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第117話 最初から信じていたことにしよう

「急げっ! 急ぐのだっ!」


 セデス=バズラータは叱咤の声を張り上げていた。


 背後には彼が率いる領兵がおよそ五百。

 その多くが歩兵で、先頭を進む領主の速度に懸命についていく。


 彼らが向かっているのはアルベイル領北方の荒野だった。


「くっ……すでに戦いは始まっているはず……どうにか街が陥落する前に辿り着かねば……」


 バズラータ領から慌てて出兵したのには訳があった。

 セデスの子供二人がいる荒野の街に向かって、アルベイル次期当主ラウルが、五千もの兵を率いて進軍しているとの報告を受けたからだ。


(これほど焦っておられるセデス様は初めてだ……。しかしそれも当然、下手すれば二人もお子様を失うかもしれない……。もちろん、この寡兵では戦況を覆すのは難しいだろうが……。なにせ相手は『剣聖技』ギフトを持つラウル様なのだ。しかも五千の兵……)


 すぐ傍を行く家臣が、セデスの心中を慮りながら覚悟を決める。


(それでも、命を賭けて最後まで戦い抜いてみせる……っ!)


 一方、そんな家臣の内心など知る由もなく、セデスは焦燥に駆られて叫んだ。


「もし二人がルーク様側に付いていることが発覚したら、我がバズラータは一巻の終わりだ! 何としてでも街が陥落する前に、援軍として()()()()()加勢するのだ! そうすれば、バズラータとしては辛うじて許してもらえるやもしれぬ!」

(えっ? そっち!?)


 てっきり子供たちを助けるため、アルベイルと対立する道を選ぶのかと思いきや、どうやら逆だったようだ。


(子供を捨ててまで保身に走るとは……。い、いや、もしくはここでラウル様に協力しておいて、二人の助命を乞うつもりかも……そ、それだ! きっとそうに違いない! 同時にバズラータ領も護ることが可能な一挙両得の策……さすがはセデス様……)


 そうして強行軍の末に、ついに彼らは目的の荒野へと辿り着いた。

 だがそこで彼らが見たものは、


「……な、何じゃありゃあああああああああっ!?」


 荒野を縦断するほどの巨大な城壁である。

 この国の王都を守護する城壁ですら、あれほどの規模ではない。


 王都どころか、主要都市のすべてがまるごと収まってしまうのではないか。

 そんなものがなぜこんな荒野に存在しているのか、セデスにはまるで理解が追い付かない。


「ルーク様の街はあの城壁の中にあるということか……?」


 見たところラウル軍の姿はない。

 すでに城壁を突破してしまったのだろうか。


「セデス様! あそこをご覧ください!」


 配下の指摘でセデスは気づく。

 城壁の一部が途切れ、しかも門も何も設けられていないため、自由に出入りできる箇所があることに。


「え? あれでは城壁の意味がないではないか……」


 ますます困惑していると、そこへ城壁の中から馬に乗って飛び出してくる者がいた。


「父上!」

「セリウス!?」


 息子のセリウスである。

 戦いの真っ最中になぜここに……という当然の疑問をセデスは抱く。


「まさか、もう戦いは終わってしまったのか……? くっ、やはり遅かったか……。……あれ? しかしそれならなぜセリウスがここに……? そ、そうか、きっと戦況を読んでラウル様側に鞍替えし……」

「いえ、父上、戦いにはルーク殿が勝ちました。もちろん姉上も無事です」

「な、何だって!?」


 予想を大きく覆す結果に、セデスは驚愕するしかなかった。


「(ルーク様が勝利した!? そんな馬鹿な!?)」

「父上、もしかして加勢しに来てくださったのですか?」

「……え?」

「下手をすれば領地を危険に晒すことになるというのに……姉上とぼくのために……」

「あ、ああ! そうだな! もちろん、お前たちのために私は意を決し、駆け付けたのだ!」

「父上……勝手に領地を出ていったぼくたちのために……」


 感じ入って瞳を潤ませるセリウスだったが、セデスは冷や汗を掻いていた。


「(……言えぬ……本当は子供たちを犠牲にしてでもラウル様に加勢するつもりだったとは……。し、しかし、それもこれもわしを裏切ったこやつらが悪いのだっ! ……む、だが結果的にルーク様が勝ったということは、二人の選択こそが正しかったことに……。よ、よし、二人のことを最初から信じていたことにしよう、うん)」


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外れ勇者1巻
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― 新着の感想 ―
[一言] だめだこの親父w
[一言] 畝です▪▪▪セデスハ信用出来ない奴ですね、コウモリタイプ?
[一言] 村の範囲に入ったところで敵意のある侵入者についてはわかるって設定だから、迷路の入り口近くで心変わりしててもバレバレでしょう。 まぁリアルタイムで村への忠誠心が見られるんだし無問題ですね。
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