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第121話 とりあえず食べなよ

「っ……ゆ、夢……?」


 目を覚ましたラウルは、ホッと安堵の息を吐いた。


 どうやら長い悪夢を見ていたようだ。

 五千もの兵を率いていながらルークに敗れるなど、どう考えても悪夢に違いない。


 そもそもあのような巨大迷路がたった一晩で荒野に出現したところから、すでにおかしかったのだ。

 恐らくまだ荒野を前にした野営中だろう。


 だが周りを見回したラウルは、そこが期待したテントの中ではないことに気づいてしまう。


「……牢屋?」


 石の壁と鉄格子に囲まれた空間に、ぽつんと置かれたベッド。

 ラウルはその上に横になっていた。


「おはよう、ラウル。どう、調子は?」

「っ!」


 気安い声とともに鉄格子の向こうに現れた人物を見て、ラウルは思わず声を荒らげてその名を口にした。


「ルーク……っ!」


 忌々しく睨みつけるが、相手はにっこり笑って言う。


「お腹空かない?」

「てめぇ……俺を馬鹿にしてるのかっ!?」

「してないしてない。ほら、この村の料理は絶品だよ」


 そう言って鉄格子に設けられた差し入れ口から、トレイを差し入れてくる。

 そこには料理が乗っていた。


「何のつもりだ!?」

「食べていいよ。大丈夫、毒なんて入ってないから」

「てめぇ……っ!」


 怒りのあまり料理ごとトレイを蹴り飛ばしてやろうとしたところで、ラウルの鼻孔を香ばしいにおいが襲った。

 思わずトレイに乗った料理を見てみると、そこにあったのは分厚いステーキ肉だ。


 それも、見ただけでそれと分かるほどの高級肉である。

 熱々の鉄板の上に置かれており、まだジュウジュウと音を立てていた。


 ごくり。

 ぐうううう……。


 喉と腹が同時に鳴った。

 プライドと食欲が激しくせめぎ合う中、ルークが追い打ちのように言う。


「うちのダンジョンで獲れたミノタウロス肉だよ」

「ミノタウロス肉!? いや、それよりダンジョンだと……っ!? この荒野にダンジョンがあるのか!?」

「うん。でもまぁ詳しいことは後で教えてあげるから、とりあえず食べなよ」

「っ……」


 ミノタウロスの肉など、祝福の儀の後に行われたお祝いの席でしか食べたことがない。

 あの味は今でも忘れられず、思い出しただけで唾液が溢れ出てくるほどだ。


 この状況で自分にできることはない。

 装備はすべて奪われ、分厚い鉄格子の奥に捕らえられているのだ。

 このまま餓えてしまえばさらに状況が悪化するだけで、むしろ食事を与えてくるような敵の愚かな行為を逆に利用してやればいいだろう。


 ……などと、頭の中で理屈を並べ立てたラウルは、その実、欲望に負けてその肉に手を出してしまった。


「うめえええええええええええええっ!?」


 ひと噛みした瞬間、旨味の爆弾が肉汁とともに口の中で弾け飛んだ。


 以前、一度だけ食べたミノタウロス肉。

 同じミノタウロスの肉だというのに、それを遥かに凌駕する美味さだ。


 そこからはもう手が止まることはなかった。

 かなり空腹だったこともあって、二百グラムはあっただろうそれを、気づけば一気に食べ尽くしてしまう。

 残ったのは付け合わせの野菜だけ。


 ラウルはあまり野菜が好きではない。

 ただ、肉を食べ切ってしまった悲しみを紛らわせるように、仕方なくそれを口にしたラウルは思わず目を見開いた。


「~~~~~~~~~~う、うまい……っ!?」


 苦手だったはずのニンジンですら、その果物のような甘みに驚愕し、あっさり食べ切ってしまう。

 あっという間に付け合わせの野菜も完食していた。


「おかわりいる?」

「く、くれ……っ!」


 憎き相手であることも忘れて、ラウルは思わず二皿目を要求する。


 やがて散々食べまくってお腹が膨れたことで、ラウルはようやく冷静さを取り戻していた。

 もはや認めるしかない。


「俺は……負けたのか……」


 夢などではなかったのだ。

 あれはすべて現実で、自分は気を失った後にこの牢屋へと入れられてしまったのだろう。


「え? 何の話?」

「……え?」


少しでも面白いと思っていただけたら、↓の☆で評価してもらえると嬉しいです。

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外れ勇者1巻
4月24日発売!!!
― 新着の感想 ―
[良い点] ひどいwww しょうがないなあ。ギフトの役割的に尉官と将官くらい差があるもんね
[一言] 闘いとすら思われてなかったか‥
[良い点] >え?何の話? [一言] 今日もおもしろかったです!
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