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第125話 強気で構わないと思いますよ

 ラウル軍が撤退してから一か月。


「ルーク様、どうかこの村に住まわせてください!」

「うん、いいよ」

「我々もお願いします!」

「どうぞ」

「ルーク様!」

「う、うん……」


 あれから移住者の増加ペースがまた上がっていた。

 というのも、あのときラウル軍に所属していた兵士たちが、故郷の家族を連れ、こぞって村に戻ってきたからだ。


「ルーク村長の人柄に触れ、ぜひ家族で移住したいと思ったのです(あと、美味い酒と食べ物と快適な住居!)」

「私はこの新しい村の発展に貢献したいと思いまして!(ミノタウロス肉を食いたい……じゅるり……)」

「この村の戦士たちの強さに感銘を受けたのだ! 俺ももっと強くなりたい!(あの気持ちのいいトイレを……ハァハァ……)」


 何となく他意がある気が……。


 しかも彼らがそれぞれの故郷で、この村のことを言い触らしてきたらしい。

 アルベイル領各地から集められていた兵士たちなので、この村の噂は、今や領都はもちろんのこと、辺境の地まで轟いているという。

 そのため、少し遅れてから大きな第二波がやってきた。


 その結果、ラウル軍を迎え撃ったときは一万人を超えたばかりだった村人の数が、たったの一か月で一万五千人にまで膨れ上がってしまったのだった。


「アルベイル領に税金も払ってないし……さすがにラウルに怒られる気が」


 本当に村レベルだったら甘く見てもらえただろうけど、さすがにそう言い張るのは難しくなってきたかもしれない。


「とっくに村レベルではなかったかと……」


 と、元代官のダントさんは呆れたように言いつつ、


「強気で構わないと思いますよ。我々は戦いに勝ったわけですから。しかし、そろそろ北郡に私の代わりの代官が着任する頃でしょう。代官によっては何か要求してくるかもしれませんが、その際の交渉はお任せください」


 ダントさんがいると心強い。

 ……まぁ、そのダントさんが代官を続けてくれていたら、もっとやり易かったんだけど。



      ◇ ◇ ◇



「どうもー、新しく代官として派遣されてきたミシェルだよー。みんなよろしくねー」


 北郡の行政を執り行う役所。

 新代官を迎えるとあって、緊張した面持ちの職員たちの前に現れたのは、やたらと軽い口調の男だった。


「あれー、それにしても随分と数が少ない気がするんだけれど?」

「は、はい。実は最近、職員の中にも荒野の街に移住してしまう者が多くいまして……」


 申し訳なさそうに答えたのは、代官の業務を補佐する実務方の長だ。


「なるほどねぇ、北郡最大の都市だって聞いてたのに、街が随分と寂れてたのもそのせいかなー?」

「その通りです。現在、住民の流出が後を絶たず、我が郡の行政は大変厳しい状態と言えます。ですが、荒野の街を北郡に組み込み、しっかりと税を徴収することができれば……」

「ふむふむ。ちなみにその街の資料とかあるかなー?」

「こ、こちらに!」


 手渡された資料にミシェルは目を通していく。


「ところで実際にこの街を調査した人は?」

「それが……一度でも調査に行った者は、その後、役所を辞めてその荒野の街に……」

「あはは、軽く聞いてはいたけど、凄い街だねぇ(前代官も移住しちゃったって言うし。っていうか、この資料マジかな? 俄かには信じられないことばっかりなんだけど……。これが本当なら、確かにそれだけ移住希望者が出るのも納得だよねぇ)」


 ミシェルは、よし、と言って手を叩いた。


「じゃあ、ひとまず挨拶がてら、その街に行ってみようか」

「おお、では交渉してくださるのですね?」

「そうだねぇ(本当は上から厳命されてるんだけどね。『荒野の街には絶対に行くな』って)」

「やった……もし荒野の街を北郡に取り込めれば、財政も一気に立て直せるはず……」

「いやいや、違うよ。もし交渉するにしても、逆だよ、逆」

「逆……?」

「そそ」


 首を傾げる職員たちへ、ミシェルは事もなげに言うのだった。


「荒野の街を北群の一部にするんじゃなくって、北郡を荒野の街の一部にしてもらうの」

「……は?」

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― 新着の感想 ―
いや北部代官二代揃って知恵者過ぎるやろ…。 後任の腹の内は兎も角初手としては無難だねぇ…。
[一言] 大丈夫。多少規模が大きくなろうと、食糧を自前の農地で生産してるので都市でなく村です。
[一言] 普通この手の開拓は領主に借金して行うので、 ルークの場合無借金の健全経営だから、この手の私財 開発は10年~15年税は掛からないでしょう? 詰り法的首輪無しに開拓を行わせた領主のミスだよ? …
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