第106話 すぐに降伏するべきだ
代官のダントさんが村にやってきた。
それも大勢の人を連れて。
「ど、どうされたんですか?」
「大変です、ルーク様。ついに危惧していたことが起こってしまいました」
「と、言うと……?」
「ラウル様がこの村を……ルーク様を討つため、五千もの兵を連れて領都を出発されたのです」
「ラウルが? しかも五千って……わざわざこんな荒野の村に?」
幾らラウルが僕を嫌っていると言っても、さすがに五千もの兵を集めて攻めてくるかな?
何か別の目的なんじゃ……と思ったけれど、どうやら本当にこの荒野に向かって、真っ直ぐ兵を進めてきているという。
「そんなによく集められましたね? 戦争が終わってすぐだし、さすがに領民たちもすんなりとは応じてくれないんじゃ……? 大義もないだろうし」
「ルーク様が、アルベイル家に反旗を翻すつもりで荒野に戦力を結集していると、根も葉もないことを喧伝したようなのです」
「……なるほど」
あと五日ほどもすると、この荒野に辿り着く速度らしい。
「そこで私は一族の者たちとともにリーゼンを捨て、この村にやってきたのです」
「あれ? ラウルはここに向かってきてるわけで、むしろかえって危険だと思うんですが……」
「覚悟の上です。どのみちラウル様はリーゼンに立ち寄り、虚偽報告をしていた私を捕らえるおつもりでしょうし、それならばここで少しでもルーク様のお力になれればと思いまして」
どうやらダントさんは私兵を連れてきてくれたようだ。
「こ、この村の戦士たちと比べると劣るかもしれませんが、我々も共に戦いましょう……っ!」
いつも護衛で一緒に来ているバザラさんが、そう言って胸を叩く。
……少しヤケクソ気味に見えるのは気のせいだろうか。
「ラウル様が、五千の兵をっ!? ……す、すぐに降伏するべきだ! さすがに敵うはずがない!」
慌てた様子で訴えてきたのは、セレンの弟のセリウスくんだった。
どういうわけか、あれから完全にこの村に住みついてしまっていた。
……実家の方は大丈夫なのかな?
「今回のシュネガー家との戦い、ラウル様は当初、僅か数百の手勢しか任されていなかった……っ! だけど、そのたった数百の兵で、敵の主要都市の一つを陥落させてしまったんだ……っ! 五千もの兵がいたら、こんな街なんて半日も持つかどうか……」
「セリウス、あなたはすぐにでも実家に戻った方がいいわ」
「なっ……」
セレンの言葉に、セリウスくんが絶句する。
「降伏なんてしたところで、ラウルは必ずルークを許しはしない。そして私たちは絶対にルークを護るつもりよ。つまり、戦う以外に選択肢はないってこと」
「っ……」
「もちろん、あなたまで巻き込む意味はないわ。だから今すぐ荷物をまとめて逃げなさい」
「そ、そんなこと、できるわけがない! 姉上を置いて逃げるなんて……そ、それに……」
セリウスくんの視線が、ちらりとフィリアさんの方を向いた。
それに気づいて、フィリアさんが「何だ?」という顔をする。
「顔に何かついているだろうか?」
「ななな、何でもないっ! 何でもないからっ!」
頬を真っ赤にして慌て出すセリウスくん。
うーん、もしかしてセリウスくんって……だから実家に帰ろうとしないのかな?
と、そのときだった。
場違いなほど陽気な音が僕の頭の中に響いたのは。
〈パンパカパーン! おめでとうございます! 村人の数が10000人を超えましたので、村レベルが8になりました〉
〈レベルアップボーナスとして、100000村ポイントを獲得しました〉
〈作成できる施設が追加されました〉
〈村面積が増加しました〉
〈スキル「村人強化」を習得しました〉
ダントさん一行が村人になったことで、ちょうど一万人の大台を超えたようだ。
ラウルとの激突が避けられそうにないこの状況下でのレベルアップは、正直ありがたいかも。
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