変な町ピリオド、ちょっとおかしな街ダメレイト
「んん……朝……」
窓から差し込む日の光が私を起こす。
体を起こそうとすると、なぜか起き上がれない。
「ん?」
なんだろうと確認して見ると、イオちゃんが私に絡みついて……その、淫らな格好で寝ていた。
服は肌蹴て、私に絡みついてくる。
服の隙間から少し見える私よりは小さい胸が、私を誘ってくる。
「私女!」
……おかしい。アレシアから関係を持ったからか、女性をそういう目で見てしまうことがしばしばある。
起こそうと、顔を見ると、否応無しにその口元に目線がいってしまう。
昨日の夜の事を思い出し……
「っ〜〜!!起きて!イオちゃん!」
頰が火照り、結果イオちゃんに起こす事で発散させるのであった。
『マスター、朝からお盛んで何よりです。そろそろ私と関係を持ちたくなりましたか?』
「っ!?な、なんのことかな?」
『ああ、では言いましょう。私。あの時起きていました。マスターの考えが手に取るようにわかってとても楽しかったですよ』
こ、こいつ……嫌い!
『待ってくださいマスター!申し訳ありません!謝罪いたします!私は大好きです!』
「だからがっつき過ぎだって……」
本当に嫌いにならないよ……あんまりやり過ぎたらあれだけど。
『仕方がありませんね。マスターが大好きなので」
「恥ずかしい事言わないでよ……」
そうして、【森の鈴亭】から私達は出る。
次の瞬間。
『さあ!貴様らは免許皆伝である!太陽神の名の下に!貴様らを太陽の子として刻もう!』
「はい!」
「ありがとうございます!」
「師匠!」
「それでは!」
「一緒に!」
『「「「「「太陽神の光!!!!!!!!!!!!」」」」」』
筋肉達が、太陽と一緒に降りてきた。
「じゃあ、行こっか」
『理解不能、すみませんマスター、当機はこの状況についていけたないのですが、おかしいでしょうか?』
「いや?おかしいのはあの人達だよ?あともうマスター呼びは禁止」
『了解』
ギルドに行く途中に、カラスみたいな色をした翼を持った鳥が串焼きに虐められてたり。
鳥の被り物を被った半裸の男が、屋根伝いを走っていたり。
美女、美男児が集団で美しく歩いていたり……裸で。
やっぱこの町おかしいわと再認識しながらギルドについた。
『……そうか、新人類ってこういうものなのですね。5000年も経ったから、人の習慣が変わっているのは至極当然のことです。仕方がありません』
なんかイオちゃんが現実逃避しだした。
ギルドを開けると、筋肉達はそこにいなかった。
きっとまだどっかにいるんだろう。
ん?
「ローヴェンさん?」
ローヴェンさんがいた。
「ああ、ルーネか。おはよう」
「ローヴェンさん、3ヶ月は来ないっていってたんじゃ?」
「アハハ、家にいるだけで死ぬかもしれないからね、仕方なくここにきたんだ。そうだ!よかったら一緒に依頼受けないか?(これであいつらから離れられる!)」
ローヴェンは基本的に屑である。
「えっと、私はまだEランクなんですが、できる依頼はあるのでしょうか?」
「あ、じゃあダメレイトに行ってみよっか?あそこは無限ダンジョンがあるし」
「無限ダンジョン?」
聞いた事がない。
いや、そもそもダンジョン自体を知らなかったからいいんだけど。
「その名の通りのダンジョンだよ。何階まであるのかもわからない。何故か宝箱なんてものもある。そんな楽しいところ。稼ぎは結構あるよ」
「どうしようか、イオちゃんはどう思う?」
『そうですね、行くところがないので、行ってもよろしいかと。しかしそこの白髪男……もしルーネ様に手を出したら殺す』
怖い。
「アハハ……手とか出したら君に殺される前に他の3人に殺されるよ」
何故かローヴェンさんは震えていた。
「君も来るの?ルーネの友達?」
『私はルーネ様の下僕です』
「ちょっと!?イオちゃん!?」
変な事をイオちゃんが口走っていると、ローヴェンさんが。
「君も、大変なんだね」
「……まあ、そうですね……」
何故か同情されてしまった。
「じゃあ行こうk——」
バーン!!!
と勢いよくギルドの壁が壊されて、さっき外にいた裸美男美女集団が現れる。
「ここにローヴェンがいると聞きましたわ!さあ!出てきなさい!」
私がローヴェンさんの方に振り向くと。
ローヴェンさんはいなかった。
「……そこにローヴェンの匂いがします!右58°!捕まえなさい!」
「クソが!お前のヴォルペに入ることはねえ!」
「そんな美貌を持っていて私のヴォルペ『美の集団』に入らないとは!神を冒涜しているのと同じ事ですよ!」
「知るかああああああ!!!」
ローヴェンさんが頑張って逃げ回っている。
「はぁ、はぁ、こ、これで大丈夫な筈だ」
そこには嘗てのギルドは無かった。ボロボロになって、床は消え去り、受付カウンターだけはマリアさんが防いでいたが、それ以外は更地になっていた。
そこに立っているのは一人の男、ローヴェンだ。倒れているのは全裸の変態集団。
彼らのヴォルペ『美の集団』は、自分達の美しさを美しくない者に見せる事で美しくない者達の心を癒すという傍迷惑すぎる集団だ。服を着ない理由は服を着ない方が美しいから。
襲われないのかって?
襲われても退治できるし、ピリオドで性被害に遭っているには男性だけだ。
そこにはヴォルペ【プリティボーイ】が関係しているとかいないとか。
そのヴォルペに目をつけられたのがローヴェンだった。
疫病神もニッコリである。
美しい顔立ち等で、彼を『美の集団』に入れようとするも、失敗に終わったのだった。
「じゃあ行こうか!ほらはやく!責任がこっちに来る前に!」
まあ、こいつ自体は屑だから、こいつが酷い目に会うのは幸運の神様もニッコリである。
「え?お、おー!」
『では、【クレアちゃん】を呼びましょう』
「ん?なにこれ?次元収納魔法?あとこの機会は……機構国の人?」
『まあ、そんなところです』
あ、危なかったー、ローヴェンさんが勘違いしてくれてよかった。そうだよね、こんなのそこらへんにあるわけないもんね。【クレアちゃん】には悪いけど、大人しくしてもらおう。
『しゅん……』
『ルーネ様、【クレアちゃん】が今悲しいですとか連絡きたのですが?』
「そんなことまで判断できるの!?」
「何言ってるの?早く行こう!あいつらが来る前に!」
なんでこの人はこんなにも必死なんだろうか?
◇
男は歩く。
森の中を歩く。
手に持っているものは黒く白い大剣。
この大剣は黒と白に色が分かれているわけではない。
黒色で、尚且つ白いのだ。
少し歩くと周りがざわつく。
男は足を止めることなく歩く。
すると次の瞬間、周りにいた魔物達が一斉に男へ向かって攻勢を仕掛ける。
「雑魚が」
男が大剣を振るうだけで魔物は消滅し、木々も枯れる。
先程男は雑魚だと言ったがそうではない。
先程の魔物達はこの世界では『魔王』と呼ばれる程には強かった。
男が異常なのだ。
勇者が仲間達と協力してやっと倒せる魔物を片手で数百体を瞬時に倒してしまう男が。
『まあまあ、私とガイアスが力を合わせているんだ。この世界では一番強い私と2番目のガイアスだよ?そんじょそこいらの魔物は雑魚になるさ』
「何度も言わせるなルシファー、俺が一番だ」
傲慢。
彼の言葉を表すならばその一言に限るだろう。
しかし彼にはそれを言う力がある。
故に彼は探す。自分よりも強い相手を。
そうして、一体のオオムカデが現れる。
体調は優に10メートルを超え、漆黒の骨格は鱗のようだった。
奴は『蜈蚣王 セネピートキング』かつてとある世界の国を壊滅させたと言う凶悪な魔物と同一個体である。
「邪魔だ」
だが、最強には敵わない。まるで道端に転がっているカンを蹴るように、一線。真っ二つにされたムカデはその時初めて自分の死を認識する。
『おや?宝箱が落ちたよ。拾おうか』
「そうだな。拾わなければローヴェンが五月蝿い」
中身も確認せずに同じパーティを組んでいるやつから受け取った別の世界に収納すると言う指輪で宝箱を収納する。
「……そろそろ出るか。あそこにポイントがある」
『おや?ガイアスが出るなんて珍しい。帰るのかい?』
「そうだな。久しぶりにローヴェンにあってみようか」
そう言い、ポイントと呼ばれる場所に立つとワープされる。
ここは無限ダンジョン、45000階層。
ヒトが来てはいけない場所である。
◇
「いや〜楽チンだねえ。このクレアって乗り物は」
そう言っているのはローヴェンさんだ。ピリオドから結構離れたところから機嫌がいい。
「そうですね。まさかここまで快適だとは思いませんでした」
『……ルーネ様、クレアから嬉しいですと来ました』
「そ、そうなんだ」
「あ、そうだ。ダメレイトはピリオド程じゃないけど変わった町だからよろしく。あと、女性が標的になるよ」
その瞬間、周りが凍りつく。
『ルーネ様、及び私が何か被害にあった瞬間にそのものは抹殺します』
「いいと思うよ〜」
軽すぎる!?
「軽くないですか?」
「まあ、そう言うリスクは付き物だしね。たまにダメレイトでも変死体が発見されるらしいし」
「そ、そうなんですか」
……何か話したいことは……あ、そうだ。
「そういえばローヴェンさんってティアナさんと同じパーティなんですよね?」
「そそそそそそそそそうだね。同じパーティだよ」
……何故ティアナさんの名前を聞いただけでここまで怯えるのだろうか?
確かにスキンシップは過激だと思うが、それ以外は悪い人じゃなさそうなのに。
「ティアナさん以外にもいるんですか?」
「ああ、いるよ。ティアナとキアラとアガレスとリュークとメルデンとガイアスと俺の7人、Cランクパーティだね」
「へえ……なんだか私には遠いですね」
「いやいや、そうでもないよ。ティアナとかメルデンとかリュークはランクまだEだしね」
なんだか以外だ。最高ランクは誰なんだろうか?
「一番強いのって誰なんですか?」
「え?うーん……ガイアス……か?いや、リュークも……ま、まあ。みんな個性的だけどいいパーティだよ!(うん、そうだよ。いいパーティに決まっている。あと誰が一番強いか選手権はもう起こさないでほしいな)」
悲痛である。
「あ、そうだ!ルーネも俺のパーティに入って見ない?(そうすれば頭のおかしい女だけじゃ無くなる!巷で『あのパーティの女顔だけはいいよな。顔だけは』って言われなくなる!)」
やっぱり屑であった。
「いえ。私なんかが入っても無駄でしょう。そんな事よりも無限ダンジョンというのに興味があるんですが」
「ああ、無限ダンジョンね。今の最高到達階層は『106』階層だって言われてるよ。絶対嘘だけど」
「だ、断言しますね」
「いやあ、こういうのって報告義務がないからね。自分の強さを見せびらかしたい中級が言ってるだけだよ。ぶっちゃけルーネなら200階層までなら行けるよ」
それ、自分が200階まで行って敵の強さを知ってるから言ってるんじゃなかろうか?
「それじゃあ仕組みをおしえよっか。ダンジョンには各階層の階段の下にポイントって言う青い光が射す場所があるんだ。そこに入るとあっという間に地上にあげって来れて尚且つダンジョンの入り口で赤い光の中に入れば前入ってきたところから始められるんだ」
「成る程、では一日で一階層進める……と言うのが主流になって来そうですね」
「そうだね。……ガイアスは今どこまで進んでるんだろうなあ……」
そう言ってローヴェンさんは虚無を見ていた。
「あ、じゃあ危険人物とか知りたいんですけど!」
「危険人物?まずは受付嬢のオルタさんには注意だよ。ヴォルペ『百合の会』を作った人だし。あとエルフ。対象は可憐な乙女、らしい。あとはゴロツキみたいなのも跋扈しているから。普通に男に襲われる事もあるよ。まあ『百合の会』が助けてそのまま関係を持つなんて事もするけど」
「あ、あの。ゴロツキ達の実力ってどのくらいなんですか?」
「ん?ん〜負けはしないよ」
本当だろうか?私この大陸に来てかなり落ち込んでいるんだが。
『もうすぐでつきますね』
「お、もう着くか。いいねいいね〜楽だ。それに俺が外から見えないのもグッドだ」
「じゃあ降りましょうか」
そうして私達はダメレイトに入った。
ダンジョン街なんて言われる事もあるらしいダメレイトは円状の街だった。
私はまず驚いた。
「人が普通です!?」
「ピリオドから来るとどうしてもそういう反応になるよね〜」
人が普通に生活しているのだ。
家具とか串焼きが空を飛んでいない!
なんだここは?楽園か?
『ル、ルーネ様……たった2日しかピリオドに居なかったのに、すでに毒されて……およよよ……』
ここを日本の街で例えるなら東京。
店がいくつも並んで人が忙しく動いている。
「凄いですね……賑やかです……ピリオド程ではありませんが」
「あそこ賑やかって言うより五月蝿いだから」
『全くです』
なんだろう、ピリオドが凄いディスられてる。
「まあそんな事はどうでもいいんだ。さっさとギルドに行こっか」
「ここにもあるんですね」
「まあね。ダンジョンに行けるようにギルドに登録しなきゃいけないんだよ」
「なるほど、Eランクでも大丈夫ですか?」
「大丈夫大丈夫、ピリオドから来たって言えば列とか開けてくれるよ」
どんだけピリオド嫌いなんだろうか?
「さて行こうか」
ローヴェンさんについて行くと。
「ダンジョン50階層から出た宝箱だよ!ここいらじゃ滅多に出ない出土品だ!」
ダンジョンから出た宝物を売っている人や。
「そこのお兄さん、ちょっとウチの店によっていかない?」
ローヴェンさんをいやらしい店に連れてこうとする娼女。
「あははは……遠慮しときます」
その人にやんわりとお断りをするローヴェンさん。
など、他にも武器を売っていたり盾を売っていたり料理を売っていたり……
「なんか、普通ですね」
普通だった。
「そうだね。ピリオドからここに移住する人も結構いるよ。だから今ピリオドに住んでいる人はここに移住しなかったピリオドに適応しちゃった人だから」
聞きたくなかった。
『ルーネ様、ここに移住しますか?』
「いや、私はなんだかんだでピリオド気に入ってるから」
「じゃあピリオドの住人だ!」
あははと少し可笑しそうにローヴェンさんが笑う。
「さて、ここがダメレイトのギルドだ」
でかい。今は更地になっているピリオドのギルドよりもでかいだろう。
そして、ローヴェンさんがドアを開けようとした時。
「じゃあいこうk——」
ドアに吹き飛ばされた。
「ん?人がいた?ごめんね?って……ローヴェン!」
そこにいたのは小さな女の子だった。
「ローヴェン!大丈夫!?」
金髪で紫眼の幼女がローヴェンの元に駆け寄る。
「うわああああああああ!!!!!なんでお前がここにいるんだ!タラン!!」
めっちゃ綺麗に後ずさりしながらローヴェンさんは幼女……タランを見る。
「なんでって……そんな事よりも久しぶりに会ったのになんで逃げるのよ」
幼女は少しご立腹の様子だ。
「なんで……っち!ここじゃまずい!お前の部屋に案内しろ!」
「あら……そ、そうね。けどごめんなさい。シャワーを浴びてからでもいいかしら?」
顔を赤らめて恥ずかしげにモジモジするタランに対し、
「却下だ。ルーネとイオも早く!」
すっごい焦りながらローヴェンさんはタランを抱えて走る。
「あの人、誰なんだろう?」
『さあ?面倒な事になったのは間違いないでしょうが。あの男が不幸そうなので満足です』
「なんでイオちゃんはそんなにローヴェンさんの事嫌いなの?」
『いえ、嫌いというわけではないのですが……流石人工知能と言うべきか、あの男はどうしても好きになれないのです』
やっぱりイオちゃんは人間なんだな……
『……マスター、人間は機械に。機械は人間に向かって進化して言っているのです。その言葉は褒め言葉ですよ?』
「貶してると思ったの!?」
『ふふ、いいえ。しかし、あまり私を人間と思わない方がよろしいかと』
「ここか?お前本当にこんな所に住んでるのか?」
着いた先は普通の宿屋だった。
何を驚いているのだろうか?
「そうよ?何か変?」
「いや、お前……わかった。部屋に案内しろ。そこでゆっくりと話をする」
「まさかこの子達も?」
この子達、と言うのは私達の事だろう。
「えっと、私たち、は。大丈夫、なの、で。ふ、二人で、積もる、はなし、も、ありそう、です、し」
『ルーネ様、挙動がおかしいです』
わ、私の人見知り治ってなかった!?
イオちゃんとは大丈夫だったのに!
『……ルーネ様、ルーネ様のその症状は人と話す時になるもの、残念ながら機械である私と話せてもほかの人間と話せるようになるとは限りません。又、学術で機械との方が話しやすいと言う結果も出ております』
「早く言ってよ……」
「いや、2人にも話す。この件は女子がいないと面倒な事になる」
「えー、別にローヴェンでもいいのに」
「やだよ!お前そう言って前に既成事実作ろうと押しかけただろうが!」
「てへ!」
ローヴェンさんが翻弄されてるってなかなか珍しいな。
『そうでしょうか?よく見かける気がしますが』
「そんな事よりも早く中に入ろう!」
「はーい」
中に入ると、そこは普通の宿だった。
部屋とかも大して変わらない。強盗とか来たら危なそうだなとかは感じるが、私が勇者として各地を回った時も大体こんな感じだった。
「さて……お前はこんな部屋で何してるんだ?」
「何って……冒険者してるのよ?ランクも今はCなんだから!あ、あとダンジョンも結構奥まで行ったわよ?」
「……まあ、お前の強さは認めてるよ、だがな……【サイレント】」
ローヴェンさんが何か言う前に、ローヴェンさん自身が部屋全体に【サイレント】の魔法をかける。
この魔法はその名の通り、サイレント、中からの声を外に出さない魔法だ。普通に扱いが難しい魔法なんだが、普通に使っているところを見るとローヴェンさん、魔法の技術もかなり高いと見える。
「で?だ。なんで皇女のお前がこんな所に住んでるんだ?」
え?
おう、じょ?この子が?
「心配しすぎよ。誰も私を皇女だって知らないし、私を狙う奴なんてゴロツキくらいでしょう?だったら一瞬でのせるわよ?ここの実力者ってピリオド程じゃないけど訳わかんない思考してる奴らばっかだし。あ『百合の会』だけは警戒してるわよ?」
「はぁ……それでも俺の心臓が止まるから危ない事しないでくれ。この前王様に直々に『お前娘と結婚すんの?』とか言われたんだぞ?胃に穴が開くどころか穴に胃が湧いたわ」
「まあ!お父様ったら!公認なのね!だったら問題ないわ!お姉様やお兄様がこの国をなんとかしてくれるのでしょう?私はローヴェンと結婚したのと同じじゃない!」
キラキラ目を光らせるタランと絶望に顔を落とすローヴェン。
「……(まあ、普段のメンバーよりは頭おかしくないが、こいつの存在事態が事故物件なのだ。結婚したいとか抜かす奴はどうかしてると思う。)」
これには貧乏神もニッコリ。
「ところで、この2人は?見たところそんなに強くなさそうだけど」
その言葉が私の心を抉る。
「ううう……最近、ピリオド、に、引越してき、た。ルーネです」
『ルーネ様の下僕のイオです』
「え?ピリオドに来たの?なんで?こんなに弱いのに?」
「おい、タラン。やめろ」
ローヴェンさんがタランを睨みつける。
それに少したじろぐが、直ぐに言い返す。
「だって本当の事じゃない!あそこにこの程度の人がいたら直ぐに死んじゃうよ!ローヴェンわかってるの!?」
「そいつらは、マリアからギルドカードを受けとってる」
?それがどうかしたのだろうか?
「え?それって普通じゃないんですか?」
そう思ってタランを見てみると。
「う、嘘でしょ?こいつらが?ありえない」
な、なんだろうか?なんでそんな化け物を見るかのような目で見るのだろうか?
「わかったか?こいつらはピリオドの住人だ。それ以上言うなら、お前でも容赦はしない」
殺されると。
そう思った。
それはかつて味わった魔王の殺気なんかとは比べ物にもならなくて。
ローヴェンさんが放った殺気はタランだけじゃなく、私や、イオちゃんにまで向けられていた。
そんな中一番に動けたのは、イオちゃんだった。
『その行為をやめなさい。さもなくば、殺します』
イオちゃんがいつか持っていた棒。確か細胞を破壊する奴だ。
それを見たローヴェンさんはふっと笑い、いつもの調子に戻る。
「ふふふ、やっぱりな。タランを見てみろ」
ローヴェンさんに集中しすぎてタランを見てなかった。
どうしたのかと思いタランを見てみると……
「泡吹いて倒れてる!?」
ぶくぶくと泡を吹いて倒れていた。
「この程度の殺気でこうなるんだ。こいつはピリオドに行けない。その点でルーネとイオは合格だ。あの中で諦める事を良しとせずに俺に立ち向かおうとしてきた。それくらい出来なきゃな」
ケラケラと笑っているが、この人への警戒度合いがグンと上がって行く。
この人は、なんなのだろうか?
「あのな?それくらい恐れられると流石に俺が泣くぞ?」
「ご、ごめんなさい。少し、怖かったので」
「良いって。それよりもタランが目冷めるまで暇だな。起こすか?」
そう言い、指先で雷をバチバチさせる。
「いや、流石にそれはかわいそうかと…………あの、私とタランってどっちが、つ……弱いですか?」
「……お前の方が弱いな。技術とかなら優ってるんだろうが、タランは身体能力が凄まじい。あいつの闘い方は身体能力に任せたゴリ押しだ。戦えばどちらが勝つかわからないが、それでもお前が弱い」
「そう、ですか」
弱い、身体能力……どうすれば良い?
「まあ、ダンジョンに籠るのも一種の手だよ。ダンジョンの魔物は倒すと経験値?ってのが手に入ってその分だけ力が上がるらしいし。まあ、タランの身体能力は天性のものだ。それに魔物倒して上乗せしようとしてるんだろうな」
「ローヴェンさんは、経験値を集めないんですか?」
「え?うーん、経験値って自分と同じくらいかそれより上の敵倒さないと貰えないからなあ……俺が経験値を稼ぐとなると、最低でも1万とか覚悟した方が良さそうだし、行く気は無いよ」
さらっとこいつ超人だな。
いやなんさっきの事で分かりきってたけど。
「そう、ですか。」
「良い目をしてる。それじゃあ良い人を、いや。まあ引き受けてくれるかは分からないけど師匠っぽい人を教えてあげようか?」
「師匠?」
「ああ。ルーネって剣、それも直剣を使っているよな?だったらここにちょうど同じように直剣使ってるやつがいるんだ。少し教えてもらうか?俺が教えても良いが、俺の型はかなり特殊だし、変な癖が付くよりも王道のあいつに任せた方がいい」
『おや?私が抜けておりますよ?」
仲間はずれで寂しかったのか、イオちゃんが入ってくる。
「ん〜〜〜イオって道具を使うタイプだろ?」
『まあ、そうですね。肉体を使う事はあまりありません』
「じゃあダンジョンに籠るしか無いんじゃ無いかな?」
『っち、この男、私ルーネ様の深い愛を切り離すつもりですね?』
すっごい憎々しくローヴェンさんを睨むイオちゃん。
「いや、イオちゃん。ダメだよ?考えて言ってくれてるのに」
『ルーネ様……。……外が騒がしいですね』
なんだか初めはウルウルとした目で見て来たのに、急に雰囲気が変わる。
そしてその言葉に外に耳を傾けて気付く。
「これは、地震?」
「お?丁度いいタイミングだね」
何を言っているんだろうか?窓を開けてみると、そこには3メートルにも達しそうな大男が歩いていた。
「あれが、君に紹介するつもりだったガイアスだよ」
「は?」