第178話 こんなに早く帰ってくるとは
「お、王都に隣接した状態で停止したとのことですっ! ですがっ……そこから兵士たちがっ……城壁を超えて王都内に侵入してきました……っ! その数、一万を超えているとの報告もあります……っ!」
「だ、ダメですっ! 敵兵が強すぎて、すぐに展開できた少数の部隊では、とても押し留めることができません……っ! すぐに援軍をっ!」
「王宮まで到達されました……っ! 城内にいる兵数は少ないですが、もはや城門を閉じて籠城戦に持ち込むしかないかと……っ!」
次々と上がってくる最悪の報告。
もはやこの私をもってしても、対応する術を思いつくことができない。
「ネオン様っ! どうすれば!?」
「すぐにご指示を!」
「ネオン様!」
縋るような配下たちの叫び声が酷く遠く聞こえます。
王宮を奪われるわけにはいかない……エデル様がどれほどお怒りになられることか……何としてでも死守せねば……だがどうやって……失敗は許されない……四将の一人としての矜持……これまで積み上げてきた信頼……何も思いつかない……もう首を斬るしか……
「ね、ネオン様……?」
「あばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば」
「ネオン様が壊れたああああああああっ!?」
◇ ◇ ◇
「停止、と」
王都の城壁とギリギリぶつからないところで、僕は村の移動を停止させた。
「じゃあ、みんな、準備はいいかな?」
「「「おおおおおおおっ!」」」
僕が呼びかけると、すでに武装を終えた村人たちが力強く応じてくれた。
彼らは一斉に、村の城壁の内側に設けた階段を上っていく。
そして城壁の上まで到達すると、そこから王都の城壁へと飛び移っていった。
王都の城壁の方が低いので、飛び移るというか、飛び降りると言った方がいいかもしれないけど。
そうしてあっさりと王都への侵入に成功すると、突然のことに慌てふためきほとんど態勢を整えられないままのアルベイル軍を蹴散らしながら、王宮へ。
そのときにはさすがに王宮の出入り口は塞がれていたけれど、僕が掘り進めておいた地下道を通り、セレンたち主力部隊を城内に突入させる。
「なぜ城内から!?」
「い、いつの間に!?」
混乱するアルベイル兵を後目に、内側から城門を開けてやれば、もはやそこから王宮を奪い返すまでそう時間はかからなかった。
「お父様!」
「おおっ、ダリネア!」
軟禁されていた王様も無事に助け出すことができた。
王女様との感動の再会だ。
「しかし、まさかこんなに早く帰ってくるとは……」
「あたくしもびっくりしてますわ……それもこれも、そちらのルーク様のお陰ですの」
「おお、君が……」
「ルーク=アルベイルです」
こんな荒れ放題の国の王様なので、きっと放蕩で無能でブクブク太った典型的な暗君なのだろうと思っていた。
でも見たところ標準体型で衣服も質素、それに真面目で知的な雰囲気がある、
「貴殿には本当に申し訳なかった。無理やり巻き込むような真似をしてしまって……」
いきなり謝罪されてしまった。
王様から頭を下げられて、僕は慌ててしまう。
「い、いえ、私もアルベイルの一員。父上の暴挙に、何の責任もないとは言えませんので」
「しかし貴殿はとうにアルベイル卿とは袂を分けていたと聞いておる」
「そうですね……祝福の儀の直後に実家を追い出されましたから」
「ふむ、ゆえに父であるアルベイル卿を憎んでいると?」
「憎んではないです。ただ、価値観はまったく違います。僕は戦いとか力なんかには何の興味も無くて、ただ静かに平和に暮らしていければそれで十分なんです」
「ははは、なるほど、それは余と気が合うな。本当は余も王など辞めてひっそりと生きていきたいのだ。とはいえ、王族として生まれた以上、やらねばならぬ責務がある」
王女様やミシェルさんから聞いていた通り、どうやら今代の王様は結構ちゃんとした人のようだ。
「それで、一体いかにしてアルベイル卿を出し抜いたのだ? 先ほど貴殿の兵から少し話を聞いたところによると、アルベイル卿が荒野に進軍している隙を突く形で、ここ王都を奪還したそうだが……」
「あ、はい。村を丸ごと移動させてきました」
「……え?」
「お、お父様……あちらをご覧になってくださいまし」
王女様に促されて窓の外へと目を向けた王様は、仰天のあまり腰を抜かしてしまったのだった。
「ななな、なんじゃありゃああああああああああああああああっ!?」
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