表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/458

第109話 さすがにズルいでしょ

「ふう、完成。……うん、我ながらなかなか悪くない出来だと思う」


 物見塔の頂上から荒野を見下ろしながら、僕は満足感とともに汗を拭った。


 つい先日レベルアップしたことで、新たに作れる施設が増えた。


 城壁(100) 城門(100) 跳ね橋(100) 図書館(300) 家屋・特大(500)


 この城壁というのは石垣の上位版だ。

 同じく石製ではあるんだけれど、ずっと強度の高い石でできていて、さらに高さも厚さも今までの石垣を大きく上回っている。


 高さはおよそ十メートル、厚みは五メートル。

 城壁の上はもちろん人が行き来できるようになっていて、凹凸状の胸壁と言われる壁が付いている。

 兵士の落下や、敵の矢を防ぐためのものだ。


 それがたったの100ポイントならと、僕はこの城壁を利用し、村を守護する迷路を作り出してみたのである。

 ……結構、苦戦したけど。


「迷路を作るのって意外と大変なんだね。でも、これなら五千の兵を迎え撃つのに十分だよね? ……あれ?」


 振り返ると、みんな揃って呆然としていた。


「十分どころか……もうこれ、反則じゃない?」

「そ、そうかな?」

「完全に相手の心を圧し折りにいってるでしょ……。私が指揮官ならこんな都市を攻めるのは絶対に御免だわ。そもそもこれ、村に辿り着けないようにしておけばいいんじゃないの?」


 僕は首を振った。


「いや、それはさすがにズルいでしょ? 迷路なんだし、一応そこはちゃんとゴールできるようにしておかないとさ」

「何でそんなところで律義なのよ?」


 セレンは呆れたように言う。


「は、ははは……ぼくは今、夢でも見ているのだろうか……」


 と、引き攣った顔で笑うのはセリウスくんだ。


 つい先ほどまでは「ぼくは戦場でラウル様の強さを目の当たりにしたっ……すでに『剣聖技』のギフトを使いこなし、たった一人で戦況を覆してしまえるほどなんだ……っ! 幾らこの村に戦闘系のギフト持ちが多くとも、ラウル様にはどうあがいたって敵わない……っ!」ってずっと言ってたんだけど。


「いや、生憎とこれは夢ではないぞ、セリウス殿。信じられぬなら頬を抓ってもいいが?」

「……つ、抓って……ほしい……です」

「よし、どうだ? 痛いか?」

「やっはりほへはゆへは……しははへ……(やっぱりこれは夢だ……幸せ……)」

「……?」


 セリウスくんが幸せそうで何よりだ。


「さすがルーク様です! 僅かな時間でこれだけのものを作り上げてしまわれるなんて!」


 一方、ミリアは逆に興奮してはしゃいでいる。


 そうこうしている間に、ついにラウル軍が荒野へとやってきた。

 目の前に現れた城壁の迷路に戸惑っている様子だ。


 そのまま引き返してくれても構わないのだけれど、きっとラウルの性格ならそんなことはしないだろう。


 その予想は当たった。

 覚悟を決めたらしく、迷路内へと突入してきたのだった。



    ◇ ◇ ◇



「これは一体どういうことだ……っ!? こんな報告は聞いてねぇぞ!?」

「そ、それが……昨日までは、確かにこんな場所に城壁などなかったようで……」

「そんなわけがあるか!? たった一晩でこれだけの城壁を築けるわけがねぇだろう!」


 ラウルは苛立ちながら配下を怒鳴りつける。


 そろって幻覚を見せられているのかとも思ったが、帯同させた魔法使いに調べさせても、その様子はないという。

 そもそもこれだけの人数を一度に幻惑するなど、不可能だと断言されてしまった。


「本当に一晩でこの城壁を……?」


 さらに周辺を調べさせてみせても、延々と巨大な壁が続いているだけで、城門らしきものがまるで見当たらないという。

 唯一、彼らのすぐ目の前だけ、壁が途切れた箇所があって、そこから中に入ることができるようだった。


 城門もなく、まるでご自由にお入りくださいと言わんばかりだ。

 熟練の指揮官であれば、間違いなくもっと慎重な判断を下しただろう。


 だがラウルは違った。

 まだ若いこともあるが、先日の初陣での大勝が彼の気を大きくしていた。


「全軍、進め! あそこから突入しろっ! こちらは五千っ! 相手がどのような手を使ってこようが、正面から叩き潰してやれ!」


 ラウルは声を張り上げ、戸惑う兵士たちに命令を下す。

 

 ――ちなみに。

 その先に待つのが地獄の大迷路であることを、地上を進む彼らはまだ知らない。


少しでも面白いと思っていただけたら、↓の☆で評価してもらえると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

外れ勇者1巻
4月24日発売!!!
― 新着の感想 ―
[一言] まぁ仮に攻略されそうになってもいくらでも壁動かせるしな
[気になる点] 律儀に迷路で遊んでるのかよw そもそもゴールのない迷路だったらどうするつもりだよ ゲームの迷路ではなく、突破されれば命も危険なのだから、 普通ゴールなんて作らないと思うけど
[良い点] 大迷路に入った時点でチェックメイトなんですよね。城壁を越えないように屋根を作って出入り口を城壁で塞ぐ、それから冒険者に火魔法のギフトもち居たから迷宮内に魔法打ち込んで貰えば蒸し焼きか窒息か…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ