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第11話 交渉の意図

昨日の続きです。今回の話から、時間を決めて投稿することにしました。午前0時になった時点で投稿されるので、今までとは違い一定の時間で読めるようになりました。

  「全く……やってくれたのう……でも学園にまんまと侵入を許してしまったのはワシのミスじゃなこれ。そこは認める。認めるけども。はぁぁ……始末書を書かされるのはワシなんじゃぞ!? そこのところ分かっておるのか!? おぉぉん!?」


   そう叫ぶのは、この学園の創設者にして学園の長である今井源治だった。つるつる頭に反して長く白い髭、黒眼を持ち、見るからに高齢であるのにも拘らず高身長かつ筋骨隆々な恵体。本当に歳を取っているのかと疑いたくなるくらいだ。

   その理由を問い詰めるのならば、彼は半世紀以上前、全能力者の中で最強の能力者と言われた人物で、昔は今以上に鍛え抜かれた身体だったからである。……最も、現状からはとても信じられないのだが。


「学園長。私を結界から出してくれたことには感謝しますが……まさか今の今まで昼寝をしていて気づかなかったとは、間が抜けていています」


   そう言ったのは、先ほどまで結界に閉じ込められていた青色であった。源治のいい加減な態度に辟易しており、怒りを通り越して呆れているようにも思えた。


「めんごめんご。いやーでもここまで完璧に侵入されたとなると内通者がいると思うがのぉ……そうじゃないと侵入なんてとても無理じゃし。なぁ彩里君」

「あら、あら。バレていたのね」


   すっと彼女は鳶沢の目の前に現れる。まるでバレるのが分かっていて、タイミングを見計らったかのようですらあった。


「わしもこの会場に来るまでそんなのちぃっーとも知らんかったがの。ま、青色君がそこんところは説明してくれたから腑に落ちたがの」

「私としても、ここで学園長自らがやってくるとは想定外ですわ」

「そうじゃろ、そうじゃろ。わしだって気持ちよく昼寝してたらいきなり始末書が降ってきてびっくりじゃわい。……でも、まぁ、蓮君よ。君には感謝せねばな。君がいなかったら、もっと被害が大きかったかもしれん」

「いいですよ、これくらい。そのための『五英将』でしょう?」

「……そういう意味じゃとまた随分と懐かしい顔が敵側におるのう……なぁ一歩はじめ君」


   一歩は源治のかつての教え子でもあったため、お互いに面識があった。思わぬ再会に驚きを隠せない一歩だったが、彼は努めて冷静を装った。


「……お久しぶりです、学園長。まさかこんなところで会うとは俺も想定外です」

「ふむふむ、なるほどのぅ。内通者がうちの生徒で外部の侵入者がうちの卒業生ならば、模擬戦に乗じて侵入するのは比較的簡単だったわけじゃの。しかし、お主らの目的はなんじゃ? ここまでのことをするのには何か目的があってのことなのじゃろう?」

「はい。これも全ては世界のため、ですわ。そのために交渉に来た次第です」

「……ほう。話は聞くだけ聞いてやろうかの」


   彩里の意味深な物言いに顔をしかめる源治。無理もない。彼らがやっているのは世界を救うとは程遠いものだ。まるで話が繋がらない。


「さて、その具体的な方法ですが……その前に学園長は『星の力』というのをご存知でして?」

「無論、知っておる。それにしても、『星の力』ときたか」


  『星の力』。それは、星の力を越える種族が現れた時のみ自動的に発動される力のことだ。かつて恐竜やその他存在した危険生物がこのままいけば星そのものを破壊してしまう可能性を秘めていたという。

   それを防ぐために『星の力』が発動し、運命力を無理矢理に捻じ曲げて隕石やウイルスなどといった大災害を誘発。そして、それにより脅威だと判断された種族が確実に絶滅するまでその脅威は続く。

   その『星の力』が最後に発動したのが約6000万年前に恐竜が絶滅されたとされる直径10キロの隕石である。


「その『星の力』の再来が今まさに迫らんとしているのです。それを止めるためには人類が『星の力』にとって脅威ではないという《《証明》》をしなければならないのです」

「……察するにその《《証明》》とやらがわしらを襲う理由というわけじゃな?」


「ええ、その通りです。私達はここを起点に日本を壊滅に追いやることで『星の力』の発動を阻止します。その計画の名を『天空落下阻止計画』。これを邪魔する者は誰であっても殺します」

「なぜ、ここを起点に? 大国の一つでも潰すっていうのなら、起点する場所はここから日本じゃなくてもいいじゃろう? 」


「確かに貴方の言う通り、別に大国さえ崩せればどこでもいいのは確かです。ですが、学園長。貴方ならわかるはずです。なぜ私達がここを真っ先に選んだのかが」

「ふむ。この霧峰学園からはより優秀な能力者を毎年輩出している。それこそ、世界レベルで通用する人材の何割かはここで受け持っていると言っても過言ではないの。だから、ここを起点にして破壊すれば『星の力』とやらの発動を阻止しやすくなるというわけか」

「はい。ご明察ですわ。私はその計画を実行するためだけに霧峰学園に工作員として侵入し、色々調べさせて頂きました。そう上でこの学園は危険だと判断しましたわ」

「なるほどのぅ……じゃが」


   学園長は不満と言わんばかりの表情で彩里と一歩を睨みつける。


「その計画は矛盾しておる。だってそうじゃろう。なぜ6000万年の間一切『星の力』が働かなかったのに今になって発動する? そして、なぜその発動はわかった? 情報源ソースは? 『星の力』にでも直接聞いたのか? とまぁ、簡単に上げただけでもこれだけの矛盾がある。そこんところ、お主達はどう思っているのかのう?」

「それは私達の『主』のご判断ですわ。考えてもみてくださいまし? 今や人間の技術と文明の発動は目覚しいものになっていますわ。エネルギー技術の確立によって月や火星への進出はもちろんですが、今や直径10キロの隕石が来ようが撃ち返すことができたり、新種の病気にも即時対応、続々と新たな生物の発見がなされ、さらには宇宙人との交流まで可能とさせんとしている……これだけ聞いても『星の力』が動かないと思いですか?」

「むむむ……」

「それに加えて、世界の犯罪の規模も拡大しています。例えば意図的に隕石を落として国そのものを滅ぼそうと目論む者もいます。今後は逃亡先も太陽系規模になってくるでしょう。それでも貴方は絶対に何があっても『星の力』が働かないと断言ができますか?」


「…………青色君。君はどう思うかね?」

「学園長……口喧嘩が弱いからって私に振らないでください」

「べ、別にそんなことないし! ただ、わしは青色君の意見をだな……」

「はいはい。わかりました、そうですね。私から言えるのは『星の力』はその程度の文明力では動かないと思います。それこそ、人間が意図的に地球を破壊しようと考えない限りは。何せ、『星の力』はいつでも地球上に棲む我々を根絶やしにできるくらいの力は持っていますから」

「……そういうことじゃ、彩里君。わかったら、その『主』とやらに伝えなさい。君の計画は矛盾だらけのただの破壊工作に他ならないとな」


   いかにも、自分で言った程で話を進める源治に対して少し腑に落ちない青色であったが、これ以上ツッこんでも話がややこしくなると思い、あえてスルーした。


「交渉は決裂、ですわね。学園長さえ了承してくれれば手荒な真似はしないと約束したのですが……了承できないのであれば宣戦布告をと思いまして。私達は何を置いてもこの国を潰しますわ」

「ふぉっふぉっふぉっ……舐められたものじゃの。そう言った君らを逃すとでも思ったのか?」

「ええ、だって、今の私達はただの幻影ですわ。貴方達が話を聞いている間に本体の私達は退散させて頂きましたから」


「……これはしてやられたの」

「ーーそれでは。次会う時は敵として会いましょう」

「待ちなさい。1つ聞きたいことがあります」

「聞きたいことですか。答えられる範囲でなら答えましょう」

「なぜ、花山緋那の能力の妨害ジャミングをしていたの? 主犯格は貴女でしょう?」

「あー! そうだそうだ。自分も思い出したっす。複数の人形を使って、能力を妨害してたのでぶっ飛ばしたんですよ。なんでわざわざ人形まで持ち出したんっすか?」


「……そうですわね、それも目的の一部、ということだけはお伝えしておきますわ」

「目的の一部、ですって? 彼女の未来を潰すようなことが目的の一部だと言うのなら今私がここでーー」

「あらあら。怖い怖い。最も、そうするのは今はできないでしょうけどね」


   そう彩里が言うとふっと姿を消した。

   幻影とは思えないほど精巧なものだった。あれは、注意深く観察していなければ分からない。青色にしても蓮にしても話に耳を傾け過ぎていたのもあるが。どうやら、彼女達もかなりの猛者のようだ。


「あんなのが学園に混じっていたのかよ……鳶沢先輩だけでも厄介だって言うのに」

「確かにそうね。強さだけじゃなくて、応用も効く能力に加えて、頭もかなりキレるときた。それこそ、『五英将』並ね」

「はぁ……模擬戦も台無しにされた上に宣戦布告とはの……始末書も書かされるし」


   やたらと始末書を気にする源治はおいておくとして、これは随分と厄介なことになったと青色は考える。これから、事情を知っている者同士での作戦会議はもちろん、敵の位置情報の割り出しや敵の能力の対策やできれば、目的の解析もしておきたいところだ。


「さて、とりあえずこの場は収まったのだし、観客に事情説明をした上で今回の模擬戦を中止にすることを伝えましょう。それが今は先決です」

「……そうじゃの。とにかく、彼らの安全は確保しなければ……」

「あ、安全で思い出しましたが、蓮くん以外にもあの観客の防護結界を作ったのは私ですので。その辺は忘れないでくださいね?」


   青色がそう不機嫌そうに言う。源治も「すまんすまん。忘れてた」と言ってさらに青色は不機嫌に。間に挟まれた蓮は青色の機嫌を取ったり、始末書でしくしくしている源治をフォローしたりと大忙しだ。



   ーーこれにて、模擬戦は中止という形で幕を閉じた。

明日も引き続き投稿します。

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