蛍・・・
とある夜、Aさんが寝ようと明かりを消して寝転がったときのことだという。
風通しの為に開けていた部屋のドア付近から、ふわ~っと淡い黄緑色の光が緩やかに明滅しながら、部屋の中へと飛んで来たそうだ。
その夜は蛍が出るには少し早い時期だったが・・・Aさんは虫が嫌いだったので、ゲッ! と思いつつ、眠気を堪えて明かりを点けた。
しかし、明かりを点けた部屋の中には、なにも飛んでいなかった。
Aさんは見間違えたか? と思い、寝ようと思って、また明かりを消した。
すると、またしても淡い黄緑色の光がふわふわと明滅しながら部屋の中を飛び、その光は部屋のとある場所で止まった。
Aさんは舌打ちをし、また明かりを点けた。けれど、やはり蛍の姿は見えなかった。
しかし、蛍の止まっていた場所には、写真が飾ってあり――――Aさんは、その写真を見てぽつんと呟いた。
「ああ、今日はあいつの誕生日だったか」
その日は、Aさんの亡くなった兄弟の誕生日だったそうだ。飾ってあったという写真は、その兄弟のもので・・・
そして、部屋の中から蛍の死骸が見付かることは無かったという。
読んでくださり、ありがとうございました。