第221話 めちゃくちゃ目が回る
さすがに一点に力が集中する剣先は、ゴリちゃんでも拳で防げないだろう。
そう誰もが思う中、なんとゴリちゃんは、
ガガチンッ!!
拳と拳で挟み込むようにして、大剣を受け止めてしまった。
「……マジかよ」
「うふん、今のはとぉっても良い突きだったわぁっ! もっともっと突いてほしいけど、あんまり長いと観客も退屈しちゃうわよねぇ」
そのままゴリちゃんは力任せにアレクさんから大剣を奪い取ると、リングの外まで投げ飛ばしてしまった。
無防備となったアレクさん。
ポキポキと拳を鳴らしながら、ゴリちゃんがゆっくりと迫る。
「ま、待て、武器がなければ勝負にならねぇ! 降さ――」
「そんなこと言わないで、アタシの愛も受け止めてちょうだいっ!」
降参と言い終わる前に、ゴリちゃんが躍りかかった。
結構大柄なはずのアレクさんだけれど、ゴリちゃん相手だと子供が大人に襲われているように見えた。
「アンアンアンアンアンアンアンアンアンアンっ!!」
「がああああああああああああああっ!?」
謎の掛け声とともに放たれる凄まじい拳の連打。
アレクさんの身体があっさりと宙に浮き、もはや成す術もないサンドバック状態だ。
「ハァァァァァァンッ!」
最後はひと際大きな叫び声とともに放たれた打撃で、アレクさんは場外まで吹き飛んでいった。
だ、大丈夫かな?
めちゃくちゃ殴られてたけど……。
「心配は要らないわん。ちゃ~んと急所は外しているから」
「ぐ、が……ま、魔物より……恐ろしい……」
あ、大丈夫みたいだ。
こうしてあのアレクさんを歯牙にもかけずに、ゴリちゃんは準決勝へと駒を進めたのだった。
準々決勝、最後の第四試合。
その対戦カードは、ドリアル対セリウスくんだ。
「セレンの弟か。あいつにリベンジする前の肩慣らしにちょうどよさそうだな」
「ふん、一度は姉上に負けた貴様に負けるわけにはいかない」
二人は試合前からバチバチと火花を飛ばしている。
これはきっとまた白熱した戦いになるだろう、と思っていたら、
「ぐっ……こんなはずはっ……」
片膝をついて苦しそうに歯を食い縛るドリアル。
あちこち傷を負ってすでに満身創痍だ。
「勝負ありだな。姉上と戦うのはぼくだ」
対するセリウスくんは、無傷で勝利宣言している。
試合はかなり一方的な展開になってしまった。
セリウスくんがドリアルを圧倒したのだ。
「はっ、二人の相性を考えりゃ当然だぜ」
またラウルが解説してくれた。
「怪力だが鈍重なハゲ巨漢に対して、セリウスは身軽さを活かしたヒット&アウェイを得意としている。一対一じゃ、ハゲ巨漢はまず攻撃を当てることができねぇだろうよ」
実際、ドリアルの斧は空振りするばかりで、逆にセリウスくんの攻撃は面白いように当たっていた。
幾ら耐久力にも自信があるドリアルでも、限界がくるのは時間の問題だ。
「くくくっ……まだだっ! まだ終わってないぜ……っ! こいつはあいつと戦うときの奥の手として取っておきたかったんだが、こうなったら仕方ねぇっ!」
ドリアルには何か逆転のための秘策があるらしい。
ふら付きながらもどうにか立ち上がったかと思うと、いきなりセリウスくん目がけて斧を投擲した。
「っ!?」
だけどそれをセリウスくんは難なく躱してしまう。
「何かと思えば……不意を打ったところで、そんなものは当たら――」
「はははっ! 奥の手はここからだっ!」
ジャリンッ!
「なっ……鎖っ!?」
ドリアルが投げた斧には鎖が繋がっていた。
それがピンと張って、斧が空中に停止した瞬間、ドリアルは鎖を横方向へ思い切り引っ張った。
ギュンギュンギュンギュンッ!
そのままドリアルはぐるぐると回転を始めた。
それに伴い、鎖に繋がれた斧がリングの上をプロペラのように回り出す。
あんな斧、掠っただけでも大ダメージだろう。
しかも徐々に鎖の長さが増していき、リング上にはセリウスくんの逃げ場が無くなっていく。
セリウスくん、大ピンチだ!
「おええええっ! 目がっ……めちゃくちゃ目が回る……っ!」
……ドリアルの方もピンチっぽいけど。
少しでも面白いと思っていただけたら、↓の☆で評価してもらえると嬉しいです。





