第六話 救出とその代償
「一番隊、三番隊、突撃だ!賊達を迎え撃て。逃がすな!!」
いち早く命令を出せたのはアドラント・スクレイパー、その人であった。
彼は白魔女の対処にかかりきりとなっているロッテルの代わりに指揮を受け継いでいた。
これは当初から決められていた事であったが、それでも咄嗟にこういう事ができるというのがアドラントという人物なのである。
彼の声で我に返った兵達は突然現れた賊達に立ち向かって行く。
「この野郎! どこから現れやがった!!」
リーダのライオネルに斬りかかろうとした兵士達だが、そうはさせまいと両脇に控えていた賊達が立ちはだかる。
そして、懐から小剣を抜き、迫り来る兵士達と対峙する。
ギン、ギン
硬質な剣と剣のぶつかる金属的な音が鳴り響り、結果、飛ばされたのは兵士達の剣であった。
「ぐっ、なんて力だ!!」
白魔女エミラルダの供与した魔道具『魔女の腕輪』を装備した月光の狼達は人間の力を遥かに凌駕していた。
そして、彼らの使う小剣も振るう度に青い残滓を空間に残している。
これが魔剣であるという証左だ。
こんな状況にあっても圧倒的な力が発揮できて、月光の狼の男性は気を良くする。
「おい!どうした。怖気づいたのかよ?」
男性は得意げになり兵士達を挑発して、これに慄いいた兵士達は勢いが一瞬にして止まる。
しかし、この兵士達の中から飛び出す者がひとりいた。
「な、何だ、こいつ!! ギャーーーーッ!」
飛び出してきた男は、凄まじい踏込みで月光の狼の懐に入ると、一瞬で長剣を抜き、あっと言う間に男を斬り伏せてしまった。
斬られた男はそのあまりの勢いに後ろへと大きく飛ばされ、そして、大量の血をまき散らして物言わぬ肉塊へと変わってしまう。
その一瞬の惨劇に月光の狼側へと傾きかけていた情勢が明らかに止まる。
そして、否応なく突然現れたこの男に全員の注目が集まった。
「俺は獅子の尾傭兵団の団長ヴィシュミネだ! 腕に覚えのある奴はかかってこい!」
ブンと剣を振るうが、この剣に先ほど斬りつけた男の返り血に加えて、黒色の魔力の残滓が魔剣に纏わり付く。
「この魔剣『ベルリーヌ』が、貴様らの血を全て吸い尽してやるぞ!」
ヴィシュミネがそう宣言すると、魔剣に纏わり付いた黒い魔力の霞が一層と大きくなり、剣に付着していた血を全て吸収してしまった。
まるで魔剣の魔力が悪鬼のように人間の血を喰らうその光景・・・
周囲の者達に戦慄が走る。
『ベルリーヌ』・・・この世界で死の女神の名を冠した魔剣であり、その禍々しさは味方さえも恐れが広まる。
「ふ、来ぬか・・・ならばこちらから行かせてもらうわあぁぁぁっ! ホワァーーッ!!」
動物的な掛け声と伴に手近にいた賊に襲いかかるヴィシュミネ。
そこには野獣の如き鋭さがあった。
「団長に続け!」
「「おお!!」」
次に続くのは獅子の尾傭兵団の団員達。
戦斧やハルバートと呼ばれる斧と槍をひとつにした武器を手に、盗賊達へ雪崩込む。
そして、舞台は一気に乱戦となる。
人数はほぼ互角の二百対二百であったが、その中でもヴィシュミネは突出した働きを示し、賊達を斬って斬って斬りまくる。
月光の狼も負けてはいない。
直接対決では分の悪いヴィシュミネとの戦闘を避け、魔道具の持つ機動性を活かして走り回り、自分より格下の相手を見つけては潰していった。
こうしてデルテ渓谷の戦いは血で血を洗う決戦の場となった。
そんな戦いの熱気が溢れる中で、これを冷静に見る者がひとり。
「まったく、本当に騒がしいですね」
自分に降り注ぐ流れ弾の槍を魔法の杖で叩き落とすシルクハットの男。
彼、マクスウェルは器用に流れ弾を左手に持つ杖で凌ぎ、右手は地面につけたまま魔法陣を維持するための魔力を注いでいた。
「あなたは本当に器用よね」
言葉とは裏腹に敬意を全く感じさせない物言いで、隣のカーサはマクスウェルの防御姿勢を曲芸か何かを観っているような賞賛をする。
「カーサ・・・あなたは私の護衛でしょう? もう少し自分の仕事をしても良いのではないですか?」
次々と流れ弾が自分に飛んでくるが、それを杖で叩き落としながら不平を言うマクスウェル。
「いいじゃない。久しぶりにあの人の活躍する姿が見られるのよ。やっぱりあの人は戦いでこそ輝いているわ。しばらくは恋する乙女の気分にさせてよ!」
うっとりとヴィシュミネの姿に魅入るカーサ。
何を言っているんだか、その齢で・・・と思いはしても、彼女に齢の話をすると禄でもない事態に至るのは既に学習済みのマクスウェル。
藪に突いて蛇を出すこともあるまいと諦めて、自分の身は自分で守る事にした。
実は、マクスウェルにとってもこれぐらいは何という事は無い。
精々頑張ったふりをして、後から自分の報酬を上積みを要求すれば良いと割り切った。
「それにしても、あの賊達はどうやってここに現れたのでしょうね? 我々にも気配を悟られないなんて」
「さあね。なんとなく、あの魔女が協力しているのでしょ? 姿や気配を隠せる都合の良い魔道具があるんじゃない?」
カーサは適当にそう言い白魔女エミラルダを指差す。
「うーん、そうかも知れない。あの『仮面』も素晴らしい魔道具だったからね。まったく、彼女は天才だよ」
同じ魔道具開発に従事している者としてマクスウェルは、あの『仮面』を調べてみて、驚愕の連続であった。
仮面は使用者の能力を最大限に引き出すために様々な強化を施す魔道具であり、それでいて消費される魔力は驚異的な程に少ない。
もし、同じものをマクスウェルに作れと言われても、あの『仮面』と比較して百分の一も力も出せないだろうと素直に思う。
しかも、鹵獲によって解析されてしまう事を見越していたようで、調べるのを阻止する様々な仕掛けが施されてあった。
彼の子飼いの技術者のひとりが誤ってこの罠を発動させてしまい、炎の魔法で火炙りになる事故にも遭ったばかりである。
この念には念の入れようにマクスウェルは感服していた。
白魔女を虜囚にできた際には真っ先に彼女の技術をいろいろ盗んでやろうと楽しみにしている。
だから、マクスウェルは彼女を虜囚にする為にロッテル達へ率先して働きかけ、協力を惜しまない。
これに対してカーサは逆である。
カーサは自分よりも美しい者が嫌いだ。
彼女は白魔女の美貌を妬み、自分よりも注目される事を面白くないと思っていた。
幹部達の会話にも『ハル』と『白魔女』という単語がよく出てくる。
この二人は獅子の尾傭兵団にとって、いろいろな意味で無視できない存在であったし、自分以外の女性が注目されるのを無意識のうちに面白くないと感じていた。
自分が愛するヴィシュミネでさえも、天才的な魔道具師である『ハル』を仲間に引き込めないか?と何作するよう言い出しており、彼女の不満は積る一方だ。
そして、今日、解った事がある。
白魔女の正体・・・それが『ハル』だという事実も発覚した。
カーサは遠視の魔法と小声を聞き取る風の魔法を行使しており、これによって、ロッテルが小さい声で彼女に呟く事、そして、白魔女の姿の一部にアストロ魔法女学院の制服と似た特徴が見えた事が決定的となった。
尚、カーサの魔法が『魔素爆弾』に反応しないようにしているのは、マクスウェルが調整しているためだ。
カーサが行使する魔法の通り道にのみ『魔素爆弾』が不活性になるように調整している。
そういう訳で、カーサとしては、もう全てを終わりにして、白魔女が絶望する姿を早く見たいと思う。
ヴィシュミネも、好き放題暴れただろう、もうそろそろ頃合いだと彼女は判断した。
「さぁ、そろそろ終わりにしてやろうじゃないの。荒れ狂う炎よ!」
カーサがそう念じて長い呪文を唱えると、巨大な炎の球が魔法によって形成される。
その熱量は凄まじく、この一発だけを見れば、あの炎の天才魔術師と言われたエリザベスをも凌駕していた。
戦う兵達も突然現れたこの巨大な魔法の火の玉に脅威を感じて、騒然となる。
「さあ、私が処刑を執行してあげるから全て燃えて灰になっておしまい、虜囚の女!! ほら、行けーーーっ!」
彼女から発せられた耳につく甲高い掛け声と伴に、巨大な火球は木の柱に縛られたままのエレイナに向かい一直線に飛ぶ。
「まずい!」
この光景を見にして、一番先に声を発したのは白魔女エミラルダだ。
副団長の女魔術師に膨大な魔力が収斂し、炎の魔法を行使しようとした時、この女の狙いを正しく理解できた。
(エレイナを焼いて、全てを終わりにするつもりだわ!!!)
そう思うと白魔女の判断は早かった。
彼女は両手、両足をロッテルに回して抱き着く。
「何!」
不意に抱き着かれたロッテルは彼女の狙いを悟ってしまう。
しかし、時すでに遅しであり、直後に白魔女は自分の両手両足に渾身の魔力を込めた。
そうすると、すぐに『魔素爆弾』が反応した。
その結果・・・
ドーーーーーーーーーーーーン
「ぐわぁーー!」
『魔素爆弾』の激しい爆発はロッテルと白魔女エミラルダに容赦なく襲いかかる。
白魔女エミラルダはロッテルと密着した部分に強い魔力を込めたため、ふたりが互いに突き離れるよう爆風が作用する。
吹き飛ばされたロッテルは血だらけになっていたし、それは白魔女も同じだ。
しかし、白魔女の目はエレイナに向いていた
それが狙いだった、と表現した方が正しいだろう。
初めから爆風でこちら側に飛ばされるよう計算していたからだ。
ロッテルの身体を挟んでいた両手や両足の太腿の部分からは衣服が吹き飛び、出血が止まらない。
それでも彼女は躊躇しなかった。
カーサの放った巨大な火の球はエレイナに向かっている。
(お願い! 間に合って!!!)
白魔女は更に加速するため、自分の後ろ側に風の魔法を行使する。
ドーーーーーーン
当然の結果だが、身体に付着して残っていた『魔素爆弾』が反応し、彼女の背中に襲いかかる。
ローブが所々に燃えて、露出した素肌は熱によって焦がされるが、それでも風の魔法が成立し、彼女の身体を更に前へと押し出す。
白魔女は彗星のように加速して、エレイナに向かっていた巨大な火球に追い付き、そして、目前にまで迫る。
「最後の仕上げよ!」
既に強烈な痛みが彼女の意識を蝕んでいたが、それでも最後の力を絞って魔法を行使する。
「火には・・・・火!」
ドドドドーーーーーン
白魔女エミラルダの身体のあちらこちらで細かい爆発が起った。
既に魔素爆弾の領域を逸した白魔女であったが、ロッテルの度重なる攻撃で彼女の身体中のあちこちに付着していた魔素爆弾の粉が反応したのだ。
衣服が更に破けて、所々で出血し、無数の苦痛が彼女の意識を襲うが、それでも魔法は成立する。
カーサの作り出した特大の炎の球と比べて遜色のない大きさの火球が白魔女の魔法によって生成される。
白魔女から発射された炎の玉はカーサの炎の玉と接触すると、互いに反発するように作用して軌道が変わった。
一方は別の空中へと弾かれ、もう一方は近くの林へと向かい、そこに着弾した。
ドカーーーーーーーーーーーーーン
「ぐわーーーーっ!!!」
炎球は盛大に爆発し、林の一部が吹き飛んで、その周囲の兵達に甚大な被害を与えた。
それを視界の隅で確認した白魔女エミラルダだったが、彼女のやらなければならない事がもうひとつだけ残っている。
「ぇぇ・・・ぃ・・・」
もうあまり意識が無い中、白魔女は弱々しい声で奮起すると、エレイナの周囲に小さな風の魔法が現れた。
この魔法が縛られているエレイナの縄を切り裂いて、そして、彼女を優しく吹き飛ばす。
エレイナは緩やかな放物線を描いて宙を舞い、そして、髭面のライオネルが彼女を受け止める。
「エレイナ! 大丈夫か!!」
「ライオネル様・・・貴方は・・・大馬鹿者です!」
自分を救うために途轍もない無茶をする主を叱るエレイナだが、その顔には自分の最愛の人に助けられた幸福感が溢れていた。
「何を言う。全てエミラルダから聞いたぞ。お前って奴は!」
ライオネルはそう言うとエレイナを抱きしめて、彼女の唇を奪った。
エレイナも黙ってライオネルの顔に手を回し、彼を受け入れる。
激しい戦闘が続く最中であったが、ライオネルとエレイナの周囲だけは何故か静寂に包まれ、別世界にでも居るかのようであった。
それを遠目に見た白魔女エミラルダは本当に安心する。
彼女も力が殆ど抜けて、既に立つことは叶わず、濡れた地面に仰向けに倒れてしまう。
それでも自分が成すべき事を全て終えて、とても満足な気分に浸っていた。
「良かったわ・・・」
(嗚呼、これでもう、私の役割はおしまいね)
段々と意識が遠退く白魔女だが・・・しかし、それを許さない男が目の前に現れた。
「貴様!満足そうな顔をして死のうと思っているが、それは許さんぞ。やはりお前は危険な女! 俺の魔剣で冥界に送ってやる!!」
憤激の表情に顔を歪めて現れたのはヴィシュミネ。
よく見ると身体の半分が焼けており、先程の火球魔法の余波を喰らっていた。
「この魔女め! 死ねーーっ!」
大きく振り上げた魔剣ベルリーヌは白魔女のか細い首を目掛けて今にも振り降ろされそうとされていた。
(あぁ、私は本当にここで終わりね・・・・でも・・・最期に・・・会いたかったなぁ・・・・)
意識が朦朧としていく中、自分に降ろされようとしている漆黒の大剣をゆっくりと仰向けに見ながら、別の誰かの事を考えていた。
それは金髪の短髪が似合うブルーの瞳を持った青年の事。
最悪の喧嘩別れをしたけども、自分から遠ざけてしまったけども、あの顔を・・・最期に・・・見たかったなぁ・・・
そう思い、静かに目を閉じる白魔女エミラルダ・・・・
・・・
・・・
・・・
しかし、その最期の時は・・・いつまで待ってもやって来なかった。
白魔女はゆっくりと目を開け・・・そして、信じられないものを見る。
ヴィシュミネの魔剣を受ける青年の姿が、目の前に現れたのだから・・・
「コイツを殺らせは・・・しない・・・ぞ」
ヴィシュミネも信じられない物を見るような目で、邪魔した相手を睨む。
魔剣ベルリーヌが斬れない相手など・・・『魔剣』しか、存在しなかったのだから・・・
「それは魔剣か。何故、私の邪魔をするのだ、青年よ!!」
「俺の名前はアクト・ブレッタ。コイツは俺の・・・俺の・・・」
「俺の一体『何』だと言うのだ!」
ふたりの男は魔剣を交えて互いにブルブルと力勝負をしている。
ここでアクトは叫ぶように奮起した。
「俺のーーーーっ、『同志』だーーーーっ!!!」
アクトはヴィシュミネの剣を押し切り、彼を遠くに飛ばす。
ヴィシュミネは器用に空中で一回転して地面に着地。
「ふふ。やるな! アクト・ブレッタ。私の『ベルリーヌ』を受けて斬れぬとは、お前の持つ魔剣も相当なモノであろう。銘を何と言う?」
不敵に笑うヴィシュミネ。
彼はこの期に及んで強敵に出会えたことを嬉しく思っているからである。
「これは魔剣『エクリプス』。かけがえのない『もうひとりの同志』から与えられた魔剣だ!!!」
ブンと魔剣を横一文字に振ると、『エクリプス』から赤い魔法の残滓が流れた。
黒い刀身は魔剣『ベルリーヌ』と似ていたが、刀身の中心に走る赤いラインの魔剣『エクリプス』は、自らが「俺の方が強いぞ」と誇示しているようにも思えた。
「アクトねぇ・・・そこは『俺の女だ!』と答えるべきでは無いかしら」
白魔女エミラルダはアクトに対して軽口を吐いてしまう。
生死を彷徨っているこんな状況であるにも係わらずであったが、アクトの雄姿を観られて、何だかとても愉快な気持ちになってしまったからだ。
「う、煩い。まだ許可を貰っていないんだよ!」
アクトは顔を赤らめて白魔女に真面目な抗議をする。
その姿が微笑ましく、心が軽くなる白魔女エミラルダ。
「まったく! 貴方って人は・・・真面目過ぎるわね」
自分が死の淵にいるというのに、これで何故だか希望に満ちて来るから不思議だった。
そう思いながらも、奇跡的にアクトがこの場に間に合った事をようやく頭で理解する白魔女。
彼は白魔女エミラルダの用意した氷の障害物を乗り越えて、その他にも罠と言う罠を掻い潜り、今ようやくここへと駆け付けたのだ。
遠くを見るとアクトを追う学友達の姿も確認できた。
自分は助かる・・・白魔女エミラルダがそう思った矢先、自分達に迫る特大の炎球が視界の隅に入った。
「この野郎~っ! 死ね。死ね。死ね。死ねーーーっ。私の魔法で死んでしまいなさーい!」
カーサは狂気に憑かれたように顔を大きく歪めて、白魔女に向かい渾身の魔法を放ってくる。
先程は自分の放った炎の魔法に干渉されて容易く進路が変えられてしまい、獲物のエレイナを易々と逃してしまった。
カーサは自分よりも上の存在を許せない。
ヴィシュミネの手を煩わせた白魔女を、もっと許せなかった。
彼女の渾身の魔力を込めた最強の一撃が白魔女へと迫る。
先程の火球とは桁違いの大きさの炎の魔法であり、明らかにこの周辺一帯を焦土に変える威力があった。
その球が白魔女に着弾する瞬間・・・・これを防いだのはアクト・ブレッタ。
ギン!
甲高い音ともに炎の球がふたつに割れた。
アクトの『魔力殴り』と言うという技は魔剣『エクリプス』を使う事でその力が増幅され、魔剣で魔法を斬ることに成功する。
こうして、特大の火球の勢いを完全に殺す事に成功する。
ギン!
もう一閃するアクト。
十字に切られた特大の火球の魔法はその場で存在を保てなくなり、霧散して、そして、殆どの魔力は魔剣『エクリプス』に吸収される。
「な!何よ、それ!」
驚きで身の固まるカーサ。
自身の渾身の魔法が無力化されたばかりか、全て吸収されてしまった事実に大きな衝撃を受けた。
しかし、ここは戦いの場であり、経験者としてヴィシュミネは超一流だった。
彼には隙がなく、次の行動を示してくる。
「やはり、お前たちは危険な存在だ! ここで死んで貰おう!!」
ヴィシュミネはそう宣言すると、魔剣『ベルリーヌ』を振りかぶり、アクト達の居る方向に向かい地面を刺す。
「ふん!!!!」
ヴィシュミネが渾身の気合を入れると、魔剣『ベルリーヌ』の真の力が発揮される。
今まで殺して魔剣に吸収された魂の力が解放されて、ヴィシュミネに都合のいい魔法へと変換された。
その結果、地面に無数の亀裂が走って、ガタガタと地面を揺らす。
そして、崩壊・・・
処刑場は切り立った崖の上に立っており、アクト達の足元が瓦解。
「きゃああああ!!!」
突然足元の地面が崩壊して、崖から空中へと投げ出されてしまう白魔女は悲鳴を挙げる。
普段ならば魔法を行使して空中に飛べる彼女であったが、今は魔法をほとんど使えないほど消耗していた。
そんな彼女は重力の法則に従い、低いところを目指して落ちて行く。
空中で足掻くも、身体を支える部分は既に無く、空しく宙に舞う。
しかし・・・その手に、もうひとつの手が迫る。
アクト・ブレッタの手だ。
空中で互いに手を出し合って、もう少しで届く距離。
それは在りし日の記憶がふたりの脳裏に走る・・・
アクトとハルが初めて出会った、あの日。
エリオス商会を出て直ぐに出会ったあの日の出来事。
アクトとぶつかって宙を舞った、あの日。
あの時、差し出された手を互いに取る事はできなかった。
しかし、今は・・・今度こそは・・・彼の手を取りたい・・・いや、絶対に取ってみせる!
そして、それは・・・・・・・・・・・・・
果たされた。
アクトから差し出した手を取った白魔女エミラルダことハルは、これで一気に心の不安が無くなる。
(やった! これで、もう安心ね)
ハルはそう確信し、安心から目を閉じる。
彼女の頭を空中で自分の胸に抱くアクトは、彼女を守るようにしてデルテ渓谷へと吸い込まれて行く。
下には川が流れているのが見えた。
雨が降り始めて水勢の増した川だ。
(ああ神様。彼女を連れて上手く泳げますように・・・)
咄嗟にそう祈りながらもアクトは白魔女を抱き、そして、谷へと吸い込まれるように落下していった。
崖の上からは自分の名前を必死に呼ぶ学友達の声が聞えたような気もするが・・・アクトとハルの意識はこれからしばらく途絶える事になる。




