第七話 地獄極楽巡り⑦
少女が目を覚ますと、そこは布団の中だった。周りを見渡すと、どうやら和室のようだ。八畳ほどの部屋で、窓は障子で戸は襖という、なんとも奥ゆかしい部屋だ。
名前が思い出せず混乱して、それから留子さんの抱擁で安心して寝てしまった。それでここに運ばれたのだろう。ここはいったいどこなのか?そして辺りに漂ういい香りはなんなのか…
少女がキョロキョロしているのを見て留子は声をかけた。
「起きたのね?よかったわ。あのまま起きなかったらシシャモに怒られてたものね。」
留子は少女の枕元に座っていた。さっきのお色気たっぷりの着物ではなく、もっとラフな普段着の着物に着替えている。まぁだからと言って、色気が消えたかといえば、そんなことはないのだが。
「ここは…?」
「ここは私の部屋。昔は仕事部屋だったんだけど、オーナーになってからお客さんはとってないのよ。店もキャバクラに変えたしね。だから今は、私の事務室。ま、結局は仕事部屋なんだけれど…仕事なんてあんまないしね。」
留子はクスッと笑う。イタズラ少女のような笑顔。いったいいくつなのだろうか。そんなことを思いながら、留子の顔を見る。
「あ、この香りはね…リラクゼーション効果のあるお香を焚いてるのよ。良薬口に苦しというけれど、鼻には良いみたいね。落ち着くでしょ?」
部屋の隅に机が退けてあり、その上には書類と筆、硯がある。ちゃんと仕事があるようだ。
少女は留子の方に向き直り、訪ねた。
「留子さんは、元人間なんですか?」
眠って頭がスッキリしたのだろう。思考がまとまっている。
「よくわかったわね。私の角にはいつ気付いたのかしら?」
「今です。笑った時に、髪の隙間から。」
「そお。不用意に笑うもんじゃないわね。怖がらせちゃったかしら?」
「いえ。ここに来る前、もっと怖い見た目なのに、とっても優しい鬼に会いましたから。」
「へぇ、そう。よかった。」
「…あの、どうして鬼になったんですか?」
「…あー、それはちょっと話したくないわね。」
「私と似たようなもの、って言いましたよね。私も鬼になるんですか?」
「大丈夫よ。貴女、別段人間を恨んだりしてないんでしょう?」
「はい。嫌いな人くらいはいますけど…」
「うん!それくらい当然だわ。だから大丈夫。」
「留子さんは…」
「だから話したくないのよ。あんまり人に話す話ではないの。」
「あ、いえ。そうではなくて、キャバクラの前のお仕事ってなんなのかな〜…と。」
留子は溜息を一つ。
「あんまり知らなくていいことよ。でもま、話したくないわけでもないから、教えてあげるわ。私はオーナーになる前、花魁だったのよ。わかる?花魁。」
「花魁道中とかの?どんな仕事かはちょっと…」
「簡単に言えば風俗嬢みたいなものね。」
留子はキセルに火を付け一服。フゥー…と煙を吹いて、話し始める。
「ここの刑場って変わっててね、刃の葉を持つ木の上で男の亡者を誘って登らせ、その隙に下に降りる。そうやってまた誘って降りさせる。それを繰り返すの。私達地獄の鬼は獄卒といって…まぁ亡者に刑罰を与える公務員みたいなものね。そんで、そこで一緒に働く男の鬼もいるわけ。人も鬼も同じ男。ムラムラしちゃうのよね。それで悪さをする鬼もいて、閻魔様が知恵を絞ったのよ。どうすればいいのか。こうも根源的な欲求が素の悪さは、単に縛るだけじゃ治らない。」
「だからこの街が出来た?」
「そうゆうこと。当時新米獄卒だった私達は、そっちの役割もやらされた。その分お手当もいいのだけれどね。」
「そんな…男の性欲を鎮めるために、結局女性を犠牲にするなんて…あんまりよ。」
「そうねー…彼もそう思ったみたいなのよ。」
「彼?…シシャモ!」
「そう。最初の仕事相手で情のあった私に、そんなことさせたくなかったのかしらね。毎日朝から晩まで私の座敷に居座り続けたの。新人でなんの技術もない私は安かったんだけど、そんなことしてたらあった言う間に大金になっちゃってね。でも、そのお陰で売り上げはぶっち切りのナンバーワン。それが前オーナーの目に留まって、オーナーの座を譲り受けたわけ。」
留子は紫煙の先を見つめて話していた。ふと気がつくと、少女の顔は真っ赤だ。
「留子さん、シシャモとはそんな関係だったんですね。それで惚れちゃったんですか?…じゃさっきの百万円って…」
留子はまた一服。紫煙で輪っかを作ったりして遊んで見せてから、寂しそうに呟いた。
「でも、ついに一度も抱いてくれなかったわ。そこまでするのに、私に惚れてるわけではなかったのかしらね。毎日焼酎を一瓶開けていったわ。朝から晩までチビチビと。金だけ置いて、遊びに来ない日だってあった。そんなお金受け取れないから、全部返金してやったわ!オーナーになってからね。」
紫煙で小判を描く。なんと巧みな芸だろう。そしてまた、なんと色っぽい芸なのだろう。
「留子さん、本当にシシャモのこと好きなんですね。それに、そんなの好きじゃない人にはしないんじゃないですか?」
「一度くらい抱いてくれればよかったのに。お陰で未だにおぼこだわ。」
「おぼこ…?」
「処女よ。」
「え!」
処女がこんなに色気を出すものか!処女がそんな巨乳のはずあるか!
「抱いてやろうか?」
襖を開け、中に入って来たのはシシャモだった。
次回はR18⁉︎
留子とシシャモの淫らな姿。その時少女は!
次回シシャモ 第8話 地獄極楽巡り⑧
次回も、サービスサービス♪
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