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ゴキブリ少女は空を飛ぶかもしれない

「貴様には魔王軍幹部候補として存分に働いてもらう!」

「はい!どんな事でもやるつもりだ!」


 その言葉に魔王は目を細めてニヤリと笑う。


「ほう、なんでも……よかろう、貴様にピッタリの場所を見つけてやる!3日後だ!覚悟しておけ。ふふふ……はははははははははは!!!」


 魔王はそう笑いながらスーッと闇に紛れて消えてしまった。


(……演出だけは魔王っぽいな)




「あ、ごめん言い忘れた。それまでに色々準備があるからユウシュに色々と聞いといて」

「あ、うん」



□■以下3日間をダイジェストでお送り致します□■


1日目

 ユウシュが来て説明し始める。今日は肉体改造から入るらしい。


「それではサチさんには不死になってもらいます」

「え、そんな事が!?」

「はい、と言っても流石に細胞レベルまで消し飛ばされては再生できるかどうか……というレベルですが」

「それでも充分凄くない?」

「魔族では極たまに見られる性質です。それでは手を」


 そう言われるがままに手を出すとチクッと手に痛みが走る。ユウシュ曰くこれで終わりとの事。


「いやー人間は散々じってきましたから。壊れやすいということは治しやすいということですから、流石不死と親和性の高い生物ですね〜」


 難しい事でよく分からなかったが、とにかく人間は凄いって事なんだろうな。サチは学校に行っていないどころか友達がゴキブリの完全ボッチ体質だったのでアホの子であった。


2日目


 今日はあの髭の長い龍のおじいちゃんが来た。お髭がふさふさでとっても可愛い。


「今日はあなたの相棒を連れてきました」


 そう言うとおじいちゃんはその掌に懐かしい生き物を差し出してくる。


「あ!ゴキちゃん!!」

「この生物はゴキチャンと言うのですかな?」

「んーん!ゴキブリって言うの、どこから持ってきたの!?」

「ふふっ、我が知識にかかればこれほどの大きさの生物ならばあなたの世界から持ってくる事が出来ますので。あなたの使い魔とすることで戦闘力や生活面での大きなサポートとなる事じゃろう。……とふふ、あんなにはしゃいどるとは話も聞いておらんかの……」


 サチは既にゴキブリと楽しそうに(ゴキブリは生きるために逃げようとしているだけだが)遊んでいる。その姿を龍のおじいちゃんはにっこりと微笑みながら眺めるのであった。


「さてでは契約をすまそうか、ゴキブリと手を出すのじゃ」


 言われるがままに右手にゴキブリを持ったままその手を差し出す。おじいちゃんが手を重ねて何か変な言葉を唱えると手の部分が一瞬光って風が起こる。これでこのゴキブリとの契約は完了したみたいだ。確かにお互いの繋がりを感じる。あとは使い魔について色々と話を聞いたがそこは割愛させてもらう。


3日目


 今日はこの世界における常識を習った。お金とか慣習とかあとやっちゃいけない事とか、でも服は着なきゃダメってのは流石に、と思ったけどそこは種族間の差があるらしくてやっぱり一日だけでは新世界の感覚は掴めそうになかったのでおいおい覚えていくこととなってしまった。


「早くこの世界に慣れなきゃ……」

「まぁ、そう焦らず少しずつなれてゆけば良いじゃろう」

「そうですよ。その為に魔王様も今頑張っていますから」


 ふとした過去の記憶から焦りが出たが2人はそれを意に介さず優しくしてくれる。その態度が余計にこの魔王軍に貢献しなくては!と思わせることとなった。非常に有意義な3日目となった。

 


□■そして3日目経過□■


 そうして3日後って3日目フルで使い切った後だったのか、と納得したくらいに魔王及びユウシュとおじいちゃんが来た。


「覚悟は出来ています!」


 先制攻撃だ。絶対にやり切って人類に復習してやる。絶対にだ。

 魔王がいやらしい笑顔でこちらに一言だけ告げる。


「よろしい、では行くぞ」




□■□■



キーンコーンカーンコーン


(え?)


「はい、では薄井さーん、入ってきてください」


 ここは学校だ。朝のホームルームの始まりを告げる予鈴がなる。私はガラガラ、と音を立てて扉を開ける。すると目の前にあの夢見た、そしてどこにでありそうな想像通りの教室が広がる。机には生徒がいる。ただその見た目は千差万別というべきか、今は語るべきではないだろうがその多くは人型ではあるが角があったり肌の色が違ったり目が3つあったりと、まぁ色々である。


「では、自己紹介を。名前と種族名を言ってください」


緊張


「ア、ウスイサチデス。ヨロシクオネガイシマス。シュゾク……ヒトデス」

「じゃあ、後ろの席が空いてるのであそこに座ってください。お隣のメディアちゃんは色々と教えてあげてくださいね」

「アッ、HI」

「分かりました!先生」


 よく分からない、ということも認識できないほどに目をまん丸にして席につく。


「私メディア!色々と教えてあげるから薄井さんもよろしくね!」

「ウン」


□■□■


キーンコーンカーンコーン


「それでは今日はここまでです、皆さん道草をせず真っ直ぐお家に帰ってくださいね〜。挨拶しましょうか」

「起立、礼!」

「「「さようなら〜!!」」」


 全ての授業が終わるのを告げる鐘の音がサチの意識さえ表層世界へと呼び戻す。


(え?)


「薄井ちゃん、またあした!」「また明日な!」「もっとお話しようね!」


 クラスの皆が元気な声で挨拶をして帰っていく。私はただそれを呆然と眺めることしか出来なかったが辛うじて小さく手を振り返してはいた。と言うかそれしか出来なかったのだが。

 とにかく記憶が無い。休み時間に魑魅魍魎にもみくちゃにされた記憶が辛うじてあるが、うん覚えてないぞぉ。


「これじゃあ魔王軍幹部失格だ……」

「ま、魔王軍!?あなた魔王軍なの?」


 なんと隣の席の子が喋りかけてくる。メディアとか呼ばれてた少女で片目に眼帯をしている。まだ居たのか……と思いながら彼女を見つめる。


「いいなぁ、魔王軍。かっこいいよね全魔族の憧れの組織だよ、私なんかただの中級貴族だよ」


 中級貴族、名前の通り下に下級貴族、上に上級貴族と王族が立場する立ち位置の貴族。下級中級上級で特に仕事が決まっている訳では無いが下から一次、二次、三次産業と別れていることが多い。つまり彼女の実家は大方製造業と推測できる。

 ならば会話の切り口は……そう彼女の家の仕事について!それならば自分の元の世界の知識も多少は役に立つはず。尚、薄井はこの時自分の欠点に気がついていなかった。


「あ……アヒュ、あのでしゅね、、フヒッ……」


 超人見知りだった。超が1つでは足りないほどであるがまぁそこはどうでも良い。なにせ彼女は実の父親以外とほとんど会話したことも会ったこともない、会ったことがある他人は父親が連れてきた見ず知らずの夜の相手くらいなのだから。そして何より元々素質があったのだろう、何せ話し相手がいないからと人形やぬいぐるみに話しかけるのではなく選んだ相手はゴキブリである。

 確かに彼女は父親からものを貰うことなどほとんどなかったのだが、だがしかしだからといって、ゴキブリを話し相手にはしないだろう。

 兎にも角にも、なんの隠し立てもできないほどに彼女は。人見知りだった。

 そしてそんな人間に初めて会った彼女は何が起きているか理解してないので、薄井にとって最も残酷な仕打ちをしてしまうのだった。


「えっと、何が言いたいの?」


 あぁ、子供とはなんと残酷なのでしょうか。きっと彼女は喋ることもままならないのに。と思うかもしれない。だが彼女は違った、何せ一応は勇者召喚によって呼び出された勇者である。ゴキブリと話していても超人見知りでも運が悪くてもまかり間違っても勇者なのである。

 勇者とはつまり勇気ある者、彼女の勇気は怒りからくるものである。


「私は魔王軍幹部候補!薄井幸だ!」

「し、知ってるよ!」

「え、あ、うん」


 まぁ、勇気のあるなしに会話できるかできないかは決まる訳では無い、経験値がものを言うのだ。その点彼女の会話経験値は赤子並みなので勇者召喚で呼ばれて勇者にならなかったのは彼女にとって幸運だったのかもしれない。

 それはともかく完全に的はずれな返答を返した訳だが。ここで会話終了と思ったが彼女(メディア)だって腐っても貴族である。腐ってないけど。兎に角会話の意図をサチとは別のベクトルで解釈して会話を続けるくらいわけないのだ。


「あ、私ね。さっきも言ったけどミレーユ・メディアだよ。親が武器製造業を営んでるの。何か欲しいものがあったら友達価格で安くしとくよ」

「とも……だち……?」


 そう彼女にとって友達は特別な意味を持つ。それも相手から振られるなど彼女にとってだが前代未聞である。だって彼女の唯一無二の友はゴキブリなのだから、今も服の裏側で待機しているこの子達だけが友達だったのだ。彼らは当然返事もしなければ言葉を喋ることもない、ある程度の意思疎通しかできない。彼女の世界の全てはそれに集約していた。

 だが今彼女の世界は壊された。他人が、クラスメイトが、話し相手が、、、友達が出来たのだ。

 しかもこちらからではなく相手から「友達」と言ってくれたのだ、人生で初めての友達。

 あぁ、こんなに嬉しいことがあるのか?なのになんでだろうか涙が止まらないのだ。悲しくても流せなかった涙が、泣けば殴られてしまうから声を噛み殺して静かに零れるのを待った涙が今は止まらないのだ。声も出してしまう、ああ情けない殴られてしまう。


「ちょ、ちょっと!大丈夫?なにか悪い事しちゃった?泣かないで」

「ち、違っ……友達……初めてで……」

「あぁ……なるほどね」


 彼女はきっとサチが魔王軍であるからそういった事情があるのだと、勘違いしたのだろうが図らずしも、その推測は間違ってはいないのだし誰も咎めるものはいないだろう。まして今彼女はサチの肩を抱き頭を撫でている。この場面を見てちゃちゃを入れろ。という方が無理だろう。


「今は泣いて大丈夫だよ。私達友達でしょ」


 彼女たちが今後どうなるか神のみぞ知ると言ったところだが、だが実際の運命なんて神の気まぐれなのだろうからそこは適当に楽しみにしておけばいいだろう。

 少なくとも今彼女たちは友達であると覚えておけばそれでいい。



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