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ラフレスタの白魔女(改訂版)  作者: 龍泉 武
第八章 ふたりの過去
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第五話 修行の日々

 リリアリアから突然「魔女になれ」と言われて、初めは彼女の言葉の意味が解らず困惑する私だったが、リリアリアが私に示した道はこうだ。


・自分のところに居候して魔法を覚えよ。

・ついでに、この世界の言葉と常識を覚えよ。

・そうすれば、其方は力が付く。

・盗賊や魔物を退らけれるぐらいの力を持ってから旅立てばよい。


 リリアリアの言いたかったのは、そう言う事らしい。

 私もサガミノクニ人としての細やかなプライドもある。

 見ず知らずの人にここまで世話になるのは迷惑ではないかと思い、初めは断った。

 しかし、「断ってどうする? 其方は他に行く宛てもあるまい」と告げられると私は何も言えなくなってしまった。

 結局、リリアリアからの申し出を受ける事になる。

 正直、ありがたいと思ったし、リリアリアとしても私を育てる事に興味があるらしい。


「其方は魔術師としての素質があるようじゃ。今日、出会った時、儂の魔法を無効化したじゃろ」

「え?」


 言葉翻訳魔法を私に掛けた時、私は咄嗟に抵抗したらしい・・・全然覚えていないけど。


「初めは、この娘は魔力抵抗体質者か?と思ったのじゃが」

「魔力抵抗体質者?」

「そう、生まれながらにして魔法の効かない、もしくは、効きが悪い人間じゃ。極少数だが存在しておる。しかし、其方の場合は全く別の能力じゃな」

「別?」

「そう。其方は自分の魔力を高める事で儂の魔法を無効にしたのじゃ」

「え? 私、魔法なんて知らないよ・・・」

「なるほどのう・・・しかし、あの時に儂が感じたのは其方から発せられた魔力の高まり。魔力とは人間の想像力(イメージ)が具現化された形なのじゃ。其方が『そんなものは自分には効かない!』と、強く念じれば、儂の魔法が上書きされて効果が得られなくなる・・・それがあの時、其方が必死にやった事じゃな」

「そんな・・・私、そんな気は全然無かったのに・・・」

「じゃろうな。ほぼ無意識でやっておった事じゃろうから自覚が無いのも道理じゃ。まぁ、その後に魔法の杖を其方の身体に強く接触させて魔法を無事に発動させたのじゃ。魔力の強さは距離に反比例するからのう。距離の無い状態ならば儂の魔力の方が上じゃ」


 ここで密かに自分の魔力自慢をするあたりが、このリリアリアと言う女性も負けず嫌いな性格なのだろうと私は思った。


「そのような下地があるからこそ、育て甲斐があるというものじゃ。其方の青黒い髪も、かつての伝説の魔女の再来かと思った程じゃからな」

「へ?」


 その時になり、私は自分の髪の毛の色が変色しているのを知った。

 自分は生粋の大和人だと思っている。

 黒くて艶のある長い髪は私の数少ない自慢のひとつだか、今更ながらに自分の髪を手に取って確認すると、確かに何本かに一本青色が混じっていたのだ。

 

「い!?・・・嫌ーーーっ!!!」

 

 私はショックあまり、その日、初めて泣いてしまった。

 その後は気が動転して何も手が付けられなくなる。

 リリアリアは私の事を気遣い、この日の会談はこれでお開きとなった。

 

 

 

 後日、リリアリアに自分の髪色がこの様になってしまった原因について調べて貰ったが、青色の髪の毛は私の身体の中から染み出た余剰魔力によって変色している事が解った。

 いくら切ったり抜いたりしても一定割合で黒髪が青色に変色してしまうので、あきらめるようにと言われた。

 原因については詳しくは解らないが、どうやらこの世界に来たときの転移事故でこのような弊害を負ったらしい。

 今の私ではどうする事もできないので、リリアリアの言うとおり諦める事にした。

 しかし、髪の毛に青色が混ざる代償として、私に恩恵が与えられる事もあった。

 私、なんと、魔法が使えたのだ。

 リリアリアの言うとおりに頭の中で火を強くイメージして集中すると、手の上に小さな炎が具現化した。

 これにはとても驚いたが、どうやら、これは私の中に魔力を制御できる下地ができてしまったらしい。

 リリアリア曰く、この世界の住人はほとんどの人間が魔力を持っており、使える事自体は珍しくないと言う。

 しかし、日常で頻繁に魔法を使える程の魔力保有者となると、全人口の四分の一ぐらいになる。

 これがひとつの魔法適性あり・なしの判断基準になるらしいが、今の私はちょうどこのレベルぐらいだと言われた。

 無詠唱で魔法を発動できるのは稀有な能力らしいけど、リリアリアに言わせればまだまだひよっ子レベルらしいのだ。

 この先は私の努力次第だが、自分に何も力が無いと思っていた私に魔法と言う可能性を与えてくれた神様には、ひとまずお礼をしておきたいと思う。

 この魔法という力が自分に宿る事で、余剰魔力として青い髪色となり現れた事を考えると、この青黒い髪だって受け入れる事もできそうだ。

 よく見ると、これはこれでかっこいいかもと思うから人間とは気持ちひとつでどうとでもなる生き物だと思う。

 魔法が使えるようになると、もっと青くなってしまうのだろうか?

 まぁ、ここまで来たら、もう、成るようになれだ。

 

 

 

 そんな事を思いながら、あれから約一ヶ月が経過した。

 どこまで魔法が上手くなったかというと、実はそれほど大きく変わっていない。

 私はイメージする事が得意なようで、火、風、土、水、氷、光、闇、治癒系、幻惑系、空間系、すべての属性の魔法が使えた。

 ちなみに、治癒系とは治癒関係の魔法であり、傷を塞いだり、血を止めたりと応急処置的な魔法なのだが、これに特化した『神聖魔法使い』という専門家がいるらしく、リリアリアに代表される『魔術師』とは微妙に畑が違うらしい。

 幻惑系も『精神系』と読み替えれば良くて、相手に対して悪意を抱かせない『友好』の魔法とか、『眠り』魔法とかがあるようだ。

 空間系は物質を移動させる『物質移動』魔法で、『転移』とかもこれに属していた。

 何れも簡単なものだけど、一応すべての属性を私が実行できた事にリリアリア師匠はとても驚いていた。


「儂も長い間、いろいろな弟子に魔術を教えてきたが、全属性に適性があるのは数人しか見た事が無いわい」


 ちなみにその貴重なひとりがリリアリア師匠本人らしい。

 あ、そうそう、この頃から私はリリアリアの事を『師匠』と呼び、師匠は私の事を『ハル』と呼ぶようになった。

 私が彼女を師匠と呼ぶのは当然として、師匠が私の事を江崎春子と呼ばず『ハル』と呼ぶのは単純に発音の問題である。

 この世界の人類の共通語として使用されているゴルト語には「こ」の発音が無く、「ハルコ」と呼ぶのが難しかったからだ。

 だから「ハル」。

 私も幼馴染からは「ハル」と呼ばれていたので、それほど違和感無く受け入れている。

 そんなこんなで魔法の修行は進むが、これ以上の成果は今ひとつだった。

 それは、高等な魔法には『詠唱』という行為が必要とされるからだ。

 『詠唱』は自分の中でイメージ力を高めて、魔法に方向性を与え、より練度や威力を高めるために必要な行為らしい。

 一度、師匠に炎の大規模魔法である『火炎演舞』という魔法を見せて貰ったが、それは魔法が発動するまでに五分程の長い呪文を唱えていた。

 しかも『詠唱』の内容はゴルト語である。

 複雑な言葉が絡み合う師匠の『詠唱』は音楽を歌っているようにも聞こえるが、ひとつひとつの言葉に意味があり、これを正確に、かつ、素早く詠唱しないと正しい魔法が発動しないのだ。

 その『詠唱』の効果は凄まじく、『火炎演舞』に至っては二十五センチメートルぐらいの巨大な火の球―――もうこれは砲弾と呼ぶ方が正しいのかも知れない―――が現れて、これが弧を描いて五百メートルほど宙に舞い、そして地面に着弾すると広範囲で大爆発が起きたのだ。

 もう、これは戦争レベルの魔法だった。

 師匠曰く、ここまでできるのは帝国に十人といないらしい。

 ちなみにここまでできると戦略級の魔術師として仕事には困らないそうだ。

 確かにちょっとしたミサイル兵器のようなものであり、軍事的にも貴重な存在になるのだろうか。

 さて、私も・・・と意気込んだが、とてもじゃないけど、このレベルは無理で、これどころか、詠唱を必要とする単純な魔法でさえも発動が難しかった。

 それは単純な話しであり、私のゴルト語の理解力が低かったからに他ならない。

 だから、『言語翻訳』の魔法も未だに上手く発動させられずにいる。

 それも当たり前であり、私がゴルト語を理解しないと、私も相手もゴルト語を口にする事ができないからだ。

 もしかしたら東アジア言語を元に詠唱できれば良かったのか知れないが、こちらの世界でそれを試す気にはならない。

 何故なら、師匠から私は釘を刺されているのだ。

 自分が違う世界から来た人間であるという事実を、他人に知られてはならないと。

 一言で言うと、私はこの世界に対して『異分子』的な存在である。

 もし、私の存在が大々的に知られた場合、運が良ければそれほど大きな問題にならない可能性もあるが、逆に運が悪ければ、私と言う存在を骨の髄まで利用されるか、それともこの世から排除されてしまう可能性もあるという。

 現に師匠は私の持ち込んだXA88に強い興味を抱いており、もし、私と師匠が他人的な立場で、敵対するような関係だったら、殺してでも奪う可能性もある、と言われてしまった。

 それほどに私と言う存在には価値があるらしいのだ。

 だから、私は目立ってはいけない、と言われている。

 それでも、私は目立つ。

 黄色の素肌に、黒い瞳、そして、青の混ざる黒いストレートの髪を持っており、自分で言うのも何だが、顔立ちもいい方だと思う。

 この容姿で金髪碧眼が通常の西洋風の街に繰り出せば、『目立つな』と言う方が無理なのだ。

 だから私は名実ともに『リリアリア師匠に弟子入りした異国の魔術師見習い』と言う設定になった。

 とりあえず片言で喋るゴルト語も、南方の異国から来たお嬢様と言う設定で誤魔化している。

 これは全て師匠の筋書きだったが、今のところは上手く行っている。

 現在ではクレソンの街のどこに行っても、私の事は『大魔導士リリアリアのお弟子さん』で通っている。

 師匠のネームバリューに感謝する毎日だ。

 ちなみにリリアリア師匠は頻繁に弟子をとる事で有名らしく、私の一年ほど前にも弟子が三人いたようだ。

 だから、師匠のところに新しい弟子が来る事は珍しい話ではなく、私も―――目立つ容姿ではあるが―――なんとか普通の生活を送る事ができていた。

 こうして、私は優秀な師匠の元で、ちょっとずつ、ちょっとずつ魔法の詠唱とゴルト語を学ぶのであった。

 


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