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視えてるらしい。  作者: 月白ヤトヒコ


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そぐわない場所で、魅入られる。


 Aさんが親戚と墓参りに行ったときのこと。


 とある墓の前に、ぽつんと楽器が一つだけ置かれていたのだという。


 Aさんは、なんで(こんなところ)に楽器? と不思議に思ったそうだが、それだけだった。


 しかし、Aさんと一緒にいた親戚のBさんは違ったようで、ぽつんと置かれた楽器をしきりと気にして、親族の墓にぞんざいに手を合わせるや否や、そわそわと楽器の前に行き、手に取った。


 さすがに他人の墓にある物を勝手に取るのはまずいと思って注意をしたが、Bさんは興奮したように捲し立てた。


 曰く、ぽつんと置かれていたその楽器は、とてもいい品であると。作られてから少なくとも百年以上は経っており、けれど損傷も無く、かなり保存状態がいいので絶対に高く売れる、とのこと。


 しかし、それ(・・)は墓に置かれていた物だ。幾ら高く売れる代物だとしても、他人の物。盗むつもりなのか? と、説得をして、Bさんにその楽器を諦めさせたのだという。


 その場では説得に応じたように見えたBさんだったが、どうも墓参りをした後から挙動がおかしいのだと、Bさんの家族に相談を受けた。


 まさか、本当にあの楽器を盗んで売ったのか? と、Aさんは思い、Bさんと話をすることにした。


 あとを付けて、もし悪いことをしているなら、警察に通報することも考えて――――


 すると、Bさんはお墓の中へ入って行った。


 墓参りはこないだ済ませた。それに、そろそろ日が暮れる時間。こんな時間になにを? と思ったら、墓地の中から楽器を演奏する音が聞こえて来たのだという。


 Aさんが墓地を覗くと、Bさんが一心不乱に、例の楽器を演奏していたそうだ。


 Aさんは驚き、Bさんになにをしているのかを聞いた。すると、盗むのはよくないと言われたから、ここで演奏しているのだという返事。


 こんなにいい楽器なのだから、演奏しないのはもったいない、と。


 盗んではいないのだから、弾くくらいはいいだろう? と、Bさんはまた楽器を一心不乱に弾き始めたのだそうだ。


 盗んではいない。演奏しているだけ。悪いことはしていない。盗むつもりはない。こんなに綺麗でいい音を自分で出せたのは初めてだ。ちゃんとこの墓へ返すから、ここで演奏することだけは許してくれ、と。BさんはAさんに懇願した。


 Aさんは、絶対に盗まないのであれば……と、渋々頷いた。


 思えば、このときになにがなんでもBさんを止めて、その楽器から引き剥がしておくべきだった……と、Aさんは後悔している。


 Bさんは、それからも毎日毎日墓に通って、あの楽器を演奏し続けていたらしい。数時間だったのが、一晩中になり。毎夜。雨の降る日も、朝まで……


 なにかに取り憑かれたように、魅入られたように数ヶ月間通い続け――――


 ある土砂降りの日。Bさんが行方不明だと、Bさんの家族から連絡があった。


 Aさんはまさかと思い、墓へ向かうと……そこには、骨と皮ばかりに痩せ細ったBさんと思われる人が、満足そうな顔で笑って亡くなっていたそうだ。


 Bさんは座った状態で、なにかを抱えているような体勢で亡くなっていた。けれど、その手の中にはなにも無かったという。


 Bさんの死因は衰弱死。そして、Bさんがあれ程に執着していた楽器は、どんなに探しても墓から見付からなかったそうだ。


 偶に、あるのだという。数百年もの年経た美しい楽器が、そぐわない場所に現れて――――


 魅入られた人が、取り憑かれたかのように演奏しながら、段々衰弱して行き……


 奏者のいなくなった楽器が、忽然と消える。そしてまた、別の場所に現れるのだという。


 まるで、楽器に意志があるように――――


 そぐわない場所にある、美しい楽器。それ(・・)に魅入られてしまうと・・・


 読んでくださり、ありがとうございました。

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