第154話 今は戦闘に集中しなさい
「おいらたちがいた山々にはコカトリスっていう鳥の魔物がたくさんいただ。巨大な鶏みたいだが、お尻は蛇のようになってて、かなり狂暴なやつだべ。たまーにおいらたちが住む洞窟内に入り込んできたから、みんなで頑張って倒したけど、こいつの肉がまたとんでもなく美味いんだあ」
と、ドワーフたちが語ったその情報の通り、天を突く立派な赤いトサカを持つ巨大化した鶏のような魔物が、猛スピードで斜面を駆け下りてくる。
全長は、蛇のような尾を入れたならば、軽く四メートルを超えていた。
その斧のような嘴で突かれたり、大木の根のごとき脚で蹴り飛ばされたりしたら一溜りもないだろう。
「クエエエエエエエエエエッ!!」
しかも魔物寄せの香を嗅いで興奮しているのか、凄まじい雄叫びを轟かせている。
そもそもコカトリスは、オークよりもずっと危険度の高い魔物だ。
たった一体であろうと決して侮ることはできない。
だが迫りくる凶悪な鳥を前に、セレン一行が示した反応は恐怖などではなく、
「「「鶏肉キタアアアアアアアアアアアッ!!!」」」
獲物を発見した喜びだった。
「クエッ!?」
無論、人間の言葉が分かるはずもないのだが、いきなり食材扱いされたコカトリスが僅かに怯んだように見えた。
ビュンッ!!
その隙を突くように矢を射放ったのはフィリアだ。
風の後押しを受けた豪矢が、真っ直ぐコカトリスの胸目がけて飛んでいく。
「クェェェッ!」
だがコカトリスが咄嗟に口から吐き出した唾液が当たるや、矢は急速に勢いを失って地面に落下してしまった。
見ると、木材と鉄でできていたはずの矢が、白い石と化している。
「なるほど、あれがコカトリスの石化の唾液か」
「気を付けないと一瞬で石にされてしまうわね!」
コカトリスの唾液には、敵を石化させる力があった。
対策として何種類かのポーションを持ってきてはいるが、効果があるかは実際に試してみなければ分からない。
ドオオオンッ!!
「クェェェッ!?」
轟音とともに、コカトリスの突進が止まった。
ノエルが巨体な盾を手に、たった一人で巨体を受け止めてしまったのだ。
元から背の高かったノエルだが、成長期らしくまだまだ伸び続けていた。
細身だったはずの身体も筋トレの成果かがっしりして、今や体格でオークを凌駕するほどだ。
「さすがだな、ノエル……っ!」
「でも、見た目よりは軽い……たぶん、鳥だから……」
「今のうちよ!」
動きが止まったコカトリスへ、一斉に躍りかかる。
コカトリスは慌てて飛び下がりつつ、石化の唾で応戦した。
嘴から吐き出されたそれは、しかし回避されてしまう。
「奴は唾液を吐く直前に首をたわめる! それを見極めれば、避けるのは難しいことじゃない!」
石化の唾液を躱したのはセリウスだ。
彼はコカトリスの予備動作を指摘し、仲間たちに共有する。
「凍らしてしまうのもアリね」
一方、セレンは唾液を氷結させて地面に落下させている。
「いや、それは姉上にしかできないことです……」
十八番の石化攻撃がことごとく躱され、コカトリスが焦ったように「クェクェ~~ッ!?」と鳴く。
嘴や鋭い脚、それに蛇の尾による攻撃もまた、巨大な盾を構えるノエルによってすべて防がれてしまう。
この集団には敵わないと悟ったのか、踵を返して逃げようとしたコカトリスだったが、そのときにはすでに斜面の上へ回り込まれ、逃げ道を封じられていた。
「ク、クエエエエッ!」
「はっ、また破れかぶれの石化攻撃かよ! 予備動作で丸分かりだっつーの!」
「いや、待てっ! こいつはっ……」
元盗賊の親玉ドリアルが馬鹿にしたように叫ぶが、ベルリットが異変に気づいて声を荒らげる。
次の瞬間、コカトリスの嘴から吐き出されたのは、霧状になった白い息だった。
「石化の息か!」
「息も浴び続けると危険だべ!」
唾なら回避できても、息として周囲に広く拡散してしまえば避けることは困難だと判断したのだろう。
コカトリスの知能の高さがうかがえるが、しかしその作戦はあっさりと打ち破られた。
「セリウス殿!」
「は、はい……っ!」
フィリアとセリウスが息を合わせ、同時に上昇気流を巻き起こす。
石化の息はそれに乗って空へと消えていった。
「に、二度目の共同作業……っ!」
「ふむ、セリウス殿。どうやら貴殿と私は、なかなか相性がいいようだな」
「あああ、相性がいい……っ? そそそ、それってつまり……っ!」
「こら、セリウス。今は戦闘に集中しなさい」
姉に怒られるセリウスだった。
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