9/42
右目。
Ａさんはある日、港の近くで、変なモノを見たのだそうだ。
長い灰色のザンバラ髪に、ぐっしょりと濡れた赤い着物を纏った女。多分、老婆だと思ったそうだ。
別の日、Ａさんは違う場所で、また見た。
長い灰色のザンバラ髪に、ぐっしょりと濡れた赤い着物を纏った女。多分、前に見たのと同じモノを。
そして別の日、違う場合で、また見た。
Ａさんは、思ったという。段々と家の方に近付いている？ と。
そして、数日後。Ａさんは夢を見た。
全身が濡れた、ザンバラ髪で褪色した赤い着物の老婆が、寝ているＡさんに覆い被さるように見下ろして、嗤っていた。
その老婆の顔には、フジツボが幾つも貼り付き、ぷんと磯臭い匂いが強くしたそうだ。
しわしわの手の、魔女のような黄色くて長くい、汚ならしい爪がＡさんの顔面……右目に突き付けられたという。そして、その老婆が厭らしく言ったそうだ。
「その右目、抉ってやろうか？」
嗄れた声に腥い息。
酷くムカついたので、
「巫山戯ンなクソ野郎がっ！？やれるもんならやってみやがれっ！？」
と、大声で怒鳴った自分の声で、Ａさんは目を覚ましたそうだ。
今のところ、Ａさんの右目は無事だ。
そのクソババアも、二度と見ていないという。
読んでくださり、ありがとうございました。
