第109話 さすがにズルいでしょ
「ふう、完成。……うん、我ながらなかなか悪くない出来だと思う」
物見塔の頂上から荒野を見下ろしながら、僕は満足感とともに汗を拭った。
つい先日レベルアップしたことで、新たに作れる施設が増えた。
城壁(100) 城門(100) 跳ね橋(100) 図書館(300) 家屋・特大(500)
この城壁というのは石垣の上位版だ。
同じく石製ではあるんだけれど、ずっと強度の高い石でできていて、さらに高さも厚さも今までの石垣を大きく上回っている。
高さはおよそ十メートル、厚みは五メートル。
城壁の上はもちろん人が行き来できるようになっていて、凹凸状の胸壁と言われる壁が付いている。
兵士の落下や、敵の矢を防ぐためのものだ。
それがたったの100ポイントならと、僕はこの城壁を利用し、村を守護する迷路を作り出してみたのである。
……結構、苦戦したけど。
「迷路を作るのって意外と大変なんだね。でも、これなら五千の兵を迎え撃つのに十分だよね? ……あれ?」
振り返ると、みんな揃って呆然としていた。
「十分どころか……もうこれ、反則じゃない?」
「そ、そうかな?」
「完全に相手の心を圧し折りにいってるでしょ……。私が指揮官ならこんな都市を攻めるのは絶対に御免だわ。そもそもこれ、村に辿り着けないようにしておけばいいんじゃないの?」
僕は首を振った。
「いや、それはさすがにズルいでしょ? 迷路なんだし、一応そこはちゃんとゴールできるようにしておかないとさ」
「何でそんなところで律義なのよ?」
セレンは呆れたように言う。
「は、ははは……ぼくは今、夢でも見ているのだろうか……」
と、引き攣った顔で笑うのはセリウスくんだ。
つい先ほどまでは「ぼくは戦場でラウル様の強さを目の当たりにしたっ……すでに『剣聖技』のギフトを使いこなし、たった一人で戦況を覆してしまえるほどなんだ……っ! 幾らこの村に戦闘系のギフト持ちが多くとも、ラウル様にはどうあがいたって敵わない……っ!」ってずっと言ってたんだけど。
「いや、生憎とこれは夢ではないぞ、セリウス殿。信じられぬなら頬を抓ってもいいが?」
「……つ、抓って……ほしい……です」
「よし、どうだ? 痛いか?」
「やっはりほへはゆへは……しははへ……(やっぱりこれは夢だ……幸せ……)」
「……?」
セリウスくんが幸せそうで何よりだ。
「さすがルーク様です! 僅かな時間でこれだけのものを作り上げてしまわれるなんて!」
一方、ミリアは逆に興奮してはしゃいでいる。
そうこうしている間に、ついにラウル軍が荒野へとやってきた。
目の前に現れた城壁の迷路に戸惑っている様子だ。
そのまま引き返してくれても構わないのだけれど、きっとラウルの性格ならそんなことはしないだろう。
その予想は当たった。
覚悟を決めたらしく、迷路内へと突入してきたのだった。
◇ ◇ ◇
「これは一体どういうことだ……っ!? こんな報告は聞いてねぇぞ!?」
「そ、それが……昨日までは、確かにこんな場所に城壁などなかったようで……」
「そんなわけがあるか!? たった一晩でこれだけの城壁を築けるわけがねぇだろう!」
ラウルは苛立ちながら配下を怒鳴りつける。
そろって幻覚を見せられているのかとも思ったが、帯同させた魔法使いに調べさせても、その様子はないという。
そもそもこれだけの人数を一度に幻惑するなど、不可能だと断言されてしまった。
「本当に一晩でこの城壁を……?」
さらに周辺を調べさせてみせても、延々と巨大な壁が続いているだけで、城門らしきものがまるで見当たらないという。
唯一、彼らのすぐ目の前だけ、壁が途切れた箇所があって、そこから中に入ることができるようだった。
城門もなく、まるでご自由にお入りくださいと言わんばかりだ。
熟練の指揮官であれば、間違いなくもっと慎重な判断を下しただろう。
だがラウルは違った。
まだ若いこともあるが、先日の初陣での大勝が彼の気を大きくしていた。
「全軍、進め! あそこから突入しろっ! こちらは五千っ! 相手がどのような手を使ってこようが、正面から叩き潰してやれ!」
ラウルは声を張り上げ、戸惑う兵士たちに命令を下す。
――ちなみに。
その先に待つのが地獄の大迷路であることを、地上を進む彼らはまだ知らない。
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