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妄想の帝国

妄想の帝国 その33 ポンニチ罪 無記録裁判

作者: 天城冴

新型肺炎ウイルスに対する疫学的、経済的、そのほか諸々の対応に失敗したニホン。新生ニホン政府は記録もロクにとらず、文書を改ざんした旧政府すなわちポンニチ政府の関係者を”ポンニチ罪”を犯したと裁きにかけていく。ウイルス対策の会議に出席していたオンミもまた…

「貴方はポンニチ政府の新型肺炎ウイルス対策専門家会議のメンバーとして出席していた、これに相違はありませんね」

裁判官の淡々とした声に対し、言われた方のオンミのほうは震えながら

「は、はい。しかしながら私はその、ウイルスの、そのPCR検査をうけるかの基準を、ですね、作成したわけでは…」

「その記録はありませんから」

裁判官が短く答える。

「で、ですから、記録がない以上ですね、誰が決めたかはっきりしないわけで、そのニホン政府が」

「旧政府はポンニチ政府と名称を統一すべきと決まっています。現ニホン政府と異なるものです、紛らわしい発言は控えるように」

「そ、そのポンニチ政府が議事録をとっていない以上、私が新型肺炎ウイルスの検査基準を決めたということは断言できないわけでして、それによって、重症化患者がでて、その医療崩壊ですとか、死者が増えたなどの責任を負うというのは、その、」

「記録がないから責任がないというのは通用しません。記録を取らなかったということはその場の責任は平等にかぶることに同意したとみなします。連帯責任です。よってメンバーであったことがすなわち責任があるということで」

「そ、そんな。出席して黙っていただけかもしれないのに」

「沈黙して間違ったことが行われるのを止めなかったのも罪とみなします」

「それは、いくらなんでも」

「仕方ありません、記録を取らなかったからいけないのです。アベノ政権のポンニチ政府では議事録がない、文書改ざんが横行した。責任逃れのために記録を作成しないという悪質な方法。そのため、ポンニチ政府が新型肺炎ウイルスの猛威で国民が苦しみ経済破綻を招いてもなお、総理や閣僚とその親族、友人、支援者などの利権のために税金を使い続けることを許し、結果この国は一度滅んだのです」

裁判官が後ろのスクリーンに、映像を出した。新型肺炎ウイルスで苦しむ人々、無計画な都市封鎖の結果、閉店に追い込まれた商店主や失業した労働者たちの大規模デモ。その一方ウイルス対策の名目で税金の横流しをうけた広告会社の便通や派遣会社のバソナなどのトップがアベノ総理と彼の別荘でバーベキューに興じる場面。ついに大規模な暴動がおこり、警察なども反旗を翻し現政権が樹立するまでの一連の流れ。

「そ、その。わ、私は科学者で政治のことは、その」

「科学者と名乗っていることは承知しています。しかし貴方が科学的に根拠のない発言をした可能性があることも否定できない。なぜなら議事録が、ウイルス対策の重要な指針を決める会議の記録が存在しないから」

「その、疑わしきは罰せずとか、そういうのが」

「ポンニチ政府の関連罪、すなわちポンニチ罪においては、その理屈は通用しません。なぜなら、先ほど説明したようにポンニチ政府は記録がないことを理由に責任も罪も逃れようとしたためです」

「つ、つまり、その記録がなければ全員の責任」

「そうです、それゆえ、閣僚全員、上級官僚全員、トンデン電力、バソナや便通の幹部職員全員も有罪判決をうけ、それぞれ刑に服しています」

抑揚のない機械的な声が冷たく響く。

「そ、それぞれの刑って。その。総理や閣僚は…あ、あれは本当なんですか」

「本当ですよ、上をご覧ください」

裁判官の声に従って上をみると天井には小さな布マスクをかけられた総理らの顔が壁にうめこまれていた。

「ひいい、し、死んでるんですか」

「脳は生かしてあります。一連の裁判の経過を見て、自らの罪を認識してもらうためです。身体のほうは怒り狂った国民にズタズタにされていましたが」

「て、手当てとかは」

「高齢で原発の廃炉作業などに従事するのが難しいですし、身体再生の必要なしとみなされました。頭があれば、この裁判は視聴できますからね。他の閣僚たちも同様です」

「わ、私はそんな、酷いことは」

「貴方方の会議の提言のせいで、ポンニチ政府が指針をきめ、PCR検査の基準や都市封鎖および解除が決まりました。つまり、ウイルス対策の失敗のもとを作り、国民に多大な損害を与えたということで、2等ポンニチ罪にあたるのではないかと」

「そ、それって、ウイルスのワクチン被検者になるということですか!たとえ治っても原発廃炉作業などの各種労働に死ぬまで従事…」

「はい。もっともこれで有罪確定というわけではありません。この裁判はネットで全世界にライブ中継され、投票資格をもつ全国民が視聴しています。この後、投票が行われ、罪が確定します。もちろん同時並行で録画と文書記録にも残します」

「じゃ、罪が軽くなることもあるのですか?」

「それはわかりません。バソナのダケナカ氏は2等と我々は判断したのですが、“長年上手い汁を吸ってきたのに、2等は軽すぎだ”などの意見がでまして、総理らと同等の罪になりました。身体は正常だったのですが、我々が実験そのほかに使用することで、損傷させて頭だけに」

「そ、そんな!そんなことが許されるとは民主主義国家では」

「ポンニチ政府とその周辺の輩が民主主義の原則を徹底的に歪め、換骨奪胎するような真似をしたからです。いわば自業自得。ポンニチ政府に味方したものに人権の適用は必要ないとインプットされています」

裁判官のホログラムが薄れてゆく。

「ああ、なんて人間味もない、せ、せめて同じ人に裁かれたかった」

「人では懐柔されやすいので、このような裁判はプログラムで行うべきだそうです。記憶も曖昧になりますしね。その点我々プログラムなら記録もきちんととれますから」

次第に小さくなる裁判官の声をききながら、オンミは絶望に打ちひしがれ、椅子に座り込んで固まっていた。


このお話はフィクションです。

このようなことが現実にならないことを望みますが、どこぞの国の政府やら首都知事の対応をみていると、リアルのほうがフィクションを超えそうで、多大なる不安を覚えますな。

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