第158話 赤子からやり直したい
領地を取り戻すためにどうすればいいか。
ドルツ子爵が考えたのは、まずこの街に移住してきた元領民たちを味方に引き入れることだった。
とはいえ、彼らはすでに領地を捨てた者たちだ。
無理やり言うことを聞かせるわけにもいかず、そんなことをしたらすぐに公になって、大変なことになってしまう。
そこで彼らが取ったのは、フレンコ軍の極悪非道な統治により、元ドルツ領が酷い目に遭っているという噂を流すことだった。
統治者が変わったことで少なくない混乱は出ているが、実際にはそこまで以前とは変わっていない。
むしろひとまず戦争状態が解消されたことで、状況が改善されたほどだ。
しかしそんなことなど関係ない。
重要なのは、元領民たちの義憤に訴えかけることだった。
「そんな……いや、確かに我々は領地を捨てて移住してきたが……それでも故郷が悲惨な目に遭っているのは悲しい」
「フレンコの連中め……なんて酷いことを……っ!」
あることないことをでっち上げることで、多くの元領民たちが怒りを示す。
次第に元ドルツ領をどうにかしなければという声が、彼らの中から上がり始めた。
そしてそれは、他の住民たちにまで広がっていく。
……まさにドルツ子爵の思い描いた通りの展開だった。
「この街を治める少年は、非常に正義感が強いと聞く。ここで儂が正体を明かして涙ながらに訴えれば、領地奪還にも協力してくれるはずだ。この街の戦力を考えれば、フレンコ軍など恐るるに足らん! 勝ったな! はっはっはっは!」
「さすがです、ご当主様!」
自らの勝利を確信して哄笑するドルツ子爵。
家臣たちがそれに喝采を送る。
そんなときだった。
彼らが集会場として使っていたマンションの一室に、いきなり街の衛兵たちが乗り込んできたのは。
「ん? な、何だっ、お前たちは……っ? な、何をする!? 放せ! 儂を誰だと思っている!?」
「ドルツ子爵だろう」
「っ!? なぜそれを!?」
家臣たちもあっという間に屈強な衛兵たちに取り押さえられ、ドルツ子爵を助けることもできなかった。
そのまま彼らは部屋からどこかへ連行されていく。
――こうして更生施設へと放り込まれることとなったドルツ子爵だった。
◇ ◇ ◇
「うん、領地を取り戻したい気持ちは分かるけど、嘘はダメだよ、嘘は」
かつてベルリットさんたちが暮らしていたドルツ領。
そこの領主がこの村に逃げてきたのは、彼らが村に辿り着いたときからすでに知っていた。
「それが真っ当な方法だったら黙認ようとは思ってたけど……さすがに虚偽の情報でみんなを扇動するのはアウトだよ」
そんなわけで、強制的に更生施設送りにさせてもらったのだった。
それから一か月が経ち。
ドルツ子爵が施設から出てきた。
「ルーク様っ、大変申し訳ありませんでしたああああああああっ!」
いきなり僕の前でジャンピング土下座を決めるドルツ子爵。
「すべて儂が間違っていた! 申し訳ない!」
「う、うん。分かればいいんだけど、分かれば。もう住民の扇動はしないでくださいね」
「間違っていたのはそれだけではないのである!」
「え?」
「領主としてすべてが間違っていた! 隣領の領主を憎むあまり、幾度となく戦争を繰り返しては、領民に多大な負担を与えてしまっていた! こんな愚かな領主では、皆が領地を捨てて逃げ出すのも当然というもの! 奪われた領地を取り戻したいと思ったのも、決して領民たちのためではなかった! ただただ、己のちっぽけな矜持のためであった! ああっ! 儂は一体どこまで最低な人間であったのだ! 赤子からやり直したい!」
めちゃくちゃ改心してた。
「ご当主様! 間違っていたのはあなただけではありません! 我々家臣も、自分たちの保身のことしか考えていませんでした! ご当主様を支えながら、共に領地発展のために全力を尽くすべきだったというのに!」
……家臣たちも完全に改心している。
更生施設の更生力、相変わらず凄すぎるんだけど……。
〈更生施設:悪人や罪人を更生させるための施設。改心確率アップ〉
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