第三話 グリーナ学長の計画
午後、日が傾き始めた時刻、豪華な装飾が施されていた部屋に居る二人が書類に目を通していた。
やがて机に置かれた書類を読み終わった初老の男性は納得した様子で顔を上げる。
「この内容で我が校は問題ありませんな。本当に興味深い企画を提案いただき、感謝しますぞ、グリーナ学長」
男性はカカカッ!と豪快に笑い、年老いても逞しい肉体を誇示するように太い腕を組みなおした。
「こちらこそ。快く引き受けて頂きありがとうございます。ゲンプ校長」
話が無難にまとまった事で安堵するグリーナ。
このゲンプという初老の男性はラフレスタ高等騎士学校の校長の職を担う貴族であり、帝都でも名門として誉れ高いクロイッツ・ゲンプ伯爵である。
現在、彼は単身赴任でラフレスタに赴任しているのだ。
「それにしても実に興味深い。ラフレスタで長い歴史を持つ両校でこのような共同授業ができるとは夢にも思いませんでしたな。本当に画期的な事だ。ラフレスタの他の学校にも良い影響を与えるのではないかな?」
ゲンプはこの先起こりうる様々な可能性について想像を巡らし、人の良さそうな笑みを浮かべた。
「それは時期尚早でしょう。まずは我がアストロ魔法女学院とラフレスタ高等騎士学校の事例が成功してからですわ」
「そうですな。儂としたことが、心が少し先走っておったようだ。許せ」
「いえ」
ゲンプは自身が少し先の事を考え過ぎていたことを恥じたが、グリーナがそれを大きく指摘する事はない。
それよりもグリーナの発案した企画書にゲンプが乗り気であるこの瞬間、具体的な話へと進めることの方が重要だったからだ。
それが通じたのか、ゲンプはグリーナの狙いどおり、企画書に食いついてきた。
「それでは再度確認のために、企画した授業内容を読み返させていただく」
書類には凡そ次のような事項が書かれていた。
ひとつ、将来の帝国の幹部候補となる人材育成や人間関係の構築のため、アストロ魔法女学院とラフレスタ高等騎士学校は三ヶ月の間『交流授業』を行う。
ひとつ、各校は五名ずつ生徒を選抜し、合わせて十名をひとクラスとして編成し、交流授業を行う。
ひとつ、交流授業の期間はアストロでひと月半、騎士学校でひと月半とする。
ひとつ、授業内容は座学や実習授業・郊外授業を通して行い、ひとつの課題を両校の生徒共同で取り組む事とする。
要約すると以上の内容となる。
この交流授業はアストロ魔法女学院の学長たるグリーナからの提案である。
グリーナがこのような提案を行った目的は、将来幹部を輩出する有名校が自分の学閥のみの人間関係に陥らないように学生時代から多く交流を持つという趣旨であり、ゲンプが企画書を読み返した後、こと細かにこれを説明した。
結論としては、ラフレスタ高等騎士学校のゲンプ校長もこれを大いに納得し、この交流授業の計画をスムーズに契約して締結に至る。
こうして今日一番の大仕事を終えたグリーナはほっと一息。
公的な話合いは既に終了し、あとはゲンプとの雑談に話題が移っていた。
「それでは、来月から契約書に基づいて交流授業を始めますが、アストロ側からの候補生としてはこんなところですね」
まだ完全に決定しているわけではないと言いながら、グリーナは机から生徒の名前が書かれた書類を取り出した。
その書類は選抜候補となる生徒の氏名と特徴を簡潔にまとめられた書類である。
ゲンプは受け取った書類にざっと目を通す。
「ふむ。四年生筆頭をはじめとして本当に幹部候補生を選出してくれるのだな」
「ええ。筆頭のエリザベスは少し思考に偏りはありますが、優秀な魔術師であることに変わりはありませんからね。将来は重要なポストに就くはずですわ」
「なるほど。それではうちの校も筆頭をはじめとしてそれなりの人物を用意しよう。偉丈夫ばかりの男性だから魔女達が惚れて授業にならないかも知れないな。カッカッカッカ!」
特徴的な笑い声を漏らすゲンプ。
「まぁ! うちの子たちは皆、初心なのでお手柔らかにして頂きたいですわね。オホホホ」
互いに笑いあうふたりだったが、この時のふたりの内心は微妙に違っていたりする。
ゲンプはもちろん冗談のつもりで言っている。
男女といえども、互いに学生の身であり、ある領分を逸脱した男女の関係は教育者としては認められない。
帝国法では男女十六歳以上になると結婚する事もできるが、但し書きで高等学生ではない事が明記されている。
それ故に、どこの高等学校でも男女の関係が明白になった時点でその者は退学となる旨が校則に掲げられている。
尤もそれは建前であり、現実では男女とも学校や世間にバレない程度にそれなりの経験をしていたりするものだが・・・
このようにゲンプとしての考え方は教育者として正道だったが、グリーナはそういった男女の仲になる事もある程度は許容していた。
これには彼女自体のあまり良かったとはいえない男運の経験から、そうさせている。
グリーナ自身もこのアストロ魔法女学院の出身者であったが、この女性ばかりの学校で碌に男性と会話しないまま、魔法さえ優秀なら全て上手くいく、と根拠のない自信を抱いて卒業した。
彼女自身は後の実社会でいろいろな男性との出会いもあったが、彼女自身が持つ理想の高さと、男性との接する距離感を見誤り、未婚のまま現在に至っている。
あの時にああすれば良かった、こうすれば良かった、と彼女の人生は反省の連続だったりするが、魔術師としては大成しており、人からは恵まれた人生のように見えるのは皮肉な事だろう。
友人であるリリアリアはグリーナよりも融通の利いた生き方をしていて、それなりに男性経験も豊富だったが、彼女は二回結婚して、二回離婚しているので、男運の無さはリリアリアの方が一枚上手という見方もある。
こんな、どうでもよい事を考えていたグリーナにゲンプが唐突に問いかけた。
「ところで、このリストの中にリリアリア隊長の娘さんはいるのかな?」
「リリアリア隊長?」
「ああスマン、スマン。昔の癖が抜けなくてね。実は、私が家督を継ぐ前、帝都の中央騎士隊に在籍していた時代に、あのリリアリア大魔導士と同じ部隊に配属されていてね。魔物討伐のための急ごしらえの部隊だったが、その時の隊長がリリアリア大魔導士だったのだ。あの時のリリアリア大魔導士には死ぬほど鍛えられたので、その時の癖が未だに抜けんのだよ」
ゲンプは過去を思い出すように、遠くに視線を向け、自分の薄くなり始めた髪を撫でた。
その話を聞いたグリーナは、そう言えば昔にリリアリアから気に入った伯爵の倅がいると言っていた事を思い出す。
「まぁ、本当に死ぬほどしごかれたが、お陰で、今までこうして生きていられるようなものだ。しかも妻はリリアリア大魔導士の紹介でもあるしな、私にとっては恩人の女性だよ」
どうやら正解のようである。
ある夜に、リリアリアのやけ酒に付き合わされたことを思い出したグリーナ。
彼女曰く「狙っていた伯爵の倅を、自分の弟子も狙っていて、取られた」と、愚痴を聞かされた事を・・・
なるほど、その伯爵の倅とやらが、今、目の前にいるゲンプ伯爵だったようだ。
いろいろ鍛えたという件は、気に入って可愛がったリリアリア的な愛情表現だったのかも知れない。
「まぁ、そうなのですか。と言う事は奥様も魔術師なのですね。一度お会いしたいものですわ」
リリアリアは面倒見の良い性格をしていたので、弟子が何人もいた。
グリーナもリリアリアのすべての弟子の顔を覚えてはいなかったが、もしかしたら、ゲンプ婦人も既に面識があったのかも知れない。
「おお、そうだな。今、妻は帝都にいるので、なかなか会えないが、こちらに来た時は是非紹介させていただくとしよう。グリーナ大魔導士に会えるのだったら彼女も喜ぶだろう」
「私もその時を楽しみにしておりますわ」
グリーナも半分社交辞令、半分はリリアリアの弟子という意味で興味もあり、返答した。
「まあ、私の妻の話はいい。それよりも話を戻そう。リリアリア隊長の娘がこの中にいるのかね?」
ゲンプは思い出したように聞き返すが、それに対してグリーナはバツが悪そうに視線を反らす。
グリーナとしてはこの話題は避けたかったが、ゲンプに嘘をつく訳にもいかない。
「今回の選抜リストには入れておりませんわ。彼女はこの手の企画にあまり向いている性格ではありませんでしたので・・・」
渋々と答えるグリーナにゲンプは驚きの表情になる。
「なんと! あのリリアリア隊長の娘さんが参加しないのか。もしかして実力不足なのか?」
「いいえ、彼女の実力は十分。というか、ある側面では今のアストロの筆頭さえ凌駕する力もあります」
「それではなぜ?」
余計に納得のいかないゲンプ。
「実はあの娘は・・・対人恐怖症とでも言うか、あまり人と接する事が得意ではない娘ですので、今回の主旨には合わないと判断して選抜リストから外したのです」
「そ、そうなのか。あの他人の所に土足で入ってくるような豪胆な隊長からはとても・・・想像できん」
結構失礼な事を真顔で言うゲンプだが、グリーナはこの瞬間、ゲンプがリリアリアの事をどう思っているか容易に想像できた。
「そうなのです。あの娘はとても能力があるので惜しいのですが、社交的な部分がとても苦手なのです。私としても、あの娘をあまり苦しめたくないので参加を見送りました」
「・・・」
沈痛な表情で答えるグリーナの言葉を黙って聞くゲンプ。
グリーナは半分本当の事を言っているが、実は半分嘘だったりする。
ハル本人の意思で他人と関わる事を極端に避けているのをグリーナは知っていたため、今回の交流授業の選抜生徒候補者から敢えて外していたのだ。
それに今回の交流授業という企画は今後のアストロ魔法女学院を転換させる起爆剤として重要なイベントでもあった。
失敗は許されず、そのために社交性で問題のあるハルという人物を投入するのはグリーナから考えても得策と思えなかったのである。
ゲンプの表情を見るとハルの境遇に同情を抱き始めている。
行ける、もうひと押しして同情を誘うべきか、とグリーナは更に話を続ける。
「実はあまり知られている事ではないのですが、今回入学しているリリアリアの子女は本当の意味で彼女と血のつながりはありません」
「なんと!」
グリーナの衝撃の告白に驚くゲンプ。
リリアリアが何度か結婚と離婚していたのを知っているゲンプだったが、その時にできた子供がこのアストロに通っているのだろうと思っていたからだ。
「ええ、アストロに入学する寸前にリリアリアの養子になっています。帝国法的にはリリアリアの長女となっていますが、容姿はリリアリアと全然似つかずで、間違いないでしょう」
「そんな事が・・・」
「なにぶん、これは個人情報ですので、この件はご内密に」
「そ、そうだな。しかし、なぜそんな事に。そのリリアリアの長女というのは何者かね」
「本人もリリアリアも真実を話たがらないので、これは私の憶測になりますが・・・」
「ああ構わん。判断はこちらでする」
「それでは」と彼女は近くの手鏡を持ち、魔法を唱えた。
魔法の効果はすぐに現れ、手鏡から放たれた光が部屋の中央部に浮かびあがり、光の魔法の中からひとりの人物が投影される。
現れたのは長い髪をした可憐、というよりは可愛らしい印象を持つアストロ謹製の灰色ローブを着た眼鏡の女性であった。
「彼女の名前はハル。現在、四年生の一クラスに所属しています」
黙って腕組みしてグリーナの話を聞くゲンプ。
「彼女の容姿から見てもお分かりのように青黒い髪に、黒い瞳、少し黄色味を帯びた肌をしています。この特徴から解るとおり、彼女は間違いなくエストリア帝国人ではないでしょう。入学当初は言葉も上手く話せませんでしたし、子供でも解る我が帝国の歴史もあまり知っていなかったようです。初等学校・中等学校を卒業した記録も見当たりませんでしたので、彼女の過去は目下のところ不明です」
グリーナの淡々とした説明が続けられる。
「普通なら孤児か何かだと思われますが、彼女は決して孤児ではないと私は見ています。見てのとおり容姿は端麗で髪や肌はすごく整っている。私も同じ女性だから解りますが、どんなに美しくなろうと努力しても、髪質や肌質は簡単な努力では手に入らないのです。このハルと同じように美しい肌を得るためには、幼少期より何年も、それこそ生まれた直後からケアし続けないとここまで綺麗にはなれない。それも最高のケアが必要ですね」
投影されたハルの顔の部分が拡大される。
ゲンプは目を凝らして観察し、グリーナの言わんとしていることを納得する。
ハルと呼ばれる女性の肌はシミや雀斑がほぼ見当たらず、表面は滑らかであり綺麗であった。
髪も腰に届く程の長さであるにも関わらず、枝毛とはか目立たず、とても手入れが整っているのが解った。
とどのつまり、このハルいう女子は高貴な子女と変わらない生活を幼少期から送っているというグリーナの推測は正しいとゲンプも思うことになった。
「その上に、彼女は我々が理解できないような技術というか知識を持っています」
「技術? 知識??」
「ええ。端的に結論を言うと、彼女は魔道具の製作にとても高い適正を持っています」
「魔道具の製作だと?」
「そうです。彼女の功績は現在も進行形ですが、最近ラフレスタで流行っている『懐中時計』があるでしょう。公には『アストロ研究組合の成果』と言う事にしていますが、実はあれはハルひとりの技術で生み出されています」
「なんと!これがか!」
そう言って自分の懐から『懐中時計』を手に出した。
ゲンプも最近の巷の噂を聞きつけて、ひとつ購入してみたのだ。
これを手にしたとき、ゲンプはとても感心し、我が帝国の技術もここまで来たかと驚愕したものだった。
このような技術を持つアストロだからこそと、今回の合同授業の企画に興味を持つ切掛けでもあった。
「あら、お持ちでしたのね。そうですわよ」
グリーナも自分の懐中時計を取り出す。
これはハルから直々に貰った物であり、目覚ましなどの追加機能も付いた特別製だ。
これは凄いですよね、と自分の生徒を褒めるグリーナは、なぜか嬉しそうだった。
「そうして、私はある結論を導き出したのです。彼女の正体は南方諸国のどこかの貴族、もしくは、王族の末裔である可能性が高い・・・」
「・・・」
「今の南方諸国は、どこもボルトロール王国と争いになっています。そして、小さな国がいくつか滅んだと聞いています。その中には魔法技術に先進性のあった国もあったはず。彼女はそういった亡国の末裔ではないかしら・・・私はそう考えています」
「・・・」
黙って聞き続けるゲンプ。
「ハルは、あの子は物を作り、生み出す事に快感を覚えている。魔道具製作の申し子のような存在です。私はあの子の幸せを考えてこの・・・」
「惜しいとは思わんか?」
グリーナの言葉を突然ゲンプが遮った。
「惜しいとは思わんか?」
再びゲンプは繰り返す。
まるでグリーナに問いかけるように。
「何が、ですか?」
「ハル女史の将来の事だ。彼女の正体がもしグリーナ学長の予想どおりだったとしたら、アストロ卒業後にこのラフレスタから、いや帝国から出奔し、自分の故郷の再興のためにその力を使おうとするのではないか? 私だったら、そうするぞ」
「それは・・・」
グリーナは言葉に詰まった。
確かにそうかも知れないが・・・
しかし、いつもハルと接していたグリーナは、彼女からそういった意欲が感じられず、そんな事にはならないようにも思えるが・・・ゲンプを説得する材料としては乏しかった。
まずい、交渉を誤ったか。
グリーナが答えに窮しているのをいい事に、ゲンプの言葉が続けられる。
「これだけの魔道具を作れる逸材を帝国以外に出奔させる事は帝国にとって大損失だとは思えないかね」
「・・・」
「無論我々は平和国家だ。彼女を強制的に奴隷のように帝国に隷属させる気はない。しかし、ハル女史にはこの帝国を気に入ってもらい、腰を落ち着けても良いと判断する環境を用意するのも、我々先駆者の務めだと思うが、私の考えは間違っているかね?」
「それは・・・そうですね」
ゲンプは目が本気になっている。
これほど熱い人だとは知らなかったグリーナは少し戸惑っていたが、彼の言っている事に一理あるのも確かだった。
軽い肯定のつもりでそう答えたが、ゲンプはこれを大いに満足して、次の言葉へと続ける。
「そうか。納得してくれたか。この件は教育者たる私に任してくれ。今年のうちの生徒の筆頭は人間的にも最高の奴だからな」
「筆頭? それはラスレスタ高等騎士学校の学年筆頭生の事を言っているのですか?」
「ああ、そのとおり。奴は貴族の癖にやたらと気が利くし、低姿勢でなぁ。その上、弱き者を助け、強き者にもなびかない正義の心も持っている。今どきの若者でも稀有な奴がいたものよと感心できる奴だ。おっと、儂も気が利かない貴族の端くれだったか。カッカカカ!」
自分の言った事に、自分で受けるゲンプの姿。
これをどうしたものかと悩むグリーナだが、なんだかやたら高揚した気分になったこの貴族の爺様は一体何を言い出すのやら。
「とりあえず、奴にハル女史こと伝えておくから、奴がハル女史の人生の助けになってくれるだろう。だから、今回は何としてもハル女史を参加させてくれたまえ。何、悪いようにはせんよ」
「いや、しかし・・・本人の意思も・・・」
と、どう対応するか迷いを見せるグリーナであったが、この後は結局、迫力よく迫るゲンプに押し切られて、ゲンプの申し出を了承するに至ってしまう。
グリーナとてハルの幸せを考えれば、帝国で安泰に暮らすのは悪い選択では無いはずだ。
「解りました。ただし、もし事態が思うように上手く運ばず、悪くなると私が判断すれば、ハルを外す事もありえますので、その点はご了承ください」
「わかった。まぁしかし大丈夫だろう。それに儂の方は、多少の事も大目に見るつもりだ。そうだな、例えば、奴がハル女史の事を気に入り、もし、子供を生ませるような事態になっても、儂のところで預かってやるぐらいの覚悟はあるぞ。カーッカカカ!」
陽気に笑うゲンプだったが、これを冗談として受け取っていいものかどうか判断に悩むグリーナだった。
「どこから出るのですかその自信は。しかもそんなに早く子供はできませんよ」
「それも、そうだったな。カカカカカッ!」
どうやらこの人なりの冗談だったようだ。
そして、また自分の言った事を自分で豪快に笑うゲンプ。
ゲンプとは過去に何度か会談をしていたグリーナであったが、彼がこのように陽気に笑う姿を見たのは今回が初めだ。
どうやら今までのゲンプは他人用の対応だったようで、何を気に入ったのか、今日は彼の中で何かが吹っ切れたようだとグリーナは理解する。
今日一日で、ゲンプの素が解ったような気がするグリーナ。
この豪快実直な姿こそ、彼の本来なのだろう。
(それにしてもハル、ごめんさないね。しかし、あなたの将来の事も考えると簡単に断り切れそうにないわ)と、心の中で小さく謝るグリーナ。
「くしゅん」と小さなクシャミ声が研究棟の方から聞こえてきたような気もするグリーナだったが、彼女は敢えてそれは気のせいだろうと思う事にした。