体育祭について
大きな事件も無く数日が経過し、学校行事としては再来週に二学期のトップバッターである体育祭が控えている。
夏休みの余韻は日を追う毎に薄れて行き、授業の合間の雑談も夏休みの話題から体育祭、学校祭、そして修学旅行へと移り変わった。
九月の中旬に体育祭、十月の上旬に中間試験、そして下旬には学校祭、十二月には修学旅行という実に充実した日程となっている。
とは言え、この中でも体育祭については日向達の学校では印象が弱い。後に控える学校祭に力を入れる為もあるが、校風自体が進学校という事もあり運動に関してそこまで積極的では無い為だ。例年、決まった種目を全校生徒一律で行う、少々特殊な体育の授業。それが生徒の体育祭に対する印象だった。
この日は一週間後に行われる体育祭の参加種目紹介、そして続く学校祭のクラス単位での出し物を協議するホームルームが行われた。
午後の六時限目、ホームルームに当てられた時間で小野寺教諭が黒板へ種目の一覧を書き出す。
「種目は黒板に書いた通りだ。全員参加の種目はクラス対抗リレー、長縄跳び、綱引き。個人戦は短距離走、二人三脚、障害物競争の中から一つ。誰か何の競技に参加するのか、及びリレーの出走順についてを今日決定する。体育祭の議題については委員長に一任する。柳、後は頼む」
そう言って小野寺教諭は教室の端へ下がると、学級委員長の栁秀平が前に出る。
「はい、それでは……いきなり決めて、となってもちょっと迷うよね。そこで今から十分間だけ自由に話す時間を作ろうと思います。その後に希望を取るのが十五分……その後でリレーの出走順を決めようかと思うんですけど、先生……いいですか?」
秀平が担任に顔を向けると、小野寺教諭は無言で一度だけ頷く。
そのやり取りを生徒達は、近くの友人達と相談を始めたり、席を立って友人の元へ向かうものと様々だ。
日向も身体を横に向け、雅の顔を見る。
「さて、出来れば簡単に終わるものがいいか……俺は百メートルの短距離でもいいんだけど、日向はどうする?」
雅から向けられた言葉に日向は一度だけ黒板へ振り向いた後、首を横に振る。
「正直、どれがいい、とかってのは無いかな……走るのは苦手じゃないけど、絶対にこれ、っていう訳でも無いし……」
「消去法で行くか?」
「うん、それもありかなぁ、って」
雅の言う消去法とは、最終的に参加人数の足りない所へ参加希望を出す、という事だ。
去年の日向は正にこの手法で障害物競争だったのだが、例年短距離走だけは簡単で人気があるので、消去法を取るとなると今年も二人三脚か障害物競争に割り振られるだろう。
「ウチの体育祭、地味だからなぁ……他の学校だと、応援合戦とか騎馬戦とかあるんだろ、いいなぁ……俺も女子から応援されたりしてぇわ……」
頬杖を突いて遠くを見る様に呟く雅を笑いながら眺めていると、ふと横目に悠里の姿が入り、そちらに視線を向けてしまう。
悠里は自分の席で、近くの友人達と種目について話しているのだろうか、時折口元に手を当てて笑ったり悩む様な仕草を見せたりしている。
唯も一緒になってそちらで会話に混ざっており、雅との会話中に茶々を入れて来なかった理由がそれだ。
最近はずっと一緒に居た四人でも、それぞれには別のコミュニティもある。そんな当然の事を日向は最近はすっかり忘れていたのか、どこか物寂しい気持ちを覚えた。
「なんだ、芹沢達に構われなくて寂しいのか」
雅が意地の悪い笑みを浮かべながら日向へと向き直ると、日向は苦笑いでそれに返した。
「そうなのかもね、自分でも思ってた以上に皆と一緒に居るのが自然になってたみたいで……」
誤魔化した所で、雅には大して意味が無いだろうと日向は自分の気持ちを素直に吐露する。
単純な話、いざこうして誰かと相談しようとした時に、今の日向には雅や悠里、唯ぐらいしか相手が居ないのだ。そんな自分の状況に、何となく情けない物を感じて日向は少しだけ自嘲する。
「まぁ、そう思うなら少しでも積極的に自分から学校行事に参加する事だな」
雅から言われた言葉にぐうの音も出ず、日向は黒板を見やる。種目自体は本当に何でも構わないのだが、そのスタンス自体が今の状況を招いているのかもしれない。そう思うと、何でもいいなりに何かを選ぶ必要があるのだと感じる。
「……二人三脚かな」
だからだろうか、自分一人の力で走る競技ではなく、誰かと共に行う競技を選んでしまった。
下手すれば障害物競争よりも人気の無い競技なだけに、自分から選ばずとも配置されてしまう可能性が高い競技だ。
「俺は出ねぇよ……?」
日向の声を聴いた雅が、困惑した顔で日向を見る。
「知ってるよ。何となく楽しそうだからさ」
どうせちゃんと参加すると決めたなら、後々で想い出になるものがいい。そう考えると、やはりこれが一番しっくり来る気がしたのだ。
「男女別だぞ?」
「知ってるよ……」
更に疑惑の目を向ける雅へ、日向も呆れた視線を向ける。
そこへ、話し合いを終えたのか唯が席へ戻ってきた。
「っしゃー決めたぜー! 新垣君達はー? なんにするのー?」
「短距離ダッシュ」
「二人三脚にするよ」
戻って早々に二人へと質問をぶつける唯に、日向と雅は揃って返事をする。
唯は「ほぉ……意外な……」と声を出しながら着席すると、得意気な顔を見せた。
「あたしも二人三脚だよ! 悠里と一緒にやろうねーって話になった!」
「そうか、芹沢も随分と冒険家になったな……」
「俺も男女混合だったとしても、恵那さんとだけは勘弁かな。足の骨が危ない」
唯の答えを聞いた日向と雅は、一斉に同情の視線を悠里へと向けた。
少し遠目からでも分かったのか、悠里は二人に向けられた視線に気付くと「え、なに?! なんなの?!」と困惑して周囲を見渡すが、勿論彼女の周辺に何か物理的な問題があるという訳でも無い。
「でも新垣君も二人三脚なら、一緒に練習出来るかもねー。体育の授業でちょっとだけ練習時間取るって言ってたし、たーのしみだなー!」
日向は唯の言葉を聞きながら、果たして自分はペアの人物と上手くやれるのか……その懸念だけが残った。
ちょっと空きました、無事でした。
停電は本当に不便ですね……まだまだ停電の場所もあると聞きます。
ここから少し体育祭寄りのお話へ。
学校行事の日程等に変更を加えております(あまりにもカツカツな日程だった為)
二人三脚+ラブコメ 最強の布陣ですが、残念ながら男女別なんですよ……