第116話 呆気なかったわね
冒険者である俺たちにとっても、ここは素晴らしい村だった。
美味しい食べ物に清潔な寝床、そしてすぐ目の前にダンジョンがあって、毎日しっかりと稼ぐことができる。
何より俺たちに祝福を受けさせてくれ、ギフトを与えてくれた。
お陰でここに来たときとは比べ物にならないくらい、強くなることができた。
だから戦うことを決断したのだ。
相手はルーク村長の異母兄弟だというが、この村を潰されて堪るかってんだ。
今の俺たちなら、並の兵士が相手であれば一人で百人は倒せるだろう。
そう意気込んでいたのだが――
「……なんか、呆気なかったわね。五千の兵が攻めてくるって聞いたときはどうなることかと思ったけど」
「そうだな……」
拍子抜けしたように言うハゼナに、思わず同意する。
敵の大将が捕まり、戦いは終わった。
しかも圧勝だ。
俺たちのパーティに至っては誰も傷一つ負っていない。
「そもそもここまで辿り着けた兵士が五百もいなかったからな……。てか、何なんだよ、あの城壁の迷路は……朝起きてみたらいつの間にか出現してるしよ……」
「ルーク村長、もちろん凄い人だとは思ってたけど……」
どうやら俺たちの認識は間違っていたらしい。
……ルーク村長、マジやべぇ。
◇ ◇ ◇
「は、ははは……少しでも心配していた私が馬鹿みたいだな……」
村の中心に設けられた物見塔の上から、私は一部始終を見ていた。
護衛のバザラたちは戦場に送り込んだため傍にはおらず、ここにいるのは私の他に、ルーク様のメイドであるミリア様など、ごく少数だ。
『剣聖技』のギフトを持つラウル様が率いる、五千の兵。
それをルーク様は歯牙にもかけなかった。
兵の大半を失いながらも、あの城壁迷宮を突破してきたときには少々焦ったが、それも杞憂に終わった。
恐らくルーク様がギフトで作り出したのだろう、瞬間的に出現した水堀で敵の突進と戦意をあっさり挫いてしまうと、
「前から畑にあったあの巨大な木……まさかツリードラゴンだったとは……」
それがいきなり敵軍に襲い掛かったのだ。
あんな魔物まで飼っていたなんて……。
最後はついに両軍が激突することにはなったが、それも相手を圧倒。
自軍にはほとんど負傷者は出ず、決死の覚悟でこの戦いに臨んだバザラに至っては、すでに手負いだった敵兵一人を攻撃し、気絶させただけだった。
……後でしっかり労ってあげよう。
ともかく、これで私も、我が一族も助かった。
最後まで猛反発していた妻も、これでどうにか許してくれるはずだ。
「下手をすれば処刑される前に、妻に殺されるところだったが……」
北郡の代官という地位は失うだろうが、それも些末なことだ。
これからは家族とともにここで暮らすことにしよう。
発展を続けるこの村が今後どうなっていくのか、ぜひともルーク様の傍で見てみたい。
そしてできることならば、代官としての経験を活かし、私も村のために貢献していきたいと思う。
◇ ◇ ◇
「で、出鱈目すぎる……」
セリウスは呻くように呟いた。
彼にとっては、戦いが終結したことへの喜び以上に、驚愕の方が勝っていた。
姉からは実家に帰るように言われていたが、結局この村に残ることにしたのだ。
もちろんただ見ているだけではなく、状況次第では自分がラウルと戦う決意もしていた。
結局そんな状況にはならず、最後まで物見塔の上に待機したままだったが。
それにしてもこの物見塔、明らかにおかしい。
というのも、ここに立っていると、遥か先の地面に転がる小さな石ころが、表面の凹凸すら分かるくらい鮮明に見えてしまうのだ。
まるで視力が何倍にもなったかのようである。
お陰で、弓を手に戦場に立つ彼女の凛々しい顔がくっきりと見えてしまい、何度も「今はそんなことしてる場合じゃない!」と必死に視線を逸らす努力をしなければならなかった。
「っ? あれは……」
そのとき彼の強化された視力が、荒野の向こうから近づいてくる一団を捉えた。
武装した集団だ。
もしかして敵の援軍だろうか。
しかし先頭を行く人物に、セリウスは見覚えがあった。
いや、見覚えどころではない。
「ち、父上っ!?」
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