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子守り男子の日向くんは帰宅が早い。  作者: 双葉三葉
【三章 稔る秋、夕映えを友の影と。】
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静かな宣戦布告

 土曜日の朝、日向は蕾と共に来客に備えて朝から掃除と整理整頓に追われていた。今日は予定していた勉強会の当日で、予定では午前の十一時を目安に皆が来る事になっている。

 あの日から翌日、秀平に再度打診をすると「そういう事なら」と今度は快諾を貰い、悠里達も麗美と沙希の二人から良い返事を貰う事が出来ていた。


「まさか我が家にクラスメイトが六人も来る事になるとは……」


 日向の呟きは、リビングルームの中で唸りを上げている掃除機の音で掻き消える。

 一通り部屋の中を回り掃除機の電源を落とすと、座布団を二枚抱えて小さい体がすっぽり隠れてしまっている蕾が気合の入った顔で日向を見上げていた。


「おにーちゃん、ざぶとん!」

「うん、テーブルの周りに置いていこう。人数分だから……俺と蕾の分も合わせて……ええと九人か」


 日向、蕾、悠里、日和、唯、雅……そして麗美、沙希、秀平と……恐らくは新垣家史上最も人数の集まる一日になりそうだった。


 日向が人数分のコップと麦茶、後は季節的に少々肌寒くなって来てもいるので、紅茶とコーヒーの準備をしていると、スマートフォンが震える。


「きたー?!」


 その音に敏感に反応する蕾に微笑んでから画面を見ると、連絡は悠里から一通のメールが入っている。

 クラスの女性陣と合流し、これから一度コンビニに向かってから来る旨が記されていた。


「今からコンビニ寄って、そこから来るってさ。日和と、男子陣は別かな」

「そっかー。こんびに……もうすこしだねー」


 頭の中でルートを描いているのか、時計を見ながら蕾が考えている。

 すると、今度は日和、そして雅からと連続してメッセージが飛んできた。


「おっと………。ん、日和もこれからコンビニ……雅と栁もコンビニ、って皆コンビニか」


 これは、一気に人口密度が高くなるな、と予想して日向は口元にもう一度笑みを浮かべた。

 なんだかんだで自分もこの機会を楽しみにしていたらしい。友人達が家に来る、これまでも何度かあった事だけど、初めて訪れてくる友人がゲストというのは、ホストとしても気合を入れなくてはいけない。


「………コーヒーはインスタントじゃなくてドリップにしようかな」


 少しだけそわそわと台所に向かう自分に、蕾の事を笑えないな、と日向は自嘲した。



 それから割と長く、三十分程経過した辺りで家のチャイムが部屋に鳴り響く。


「きーたー!」


 まるでチャイムが徒競走の合図だったかの様にして蕾がリビングを飛び出したので、日向も慌ててその後ろから付いていく。


「開いてます!」


 廊下に出て日向が玄関の向こう……複数人が見えるシルエットへと声を掛けると、ドアがガチャリと音を立てて開いた。


「お邪魔しまーす……蕾ちゃん! 久し振りだねー!」

「ゆーりちゃん! いらーっしゃーい!」


 先頭から顔を覗かせたのは悠里で、その顔を見た蕾がバッと足元に駆け寄る。

 その後ろからは唯、そしてコンビニ袋を持った雅が顔を覗かせ、次いで秀平、沙希、麗美が中に入ってくると、最後に入ってきた日和が静かにドアを閉めた。


「お邪魔~!」「入るぞー」


 唯と雅は勝手知ったる、という面持ちで中に入ってくるが、秀平達は初めて入った家で勝手が分からず、珍しい物を見るかの様に辺りを見渡している。


「此処が新垣の家かぁ……割と学校から近かったんだなあ」

「私、男子の家に来るなんて久し振りかも。中学の時に大勢で遊んだ時以来だわ」

「あ、私もそうかも。あんまりないもんね……しかも新垣君の家って、全然想像してなかった……」


 秀平の言葉に頷いた沙希が腰に手を当てて答えると、麗美もまた頷いて微かに笑った。

 そして沙希が悠里の足元に引っ付く蕾を見付けると顔を綻ばせる。


「おー、この子!! カラオケん時の子だよね! かーわいい! 初めまして、私は沙希。鹿島沙希だよ」

「仁科麗美です。宜しくね、えっと……」


 沙希が屈んで蕾と顔を合わせると、ニッ、と笑ってから自己紹介をする。麗美もその後に続いたが、名前を思い出せないようで人差し指を口元に当てて日向を見た。


「蕾、自己紹介しよっか」

「は……はい! あらがきつぼみです、ごさいです! もうすぐろくさいになります!」


 悠里の脚から離れて、両手を膝に当ててお辞儀をする五歳児に、沙希と麗美は破顔した。


「うっわかーわいぃ……うちの弟と交換したい……」

「蕾ちゃんね、今日はお邪魔させて貰います。宜しくね」

「えっと……さきちゃんと、れみちゃん……めがねのほうが、れみちゃん……」

「そう、眼鏡の方が私ね、麗美。こっちの少し煩い方が沙希ちゃんね」


 よくできました、という様に麗美が蕾の頭を撫でる。


「やかましさで判断すると恵那が居るから分かり辛いかもな。鹿島は今後、蕾ちゃんに対してキャラクター性をアピールしていかないと忘れられるかもしれん……うぉっ!」

「とっとと靴脱いで中に入れ成瀬ぇ! 邪魔!」


 女子陣の自己紹介を見ていた雅が冷静に感想を述べると、その尻を唯に蹴られて前につんのめる。


「そうだね、皆入って。リビング使って大丈夫だからそっちに……蕾、案内してあげてね」

「はーい!」


 悠里の手を握って引っ張る様にしている蕾に先導を任せて、日向は全員が中に上がるのを見届ける。開始早々の慌ただしさに当てられたのか、それまで後ろで会話を聞くだけだった日和が、最後に靴を脱いでフローリングに足を置いた。


「あ……先輩、鍵とか閉めなくて良かったですか?」


 乱れた靴を、全員分整頓しながら日和が日向に問いかける。


「……うん、今日は平気だから、そのままでいいよ」


 あの日以来、初めて顔を合わせて言葉を交わす日和との再会に、日向は努めて平静を装って頷いた。


「そうですか、分かりました。……それじゃ、私達も行きましょうか」


 日和の方も特に動揺は無く……そのまま日向の隣を通り過ぎようとして。

 軽く、日向の手を握った。


「……ほんの数日だったけど、早く先輩に逢いたかったです」


 それだけを言うと、微かに上気した顔を日向に向けて、リビングへと向って行った。

 お陰で日向は一度深呼吸して、気持ちを落ち着けてから後を追わなくてはならなくなった。



 リビングに入ると、雅がキッチンカウンターにコンビニ袋を置いて日向に声を掛けてくる。


「おぉ、一応飲み物とスナック類だけは買ってきたけど、これ冷蔵庫入れておけるか?」

「あぁうん、大丈夫。そこに置いておいて。後で入れておくから」


 勝手知ったるとは言え、流石に他所様の冷蔵庫を開ける様な事をせず、雅は言われた通りにカウンターにペットボトルを並べて行った。


 テーブルの方へと日向が視線を向けると、まだ着席している者はおらず、各々が鞄を空いたスペースへと降ろしている所だった。


「あ、好きな所に座ってね。一応座布団用意しているけど……座椅子も二つあるから、使う人は言ってくれたら」


 日向の言葉に集まった面々は頷いて、それぞれテーブルの周囲に腰を降ろす。

 蕾が真っ先に自分用の小さい座布団に座り込むと、悠里がその隣へと座る。その光景を見ていた沙希が、にやりと笑ってから蕾の隣へと移動した。


「それじゃ、私は蕾ちゃんと交流を深める為に、ここにしよっかなー……あ、でもここは新垣君の方がいいのかな? やっぱりママとパパは揃っている方が……」


 冗談交じりの沙希の言葉に、早速来たか……と悠里は困ったように笑って日向を見る。

 今日の目的は勉強半分、もう半分は沙希達に自分達の距離感を理解して貰う為だが、日向が蕾の隣に座る分には問題が無い。

 あまり反応するのも面白がらせてしまうだけだ、と日向が誤魔化し笑いで適当に腰を降ろそうと思った時だった。


「先輩、一緒に座りましょ?」


 ぐい、と右手を抱え込まれると同時に、右腕に柔らかい感触を感じて、そのまま引っ張られる様に座り込む。


「いっ……?!」

「……っ!?」


 あまりにも唐突な出来事に、声を出したのは日向と……そして、悠里の息を呑む音が聞こえた。

 日向が腰を降ろしてしまったのは、蕾と悠里に丁度対面する位置。そして隣には満面の笑みを浮かべる日和が居た。


「おにーちゃんとひよりちゃん、なかよしだねー!」


 ほぼ密着している日向と日和に向かってそんな声を掛けられる唯一の存在である蕾は、無邪気に笑うのだった。

大変、大変お待たせしました……。

勉強会までの間を書くとテンポが遅くなるので、一気に第二回勉強会開催としました。

(ここまでの事については、幕間としてどこかで一話挟もうかと思います)


前回の勉強会風景とは違う、距離感の変わった彼等のドタバタを描いていこうと思います。

若干コメディタッチになるかも……しれません(シリアス多かったので)

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また、第二巻が令和元年、2019年7月1日より発売となりました、ありがとう御座います。(下記画像クリックで公式ページへとジャンプします)

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