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ギルド登録

「では、自己紹介をさせて頂きますね、私の名はマリア。僭越ながら、ここの受付をやらせていただいでおります」


深くお辞儀するマリアは本当に女性のようだった。ティアナと同じくエルフだからなのか、金髪で耳が長く尖っており、翡翠色の瞳は見るだけで吸い込まれそうになる。

だが、彼は私を見ていなかった。ずっとローヴェンさんの方に熱い視線を送っている。

因みにローヴェンさんの方は熱くなったのか、だらだらと汗をかいている。

大丈夫だろうか?


「マリア、これが依頼書だ。ちゃんとサインもあるだろう?」


「確かに受け取りました。では、20万ケルンですね、そして、見事新人を連れてきてくれたので、プラスして25万ケルンです」


25枚のケルン金貨が入った袋をローヴェンさんに差し出す。

恐る恐るローヴェンさんが受け取ると、瞬時にその手を嫌らしく撫でる。


「今日の夜、一緒に話し合いませんか?」


「いやあ……今日は……というか、今日から3ヶ月は来ないと思うので……」


「錬金術師も大変ですね。そうだ!私がご飯を作りに行きましょうか?」


「あはは……大丈夫ですよハイ」


なんかすごい事になってる。

側から見ると、美人なお姉さんのお誘いを断る美男子だ。

まあ、正体はオカマを振り払う哀れな小動物なのだが。


「また錬金術か?私たちのパーティなんて言われてるのか知っているか?」


すると、ティアナさんがやって来る。


「さあ?放浪集団とか?」


「引き篭もり集団だ」


どういう事なんだろうか?引き篭もり?というか、この二人はパーティだったのか、あれ?じゃあほかのメンバーは?


「いや、引きこもってるの俺とリュークとメルデンだけじゃん」


「パーティメンバーのほぼ半数が引きこもってるのだが?」


「……いやほら、俺は王族からたまに注文来るし……」


なんかすごい事をさらっと言った。王族から注文が来るほどの錬金術師?それってこんな辺境にいていいのだろうか?


「それにアグナスを忘れているだろう」


「あいつは仕事で出れないだけだろ?……まさかお前」


すごい青い顔をしてローヴェンさんがティアナさんを見る。

するとティアナさんは(ない)を張ってこう言った。


「あいつの工房は私が買い取った!」


「クズだなお前!」


「なんとでもいえ!なあ、私の今持っている金額はこの国を傾かせるくらいにはある。船の護衛なんて事で小銭を稼いでいるお前にもいいバイトがあるんだ、なあ、わたしと子作りしないか?私は尽くすぞ?」


「怖い!言っとくがお前それまじで怖いからな!あと、アグナス大丈夫かよ……」


なんだろう、すごい痴話喧嘩みたいなものだが、一人は国内でも有数の超大金持ち、一人は王直々に依頼をする錬金術師だ。

レベルが高すぎてちょっとついていけない。


「あ、それではギルドに入るための試験を言いますね」


「このタイミングで!?」


マリアさんあの人達いいの?仲間をさらっとあのエルフ売ってるんだけど!?


「あの。エルフって、あんなにその、俗物何ですか?」


ちょっと怖いけど、聞くしかない。だって、こういうのは偏見が視野を狭くするから。


「そうですね。森から出てきたエルフは基本俗物ですよ」


「そう、ですか」


なんか、イメージが崩れ去った。

いや、これから私の冒険者生活が始まるんだ。お金はまだ幾らかあるけど、やっぱり収入は欲しい。


「ではこちらへ、試験を受けてもらいます」


「し、試験」


そうだ。

ここにきたからって冒険者になれる訳じゃない。

……大丈夫、私ならできる。

愛剣はないけど、わたしにはこの世界にきたときに力をもらった。

この世界を過ごして技術を磨いた。

勝てなくてもいい。

ローヴェンさんみたいな強い人がいっぱいいるんだろう。

今は勝てなくてもいい。ただ、わたしの力を認めさせる!


マリアさんの跡をついて行き、ギルドの裏口から出て、丘の中の森に入ると、魔物たちがやってきた。

猿のような魔物だ。速い上に頭が良く、それに攻撃力もそこそこ高い。

それ以外にも、うさぎのような魔物や中型の鳥の魔物が表れる。

どれも強い奴らばかりだ。

魔王の近くには強い魔物が出やすいらしく、こいつらのような奴らもいた。

だが。


「この程度!」


この程度なら、切り抜けた。

この3ヶ月間、あまり実践を行なっては来なかったが、それでもトレーニングだけは続けた。

そのおかげで、わたしの体はあの時と遜色ない、いや、それ以上に動けていた。

何十体か斬り伏せた後に。


「ふう……終わりました」


「へえ、なかなかやるわね。けど、ごめんなさいね?この上に用事があるのよ」


「え?」


まあ、疲れてはいなかった。

ただ、ただ!猛烈に恥ずかしかった。

わたしは自分の知らない間に膝を抱えて、顔を手で覆っていた。


「は、恥ずかしい……このまま消えて無くなりたい。めちゃくちゃ恥ずかしいぃ……」


「もう。疲れてはいないみたいね、なら、さっさと行くわよ」


「は、はいぃ……」


上に上がると、そこにはコロシアムがあった。


「これは……」


なぜ丘の上にこんなものがあるのかと考えていると。


「むう?遅いではないか。この俺様を待たせるとは、良い度胸をしているな、マリア」


美男子がいた。

いや、透き通るような声に美しい茶髪、青い瞳、目や鼻、口のバランスも良く、美男子であったのだろうと予測はできるのだが……


「あら、ごめんなさいね、ルーちゃん」


「ふん、まあいいだろう。これで今回の借りはチャラだからな」


ルーちゃんと言われた男が歩くたびに揺れていた。

その手には二本の獲物を持っていた。

ルーちゃんが歩くたびに何が揺れたかって?プニプニのお腹。

二本の獲物とは?あの、飛ぼうとする串焼きである。


「あの……この人は?」


マリアさんに聞くしかない。口下手とかはどっかに言った。


「ルーちゃん!本名はルーキアス!食い逃げ常習犯よ!」


ダメじゃねえか。


「ふん、金ならばある。だが……俺は美味い飯にしか金は払わん!」


ダメじゃねえか。

というか、本当に金あるのか少し心配になってくる。


「も〜ダメでしょ?お店の人も迷惑してたわよ?」


「は!不味い飯を不味いと言って何が悪い、そのくせ金を払えだ?もっと美味い飯作ってから売れよ!そうは思わんか?そこの女」


そこで私に振る!?


「え、いや、確かに。美味しい料理は欲しいですけど。お、お金を払わないのはダメだと思います!」


な、なんとか言えた。

そんな風に私が満足していると。

いつのまにか串焼きを食べ終わっていたルーキアスがこちらに向き。


「そうか、まあいい。では、私が貴様の試験監督だ。貴様の勝ちは5分以内に私に攻撃を一度でも当てること、負けは貴様が勝てないこと、では、行くぞ」


ちょっ!?

そんなに言われても一瞬で理解できるほど、私の頭は良くないのだが、無情にもルーキアスは動き始める。


初めは、まあ勝てるだろうと思っていたが。


速い。

それも、さっきの猿は比較にならないほどに。

だが、私の攻撃を一度でも当てれば私の勝ちだ。

ここで諦めて冒険者になれなかったら、私は後悔する。

だから。


「行きます」


右足で思いっきり踏み込む。

その先には。


「ほう、俺の動きを呼んだか。だが、あまい」


ルーキアスめがけて剣を振るうが。

剣を空を切り、ルーキアスは空へ逃げる。

飛んでいるのではない。

跳んでいるのだ。落ちる前に足の下の空気を風魔法で爆発させる。

そんな少しでもミスしたら足が爆発するような技をポンポン使ってくる。

……こいつ、強い!(デブなのに)

ならば、手段は選んでいられない。


私に体の無尽蔵の魔力を一斉に凝縮し、全方位に一斉に放つ。

中級魔法くらいの威力しかないが、それでこれなら当たる!


全方位(デレクション)虐殺(ジェノサイド)!!!」


ただ、それでも中級の威力はある。

そこらへんの魔物たちはこの技によって数千匹は殺されている。

ただ、これで勝った!


「ほう?そこそこやるな、貴様。だが【フィンドブレス】」


ルーキアスが右手を突き出すと、ドラゴンしか使えない技、ブレスの呪文を使ってくる。

ブレスの呪文は最上位と言っても過言ではない強さだ。

勿論、私の【デレクションジェノサイド】は吹き飛ばされ、私自身も吹き飛ばされそうになるが、なんとか堪える。

そして、今がチャンスだ。

魔法を使うと硬直時間が生まれる。そこを突く!

私とルーキアスの距離は2メートル、このくらいならば、0秒で当てられる!

私の最速の技!


流星突き(メテオスタップ)!!!」


この技は音速すら越える!

当たった!


「まあ、及第点だ」


その瞬間、私の剣は見えない壁によって阻まれた。


「なん……で……」


【メテオスタップ】は私の中で最速を誇り、最大威力ではないが、そこそこの威力は持っていた。

いくら市販の鉄の剣でも、これを食らえば、純竜はおろか、魔王ですら深傷を負うだろう。

だが、目の前の存在は無傷だった。

心が折れそうだ。

もうチャンスはないかも知れない。だが!


「諦めるわけには、行かない!」


「それほどか?貴様にとってなんの価値があるというのだ?」


確かに、私は今入ってもこのギルドでも足手纏いにしかならない。

だが!


「だからって!諦めていいわけじゃない!」


おそらく、いや間違いなく山が一つ消えるが、これならば、あの見えない壁を破壊できるかも知れない!


「神よ!我が——」


「はい!五分経ちました」


その瞬間、わたしへと集まってきた力は霧散した。

足から崩れ落ち、体が地面にぶつかる前に手で支える。四つん這いのような感じになってしまった。

勝てなかった。足元にも及ばなかった。

わたしは、今まで自分が強いと思ってきた。だが、それは間違いだった。

……わたしはこれから何をすればいいんだろうか。


「すまなかった」


そう考えていると、不意にルーキアスさんが話しかけてくる。


「いえ、私が悪いんです。私が弱かったから」


言っているだけで悔しさで全身から血が溢れそうだった。

この三年、いや、この三年でここまで強くなれたのがおかしいのだ。


「今度は、もっと強くなって、冒険者ギルドにやってこようと思います」


せめてもの痩せ我慢で、自力で立ち、笑顔を向ける。


「いや、貴様の心には感服した。すまなかったな。これからは、不味い料理でも金を払う事にしよう」


「はい、そうでs……え?」


今、なんと?どういう事?


「あのルーキアスさんが!?あのルーキアスさんが金を払うと宣言!?恐ろしい子!」


なぜかマリアさんが驚いているが、無視だ。


「あの、さっきの戦いは?」


「む?無論、貴様と私の意見が食い違ったから、決闘でお互いの意見を通そうとしただけだろう?確かに俺が勝ったが、貴様のその心に俺は感動した。だから今回は俺の負けだ。そうだ。名前は?」


「ルーネ、です……」


「ふむ、ルーネか。よし、この俺の加護を与えてやろう」


そういうと、ルーキアスの体がひかり、その光は私の中に入ってゆく。

というか、なんでここの住人みんな体ヒカルの?体質?


「あの、試験監督と言っておりましたが」


「ああ、決闘後に言うのも面倒だと思ってな、あそこで話した」


「じゃあ今回の決闘で冒険者になれるかは?」


「決まるはずないだろう?」


私はその時ほど死んで石になりたいと思ったことはない。





私が羞恥心から解放され。


「えっと、では、冒険者になるにはどうすればいいのですか?」


あまりの羞恥心でか知らないが、ルーキアスさんとは普通に会話できるようになっていた。


「ふむ?ああ、別に試験管の元へ行くだけで良いぞ?たまに登録せずにギルドの人間になったと思い込んだ馬鹿がいるからこのように試験とは名ばかりの試験を作っただけだしな」


その頃〜


「ぶえっくしゅん!」


「どうした?ローヴェン、もう少しで私が体で暖めてやるからな?」


「やめろ、お前まじでやめろ!アグナス!お前俺を裏切るのか!」


「うるせえ!わしも自分の工房こいつに買われて今じゃこいつの言いなりになるしかねえんだよ!」


「お前まじでやめろ!いいか?俺が望んでるのはハーレムでもなんでもなくてただ人生の中で一人の愛する人を見つけてその人と一緒に暮らすんだ!ハーレムも逆レイプも望んでねんだよ!」


「大丈夫だ!私がお前の理想の女になってやるから!」


「だったらまずはその性欲直しやがれ!?」


ひとりの馬鹿の貞操が結構まじで危ぶまれていた。



戻って〜


「そんな人もいるのですか?」


まあ、この町はちょっとおかしな人が多いから、……思えばローヴェンさんってその中ではかなり常人だったんだなあ……まさかローヴェンさんがその馬鹿なわけないか。


その頃〜


「いやあああああああ!!!!!????お前、お前!そ、それは前俺が遊び半分で作った媚薬!?」


「そうだ、あの大絶賛だった媚薬だ。10g投与するだけで1日中ヤリまくったと言う今でも販売しろと煩いし、結構金になると言われてお前がノリノリで作った媚薬だ。これを……1キロ投入する」


「あ、死んだ」


「これは流石にわしでも可哀想になってくるな……」


1人の馬鹿(ローヴェン)の貞操どころか命までもが危ぶまれていた。


戻って〜


「それにしても、ルーちゃんが加護を上げるなんてね、めっずらし〜」


マリアさんが、そんな事を言っているが、なんだろう、加護って?

いや、加護自体は知っている。私も大精霊の加護を受けている。だが、この人の加護は強くなった気もなにかが入った気もしない。というか、人間が加護を与えられるのが驚きだ。

もっと高位の存在、精霊とか、天使とか、あとドラゴンや竜じゃないと無理だと思っていたのだが。


「まあ、そんなことはいいだろう?俺は腹が減った。ではな」


すると、私ですらギリギリ見ることのできる速度で走ってゆくデブ。


「まあまあ、ああそうだ。ルーネちゃん、はいこれはギルドカード、あなたはEクラス……まあ、最初の段階ね、これから依頼をこなしてどんどん上へ目指して頑張ってね」


そういいカードを渡してくる。

名前の欄が空白だ。


「ここに名前を入れるんですか?」


「そのカードを持って自分の名前を念じれば勝手にカードが書いてくれるわ」


あ、ほんとだ浮かび上がった。面白い。


「うんうん、じゃあ帰りましょうか」


「あ、そうだ。ローヴェンさんって今ランクいくつですか?」


「ローヴェンちゃんはCランクよ、因みにルーちゃんはDランク」


あれでD!?


道のりは長いなとひしひしと感じてしまうのだった。





その頃〜


「むふーーーむぐうううううう!!!!?むううううううううううう!!!!!(やめろ!!!!!!やめろおおおおおおお!!!!1キロ過ぎてるぞお前えええええ!!!!!!)」


「はははは……はぁはぁ、ローヴェンは生欲がないかもしれないからな、もっと、1キロじゃダメだ、もっと!もっと!ああローヴェン、早く早くと言ってくれてるんだね?もう、せっかちだなあ……」


「(死ぬ!死ぬ!いくら俺でも1キロが限界だっての!おい!アグナス!まじでやば……アグナスうううううう!!!!!!)」


アグナスは、流石にやめとけってと言ったときに、不幸にもティアナの琴線に触れてしまい、睡眠毒で眠らされていた。


「(あいつめちゃくちゃいい寝顔しやがって、ぜって許さねえ、あとでブン殴る……いや、アグナス眠らされる毒ってかなりきついぞ?多分常人が煙を吸っただけで永遠に寝れるくらいキツイはずだ……ごめんよアグナス、でも殴る)」


これは理不尽に立ち向かうひとりの男の話、因みに部屋の匂いが媚薬で充満していて、最終的に普段から薬を使っているローヴェン以外、まあティアナだが、ティアナはあまりの薬の効き目に最終的に腰をへこへこさせながら気を失ったらしい。

そして、その薬は4キロほどになっており、それを全て床にぶちまけ、町中に薬の効果が蔓延したのだが、さすがピリオドの住人、そこまで空気で薄められた薬はなにも効果を持たずに、事件は起きないのであった。


のちに被害者はこう語る。


「絶対あいつと一緒に寝たくない」



なんとかギルドに入れたけど……

やはり少し思うことがある。


「あの、マリアさん。私って、弱い、ですよね」


「まあそうねえ。このギルドの中だと一番弱いかもしれないわね」


はっきり言ってくれる。


だけど、それが嬉しかった。変に気を使ってくれなくてよかった。


私は弱いんだ。今まで魔王を倒したから、強いと思っていたけれど、やっぱり私は弱いんだ。


「どうすれば、強くなれますか?」


「そうねえ……先ずは依頼をいっぱい受けて見たらどうかしら?全部教えてもらうだけじゃダメよ?自分で考えて動くのよ。だって、あなたの人生でしょう?」


最後の言葉が、少し悲しく聞こえた。


それを振り払うように。私は返事をする。


「はい!」


「では、今日は宿に泊まろうかと思います」


「じゃあ、【森の鈴亭】に行きなさい。あそこならば多少煩くても見逃してくれるし、お金もかからないわ」


「ありがとうございます!」


本当にマリアさんは良い人だ。


何故オカマなのだろうか……それさえ無ければもっと恐れられないでよかったのではないだろうか?


「私はここで後片付けするから先に降りちゃいなさい」


「はい!」


そうして私は丘を下り、【森の鈴亭】へ足を運ぶのだった。





「出てきたらどうかしら?“リューくん”?」


私がそういうと、背後の茂みからルーキアスが表れる。


「流石だな、まさか俺に気づくとは」


「はぁ、貴方が本気を出したら見つけられるわけないでしょう?それで?彼女に加護を渡した理由は?」


「む?別段意味はないぞ?」


悪びれもせずに言ってくれる。


こいつ、自分がどんな存在なのかいまいち理解してないんじゃないかしら?


「どんな加護を与えたのよ」


「さあな?あれはあれが成長するための加護だ。ルーネが一途に力を願えば貸してくれる。そういうものだ。あれは今は何ににもなっていないが、逆を言えば何にでもなれるということだ」


はあ、流石ね。


「それは、どんな事でも、かしら?」


「勿論だ。俺は龍だぞ?竜でもドラゴンでもない。この世界の支配者だ。どんな無理でも捻じ曲げてみせよう」


「あらそう?じゃあ私も貴方の加護が欲しいのだけれど?」


「貴様は面白くないからダメだ」


「これだから龍は……」


全く、龍は本当に面倒よね。


だって面白くなかったらこの世界を消すかもしれないのだから。




森の鈴亭……ここかな?


さっき体全体が燃えている人が優しく教えてくれた。

……?あれ?私ここにまだ1日もいないのにもう毒されてきてる?


ま、まあいいか。

見た目は質素な感じだ。

ガラスから漏れるオレンジ色の光は暖かさを教えてくれる。


お金はまだある。……2000万ケルンくらい。

大金だが、残念ながらこれだけでは生きていけない。

これからこの町に住むんだ。


……帰りたいよ……お母さん。




ドアを開けると軽快な鈴の音が迎えてくれる。

入ってみるとすごい。緑だ。


「木?」


「おう!ここは森をイメージして作ったからな!」


すると、すぐにカウンターがあったらしく、おじさんが話しかけてきた。


「あの、3……30日泊まりたいんですけど」


「30日か?じゃあ10日三回で3万ケルンだな」


安!?

30日泊まるのに3万でいいの?


「えっと、安すぎませんか?」


「ん?ああ、大丈夫だ。食事は出ねえから元は取れてる」


「そ、そうです、か」


それでも十分やすいと思うのだが……まあ、ここは甘えようかと考えるのだった。





302号室、ここか。

狭い。ベッドとタンス、それと人1人がようやく歩ける程度の足場。


だが、こんなに安いのなら、なんだって良い。

ベッドに腰掛ける。


ベッドは私よりもなかなか大きい。おそらく2メートルはある。


この世界の人間は大きいから、このくらいの大きさが普通なのだ。


私も向こうでは大きいとされる部類だったが、ここでは普通よりも少し小さい。


私の身長は、最後に測った時は168センチ、もう170にはなっているだろうが。


「……オープン」


これは魔法の言葉、人差し指にある【収納の指輪】に入れたアイテムを出すことができる。


これは魔王を倒した時に魔王城にて発見したものだ。


5つあったので、何故か私が2つもらい、3人は一つずつとなった。


【収納の指輪】から出てきたアイテムは高校二年生の教科書達だった。


もう、三年だ。私の学習は2年生のまま3年間止まっている。


私はそこまで頭が良くはなかった。


……いや、普通の人よりは良かったのだろう。なんせ県でも有数の偏差値64の高校に入れたから。


しかし、それだけだった。その高校では私は普通だった。


いや、順位や高校内偏差値からすれば、私の成績は下から数えた方が圧倒的に早い位置にいた。


私はそれから段々と荒んで行った。


別に夜遊びなどをしているわけではない。ただ、宿題を出し忘れたり、赤点をとったり。そういう初期では確実に無かったことが段々とで始めたのだ。


あの日は普通に帰っていた。


いつも通りに私は何故この高校に入ったのだろうかと考えていた。

友達もできないし、彼氏もいない。全く楽しくなかった。


そんな時、不意に地面が輝いた。


そう、それが召喚の光だった。



「……ねえ、この教科書、私はもう100回は見たよ?これだけじゃない。向こうから持って帰れたものは全部、全部見た。化学の63ページの面倒くさい公式も全部覚えてる。国語の文章は暗唱できるよ?

ねえ、返してよ。私に、普通を返してよ!こんな!こんなのいらないよ!

何がいけなかったの!?私の何がいけなかったの!

私以外にもいたじゃない!

わたしのスマホはもう電池がないよ!電池が切れた時わたしがどう思ったかわかる!?嬉しかったんだよ!もう、かかるかもしれないっていう希望を持たなくて良いって思ったの!

わたしが高校の制服をたまに切るのはなんでだと思う?悔しいんだよ!意味のわからない世界にいきなり連れてこられて!普通が忘れられないんだよ!

なんでわたしなの!?わたしじゃなきゃいけなかったの!?

わたし以外にも異世界に行きたい人なんていっぱいいるでしょ?なんで?なんで!!!!!

なんでよ!!!!!!

わたしがどんな気持ちで!どんな気持ちで冒険者になったかわかる?普通を諦めたんだよ!もうわかったんだよ!わたしは戻れないって!

ああそうだよ!アレシアと付き合ってたのだって現実逃避だったよ!じゃあなんなの?わたしはどうすればよかったの!?

なんで……ッヒック、なんで、わたしは、こんな目にあってるの?チート?いらないよ……帰りたいよ……お母さん……お父さん……だれか、わたしを助けてよ……」








いつのまにか眠っていたらしい。

なんだろう、昨日の事が思い出せない。

いつものように教科書を見ていたのはわかっているんだが……まあいいか。今日は初の仕事だ!頑張ろう!


……?頰に水が……欠伸かな?

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