第四話 地獄極楽巡り④
「健太。この写真は、兄ちゃんがお前の机から見つけたものだと思う。これはなんだ…マユちゃんって、誰だ!?」
少女は詰め寄る。健太はたじろぐ。赤鬼はその光景を見ながら、シシャモに歩み寄る。
「おいシシャモ。お前、こうなるとわかってたのか?わかってて連れてきたのか?」
「まぁな。家族の犯した罪は、ちゃんと知らなきゃなんねぇ。まだこんな若いガキだがな、向き合わなきゃならないもんもあんだろ。」
「わかっちゃいる。理解もする。でも、共感はできねーよ。」
「お前は優しいからな。青鬼のこと、まだ悔やんでんだろ?」
赤鬼は黙る。古い友達を思い出したのか、それともこの惨状を見て悲しんでいるのか。
少女の剣幕に負け、健太は話し出す。
「その写真の子がマユちゃん。お姉ちゃん知ってる?オトコとオンナは合体するんだよ!せっくすっていうん」
少女は健太を殴り飛ばす。
「バカ!」
健太は黙って、目に涙を浮かべる。
シシャモは少女に語りかける。
「そのマユちゃんってのはな、一年前に公園のトイレで、レイプされた女の子だ。下校時に不審者に捕まり、近くの公園へ連れ込まれた。そこのトイレで犯され、その苦痛に気絶。不審者は体にその落書きをして写真を撮り、マユちゃんを脅した。『こんな写真ばら撒かれたら、もうお嫁に行けないぞ!友達もみんな汚いって言って、マユちゃんのこといじめる。それが嫌なら黙ってろ‼︎』そこへその坊主が入ってきた。」
健太は俯いたまま、涙を流す。反省はしているのだろうか。
「健太…そいつに脅されて…そんなことを…?」
「…うん。」
健太は泣きながら、少女に抱きつく。
「殴ってごめんね。健太…」
「違うだろ。」
シシャモは健太の頭にげんこつを振り下ろす。
「何すんのよ!」
「坊主はその光景を見て興奮。不審者は焦ったものの、坊主の興奮を知って『やるか?』と聞いく。坊主は頷き共犯になる。これが事件のあらましだ。坊主、テメー反省してねーのか?姉ちゃん連れてきたら、ちゃんと話す。それが条件だったろ。」
シシャモは健太を睨みつける。
「そんな。だって、でも…」
「条件…?」
少女の疑問に、シシャモは答える。
「あぁ。ちゃんとお前に罪を白状して、悔い改めたら賽の河原の刑。でもそれを守らなかったら、地獄に落とす。子供とは言えあまりに卑劣な行為、マユちゃんはそれ以来引きこもって外に出てない。トラウマになってる。これは罰するべきかどうか、閻魔様も悩んだんだ。そんで今の条件を言い渡した。」
「…それじゃ、健太は…」
「地獄行きだ。」
シシャモは六道丸で健太の心臓を貫く。反時計回りに一回転。引き抜くと同時に大量の血が吹き出す。
「堕ちろ。……健太。」
飛び散った血は、胸の風穴に吸い込まれて行く。やがてその穴は健太の身体をも吸い込む。骨の砕かれる音、肉の潰れる音、飛び散った血飛沫は同じくその穴に吸い込まれて行く。あまりに凄惨な光景に、少女に嘔吐する。出てくるのは胃液ばかり。
「シシャモ、これはあんまりなんじゃないのか?」
赤鬼が詰め寄る。しかし、少女がそれを止める。
「健太のしたことは、許されることじゃない。当然の報いです。」
少女は涙をこぼしながら、そう言い切る。
「シシャモ、教えて。健太が虐められたのは、この罪のせい?」
「そうだ。マユちゃんを心配した友達が、家を訪ねたんだ。部屋にこもりきりのマユちゃんは、裸になるのが怖くて風呂にも入ってなかった。でも友達はそんなこと気にせず抱きしめてくれたんだ。それで話した。親にも話せなかったトラウマをな。それで友達は、罰を与えなければと思った。」
「そう…そうだったんだ。」
シシャモは少女の頭を優しく撫でる。
「これからあと3人分、死の死の真相を知ることになる。引き返すか?」
少女は歯を食いしばる。
「天国の兄ちゃんとママも、何か悪いことしてるのか?」
「天国に行くのは善人だ。でも、知って気持ちのいいことじゃない。人間誰だって、人には見せられない闇がある。」
「行く。私、家族全員分の死の真相をちゃんと知りたい。例えどんなに恐ろしくても。私は知らなきゃいけないと思う。」
「よく言った。次行く衆合地獄には、刑場の前に花街がある。女の子の楽しめる街じゃないけど、少し息を抜いておこう。」
シシャモは六道丸を鞘に収め、袖から一枚の手形を出す。
「赤鬼。頼む。」
「わかった。」
赤鬼は少女に向き直ると、一言。
「強いな、嬢ちゃん。」
とだけ言う。そして目を瞑った。
「許可する‼︎」
手形から光が溢れ、シシャモと少女を包み込む。パッ…と光が弾ける。
目を開けるとそこには‼︎