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第206話 死ぬまで養ってくれ

 どうやら彼女を柱に縛り付けている鎖は、何らかの魔法によって保護されているらしい。

 ラウルの剣でも傷一つ付かなかった。


「ふむ。何らかの封印が施されているようだな。綺麗な状態を保っているのはそのためだろう」


 と、フィリアさんが分析する。


「ならば拙者の魔法でその封印から解放してしんぜよう」

「とか言いながら胸を触ろうっていう魂胆じゃないでしょうね?」

「……む、無論である」


 ハゼナさんに指摘され、ガイさんが目を泳がせる。

 このエロ聖職者……とハゼナさんが冷たい視線を送った。


 だけどガイさんが色々と試しても、その封印が解ける様子はない。


「どうするのよ、ルーク。このまま放っておくしかなさそうだけど」

「うーん、そうだね……」


 こんな状態の女性を放っておくのも忍びないけれど、今のところ助けられる方法はなさそうだった。

 助けるっていうか、さすがにまだ生きてるとは思えないけど。


「一応これだけ試してみようかな」


 僕はそう言って、彼女の腕に少し触れてみた。


 冷たい。

 だけど柔らかくて、間違いなく本物の人肌だ。


「瞬間移動」


 その状態で彼女と一緒に瞬間移動してみる。

 柱から少し離れた部屋の端っこだ。


 すると鎖だけを残して、女性は僕と一緒に転移することができた。


「あれ?」


 不思議なことに、柱や鎖という支えを失っても女性の体勢はそのままだった。

 それどころか宙に浮かんでいる状態だ。


「ダメだったかな?」


 そう思った、そのときだった。


 女性がゆっくりと瞼を開いたのである。

 現れたのは髪と同じ、黄昏時のような色の瞳。


「ククク……このオレを封印から解くとは、良い度胸じゃねぇか?」


 次の瞬間、端正な顔にあくどい笑みが浮かんだ。


 そして吹き荒れる膨大な魔力。

 僕は思わずその場に尻餅を突いてしまった。


「ルーク!」

「ちっ……こいつはヤベェのを起こしちまったみてぇだなっ!」

「なんて魔力なの!?」

「くっ、危険視されて封印されていたパターンかよ!」


 みんなが慌てて武器を手にして身構える。

 あのラウルでさえ、額に脂汗を浮かべているくらいだ。


「このオレを長く心地の良い眠りから覚ましてくれたんだ。その責任、しっかり取ってもらおうじゃねぇかよ……なぁ、小僧?」

「っ……」


 黄昏色の目が僕を見下ろしてくる。

 まるで蛇に睨まれた蛙のように、全身が固まって動けなくなってしまった。


 なんて存在感……っ!

 下手をしたら、父上以上の……。


「ルーク殿、逃げろ!」

「村長、そいつは危険だ……っ!」


 瞬間移動で逃げればいいのに、このときの僕はそれもできなかった。

 まぁ影武者だから別にやられても問題ないのだけれど。


「ククク、逃がさねぇぜ?」


 そう言って手を伸ばしてくる。

 僕は思わず目を瞑って――






「くぅぅぅっ! なんて美味い酒だっ! 最高じゃねぇか、ここはよぉっ!」


 黄昏色の髪をした美女が、昼間から酒を飲んで騒いでいる。

 すでに何杯も飲んでいるので、顔は紅葉のように赤らみ、すっかりできあがってしまっていた。


「ええと……ミランダさん?」

「ん? 何だ? テメェも飲みてぇのか?」

「いえ、僕はまだ飲める年齢じゃないので」

「か~~っ! 真面目だねぇ!」


 ミランダという名のこの美女は、村で作った麦酒を煽って、ぎゃはははと笑った。


 荒野の村の、僕の家――三十階建ての宮殿の最上階フロア――の一室だ。

 周囲には食べ終わったお皿や酒瓶が散乱していて、なかなかちょっと臭いが酷い。


「本当に働く気はないんですか?」

「はっ! 言っただろうがよ! オレは一生テメェに寄生して生きていくってよ!」


 よくそんな恥ずかしいことを堂々と宣言できるよね。


「ああん? 何だその顔は? オレを眠りから覚ましちまったテメェが悪いんだろうがよ。ちゃんとその責任を取れってーの」


 そう。

 眠りから覚めた直後、彼女が僕に要求してきたのは、これだった。


『働きたくないから死ぬまで養ってくれ』

『……はい?』


少しでも面白いと思っていただけたら、↓の☆で評価してもらえると嬉しいです。

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外れ勇者1巻
4月24日発売!!!
― 新着の感想 ―
[一言] おおうっ!! ミランダさんが意外なところから、あらわれましたよ(^^) 栽培チートで封印されちゃった?
[良い点] うむ、ミランダさんはこうでなくちゃな。 お話間を移動することなど朝酒前!ってやつだね。 ...うまい酒がでてくる全てのお話に涌いてくるキャラじゃないよね。 [一言] 最初、過去の話の登場人…
[一言] なんか物語と違和感が…
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