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ラフレスタの白魔女(改訂版)  作者: 龍泉 武
第六章 騒乱の予感
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第十一話 捕らわれの活動家 ※

 時間はサラ達が捕らわれた直後に遡る。

 白魔女と思わしき誘拐犯と遭遇したロッテルだが、寸でのところで転移の魔法で逃げられてしまった。

 悔しさに顔を歪ますロッテルだが、そこにタイミングよく現れたマクスウェルの協力を得て、白魔女を追跡する事が可能になる。

 マクスウェルは探索用の水晶を片手に白魔女が転移した痕跡を辿り、ラフレスタの街を西へと進む。

 そして、人気のない倉庫街を探索しているとき、白魔女の姿を再び発見する事ができたのだ。


「白魔女、逮捕だ!」


 彼女を発見するなり、ロッテルはそう叫び突撃する。

 白魔女はロッテルに気が付き、ハッとするが、彼女にはもう既に戦う気概を見せていなかった。

 よく見ると白いローブのあちらこちらに破れや汚れなどが見受けられ、ロッテルが最後に見た白魔女の様子とはかなり違っていた。

 仮面も、先程の顔の全面を覆うものではなく、今はいつもの白魔女どおり目元の周りのみを隠す仮面だった。


「一体? どうした事だ」


 訳が解らず、ロッテルは一旦突撃を中断。

 するとそれが合図になったかのように、白魔女はゆっくりと目を閉じて、地面に倒れ込んでしまった。

 そして、倒れた白魔女の胎の上にドカっと不愉快な音を立てて足を乗せる存在がひとり・・・


「ふん、他愛もねぇ奴だったぜ!」


 足を乗せた大男は唾を地面に吐き、白魔女を見下す。

 この不敵な男にロッテルは見覚えがあった。


「お前は! ギエフ!?」

「けっ、お役人様のお出ましか。これからお楽しみの時間が始まりだぁ~って思ってぇたのに・・・くそっ、邪魔が入りやがった!」


 ギエフは不気味な長い舌をチョロッと出して、下品にそう言う。

 これから彼が白魔女相手に何をしようと考えていたかはロッテルにも容易に想像ができた。


「罪人とはいえ、淫らな暴力を奮うのは許さんぞ!」


 ロッテルは警告を放つとともに、剣を抜きギエフに向ける。


「ふふん。俺としちゃ、こいつを捕まえた報酬が欲しいところだったんだがなぁ~」

「当然、報酬の金額は弾もう。しかし、犯人の身柄は現状のままで我々に渡す事だ」


 ロッテルは剣を向けてギエフを威嚇するが、ギエフは自分の持つ大剣を肩に担ぎ、不遜の態度を崩さなかった。

 顔はニタニタと笑っていたが、不敵な態度は片時たりとも崩してはいない。


「へん。この女を一晩貸してくれれば、その後は身柄をそっちに渡してやんよ」


 ギエフは白魔女の所有権は仕留めた俺のモノだという態度を示していたが、ロッテルは当然そんな主張など認められない。


「不遜な奴め!」


 ロッテルの剣に力が込められて、一触即発になるか・・・そう思われたが、これを制する声が後ろから発せられた。


「まぁ、まぁ、ギエフ君。この場はロッテル様に手柄を譲ってやって欲しいんだ。ロッテル様もヤツを許してあげてください。ギエフ君は病み上がりでねぇ。いろいろな意味で気が立っているんですよ」


 マクスウェルの宥める事でギエフは「しょうがねぇ」とあっさり白魔女を諦める。

 そして、ギエフが引いた事でロッテルも剣を下げた。

 彼がこうもあっさりと引いた事に多少の意外感もあったが、マクスウェルが傭兵団の顧問魔術師と名乗っており、彼も傭兵軍団の中で地位が高く、発言権もあるのだろう・・・ロッテルはそう思うことにした。


「それにしてもギエフ君、身体の方はもう大丈夫なのかい?」

「ああ問題ねぇ。このとおりビンビンよ」


 ギエフはそう言い、自分のあらゆる筋肉の盛り上がりを見せて、健全さをアピール。


「その分だと、もう大丈夫なようだね。早速、いい仕事をしてくれたようだし」


 マクスウェルとロッテルは白魔女の方に視線を戻すと、彼女は既に意識なく倒れていたが、胸を微かに上下させている事から生きてはいるのだろう。

 ロッテルの今までの経験から白魔女が倒れた原因は魔力欠乏の症状に似ていると推測される。

 それ程までにギエフと熾烈な魔法戦をやったのだろうか?・・・それにしては魔法で戦った痕跡が少ない・・・そう思ってしまうロッテル。

 それと今まで気付かなかったが、白魔女の近くに、もうひとり黒尽くめの人間が倒れていた。

 その視線にギエフも気付く。


「ああ、こいつか?白魔女の子分だな。ついでに始末してやったぜ」


 ギエフは白魔女の脇に倒れている人間を蹴り上げた。


 「ぐ」、という短い呻き声が聞こえたので、この男も死んではいないのだろう。


「恐らく、この男は『月光の狼』の構成員だろう」


 ロッテルはそう判断して、すぐに連行の準備にかかるため、自分の懐から通信用の魔道具を取り出して警備隊と連絡をとる。

 便利な魔道具だが、これは高価な魔道具であり、一般の警備隊には手の出ない代物である。

 ロッテルが帝国中央第二騎士隊の長官であり、しかも、現在は第三皇子の護衛長をする立場でもあったため、融通して貰えた代物でもあったりする。

 警備隊との連絡で護送する人数を聞かれたロッテルはここに白魔女によって誘拐された女性達が居なかったかを確認する。


「確認したい。先程、白魔女と思わしき人物がふたり(・・・)の女性を誘拐したのだが、見なかったか?」

「あん? 解んねーな。俺がここで白魔女のヤツと戦った時には、こいつらしか居なかったぜ」


 ギエフはそう言い、横になっていた白魔女と男を指差す。


「あ、そうそう、その男がこんなのを持っていたぜ。何かの手掛かりになるんじゃねぇ~の?」


 ギエフが持っていたのはふたつのプレートであり、ロッテルはそれに見覚えがあった。


「これは在学証明証だな。ひとつはラフレスタ高等騎士学校の四年生、サラ・プラダム・・・もうひとつはアストロ魔法女学院の四年生、エリザベス・ケルト」


 ふたりの在学証明証の名前を見て、「やはり!」、とロッテルの面識ある女生徒達だった。

 彼はすぐに通信の魔道具を使い、新たな誘拐事件の被害者となったふたりの女生徒の名前を連絡する。


「・・・ああそうだ。この事はすぐにゲンプ校長とグリーナ学長に伝えよ!」


 大切な事を伝え終わると通信を一旦切るロッテル。


「攫われた女性は見ていないのだな?これ以外の手掛かりは?」

「知らねーよ」


 ギエフはそう答えると、それ以上は何も言わなくなった。

 ロッテルはかぶりを振り、彼とこれ以上会話するのを諦める。

 やがて現場に警備隊が到着し、気を失った白魔女と月光の狼の男の護送が行われた。

 こうしてロッテルは警備隊と共に現場から立ち去り、マクスウェルとギエフだけがこの場に残る。

 彼らも犯人を尋問する際には立会うようロッテルから言われたが、「その前に獅子の尾傭兵団の団長に報告する必要がある」と言い訳をして、ロッテル達とは一旦別れた。

 そうして周辺に誰も居なくなったのを確認したマクスウェルはギエフに話かける。


「ふふ、本当に上手く行きましたね。まさかヴィシュミネ団長の策がこうもあっさり成功するとは。くくく」


 マクスウェルは堪らず大笑いする。

 彼は、今の今まで笑う事を必死に我慢していたのだ。

 あまりにも自分達の策どおりに動くロッテルが滑稽であり、愚かに見えたからだ。

 我慢の限界が来て笑い出してしまわないか・・・それだけが先程までのマクスウェルの心配事であったりする。

 それほどまでにヴィシミュネの策が綺麗に嵌ったのだ。

 彼らの策を簡単にまとめると、こうなる。


 一、カーサが白魔女に化けて人攫いをする。

 二、これまで巷から良い印象を持たれていた白魔女と義賊『月光の狼』に悪い印象を与える。

 三、正義感の強い皇子が自分の護衛部隊を使い人攫い事件を解決しようと動き始めるので、これに『獅子の尾傭兵団』の関係者が接触することで信頼関係を築く。

 四、偽物を餌にして、本物の白魔女を誘き出す。

 五、このタイミングで人攫いを本物になすり付ける。(白魔女を倒すのは無理かもしれないので、人攫いの証拠品を近辺に落とすなど、現場の状況でアレンジ)

 六、尚、人攫いの対象にする人間は『魔力が高くて若い学生』を狙うこと。攫った人間は『素材』として本国の研究所へ移送。かねてより魔力が高く健康な人間を実験検体として多数所望していた研究所に対して、『獅子の尾傭兵団』部隊の覚えも良くなるため、今後の交渉がやり易くなる。


 これがヴィシュミネの作戦であった。

 マクスウェルは上機嫌になり、ギエフに労いの言葉をかける。


「いやぁ~、それにしてもギエフ君があの白魔女を倒せるとは。感心しましたよ。抑えつければ御の字かと思っていたのですけどね」

「ふん、おめぇは何も解っちゃいねーなぁ」


 マクスウェルとは対照的にギエフは不機嫌だった。


「おや!? 私が何か気に入らない事を言いましたかな?それほどまでに、あの娘を公衆の面前で強姦したかったですか?」

「ふん、だからおめぇ~は何にも解っちゃいなねぇ~んだ。アイツは偽物だぜぇ?」

「偽物??」


 マクスウェルは本気で疑問符を挙げる。

 彼も魔術師としては超一流を自負している。

 先程の白魔女と思われしき人物から感じていた雰囲気は只者ではないと思っていたからだ。

 これが、あの噂に違わない『白魔女』なのか、と内心で冷や汗をかいていたぐらいだ。

 今回の作戦では別に白魔女を倒す必要はない。

 ジュリオ皇子派であるロッテルと信頼関係を築く足掛けになればよかったため、この場では白魔女に敵わないと判断すれば、すぐに撤退しても良いと思っていたのだ。

 しかし、ギエフは「あの女は偽物だ」と言う。

 

「おめぇは本物の白魔女と会っていないから解らねぇと思うが、アイツの魔力はなぁ・・・もっと旨めぇんだよ」

 

 そう言うギエフは長くて気色の悪い舌を使い舌なめずりし、白魔女の甘美な魔力の味を思い出していた。

 

「さっき戦った女は魔法攻撃力もたいした事ねぇし、魔力の味も極上とまではいかなぇ・・・親父(・・)から貰った秘密兵器も使わなかったしなぁ~」

「ギエフ君が親父(・・)と呼ぶのはフェルメニカ大先生の事だよね・・・そうなると、その秘密兵器とやらも・・・きっと、とんでもない代物なんだろうねぇ・・・」


 マクスウェルは自分の尊敬する魔術師が白魔女対策のために一体どのような秘密兵器を準備したのかは気になるが、ギエフに聞いても答えはくれないだろうと思う。

 これについては次にフェルメニカと会った機会にでも聞くとしよう、と結論付ける。


(尤も、あのお方は神出鬼没ですから、次いつ会えるか皆目見当つかないですけどね・・・)


「まぁ本物でないならば、それはそれで良かったのではないでしょうか。安い労力でジュリオ皇子側に恩を売る事ができたのですからね。それと、偶然でしたけど、今回は面白い人物が手に入ったようですよ」

「ああん? いい姉ちゃんでも仕入れたのかよ?」


 ギエフは黄色い歯を覗かせて、キシシと厭らしく笑う。


「まったく、君の頭の中には女性に乱暴することしか楽しみがないのかい?」

「なんだよ!他人の身体をいじくり回す、おめぇらよりはいい趣味じゃねぇ~か」


 ギエフは即座に言い返した。

 自分もそうだが、獅子の尾傭兵団の幹部でまともな奴なんてひとりも居ないのは事実だ。

 自分の趣向を棚に上げて他人を揶揄するのが不快極まりなかったりするのだ。

 マクスウェルもこの場でギエフと言い争っても不毛であることは解っていたため、早々に話題を変えることにした。


「そうだったね。でもまあ、このことについては深く話し合っても互いに利益は無いよ。それよりも今回攫った三人(・・)の女性に話を戻すと、彼女達は当たりだったようだよ」

「何、目を輝かせてやがるんだ。気持ち悪い奴ぅ」


 ギエフに気持ち悪いと言われて多少傷つくマクスウェルだが、それはそれとしておいて置く。


「先程、カーサから連絡が入ったのだけど、ひとりはジュリオ皇子の護衛で、側近中の側近であり、名前をリーナと言うらしい」

「側近中の側近?」

「そうだよ。これでジュリオ皇子側へ一気に浸食することができる訳さ」

「そうかい。それは良かったな」


 あまり興味無さそうに応えるギエフ。


「君は本当に連れないねぇ。まあいいや。それに、他のふたりの女性も今回の『あの』魔力抵抗体質の青年。名前をアクト・ブレッタ君とか言ったかな?」


 アクトの名前が出たところで俄かに反応を見せるギエフ。

 ギエフとしても『アクト』という男が、いつも正義面しているのが気に入らない、くそ生意気な坊主であり、その名前と顔を覚えていたからだ。


「その関係者らしいのさ。これを利用しない手は無いよね」

「なんでそんな奴のために」


 ギエフは不機嫌を隠さず、組織が『アクト』という人間に興味を持つ事について問いただした。


「なんでも、ヴィシュミネ団長が現在の状況を本部へ報告したとき、研究所がアクト君の存在に興味を持ったらしいよ。魔力抵抗体質者は研究者にとっても謎ばかりだからねぇ。生きたままの検体が欲しいんだろうね。あ、そうそう、君は断られていたから志願しても駄目だよ」

「ああん? 何で俺様の評価が低いんだよ。俺様は地上最強の魔力抵抗体質者だろうがぁ! 尤も、あんな所に行くなんざ、死んでも御免だがよぉ!」


 ギエフは自分が不当に低い評価をされていることに腹を立てるが、それでも研究所と称される場所がどのようなところなのかを理解している彼にとっては、自分に声が掛からなくて清々としていた。


「わわっ! あまり興奮して、私に唾を飛ばさないでくれたまえ、ギエフ君!」


 そう宥めるマクスウェルだが、彼はギエフが研究所に呼ばれない本当の理由を知っていた。


(ギエフ君、君が研究所に呼ばれないのは、君が『造られた魔力抵抗体質者』だからさ・・・君はフェルメニカ大先生の最高傑作だからね・・・)


 心の中でそう思いつつも、ギエフに飛ばされた鍔を念入りにハンカチで拭くマクスウェルであった・・・

 

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