第十話 ロイの日記4
帝国歴一○二二年 七月一日
本日、高等学校の遠征授業の警備派遣から帰ってきたフィーロとディヨントから報告を受けた。
全員無事で帰ってきたのは及第点だが、廃坑を占拠していた盗賊達にしてやられたのは頭の痛い話だ。
盗賊に協力していた謎の魔術師によって作られた魔道具が恐るべき性能だったようで、魔法と薬品による効果で人を昏倒させる兵器で、討伐隊は全員がこれにやられて一時的に敵の虜囚となってしまった。
幸いな事に捕まえた女性達の処遇を巡り盗賊達が内部分裂して、その隙を突いたアクトの機転により盗賊達を制圧できたのは幸運だった。
彼らは元々それほど力のある存在ではなかったらしく、制圧は難なく完了したらしい。
協力していた魔術師もどこかに逃げてしまい、その後は他愛も無く盗賊団は瓦解した。
お陰で誰の被害も無く、事を納める事ができた・・・ん?いや、少し語弊があるな。
精神的な被害という意味ではノムンとかいう女性教官が服を脱がされそうなったらしい。
勿論、性的に暴行されるまでに至っておらず、身体は一切無傷なのだが、女性というものはそういう訳にはいかないだろう。
ん??これも場合によっては女性軽視と捉われかねないか発言か・・・まぁいい、俺だけの日記だしな。
それにしてもアストロの魔女に手を出そうとするなんて、盗賊の奴等も果たして正気だったのだろうか。
予想に違わずその女性教官は大層ご立腹になったようで、手を出した盗賊に対して結構な私刑を加えたと聞く。
殺しこそしてはいないが、その一歩前まで行ったというし・・・まぁ、これは盗賊共の自業自得だろう。
それは良いが、問題は行方知れずになった魔術師の方だ。
盗賊達からは『導師様』と呼ばれている凄腕の魔術師だったらしいが、彫りの深い顔付きで若い魔術師・・・やはり、思い当たる人物はいない。
名前も聞かれない人物だが、おそらく盗賊達に語っていた名前も偽名の可能性が高いと思う。
とりあえず手配書を回すが、これほどの奴がそう簡単に尻尾を出すとは思えない。
俺の勘だが厄介な奴が現れたものだと思う。
願わくはこのラフレスタ領から離れて欲しいものだ。
帝国歴一○二二年 七月二日
フィーロの奴が可愛らしい子猫を飼いはじめた。
何となくアイツらしくない気もするが、まぁ、元々は貴族の坊ちゃんだ、そういった上品な趣味があるのかも知れない。
しかし、その猫―――確か名前は『ニケ』だったか?―――を可愛がりにローリアンとか言う煩い貴族の嬢ちゃんが来るようになった。
昨日も来ていたのでこれで二日連続だ。
フィーロは本当に鬱陶しそうにしていたが、ローリアン嬢は全くその事を気にせず『ニケ』だけを愛でて帰っていく。
ローリアン嬢の傲慢な態度は警備隊の中でも有名だが、『ニケ』を愛でている姿は本当に歳相応で相当にギャップがある。
そのギャップがとても滑稽であり、前の姿を知る俺達には何かの喜劇を見せられているようだ。
アストロの魔女は変わり者が多いと聞くが、彼女もそのひとりだと思う。
俺は面白がって嫁にその事を伝えたが、嫁はそのローリアンとか言う女性が子猫を可愛がっているフリして本当はフィーロを狙っているのだろうと言っていた。
これだから女って奴は自分に都合の良い妄想ばかりするもんだ。
それは絶対に無いと思うな。
賭けてもいいぜ。
帝国歴一○二二年 七月三日
今日は朝から街の上層部が騒がしい。
何やら高貴な方が近々このラフレスタにやって来るらしい。
月光の狼や白魔女の件で、ただでさえ難しい状況であるのに・・・まったく上は何を考えているんだ。
俺は政治の事を解らないが、視察だとか、何だとか・・・
まったく、上の方で上手くやって欲しいものだ。