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ラフレスタの白魔女(改訂版)  作者: 龍泉 武
第五章 騎士学校
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第四話 魔女達の競演 ※

 ゲンプ校長より魔導師フェルメニカに対する警戒の話があり、それ以降、学校の・・・特に選抜生徒周辺の警備は目に見えて厳しくなった。

 それに加えて、今は帝国の重要人物のひとりである第三皇子ジュリオも編入している。

 彼の周辺には常に三人の人物が護衛をしており、否応なしに学校内の注目を集めることになる。

 その三人のひとりはロッテルという壮年の男性で、二人目と三人目はリーナとバネットという若い侍女であった。

 彼らはジュリオを守るため、常に一緒に行動している。

 ジュリオも彼ら護衛については特に気にすることなく、空気のように接しているため、学校内で彼ら三人が口を開くことは一切無い。

 それでもアクトはこのロッテルと呼ばれる男の所作から、彼が只者では無いことを勘付いていた。

 一体、彼は何者だろうと思っていたが、その疑問に答えたのは意外にもユヨーだ。


「あの方はロッテル・アクライト様です。エストリア帝国第二騎士隊の長官をなされている方ですよ」


 アクトが小声でインディに「あの人は何者なのだろう」と誰何していのを偶々聞いたユヨーが教えてくれたのだ。

 彼女は四女だが、それでもラフレスタ家の令嬢と言う立場から、貴族行事で帝都の催物によく駆り出されるらしく、そこで一度ロッテルを紹介されたのが記憶に残っていたらしい。

 アクトはユヨーの記憶力の高さにも驚かされたが、このロッテルが騎士隊の長官だと言う事実にとても驚く。

 帝都の騎士隊というのはアクトの目指す人生の道標のひとつでもある。

 その騎士隊の長たる人物に出会えた幸運を、神へ感謝する程の気持ちになってしまう。

 少し前の自分ならば、今すぐにでも飛び出して、ロッテルに「自分も騎士団に加わりたい」と懇願しただろう。

 しかし、今のアクトは心が少し揺らいでいた。

 白魔女が住むこのラフレスタに残ろうかと真剣に悩んでいたからだ。

 それでもロッテルとは話をしてみたい・・・そうモジモジしていたのを皇子側も察したのだろう、チャンスは思いのほか早くやって来た。


「アクトよ、君は先程からロッテルの事が気になっているようだな」


 そう言って声を掛けてきたのは、他でもないジュリオであった。


「え?」


 アクトはジュリオの護衛役に徹するロッテルに声を掛けていいものかと悩んでいだが、当のジュリオから誰何されれば、答えない訳にはいかない。


「実は・・・私は騎士に憧れがあります。噂に聞くとロッテル・アクライト様は騎士隊の長官だとか」

「うむ、そのとおりだ。ロッテルは我らがエストリア帝国の第二騎士隊の長官を務めている。今回は無理を言って、予の護衛役をして貰っているがな」


 そっけない言葉でジュリオは答えるが、これは本来異例中の異例な人事である。

 帝国中央騎士と言えば国の防衛を司る存在であり、街の警備隊とは格の違う軍隊組織のようなものだ。

 その中でも第二騎士隊は精鋭揃いと言われている。

 その精鋭騎士達をとりまとめる人物が、皇族とは言え一個人を守護するなどあっていいものだろうか・・・

 実は、こうなるには様々な経緯と背景があったのだが、それについてジュリオはこの場で説明する気はない。

 そんなことよりも、アクトから騎士に対する憧れの話を聞いたジュリオは、この機会にとロッテルをアクトに引き合せる事を選択する。


「うむ。アクトはあの誉れ高きブレッタ家の一族でもあるし、ゲンプからもいろいろと武勇伝を聞く。強者同士話しが合うやも知れんな。それ、ロッテルよ、こちらへ参れ」

「ハッ!」


 ジュリオの求めに即応するロッテルは、ふたりの元へ走ってきた。


「ロッテルよ。ここの学友アクト・ブレッタは『騎士』に憧れておるそうだ。少し話をしてやっても構わないぞ」


 ジュリオの命によりアクトへ向き直るロッテル。


「はじめまして、アクト君。私はロッテル・アクライト。エストリア帝国第二騎士隊の長官を務めていた者だ。尤も今は少し休んでいて、殿下の護衛をしているがね」


 清々しくそう述べて、アクトと握手するロッテル。

 彼は長身で髪に灰色の混ざる壮年の男性である。

 年齢を聞けば四十二歳らしいが、それが解るのは多少灰色の混ざる髪の毛と立派に蓄えられた口髭ぐらいであり、それ以外は彼の身体は鍛えられ、無駄な肉が無く、見た目以上に若々しく感じられた。

 指揮官と言うよりも屈強の兵を思い浮かべてしまうアクト。


「ん!? その様子では、私はとても長官に見えないらしいな」


 アクトの疑問を視線で感じたロッテルは朗らかに応えた。


「い・・・いえ。そんなことはありません。ただ、少し鍛えられているかな? と思った次第です」


 アクトは緊張してそう答えたが、ロッテルはハハハと笑い、「よく言われるから気にしないでくれ」と続けた。


「私は若い頃から鍛錬が好きでね。この歳になってもなかなかに止められん。それ故に今回のように『殿下の護衛』という名誉な仕事を熟す事もできている。この身体には感謝しきれんよ」


 そう言い笑顔で応えるこの長官にアクトはとても好感が持てた。

 自分と同じ匂いがしたのだ。

 ロッテルもアクトを見て同じものを感じたらしい。


「自分の事はロッテルと呼んでくれ」


 そう気安く接するのを許されるほど、ロッテルも友好的な態度を示す。

 こうして、長い時間話さなくても、アクトとロッテルのふたりは直ぐに意気投合する事となる。

 そして、アクトはロッテルの空いている時間に剣術の稽古をつけて貰えることになった。

 上機嫌になるアクトだが、ハルから「調子に乗り過ぎよ」と釘を刺されてしまったのは蛇足である。

 そんなアクト以外にも、今は気分の良い選抜生徒が多かったりする。

 特にエリザベス、ローリアン、ユヨーの三人貴族令嬢は雲上人とされるジュリオ皇子との会話―――特に宮廷の噂話の類―――に夢中になっていた。

 それでいて、この皇子は凄いところはこの三人の貴族令嬢のみならず、全ての人に満遍なく会話する能力が備わっている事だ。

 あちらで貴族令嬢達と宮廷の恋の話をしていたかと思えば、今度はこちらでセリウスと軍事的な話題となり、次にはクラリスと格闘系魔術師の達人について語りだし、そして、アクト、インディ、カント、フィッシャー、キリアと市井の世間話を始める。

 初めは緊張していた選抜生徒達も、ジュリオ皇子の砕けた態度に慣れて行き、次第に心を開いていく。

 それにしても、よくこんなに話をしていて疲れないものだ・・・と感心してしまうハルだった。

 当然だがハルの前にもジュリオ皇子はやって来た。


「君は確かハルと言ったな。魔道具を研究するのが得意だと聞いておるぞ」

「そのとおりでごいます、殿下」


 ハルは恭しく答える。


「中々に丁寧な言葉遣いだが、今回の授業期間中、予は一介の生徒として参加している。よって、予に対する礼節は不要だ。ジュリオと呼び捨ててかまわぬぞ」

「では、ジュリオ様で」


 ハルはそう言い直すとジュリオは満足し、自分の懐より懐中時計を取り出してハルに見せた。


「これはハルの作品だと聞いておる」


 それを見たハルは「あら」と口を手で隠して少々驚く素振りを見せるが、心の中ではそれほど驚いていなかった。

 魔法の懐中時計の製作者がハルだという情報は、先日キリアにもばらされていたし、街の上層部とつながりのある皇子の耳にこの事実が届いていたとしても驚きはしない。

 しかし、ハルが口に手を当る素振りを見せたことで確信を得たのはジュリオの方であった。


「やはり製作者はハルで間違いなかったか。予が知っておったのは噂話の類だったからな」

「ジュリオ様もお耳が早いですね。確かに初めは私が作りましたが、今では私以外の者も製作に携わっております」


 ハルはそう言いアストロ魔法女学院内の研究工房が総出で取り組んでいる事を説明する。

 その説明に大層興味を持ったジュリオは工房を見学させて欲しいとハルに願い出る。

 私の一存では・・・と断りを入れるハルであったが「近いうちにな」とジュリオは一方的に約束を取り付けた。

 実際問題として、第三皇子のジュリオが願い出たことを却下するのは非常に難しい。

 ハルとしてはあまり目立つ事は避けたかったので、渋々、「上の者と相談してみます」と答えるに留めた。

 「期待しているぞ」とジュリオは気分上々でハルの元から去り、先ほど話していた三淑女の元に戻り宮廷話を続ける。

 残されたハルの元にクラリスが近寄って来て、彼女の肩をポンと叩く。


「ハル、やったねぇ。これでジュリオ様のお眼鏡に叶えば、ハルは宮廷お抱えの魔道具師になれるかも知れないし、将来を約束されたようなものよね。羨ましいわ」

「そんな事ないわよ・・・」


 謙遜するハルを他所にクラリスは本当にハルの事を羨ましがっているようであった。


「ジュリオ様って良い人だな。初めはすごく緊張したけど、とても気さくな方でよかったよ」

「そう? 私はああいう人は苦手・・・」


 ハルはため息をつく。


「あらら。そう言えばハルには、もうアクト君っていい人いるからね~」


 小声でそうハルに耳打してくるクラリスは少しだけ意地悪顔になる。


「ちょ、ちょっと。彼とはそんな関係じゃないし」


 否定するハルだが、これはクラリスにとって予想どおりの反応だったらしい。


「大丈夫、大丈夫。私はハル達の味方だから。あの夜の事は誰にも言わないよ」


 そうハルに告げるクラリス。

 今度は自身の顔が僅かに高揚していた。

 あの夜・・・遠征授業の初日の夜営の事を言っているのだろう、とハルは思う。

 彼の夜、共に彼氏と彼女の関係になった―――とクラリスは一方的に思っている―――同じ仲間として、ハルに対してシンパシーを感じているクラリス。

 ハルにしてみれば、あの時アクトと抱き合ったのは出会い頭の事故のようなものであり、その先の行為は・・・当然、未遂に終わっている。

 彼女としても誤解を解きたかったが、その後の顛末をクラリスにいちいち説明するのも、何かに負けたような気がして、結局、目を閉じて無言を貫く事に徹した。

 この反応にクラリスは多少物足らなさを感じるが、この件はハルがもう黙りを決めてしまったため、先へ追求を諦めて、別の話題に切り替えることにした。


「それにしてもよう。次の授業は体力増強のための基礎トレーニングらしいぜ」


 そう言い彼女は手に持っていた袋から運動用にと支給された衣服を取り出す。


「これを着ろって言われたんだけど・・・こりゃねぇよな」


 彼女が取り出したのは貴族の男子が着るような襟付きのシャツとパンツのセットだった。

 クラリスの出した衣服を見たハルは「まさか!」と思い、先程の高等学校職員より手渡された荷物の中身を確認する。


「うーーーん、同じだ・・・」


 ハルの袋にもクラリスと同じような衣服が入っていた。

 確かに普通に考えると、ローブ姿というのは身体を動かす場合、少々動き難いと思われても仕方ないだろう。

 その事に気を使ったのか、高等騎士学校の職員が運動用の服を用意してくれたのだが・・・何と言えばいいのだろうか? 魔女が貴族のお坊ちゃんのような服装を着ることに、もの凄く違和感があったのだ。

 他校にはあまり知られていない事だが、アストロ謹製の制服である灰色のローブには様々な付与魔法がかけられている。

 重さを軽くしたり、温度・湿度を調節する快適機能、防刃・耐魔法の防御機能、汚れが付き難い清潔化機能など、魔術師にとって高機能・高性能な装備だったりする。

 アストロの女生徒達はこの魔法のローブを着ていた方が見た目に反して素早く動けるし、快適でもあった。

 機能的な面でもそうだが、意匠的にも騎士学校から支給された衣服を着るのを躊躇ってしまうハル。

 周辺を見ると、エリザベスやローリアン、ユヨーも支給されたこの制服に気付いたようで、どうしようかと迷っているようだった。

 一応、アストロ魔法女学院のリーダーは筆頭であるエリザベスということになっている。

 いつもの彼女はこういう時に違和感無くリーダーぶりを発揮して、即断即決なのだが・・・今回の場合は彼女でさえも判断に迷っていた。

 そして、この選抜生徒メンバーでは非常に珍しい事だが・・・女生徒全員を集めて緊急対策会議をする事になる。

 短い会議の中でいろいろな意見があったが、結局のところ彼女達が選択したのは「折角、向うが用意してくれたのだから、一度は着よう」と言う結論に至った。

 こうして、後にある意味で伝説になる『きわどい貴族男装スタイルのアストロ魔女達』が誕生してしまうことになったのだ。

 

 

 

 

 

 

 アストロ魔法女学院では無いにしろ、ラフレスタ高等騎士学校の屋外演習広場も一般の高等学校よりは面積が広く、騎士団同士の模擬戦の運営演習ができるほどであった。

 当然だが、この広い敷地をひとつのクラスで独占する事はほとんど無く、他のクラスと併用という形で授業を進めるのはいつもの光景である。

 しかし、今日、この日、この瞬間に限っては日常の風景と大きく異なる事がひとつあった。

 それは、午前中最後の授業として演習場の一角を使い、噂の選抜生徒達が合同授業を行っていたのである。

 アストロ魔法女学院の時もそうだが、ラフレスタ高等騎士学校内でも『選抜生徒』という存在は全校生徒の興味の対象である。

 指導する側の先生も含めて、他のクラスの生徒達も自分達に課せられた授業の課題を片手間に熟しながら、選抜生徒の所作ひとつひとつに注目が集まっていた。


「アクト君達が走っているわね」


 対魔法戦の授業で順番待ち状態になっている女子生徒は自分の授業に目もくれず、選抜生徒の授業風景をつぶさに観察していた。


「なんでも、基礎体力向上の授業らしいぞ」


 隣の男子生徒はどこから仕入れてきたのか選抜生徒の授業情報について説明してくれた。


「え?今更!?」


 女子生徒が驚くのも無理はない、そのような基礎的な内容は一年生の時に行う授業だったからである。


「おそらく、アストロの魔女達に合わせたんだろうなぁ。彼女達は生粋の魔術師だから体力が無いんだろうね」


 男子生徒の説明に納得する女子生徒。

 彼女も隣の男性も供に剣技を主とした騎士志望であり、魔術師の体力の無さについてはよく理解していたからだ。

 剣術士から見れば魔術師は怠慢そのものの存在に映ることもある。

 この女子生徒の友達にも魔術師はいるが、その彼女も近くの物を取るのですら魔法を使っていたのを見た事がある。


(だから、魔術師って太っている娘が多いのよね・・・)


 とは、この女子生徒の持論だ。

 そんな偏見の籠った気持ちで選抜生徒達の授業を眺めていたが、男子生徒達の徒競走の決着はついたようだ。

 二百メートルを全力疾走する競争だが、一位から三位は女子生徒の予想どおりの面子で、アクト、セリウス、インディの順となった。

 しかし、四位には見慣れない長身の金髪男子生徒がいた。

 彼は二百メートルを全力疾走していたが、走り終わった後も肩で息をするような事はせず、周囲の人からハンカチを受け取り、額からの汗を軽く拭いて優雅な姿で一位たるアクトと談笑していた。


「あの四位の恰好良い人って、見かけない顔よね」


 その凛々しい姿に少しだけ目を奪われる女子生徒。


「ああ、何でも帝都貴族高等学校から編入してきた奴らしいよ」


 女子生徒の視線が謎のハンサムな生徒に釘付けとなっているのが多少気に入らない様子の男子生徒。


「へぇー、じゃあ、上流貴族のお坊ちゃんじゃない?」


 帝都貴族高等学校とは入学審査がより厳しく、貴族であっても一部の上流階級の貴族しか入学が認められない学校として有名だったからである。

 このラフレスタ高等騎士学校も入学する際に、それなりの地位を要求されるが、学校内では実力主義で評価されるため、帝都貴族高等学校とはやや趣の異なる校風である。

 ラフレスタ高等騎士学校の生徒達や教職員にも縁故や血筋が重視される帝都貴族高等学校をライバル視している者も多く、この学校とはあまり良い関係でないのは有名である。

 その学校の出身だと聞けば、思わずライバル心が出てしまうが、それでもこの長身でハンサムな生徒は生粋の高貴な者のみが持つ独特のオーラを放っているように見え、女子生徒の印象に深く残るのであった。


「只者ではなさそうなんだけど・・・」


 女子生徒がそう呟くのに対して隣の男子生徒はかぶりを振った。


「らしいよね。お付きの人が何人か付いているけど・・・誰に聞いても、彼がどこの誰だかを教えてくれないんだよなぁ」

「ふーん」


 そう言われてみれば、長身でハンサムの生徒の周辺にはメイド風の侍女が二名と銀の髭を蓄えた執事のような護衛役が存在しているのが彼女にも解る。


(高等学校で護衛が付いている人がいるなんて・・・)


 そう思ってしまう女子生徒。

 ラフレスタ領主の子息がこの学校に通っているときだって、先輩からそんなことを聞いた例は無かったからだ。

 謎の彼に対して、いろいろと妄想してしまう女子生徒だったが、ここで周りの生徒達から「うわー!!」と言う歓声が起こり、選抜生徒達の徒競走へと再び視線を向ける。

 そこで彼女が目にしたのはそれまで羽織っていた灰色ローブを颯爽と脱ぎ棄て、ありえない衣装でスタートラインに立つ魔女達の姿だったからだ。


「な!何よ、あれ!?」


 彼女達―――アストロ魔法女学院の女生徒達―――は、それまでの灰色の地味なローブ姿ではなく、騎士学校の運動用の服を着ていた。

 しかし、それは『通常の』とは言い難い姿をしていたのである。

 騎士学校の女子生徒達が殆ど選択しないと言っていい『半ズボンにカッターシャツ、サスペンダー』のスタイルだったからだ。

 しかも、誰が着させたのか明らかに彼女達の身体に合っておらず・・・全員ピチピチのシャツと半ズボンで、お尻が半分出ているのではないかと思えるような姿であったのだ。

 これは後に判明した事なのだが、本来は騎士学校の女子生徒が多く選択する長ズボンの衣装となる予定だったが、職員達の発注ミスで半ズボンになり、更にサイズに関しても間違ってワンサイズ下の物を発注してしまい、誰も確認せずに彼女達へ渡してしまったため、このような顛末になってしまった。

 確かに動き易くもあるが、否が応でも身体のラインが浮き出るこの衣装を纏う事になった可憐な魔女達は、それまでは女子高と言ういろいろな意味で、他校の常識を知らなかったが故に、これが『おかしい』とは思わなかったようだ。

 そして、皆から注目される羞恥に耐え、凛々しく健気にスタートラインに立つ彼女達。

 彼女達とて、これがラフレスタ高等騎士学校の他の女子も同じ服を着て運動しているのだと思い、我慢していたのだ。

 その姿にはとても違和感があったが、それ以上に彼女達の独特の魅力を醸し出す結果にもなっていた。

 金色、銀色、赤色、茶色、白色、青黒色とすべての女性が異なる髪色をしていて、今はそれをローブのフードの奥に隠す事も無く白日の元に晒している。

 特に珍しい青黒い髪をした女性はお尻の位置まで届きそうな長くて艶やかな髪を披露していた。

 彼女達の半ズボンと長靴の間から覗かせている白い太腿がそれまでほとんど太陽の元には晒したこと無いのだろうと思えるほどに白くて悩ましい。

 全員の容姿がほぼ整っており、この演習場にいる女生徒と同年代の筈なのだが、アストロの魔女達は騎士学校の女生徒とは別世界に住む大人びた女性のようにも見えた。

 しばらく彼女達の容姿に心を奪われていた女子生徒だったが、隣を見るとさっきまで話していた男子生徒が口をポカーンと開けて魅入られている様子が目に入る。

 女子生徒は何となく面白くないと思い、彼の頭を小突いたが、その間にアストロ女生徒達の競争が始まる。

 駆け出しに強烈な加速が見られなかったことから、彼女達は一切魔法を使わずに走っているようだ。

 徒競走は進行し、先頭を走るのは銀色の髪をした褐色肌の女生徒。

 彼女は華奢な身体を駆使して、空気をも切り裂くように軽快な疾走を魅せていた。

 そして、その直ぐ後ろを追いかけているのは、この地方では珍しい青黒色の髪を持つ女生徒だった。

 青黒い髪を綺麗に空中へ流し、走る彼女の頭を追い駆けるように、まるでひとつの筆で風景に描き足したように美しいと思った。

 そして、この女性の青黒い髪の終端を追い駆けるように、白い髪の女性が続く。

 彼女は華奢で独特の清楚な雰囲気を持ち、そんな彼女が必死に走る姿はこれはこれで色香を持つ。

 目前の青黒髪女性に負けじと続く白髪の彼女だが、結局この差は最後まで埋まらず、銀色、青黒色、白色、そしてたいぶ間隔が空いて、茶色、金色、赤色の順番で徒競走を終える。

 身体のラインがよく解る衣装を身に纏い、全力で走り疲れた身体を惜しげ無く披露して、独特の色香を放つ魔女達。

 しばらくこの魔女達の競演(饗宴?)に魅入られていた女子生徒だが、ふと隣の男子生徒を見ると、彼は走り終えた魔女達の艶姿を食い入るように眺めている。

 魔女達の肢体から目を離せない彼は既に魔女達の虜となっているようだ。

 この様子に呆れるとともに、先程の数倍の力で隣の男子生徒を小突く―――最早、殴るに等しい―――女子生徒であった。

 


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