第144話 ボスは蟹にしようかな
「ルーク! 次のエリアについて相談に乗ってほしいんですケド!」
「うん、いいよ。ええと、今って確か、三十五階層までなんだったっけ?」
今日はダンジョンマスターの妖精アリーのところへ遊びにきていた。
「そうなんですケド! ルークのお陰でかなり立派になってきたんですケド!」
発見したときにはたったの二階層しかなかったアリーのダンジョンだけれど、現在は広さも深さも段違いに発展していた。
ダンジョンの成長には、ダンジョンポイントというものが必要らしい。
ダンジョンの中に外界からの侵入者がいる場合などに、このダンジョンポイントが加算されるようだ。
ドワーフたちが常にダンジョン内で暮らしていることに加え、最近では数多くの冒険者たちが挑むようになってきたこと、さらにはダンジョンを村の観光名所にしちゃって一般の人でも入れるようになったことで、アリーのダンジョンは短期間にここまでの発展を遂げたのである。
「でもすでに三十階層がクリアされてしまいそうなんですケド!」
二十六階層から三十階層までは、溶岩が流れる灼熱の洞窟エリアだった。
ここは環境が過酷で、何らかの対策をしていかなければ突破することは難しいはずだった。
「アレクさんたちのパーティかな? 村の錬金術師に氷冷ポーションを作ってもらってたそうだし」
氷冷ポーションを身体にかけることで、一定時間、火や熱への高い耐性を得ることができる。
火属性の攻撃をしてくる魔物と戦う上でも有効だ。
実はこれ、このエリアを作った際に考えていた対処法の一つだった。
村の中で手に入る情報やアイテムによって攻略の糸口を掴める――というのは、ぜひ一度やってみたかったんだよね。
アリーのダンジョン拡張に協力していると、なんだかゲームの運営をやっているみたいで楽しい。
ちなみに三十一階層から三十五階層までは光が一切ない漆黒の迷路になっていて、何らかの方法で光を確保しなければ突破することが不可能になっている。
「次は状態異常トラップてんこ盛りのエリアがいいと思うんですケド! 常に何らかの状態状に侵されながら攻略しなければならないんですケド!」
「うーん、それは物凄く顰蹙を買いそうな……」
「それなら超狭い穴の洞窟エリアはどうなんですケド! 人間サイズなら匍匐前進しなければ進めないんですケド!」
「そんなダンジョンは嫌だ」
残念ながらダンジョンマスターであるアリー自身のダンジョンセンス(?)は最悪だ。
最初なんて入り口からトラップ塗れにしちゃってたし。
ちゃんとゲームバランスを考えないと、ユーザーが離れてしま……って、ゲームじゃないんだった。
まぁここまできたら攻略はほとんど趣味みたいなものだし、多少は理不尽なものがあってもいいかもしれないけどね。
浅層でも十分、稼ぐことができるわけだし。
「あちこち水没してる洞窟とかいいかもね。潜らないと先に進めないようにしたりとか、水中に宝箱を置いたりとか」
「それ楽しそうなんですケド!」
「踏むと勝手に一方向に進んじゃう床がある遺跡とか。ちゃんと順番通りに行かないとゴールに辿り着けなかったり、元の場所に戻ってきたりしちゃうやつ」
「それはなんか頭が痛くなりそうなんですケド!」
「もしくは一階層まるまる広大な一つの部屋にしちゃうとか。階段はすぐに発見できる代わりに、魔物が一斉に襲い掛かってきちゃう」
「その発想はなかったんですケド!」
結局、三十六階層からはあちこち水没しているタイプの洞窟にすることにした。
「魚系の魔物も作れるんだっけ?」
「もちろんなんですケド!」
魚の魔物や蟹の魔物は、この村ではなかなか手に入らない魚介系の食材として重宝されるかもしれない。
持ち帰るのが大変なので、さすがに多くは漁獲できないだろうけど。
水中で呼吸ができるようになると少し攻略しやすくなるものの、必須というわけじゃない。
むしろ服が濡れたりするのをどう対応するかだよね。
ゲームと違って、濡れたままだと体力を奪われていくし。
「ボスは蟹にしようかな。甲羅が硬くて、物理攻撃がほとんど効かないタイプ」
それからアリーと一緒に、各階層のマップや魔物の種類や出現頻度、宝箱やトラップの配置など、細かい部分を詰めていくのだった。
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