第220話 愛の熱線よ
ガイさんがいきなり光を炸裂させた。
強烈な目くらましに、セレンも思わず目を瞑ってしまう。
その隙を突いて、棍で殴りかかるガイさん。
これは勝負が決まったと、誰もが思ったそのときだ。
ガィンッ!
なんとセレンは目が見えていないにもかかわらず、二本の剣をクロスさせ、棍を受け止めてしまったのである。
「なっ!?」
「目が見えなくても、これまでの動きを踏まえれば、ある程度は軌道を推測できるわ」
つまりガイさんの癖などを見切って、どこに攻撃が来るのか予測して受け止めたという。
「そんなことが……」
驚愕するガイさんへ、視力を取り戻してきたセレンが距離を詰める。
「無念……っ!」
斬撃を受けて倒れるガイさん。
さすがに自分で自分を治療する余裕はないようで、担架で医務室へと運ばれていった。
「これで準決勝進出ね!」
ベスト4に残ったセレンが、嬉々としてリングから降りる。
その際、小さく笑みを零しながら、
「ふふふ、優勝したら何でも一つお願いを……」
……一体何をお願いしてくるつもりだろう。
僕はちょっと怖くなって、ぶるりと身体が震えた。
セレンには頑張ってほしいけれど、できれば優勝は逃してほしい。
そんな複雑な思いを抱いていると、次の第三試合が始まった。
ゴリちゃんとアレクさんの対戦だ。
「……仕方ねぇ、ほんとは棄権したかったんだが、さすがにそんなカッコ悪いことはできねぇしな」
「アレク! 残ってるのはあなただけよ! パーティ代表として頑張りなさい!」
「ハゼナもああ言ってるし……棄権なんかしたら燃やされちまう」
アレクさんは戦いに乗り気ではなさそうだ。
一方、対照的なのはゴリちゃんで、
「うふん、やっぱりとぉってもいい男。すっごくアタシのタイプで、一目見たときから気になって、予選からずぅっと試合も見せてもらっていたわぁ。こうして戦うことができて、ほんとに嬉しいわん! チュッ♡」
「~~~~っ!」
ゴリちゃんの投げキッスを受けて、アレクさんの顔が真っ青になる。
戦いの前から大きなダメージを受けてしまったみたいだ。
「やっぱりか……予選から何か不気味な視線を感じると思っていたが……」
「あらん、不気味だなんて、心外だわぁ。愛の熱線よ!」
頬を膨らませ、プンプンと怒るゴリちゃん。
観客席で何人かが嘔吐するのが見えた。
「おらあああああっ!」
試合が始まると、アレクさんは覚悟を決めたように、裂帛の気迫とともにゴリちゃんに斬りかかった。
振り下ろされる大剣に対して、ゴリちゃんは拳を叩きつける。
ガキィンッ!!
「っ……なんてやつだっ!? 普通、大剣を拳で弾き返せるかよ……っ!」
ゴリちゃんの拳は素手だ。
それでどうやって大剣を弾いたのだろう。
「闘気だ。あのピンクマッチョの怪物は、元々の硬い骨と分厚い肉や皮に加えて、濃厚な闘気で拳を覆ってやがる。奴の拳はほとんどハンマーみたいなもんと考えればいい」
ラウルが解説してくれた。
「あら?」
ゴリちゃんが自分の拳を見て、何かに気づく。
僅かだけれど、手の甲から血が出ていたのだ。
さすがに大剣を殴って、まったく無傷とはいかなかったらしい。
「すごいじゃない! アタシの拳に傷をつけちゃうなんて……っ!」
「むしろその程度とか、冗談じゃねぇぞ……」
「いいわぁっ! もっと来てぇぇぇっ!」
「気持ちの悪い叫び声あげるんじゃねぇよ……っ!」
アレクさんは必死に剣を繰り出すけれど、ゴリちゃんはそのすべてを拳で防いでいく。
その度に血が飛び散るも、ゴリちゃんは痛がるどころか、恍惚とした顔になり。
「ああんっ、アナタの太くて立派なソレ、とぉっても硬くて感じちゃうわぁっ!」
「変な表現するんじゃねぇ!」
ゴリちゃん……あれでまさかのMなのかな……。
観客もドン引きする中、アレクさんもこのままでは試合が終わらないと思ったのか、勝負に出た。
大剣を後ろに引くように構えたかと思うと、容赦ない刺突を放ったのだ。
「はぁぁぁぁっ!」
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