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第5話 模擬戦への挑戦権

昨日の続きです。

 模擬戦当日。

   緋那や悠星の思いとは裏腹に模擬戦は賑わいを見せていた。多くの出店が軒を連ねて、本戦に進む選手を賭けたり、優勝する選手を予想的中させた人には大金が渡る仕様になっていたりとちょっとしたお祭り騒ぎになっていた。


「それで氷雨も屋台を?」

「はい。模擬戦は何も賭けだけが儲かる手段ではありませんからね。こうして屋台を出してコツコツ売り上げを伸ばす方がずっと確実な時があります。綿飴、食べます?」


   氷雨の屋台は綿飴を売り出しているらしく、いくつか種類があり、それぞれ可愛いらしいパッケージの意匠が凝らされている。


「じゃあ遠慮なく……」

「はい。緋那は親友のよしみで無料タダです」

「それはありがたいな。ちょうど糖分が欲しかったところだし」


   糖分というよりは、砂糖そのものだが、これが人々の心を掴んで離さない。ふわふわとして大空に浮かぶ雲を連想させる見た目と独特の甘い香りがあたりに漂うことで自然と行列ができるほどだ。

   しかも、氷雨の場合は綿飴の他にもう一つ作っているものがある。


「じゃ、緋那はちょっとそこで見ててね。今からお客様の前で綿飴の他に《《飴細工》》を作るから」


   飴細工。それは製菓技術の1つであり、飴を用いて作られた造形物を指す。それらの形は千差万別。作る職人によっても個性があり、日本の古き良き文化が生み出した産物と言えるだろう。

   エネルギーという異能の力が当たり前になった今、こういった技術は淘汰されていくものと緋那は思っていたが、違う。エネルギーという能力では決して真似ができない技術がそこにはあった。


   模擬戦は学外からも来校者が来るため、小さな小学生くらいの子もいた。氷雨は優しくその子に話しかけた。


「いいですか? 今からこの飴に魔法をかけますよ?」

「まほう……?」


   きょとんと小さな小学生くらいの子は氷雨の屋台の前に足を止める。すると氷雨はあらかじめ用意していた飴を使い、目にも止まらぬ速さで造形していく。


「わぁ……」


   少女はその早業に目をキラキラさせながら熱心に氷雨の飴細工に見入る。もちろん、エネルギーは一切使っていない。氷雨の能力は眼に関するものなので、能力を全く使わず、単純な技術のみで目の前のお客様(しょうじょ)の心を射止めている。


「はい、これで完成ですよ」

「すごい……」


   5分も経たないうちに飴細工はあっという間に完成した。完成したのはこちらも可愛いらしい猫のマスコットを模したものだった。どうやら氷雨の少女の付いていたストラップを見て、この飴細工を思いついたのだろう。少女も案の定、凄く喜んでいる。


「これは食べられますから、あなたにあげちゃいます」

「! ほんと!?」

「はい。今度は親御さんも連れてきてくださいね」

「はーい!」


   少女は嬉しそうにその場から立ち去った。遠くから親御さんらしき人も見えたので、どうやら親御さんに見せにいったのだろう。


「氷雨の飴細工……相変わらず凄い」

「いえいえ。学校の合間に練習しただけですからまだまだプロの職人さんには及ばないですよ」


   それでもここまで形にするのに相当量の時間を割いたはずだ。かなり努力したのだろう。氷雨の指先は職人特有のものに限りなく近い形をしていた。何度も火傷や失敗を繰り返し重ねてきた努力の結晶が如実に現れていた。


「それにしても、私やあの子にもタダで商品をあげちゃって大丈夫なの?」

「はい。これは先行投資ですから。それに、お客様が直接口コミをしてくれれば、その分盛況になりますからね。私にとってこの屋台の売り上げはお金だけじゃなくて、《《成績にも直結します》》からね」


   そう。氷雨のように戦闘に不向きな能力の場合は、このように屋台を開き、その売り上げと盛況次第で成績が決まるのだ。氷雨は去年から綿飴と飴細工で模擬戦を盛り上げてくれており、普段の成績に加えて、この屋台を切り盛りしている。飴細工を使ったパフォーマンス型ということもあってか総合的な成績でも常に上位に入賞する。


「さて、と。そろそろ緋那も模擬戦でしょう? 私もお店の方が忙しくなる頃合いなので、ここで一旦分かれましょう。私も手が空いたら直接会場に見に行きますから」

「うん、わかった」


   こうして、緋那と氷雨が別行動を開始したのであった。





   模擬戦は、学内の2つの体育館で行われる。そこは能力の危険性を考慮し、観席全域に特殊防護結界が張られている。観客の安全の保障と最高のアミューズメントを提供している。

   緋那が参加する模擬戦本戦前のバトルロイヤルは第2体育館で行われる。基本的にバトルロイヤルは2組に分けて第2体育館のみで執り行われ、今年の参加者は第2学年だけで242人。つまり、121人に分かれてから最後の4人になるまで戦い続ける。


   そして、優勝候補には現風紀委員長の八条悠星が挙げられ、賭けでも彼が多くの支持を集めている。

   対して、緋那は全くの無名に近い。件の不審火を止めたという事実はどうやら、生徒達の間では認知されていないらしく、むしろ、それはエネルギー科の生徒であれば能力次第ではあるが誰でも止められると思っている輩が多い。

   つまるところ、結果が全てなのだ。模擬戦の結果とテストの成績、そして先生や学園長からの信頼がその生徒の知名度を決める。


(目立つのはあんまり好きじゃないし、無名でも構わないんだけどね)


   優勝候補がライバル視しているという情報は一部の近しい人間しか知らないので、当然といえば当然である。


(でも、そうも言ってられないか)


   周りの知らないものから支持を受けようと受けまいと結果はついて回ってくる。将来のためにもここで必ず結果は出さないといけない。


「お。いたいた。緋那ちゃん、今大丈夫かな?」


   そう声をかけてきたのは青色だった。青色もまた学園の有名人であるため、なぜ、あんな無名な生徒があの人に話しかけられているんだ? と他の生徒は訝しんでいるようにも見えたが、青色はそんなことを気にせずに緋那に気さくに話しかけてくる。


「例の件で進展があったから、報告しにきたの。念話テレパシーでもいいかなと思ったんだけれど、たまたま見つけたから」

「……もしかして、何か進展が?」

「まぁね」


   相談してからまだ3日ほどしか経っていないのにも拘らず、もう進展があるとは……緋那が1年近く抱えていた悩みをこうもあっさり解決の糸口を見つけるなんて……と彼女は呆気に取られた。


「ここじゃなんだし、ちょっと場所を変えましょうか」

「そうですね」


   パチンッ。


   青色が指を鳴らすと、そこはヘリポートに似た屋上ではなく、普段は立ち入れない屋上だった。


「なっ……こ、これは……」

瞬間移動テレポートだけど?」


   いや、瞬間移動テレポートだけど? って言われても……色々緋那は混乱する。これまで、彼女の力はたくさん見てきたが、ここまでなんでもできるとは想像もつかなかった。


「先輩、本当にチート地味てますね……」

「そんなことはないわ。これも能力の一環だし」


   これが能力一環……だとしたら、応用範囲の広さは緋那以上かもしれない。緋那も応用範囲には自信が多少あったものの、ここまで幅広く能力をノータイムノーリスクでは使えるわけではないので、より彼女が恐ろしく見えた。


「さて、本題に入るけどいい?」

「は、はい。お願いします」

「まぁ、結果から言うとね。犯人を捜すくらいなら私がその君の能力を妨害ジャミングする能力とやらを搔き消す電磁波を会場全域に発生させた方が早いんじゃないかなって思ってさ。もちろん、君達が能力を使う際には一切の支障はないよ。これはさっき私自身で確認した」

「…………もはやなんでもありですね」


   この人、万能すぎる。

   緋那が確認しただけでも、彼女は治癒、念話テレパシー瞬間移動テレポート、そして特定の能力発動を妨害ジャミングする能力を搔き消す電磁波を会場全域に広げるだけの能力……しかも、これで全てではないという空気まで匂わせている。


「ま、緋那ちゃんなら大丈夫。その辺の有象無象に負けるほど甘い鍛え方はしてないでしょう?」

「まぁ、それはそうなんですけど……」

「対面なんて気にしなくても普段通りに力を発揮すれば、遅れを取ることなんてまずない。私を信じて。ね?」

「…………わかりました。私、全力でやってきます!」

「うんうん。その勢いが大事よ」


   緋那は青色に激励を受けると、青色はさっきの瞬間移動テレポートで第2体育館に戻してくれたのであった。





   バトルロイヤルの会場はここ、第2体育館。


   バトルロイヤルの開始時間まであと5分を切り、会場も大いに盛り上がり上がり、ボルテージは最高潮に近い。


『会場にお越しになった皆様! 大変長らくお待たせ致しました! まもなく、当学園名物模擬戦のよせ……失礼、バトルロイヤルを開始致しますー! 司会はわたくしビッグラビットがお送りしまぁす!』


   司会のビックラビットと名乗る司会者(うさぎの不審者)の男子生徒は高らかにバトルロイヤルの開始を告げる。


『それでは、解説に『五英将』のうちの1人である瀬戸内さんをお招きして……ってあれぇ!? いない!?』


   いきなりハプニングが発生している司会者側や観客席はともかくとして、ステージは今静寂に包まれていた。無理もない。ここにいる生徒達は皆、誰かを蹴落としてでも上に上がろうとしてきているのだ。ピリついていた方がむしろ自然と言える。


『……コホン。解説の瀬戸内さんはあとで来てもらうとして、それでは簡単なルール説明に移らせて頂きます』


   ビックラビットは一呼吸置いてから、お客様に向けての説明を開始した。


『皆さまご存知の通り、この模擬戦は2組に分かれたバトルロイヤルから始まります。制限時間は特にありませんが、場外になったり、気絶したら負けとなります。最終的に4人、ステージに立っていた者がこのバトルロイヤルの勝者となり、晴れて模擬戦の本戦へと勝ち上がることができるのです!』


   ステージの広さは緋那の目算でテニスコート6つ分ほどだろうか。皆、場外負けを避けるべく最初のうちに真ん中に集まっているのが確認できる。もちろん、緋那も真ん中に近い位置を陣取っていた。


『さて! ルール説明も済んだところで早速バトルロイヤルを開始致します。選手の皆さま、準備はよろしいですかー!?』


『『おおおおおおおおおおおおっーー!!』』


   さっきの静寂とした空気から一変、緋那含むステージ上にいる選手達が雄叫びをあげる。緊張を紛らわす意味や相手を少しでも威嚇するといった意味合いも込められているのだろう。ここで既に尻込んでいる選手も数人ほど散見できた。


『それでは、始め!!!』





 ーー観客サイドーー


「馬鹿な……やつのエネルギーが封じられない」


   男は焦っていた。いつも模擬戦にて、花山緋那の妨害ジャミングをして蹴落としていたのだが、今回はそれができない。


(何者かが、俺の能力を搔き消してやがるってのか?どうやって? 相手はどこにいるかもわからないはずなのに……一体どんな能力で対策しやがった)


   彼女にもまた強力な協力者がいるのだろう。その協力者を一刻も早くどうにかしなければ緋那の妨害ジャミングは不可能だろう。だが……


(……やつを本戦に進ませるしかないか)


   男は一旦、諦めて素直にバトルロイヤルを見ることにした。


 




 ーーステージサイドーー


   ついにバトルロイヤルが始まった。始まった瞬間、皆先立って自分以外の誰かを落とそうと躍起になる。参加している人数が人数なだけに、その戦闘は過激なものであった。

  いつもの緋那であれば、この荒れ狂う戦場とも似た波に飲み込まれて、あっけなく脱落していたのだが……彼女は自分のエネルギーが万全かどうかを確認する。いつもこの時点で、力が抜けてしまい早々に脱落してしまっていたのだがーー今日はその異常もない。

   これなら、いけそうだ。


「はぁ!!!」


   緋那は自分の持つエネルギーを解放し、近くにいた他の生徒達を場外まで吹き飛ばす。


『おっとぉ! いきなり花山緋那選手が動きました! なんと、エネルギー放出だけで他の生徒を吹き飛ばしたぁ!』


   エネルギー放出とは、自分の持つエネルギーを一気に解放し、体外に飛ばすことで衝撃波を生み出す技術。能力に関係なく、エネルギーを持つ者ならば個人差はあれど基本的に誰でも使用することができる。

   さらに、その放出したエネルギーに敵意を乗せることで自らの力を誇示したり、相手を萎縮させることもできる。

   対して、緋那がやったのはもっと単純なエネルギー放出。ただ、敵を場外まで吹き飛ばしライバルを減らすために使ったのである。


「あいつ……」

「ええ」

「危険だな」

「あれは早めに処理したほうが懸命」


   他の生徒も気づいたのだろう。不意にまともにあれをくらえば、自分達も場外負けする可能性があると。エネルギーの放出は本来、人を吹っ飛ばせるほどの威力ではない。人を吹き飛ばせるほどのエネルギー放出をするためには何年もかけて修行してようやく身につくものである。

   何人かの生徒は緋那の力量を把握し、警戒の態勢を取る。またある者達は多勢に無勢、と言った感じで緋那に迫る。


「「「はああああああっ!!!」」」


   4人。緋那に一斉に襲いかかってきた。だが、彼らも馬鹿ではない。真正面から攻めることはなく、あくまで搦め手を基本とした攻撃を仕掛けてきたのである。


   ある者は炎で緋那の周りを囲い、逃げ場を絶つ。


「俺の炎は摂氏2500度を超える。この炎に触れれば……どうなるかわかるよな?」


   ある者は水で覆い、気絶を狙う。


「私の水の牢獄は何分、何時間でもあなたを拘束します。無駄な抵抗はしないのが懸命ですよ」


  ある者は電気で動きを鈍くさせようとする。


「上乗せで俺の電撃をお見舞いしてやる。仮に水の牢獄から抜け出せても、待っているのは感電による大ダメージだけだ」


  ある者は風によって最後のトドメを刺す。


「僕は風。風はいい。向かい風と追い風。敵と味方で使い分けることができるからね」


  どうやら、その4人は息の合ったチームだったらしく、炎、水、電気、風を使った連携プレーによって強者を脱落させるという戦法をとっていたようだった。

  しかしーー

 

  緋那には一切のダメージが確認できない。これも彼女の能力に関係するものなのだろうが、彼らは皆目見当がつかないといった様子だった。


「馬鹿な……」

「無傷……?」

「あれは、バリアなのか?」

「一度、撤退を……」


「せい!!!」


   緋那は取り巻きにいる4人のチームを含む他の生徒達を能力を使い、連携技ごと吹き飛ばす。当然、彼らも場外へ落ちた。


『さぁ! いきなり大番狂わせだ! なんと、無名だった花山選手! いきなり数十人を場外へ吹き飛ばしました!! 会場も大盛り上がりです!』


   ここで、緋那の能力を確認しよう。

   彼女の能力は『状況的順応性ケース・バイ・ケース』。その力は、あらゆる物質や概念を動かすことができる能力。動かすことができる物質と概念は自ら保有するエネルギーに比例するため、無闇に使うとすぐに消耗してしまうというリスクがあるというものだ。

   彼女はその能力を応用し、いくつかの必殺技を考案していた。


五重空奏エア・クッション

   文字通り、五重の障壁であり、緋那の能力によって空気の層を五重にすることで、あらゆる攻撃から身を守ることができる防御術式を組み上げたもの。

   先日の不審火を防ぐ時に大火傷にならなかったのも、先の攻撃を防いだのもこの能力のおかげである。この能力は常時発動型で、普段の生活にも使っているため、能力のリソースの1割を常に割いている。


『暴風』

   意のままに暴風を起こすことができる能力で、出力調整が難しい。最大風速が時速300キロメートル以上にもなるため、コントロールをミスしてしまうと自分にもダメージを負ってしまう諸刃の剣。


『震拳』

   通常の打撃攻撃に振動を乗せることで、相手の正常な器官を妨害するために使う能力。肉弾戦といった戦闘に併用して使うことで相手のダメージを貯蓄させて、長期戦を防ぐのにも重宝される。


   緋那が先ほど10名の生徒を吹き飛ばしたのが『暴風』にあたる。『震拳』も近距離迎撃に使えるため、遠近ともに対応可能だ。取りこぼしは『五重空奏エア・クッション』があるため、実質的に緋那には死角らしい死角がない。


『なんという強風だ! 花山選手、またまた多くの生徒を吹き飛ばしたぁ! こんな予想を誰が予想したことだろうか!』


「まだまだっ……!」


   しかし、模擬戦の本戦に勝ち抜くためには余計なエネルギーは使えない。最低限のエネルギーで対処しなければ、あっという間にガス欠になる。


「よう、緋那。お前もこっちの組み合わせだったのか」

「八条……」


   緋那に話しかけてきたのは、現風紀委員長である八条悠星だった。


「ったくとんだ乱戦だな……俺の能力を知っているやつが多すぎてどいつもこいつも場外狙いで集中砲火してきて敵わねぇよ。あと、流れ弾でお前の暴風で吹き飛ばされそうになったしよ」

「いや、そんなの知ったことじゃないんだけど……」

「冷たいな、お前は。こっちはお前をあてにしにきたのによ。どうだ? バトルロイヤルまで俺と組まないか?」

「…………それって私にまで集中砲火が飛んでくるから、八条と組むメリットがないじゃない。残念だけど却下」


   緋那と悠星がそうこう話しているうちに囲まれてしまった。この時点でデメリットが発生しているのに、さらに彼と組んだとしてもメリットがない。故に、組む理由がない。むしろ、組まない方がいい。


「なぁに、そいつを逆手に取るんだよ。俺が集中砲火を受けるからその間にお前が俺を巻き込まない範囲で攻撃してくれ。そうすれば緋那も敵を掃討するのに集中できてwin-winだろ?」

「……確かに一理ある。けど……」


   悠星を巻き込まない範囲で、という条件付きが難しい。『暴風』は、コントロールが難しい。人を死なない程度に抑えるのも難しいのに、加えてたった1人の人間を巻き込まずにともなれば、難易度は格段に跳ね上がる。


「どうだ? できそうか?」


『おおっと!! ここで、優勝候補の八条選手とダークホースの花山選手! 多くの選手に囲まれたぞ! ピンチ!!』



「……ッ! ああもう! やるよ。やればいいんでしょ!」


   どの道、やらなければ緋那もこの場で囲まれているため、詰む可能性がある。難易度の高い低いをいつまでも天秤にかけていられるほど、この状況を乗り切れるほど甘くないのはわかっていたことだ。


「『暴風』!」


   緋那の『暴風』は多くの生徒を吹き飛ばした。もちろん、加減はできないので結果的に彼もまとめて吹き飛ばしそうになる。


「おいこら! 要件と違うぞ緋那! あと少しで場外負けするところだっただろうが!」

「八条も知ってるでしょ。この技はコントロールに難があるんだよ。そんな精密なコントロール技術はまだないんだよ」

「はぁはぁ……でも、これで多勢に無勢みたいな戦法はできなくなったな。余計な生徒が減ってきたわけだ」

「余計とは他の生徒に失礼だと私思うんだけど……」


   八条の言い方はともかくとして、これで大幅に人数は減ったのも事実だ。ここから先のバトルロイヤルは100メートル以上の暴風にも耐え得るだけの手段を持った者同士の戦い。

   つまり、ここからが本番。ここからが本領発揮である。




   ーー残り人数、20名。

   本戦への切符をかけた少年少女達の命がけの戦いが始まる。


明日も引き続き投稿します

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