第十一話 事の顛末
短いながらも激しい戦闘が終わり、周辺は戦いが始まる前の夜街の姿に戻ろうとしていた。
アクトは自分の足元に転がっていた銀色のブレスレットを拾い上げる。
それは白魔女が装着していたブレスレットであり、先の戦いでアクトが留め具を破壊した残骸である。
何の変哲も無い装飾品のようにも見えるが、白魔女の痕跡が何か解るかもとアクトはこれをポケットにしまう。
そして、周囲を見渡して、戦闘前と決定的に違うふたつの事に気が付く。
ひとつは戦いの痕跡となっている焦げ跡ともうひとつはむせび泣く女性の声。
むせび泣く声の元はローリアンであり、戦闘が終了した直後から彼女の嗚咽はずっと続いている。
「ひっく、ひっく、酷い、酷すぎる。白魔女は・・・アイツは・・・人間じゃない。悪魔よ! ひっく・・・」
彼女の精神は崩壊寸前まで追い詰められたが、それは白魔女に受けた恐怖の幻術によるものか、それとも人前で失禁するという成人女性として最大の屈辱を味わった事によるものか・・・アクトには解らない。
近くにいたフィーロは彼女のことを気にかけ、自分のマントを外して、むせび泣くローリアンにかけた。
「な、何で・・・」
彼の意外な行動に驚くローリアン。
「夜中に泣く女性を放っておけるほど、俺は薄情者じゃない・・・それに・・・」
フィーロは彼女にしか聞き取れない小さい声で、こう続ける。
「以前は『小便臭い女』と言ったが、あの事は忘れてくれ・・・」と・・・
ローリアンは泣き止み、顔がみるみる赤くなる。
この瞬間、彼女は恋に落ちて・・・という話ではない。
フィーロが彼なりに気を遣って、ローリアンに優しい言葉をかたけつもりなのだが・・・この口下手の男の言葉はこのタイミングであまりにも不適切な内容であった。
『小便』の話で、ややも自分は揶揄われたのか?
そう感じてしまったローリアンは心に怒りの炎が灯り、それまで彼女を支配していた恐怖心と恥辱心がこの怒りという感情によって上塗りされたのだ。
乙女にこんな失礼な事を言う下種男・・・何か文句を言うべきだと思ったローリアン。
だが、彼女が言葉の選択をしていると、それよりも早くフィーロが彼女の元を離れて女性隊員に助けを呼ぶよう手配を始めてしまったため、彼に噛みつく機会は失われてしまった。
どうあれ、結果的にローリアンのむせび泣く状況を止める事だけには成功するフィーロであった。
そして、次の問題はエリザベスである。
彼女は白魔女に大負けし、公共の場で身体の自由を奪われ、恥ずかしい恰好を晒し、挙句の果てには正体不明の液体をかけられて、白魔女からは「自慢のローブを破壊する」と宣言を受けていた。
彼女の自尊心は大きく汚され、彼女の心は怒りの感情によって大きく支配されていた。
そんなエリザベスにアクトは彼女を助け起こそうと手を差し出す。
「エリザベスさん、大丈夫ですか。さあ、立ち上がって」
「わっ、私に触らないで!」
エリザベスはアクトの差し出した手をパチンと弾く。
「え?エリザベスさん!?」
突然のエリザベスの凶行にアクトは驚く。
そんなアクトを激しく睨むエリザベス。
「貴方の争っている相手が・・・あんな化物だったなんて、教えてくれなかった」
「は?」
アクトはエリザベスが突然何を言い出したのか理解できなかった。
「白魔女が、あんな恐ろしい化物だなんて、アクト様から説明を受けて無かった・・・一体、どう責任とってくれるの?公衆の面前でこんなに辱めを受けて・・・こんな酷い仕打ちを受けて・・・私は、私はもう全うに生きてはいけないわ。アクト様!責任とって下さい!」
「責任、と言われても、エリザベスさん・・・とりあえず冷静になって」
そんなアクトの言葉にエリザベスは耳を貸さず、癇癪を起す。
「うるさい! 今すぐ責任をとって、私をブレッタ家で一生面倒を見なさい! こんな辱めを受けたら、私はもうケルト家に戻れないわ」
ヒステリックを起こしたエリザベスが、一体どういう論理でそんなこと言っているのか、全く意味が理解できないアクト。
このエリザベスをどうしたものか、と同性たるフィーロにアドバイスを求めるも、彼も諸手を挙げてアクトへの助力を拒む。
彼もヒステリックを起こした女性を宥める方法は思いつかなかったからである。
途方に暮れるアクトであったが、何とかエリザベスには冷静な精神状態へと戻って貰うしかなかった。
「エリザベスさん! とりあえず落ち着きましょう。白魔女は確かに化物じみた強さがありますが、それでも僕たちは生きています。悔しければ再戦すればいいし、怖ければ逃げるのもありです。白魔女は逃げる者を追ってくるような奴ではありません。それに今回は、たったローブ一枚ぐらいの被害で済んだではないですか」
最後の一言が今のエリザベスにとって余計な一言だった。
アクトは外観上アストロ魔法女学院の制服と寸分違わないエリザベスのローブの価値を解っておらず、これが彼女の更なる怒りの炎に油を注ぐ結果となってしまう。
「ローブ一枚ぐらいですってぇ!! アクト様はこのローブの価値が解っていないからそんな無責任な事が言えるのよ! これはとても高価な魔法が付与された特製のローブなのよ。こんな液体がかかったぐらいで壊れる訳がない!!! 見ていなさい。私の魔法で全て吹き飛してやるわ!!」
激昂した彼女はローブに付着した謎の液体を蒸発させようと魔法をかけた。
通常の水分や汚れを含んだ液体だけならば、熱と風をピンポイント発生する魔法で生地を綺麗に乾燥する事ができる。
しかし、今回の場合、この魔法を使ってはいけなかった。
白魔女の忠告を最後まで覚えておけば良かったのだが、この時のエリザベスは冷静ではいられなかったのだ。
そして、この彼女の行動が新たな悲劇を生む。
魔法を行使し、部分的に熱せられた接着剤は気化しようとするが、この熱が接着剤全体に伝わるよりも早く、熱によって接着剤が反応し、硬化が始まる。
そう、白魔女がかけた『エポキシ接着剤』は、熱を加える事で硬化する特性があったのだ。
そうなると結果的に接着剤は風船のようになり、中心部分には高温・高圧の気体が存在し、周囲には硬化した固体の膜ができる。
中心付近が温度上昇することで内圧はどんどんと上昇する。
時間経過とともに内圧はさらに高まり、そして、この膜が限界点を迎える事になる。
つまり、高温に熱せられた接着剤がその内側から爆発し、周囲にまき散らされる大惨事となったのだ。
ジュウ、ジュウ、ジュウ、ボーーーン!!
「ギャャャャャャーーーーーーッッッッッ」
爆発と伴にエリザベスの悲鳴が周囲に響き、接着剤と衣服の焼けるキツイ匂いが辺りに漂った。
エリザベスの腹部に溜まっていた接着剤は爆散し、ローブだけではなく、彼女の顔や長い巻き髪に多く付着してしまう。
液体の一部は近くにいたアクトにも飛来したが、彼は初めから嫌な予感がしていたので、爆散した液体を素早く察知して躱す事に成功している。
その爆心地たるエリザベスは散々たる状態になっており、ローブだけではなく、顔や髪に吹き飛んだ高温の接着剤が引付き、火傷で更に苦悶と呪詛の声を挙げる結果となった。
彼女の悲鳴と罵声はその後も続き、結局、ケルト家の従者が彼女を迎えに来るまで止むことは無かった。
この出来事は白魔女との戦闘以上にアクトを疲弊させるものであった・・・
「・・・と言う事が昨日あったんだよ」
ハルの研究室にて昨日の顛末を話すアクト。
本日、授業としての魔道具製作の時間は終わり、エリーも次の授業のために退席している。
その後はアクトが珍しく居座り、お茶をすすりながらハルと世間話をしていた。
「ふ~ん、それでエリザベスさんとローリアンさんはしばらく休みなのね」
ハルは今朝、学院側からの通達内容を再確認する。
「そう。エリザベスさんの火傷の怪我やローリアンさんの受けた精神的なショックもあって、そうなったんだ。・・・それに彼女達を守れなかった僕の責任もあるけど、今回の顛末は彼女達のやり過ぎた行動に問題があったのも事実だと思う。そういう意味も含めて、全員しばらく謹慎となったんだ」
頭をポリポリと掻くアクト。
今回の件でいろいろな人から大目玉をくらったのはアクトの方であった。
彼自身も今日の午前中の授業の出席は取止めとなり、アロスト魔法女学院とラフレスタ高等騎士学校の両校長と警備隊関係者、ラフレスタ行政の役人が勢揃いした前で昨晩の出来事の事情聴取と大言・小言を沢山貰っていたのだ。
結局、様々な証言から、今回の戦闘自体は偶発的な事だったのが認められ、大きな処分とはならなかったが、それでも学校に無許可で警備隊の訓練に参加していた事、彼女達の自業自得的な部分があるとは言え、貴族の女子を戦闘に巻き込んで怪我をさせた事(精神的な内容も含む)を考慮して、アクトには今後、警備隊の訓練に参加しない事、しばらくは許可なしで外出しない事などの処分が下っている。
これは貴族を巻き込んだ事件としては破格に軽い処分であった。
これには両学校の校長から情状酌量の嘆願に加えて、警備隊副隊長フィーロから適確な状況の説明があった事に他ならない。
代わりと言っては何だが、警備隊隊長のロイには監督責任としてなんらかの処分が科せられることになった。
本当に申し訳なく思うアクトだったが、当のロイは「気にするな」と軽くアクトに応えていた。
「本当に・・・自分の軽率な行動に後悔しているよ」
「それを私に言われてもねぇ・・・」
アクトは申し訳ない気分をハルに訴えてみたが、ハルはあまり興味無さそうに応える。
実はハルも事件の当事者のひとりであり、自分が白魔女である事を知られる訳にもいかず、努めて無関心を装っていた結果だったのだが、アクトがこれを知る由はない。
彼女の事だから自分の研究以外に関心はないのだろうと、アクトは勝手に解釈していたのだ。
「まあ、それもそうなんだけど・・・しばらく謹慎で外出禁止の身になる。『一人で外を出て歩くな』と厳しく言われているので、自分の部屋で反省でもするよ」
ため息交じりのアクトは、いつもより元気が無かった。
「そこで相談なのだけど、『科学』に関する本を持っていないかな?もし、あるのだったらこの機会を利用して勉強したいんだ」
謹慎を命じられているにも関わらず、次の瞬間にはこれだ・・・と、この男の前向き思考に呆れるハルだった。
「謹慎されていると言うのに・・・まったく、勤勉な事ね。残念ながら科学に関する本は持っていないわよ。一体、何が知りたいの?」
「科学に関係するのなら何でもいいよ。知識を広めたいんだ。科学の知識のおかけで、昨日も白魔女の使った魔法に対抗する事ができたし」
「ふーん。ちなみに、白魔女の魔法に対応できた、って言うけど、それは何?」
「ああ。さっき白魔女に足を凍結させられた時の話さ」
アクトは先ほどの話を思い出して、続ける。
「白魔女の氷結の魔法によって、両足を凍結させられたときにさ。あのときは自分も含めて全員魔法をかけられたので驚いたよ」
「そうね。魔力抵抗体質者のアクトにどうやって魔法をかけたのかしらね?」
わざとらしく不思議そうな様子をするハル。
「だろ? 俺も焦ったけど、この前ハルに聞いた水の三態って話を思い出したんだ」
「氷、水、水蒸気の話ね」
「そう。白魔女は僕の身体には魔法が効かないのを既に承知していて、身体ではなく自分の足元の土に魔法をかけて氷結させたのさ。アイツは頭がいい。地中の水分を氷結させて、そこから氷を生やして地面と靴を縫い付けた」
「なるほどね。温度低下の魔法を地面にかけて凍らせたのね。このとき生じる『水分を氷に変える』物理現象でアクトの足を凍らせたって訳か」
アクトの予想した白魔女の魔法は確かに的中していた。
刹那の瞬間、物事の本質を見抜いたアクトに、密かに舌を巻くハルだったりする。
「そのとおり。ちなみに凍ったのは『足』ではなく『靴』だった訳さ。白魔女は『私の信条は殺さず』と言っていたけど、それは本当だと思う。足を凍らされていれば凍傷になっていたのかも知れない。あいつはまだまだ僕らを手加減して相手しているようだったな」
そう解釈するアクトだったが、実にそのとおりで白魔女のハルはあの場でアクト達にできるだけ危害を加えず無力化するように、そうしていたのだ。
そして、ローリアンとエリザベスに対しては日ごろ彼女達から受けていた嫌がらせで自分もストレスが溜まっていたため、少し痛い目に遭って貰おうとお仕置きをしてしまった。
今となっては少しやり過ぎたと反省しているハル。
いつもそうなのだが自分が白魔女になると行動が少し大胆かつ積極的になる傾向があるらしい。
今後は注意をせねばと思うハルであったが、それをこの場で顔に出す訳にはいかない。
「敬愛する白魔女様が、折角手加減をしてくれたと言うのに、アクトは最後で白魔女に酷い事をしたんじゃない?無手の女性に剣を振り下すなんて、暴挙だと思うわよ」
「そんな事言うなよ。こっちだって必死だったんだから・・・それに剣と言っても、練習用で刃は潰していたから切る事はできない。アイツがその程度で死傷する奴じゃないさ」
慌てて自分の行動を釈明するアクト。
白魔女に対する殺意は無いと言い訳をした。
剣も刃を鋳潰した鈍らであり、打撃こそ与えられど、それで白魔女を殺せるとは思っていなかったのだ。
「まぁいいわ。それよりも、よくそんな『氷の足枷』とも言えるような状況を脱せたわね」
ハルはアクトの言い訳染みた弁明を受け流し、それよりも彼が脱出した方法に興味が移る。
ハルもあの時、アクトがどうやってあの枷を脱したのか、理解ができなかったからだ。
「魔法の力で地面が凍ったならばその地面の魔法を解除すれば良い。先ずは自分の手を地面に突き刺して、魔法抵抗体質の能力を使って氷結の魔法を解除したのさ。冷やす力の元が無くなれば、次は氷を解かせば良い。それでこれが活躍したんだよ」
そう言うとポケットから赤い小石の粒を出す。
「火炎硝石!」
ハルはその正体を一目で見抜く。
火炎硝石は赤色魔力鉱石の一種で、その内部に熱エネルギーを有している。
魔力を与えるか、物理的に衝撃を与える事で熱を発する事ができ、粉々まで砕くと小規模な炎の魔法と同じぐらいの熱を発生する事もできた。
「それって私の研究室からくすねたの?」
細い目つきになって悪戯っぽくアクトを見据えるハル。
「ちっ、違うよ。偶然ポケットに残骸が入っていたんだ。ほら、昨日は動力部分を仕上げる時に使っただろう? あの時にだよ」
自分が泥棒扱いにされたのを大慌で否定するアクト。
そう言えば、とハルは昨日の作業で洗濯機の動力部分仕上げるのに火炎硝石を使っていた事を思い出した。
魔力鉱石の添加量の調整が微妙で、細かく砕いた鉱石を増やしたり減らしたりとアクトが調整していて、そのときの余りをうっかりとポケットにしまっていたのだった。
「思い出したわ。確かに作業していたわね。でもポケットに入れるのは今後やめて頂戴。万が一、発火すれば火傷・・・ってアクトは魔法の炎は大丈夫かも知れないけど・・・それでも危ないからやめようね」
「すまない。僕も警備隊の訓練所で気が付いたんだ。今日返そうと思っていたけど、今回はこれに助けられたので、そういう意味ではハルにも感謝かな?」
そう言ってニコリと笑うアクトを見たハルは、この調子の良い奴め、と苦笑する。
「それで話を戻すとして。この鉱石の事を思い出して、手で開けた穴に火炎硝石を入れて、あとは上から剣で衝撃を与えると、火炎硝石が発熱。その熱のお陰で氷を溶かしたって訳さ」
アクトの話を聞き、ハルは全てを納得した。
あのとき、どうやって氷の足枷を脱したのか解らなかったハルだったが、種を明かすと簡単明瞭だったのだ。
しかし、それをあの瞬間、咄嗟に思いついて行動するのは、普通の人にはできないだろう。
アクトの戦闘に関するセンスはある種の天性的な才能を持つとハルは再評価した。
成り行きとは言え、彼に科学の知識を教えたのが果たして本当に良かったのだろうか?
悩みどころのハルは、思わず右手で自分の頭を掻き挙げ、少し困った表情になる。
「ん? どうした?」
「何でもないわ。ただアクトの奇抜な発想と白魔女への執着心に少し呆れただけよ」
少しだけ本音をこぼすハルだった。
「あははは、褒めてもらったのかな。んっ?その傷どうした?」
アクトはローブの裾から覗いているハルの細い右腕に赤い腫れ傷があるのを見つけた。
「あっ」
咄嗟に傷跡を隠すハル。
「・・・これは昨日少しぶつけたのよ・・・。恥ずかしいからあまりジロジロと見ないでよね」
ハルは言い訳するが、これは昨日アクトの剣で叩かれてできた痣だった。
痛みなどは既に無かったが、自分が白魔女だと知られたくないハルは、大慌てで昨日アクトに叩かれた腕の跡を隠した。
ハルの顔が瞬時に真赤に染まったため、何だか解らないが羞恥に染まっている女子を追求してはいけないと、アクトは勝手に解釈する。
「まぁなんだか解らないけど、お大事に。サラスリムの塗り薬は打身に良いらしいから、塗っておけば治りが早いぞ」
「ありがとう、そうするわ」
顔を赤めてハルは応えた。
傍から見ると恋する乙女のようでもあるが、その実は自分の安直な行動で白魔女の正体を勘繰られるような傷を敵に晒してしまった事への恥ずかしさだったりする。
しかし、今回はなんとかやり過ごせたようだ。
ハルは心を必死に落ち着かせて、なんとか、自分に気遣ってくれるアクトへ感謝の言葉を伝える事はできた。
自分もまだまだ甘かったと反省し、それを何とか誤魔化そうとハルは研究室の整理を始める。
「あ! 緑色鉱石が切れている」
しばらく整理をしていて、魔力鉱石の在庫が切れていた事に気付くハル。
緑色鉱石は明日の魔道具作製で使う予定の素材であった。
「しまった。これを明日使う予定でいたのに。今からだと・・・エリオス商会ならまだ間に合うかな?」
まだ間に合うと判断し、買いに行く算段を立てる。
「エリオス商会に行くのか? 今からだと帰りは暗くなんじゃないかな」
「でも明日使うので、仕込みを考えると今日中に揃えておきたいのよ」
「じゃあしょうがない、行くか」
「はぁ? 『行くか』って何よ?」
「買いに行くって意味だよ。エリオス商会は俺も知らないところじゃないし、帰りの暗がりの中で女性の独り歩きは危ないだろ」
「べ、別にいいわよ。独りでも行けるし」
「まあ、そう言うな。俺も外出禁止だけど、帰り道と言えば良いし。それに帰っても暇だし、ついでに飯でも食べて帰ろう」
そう言い少し強引に誘うアクト。
こうして、なし崩し的にアクトとハルの初デート(?)が始まるのであった。