ノック。
Aさんが身体を壊してしまい、とある病院に入院していたときの話。
その部屋は、角部屋の個室だったそうだ。
入院して幾日か経ち、夜に寝ようとしたときのことだったという。
Aさんはふと、コンコンという音が鳴っていることに気が付いた。
なんの音だろうと思い、辺りを見回すと、窓が外から叩かれているのだと判ったのだとか。
その部屋は五階の角部屋で、外からノックができる筈がない。
そしてAさんは、所謂視える人だったので、煩いなと思いつつ、毛布を頭から被ってそれを無視することに決めた。
すると、何時間も続いていたノックの音が止んで、これで静かになった……と思った瞬間、バン! と、ベッドに備え付けのテーブルを強く叩く音がして驚いた。
毛布から顔を出すと、なにやら酷く怒っている気配の、真っ黒な人影がAさんを見下ろしていたという。
Aさんは眠くてとても苛付いたので、
「アンタがなにに怒ってんのか知らないけど、それがわたしになんの関係がある? 安眠妨害するな」
と言ったのだという。すると、その真っ黒な人影は消えてしまったのだとか。
その後、人影が現れることはなかったそうだが、夜中のノックや奇妙なことは続き、Aさんは寝不足になったそうだ。
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