさっきからミリアが興奮し過ぎなんだけど。
熱でもあるのかなというくらい顔を赤くし、呼吸も異常に荒い。
そして目をギンギンにさせて僕をずっと凝視してきているのだ。
「た、確かに、これは可愛すぎるわ……こんな妹がいたら間違いなく溺愛しちゃう……」
さらにセレンまで、うっとりしながら僕の全身を見回してくる。
「そうだわ!」
そのとき何かを思いついたのか、セレンはポンと手を打った。
「決勝戦で、私の試合に手を出してきたわよね! あの罰をどうしようかとずっと考えてたけど……」
あの後めちゃくちゃ怒られた。
必死に平謝りして、どうにか許してもらえたと思っていたんだけれど、どうやらそれだけでは足りなかったらしい。
……嫌な予感しかしない。
「決めたわ! 罰としてこれから一か月、ずっとその恰好で過ごしなさい!」
それだけはやめてえええええええええええええっ!?
しかも一か月とか長すぎる!
「あ、もちろん影武者も全員その恰好にさせるのよ」
僕は泣いた。
「ぎゃははははははっ! こいつは傑作だ! マジで腹がいてぇっ! ぎゃははははっ!」
大声で笑い転げているのは、居候のミランダさんだ。
今日も昼間からお酒を飲んでいるらしく、頬が赤い。
「にしても、めちゃくちゃ似合ってるぜ! ぎゃははははっ!」
「いや、笑いごとじゃないんですけど……」
僕の女装姿を指さしながらの大笑い。
ここまで失礼な反応は初めてだ。
不運なことに、ちょうどトイレに行こうとしていたミランダさんと鉢合ってしまったのだ。
当然ながら何で女装なんてしているのかを聞かれたので、これまでの経緯を話したらこれである。
「ぎゃははっ……ぎゃははっ……や、やべぇ、笑い過ぎてちょっと漏れちまった……」
「早くトイレに行ってください!」
慌ててトイレに駆け込むミランダさん。
笑い過ぎて気持ち悪くなったのか、おええええっ、と嘔吐する声が聞こえてきた。
なんてダメな大人なのだろうか。
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