第190話 丸投げしちゃおう
「……ふう、何とか止まった」
「ほんと、どうなるかと思ったわよ」
電車は停止していた。
とっくに荒野は飛び出しちゃったけど。
動かすときに使ったあのハンドル、実はアクセルだけでなく、ブレーキにも使えたらしい。
向こう側に押すとブレーキがかかったのだ。
あのままだと延々と線路を敷きながら走り続けなければならないところだった。
「今度はどうやって戻ったらいいんだろ?」
これってバックできるものなんだっけ?
操縦席は片側にしか付いてないし……。
いや、たまにオーバーランしちゃうこともあるわけで、多分、後進させる方法があるはず。
「もしかしてこれかな?」
よく見たら「前」「後」という文字が書かれ、切り替えられそうなハンドルがあった。
「後」のところまでハンドルを移動させる。
再び運転ハンドルを手前に倒すと、電車が今度は後ろ向きに走り出した。
「これで戻れそうだね」
戻るだけなら瞬間移動で戻れるけど、こんなところに電車を放置していくわけにもいかない。
「この電車? とかいうのがあったら、街から街への移動がすごく楽になるじゃない!」
「うん。大量の物資を運んだりするのにも使えるね」
今さらだけど、もはや完全に村の施設じゃないよね……。
「すごいじゃない! じゃあどんどんこれを繋げていくのね?」
「いやいや、勝手にそんなことしたらダメでしょ。ちゃんと各領主に許可を取らないと」
それに電車を運転する人がいる。
好き勝手に走らせるわけにもいかないし、管理・運営する人だって必要だろう。
「かといって、それを村でやるのは大変だし……そうだ」
良いアイデアを思い付いた。
「丸投げしちゃおう」
「おお、ルーク村長、よく来たな。いつも貴殿の影武者には世話になっておるぞ。見ての通り、王宮も王都も美しく生まれ変わった」
電車を村まで戻した後、僕は瞬間移動を使って王都に飛んでいた。
アポは影武者を通じてすでに取ってあるため、王様との謁見までとてもスムーズだった。
「それで今日は一体何の用であるか?」
「はい、実は鉄道の運営を国にお願いしたいと思いまして」
「……鉄道?」
そう、僕は鉄道事業を王様に丸投げするつもりだった。
だってこんな規模の事業、国営じゃないと無理だし。
もちろん王様にとって悪い話ではない。
国の立て直しを図っている真っ最中の今、鉄道事業で得られるだろう莫大な収益は、それを大いに助けてくれるはずだ。
「とりあえずお見せした方が早いと思います。ちょっとお時間いただけますか?」
「うむ、構わぬが」
「わ、わたくしも見たいですわ!」
王女様が割り込んでくる。
ついでに何人か文官たちが付いてくることになった。
「じゃあ、みなさん手を繋いでください」
「「「手を……?」」」
半信半疑ながら大人しく全員で輪になって手を繋ぐ。
なぜか王女様が真っ先に僕の隣に走り込んできた。
「(ああああっ……ルーク様と手を繋いでしまいましたわああああっ! これはどう考えても、もはや結ばれるしかありませんのっ!)」
何だろう……ミリアと同じ空気を感じる。
気のせいかな。気のせいだよね。
ともかく気を取り直して、僕は彼らを連れて瞬間移動した。
「なっ!? ここは……」
「王都の外ですね」
以前よりも立派になった城壁がすぐ近くに聳え立っている。
王宮から一瞬で移動したことに驚いている彼らを余所に、僕はそこへ駅を作り出した。
「さあ、どうぞ。これが鉄道、そして電車と呼ばれるものです」
駅の構内に彼らを案内し、電車のところへと連れていく。
「な、何だ、この巨大な箱は……?」
「この鉄のレールの上を動くんです。まぁ、座席に腰かけて見ててください」
困惑している王様一行が「このソファ、なかなかの座り心地だぞ」「このぶら下がってるものは何ですの?」などと興味津々に車内を歩き回る中、僕は警笛を鳴らした。
プア~~~~ンッ!!
「「「っ!?」」」
「じゃあ、出発しますねー」
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