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子守り男子の日向くんは帰宅が早い。  作者: 双葉三葉
【二章 再会の夏、新緑の芽吹く季節に。】
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おかえりなさいの言葉

 日和の渾身のプレーに、その向けられた笑顔に、日向は目が離せずに居た。

 日向の立つ場所から見える日和の背中は距離も合って小さい。けれど存在感が、その一つ一つの動作から発せられるメッセージが日向の意識を日和から離さない。


 日和は一緒に戦っている、今も日向と一緒に戦っている。


 身体に見合わない、高い打点からのフラットサービス。

 手首に強い負荷を掛ける故に、日和のスタイルには合わないと思われるライジングショット。

 そのどちらも、本来は日向が得意としたプレースタイルだ。



 日和は伝えたい想いをプレーに乗せて、この試合に……日向が見てくれる今日この瞬間に挑んだ。

 かつて魔女が日和に告げた様に、日和は日和に出来る手段で日向に手を伸ばしたのだ。

 いつか、その手を取って貰える様に。


 ゲームカウントは既に0-5になり、このゲームを日和達が取ればそこで終了という場面まで来た。

 日向達の場所からでも、既に日和の肩が激しく上下するのが見える。


 第六ゲームが始まり、日和のパートナーである二年生の女子がサーブを打つと、相手のリターンがストレートに返されてくる。

 前衛に出たままの日和にとってはチャンスボールとなるリターン、これをセンターに通すか、アングルでサイドにカットしてやればそのまま得点になるシーンだったが。


 ガギッ、という異音と共にボールはネットの内側……日和達の自陣へと落ちてしまった。


「あぅ……っ!」


 音がした瞬間に日和の呻き声が聞こえる。

 その様子を観客席から見下ろしていた悠里が驚いて声を上げた。


「ひ、日和ちゃん!? もしかしてあれ顔に当たったんじゃない……?」

「いや、単純にスポットにボールが当たらなかったんだと思う。手の中でラケットが遊んだのかな」


 日向達からは日和がラケットを縦に構えて、打ったと思われたボールが異音を立ててほとんど距離を稼がずに落ちた、としか見えなかったので無理も無かった。


 日向の指摘は正しく、日和のボレーはラケットの『面』が不完全な状態でインパクトを起こした為、そして日和自身がグリップを握るタイミングがずれた為に起きたイレギュラーショットだ。


「さっきまではあんなミスは無かった、よね……日和ちゃん、そろそろやばいんじゃない……?」


 唯がいつもの調子よりも随分と低いトーンで日向に尋ねる。

 日向は「うん……」と静かに頷きながら、その姿を凝視する。


「ひよりおねーちゃん……かわいそう……」


 蕾が辛そうに息をする日和を見て呟く。それぐらい、日和の疲労は目に見えて濃くなっている。

 そのまま日向の腰に抱き着く様に身体を預けて来た蕾の背中を、日向は片手で軽く叩いて落ち着かせた。


 その一つのミスから、日和の動きは明らかに緩やかになってしまった。

 ストロークの球威は抑えられ、ボレーに出る積極さも前半に比べて明らかに薄い。

 日和のカバー範囲が狭められたペアは、徐々にポイントを許して、遂にサービスゲームをブレークされてしまう。


 ゲームカウント1-5という、初めて相手のスコアボードから0が消えた瞬間だった。


 迎えた第七ゲームは、再び相手選手にサーブ権が回る。

 先程の優勢のまま、勢いに乗りたい相手ペアの選手は、サーブを前半よりも明らかに速度を上げて放ってきた。


「相手も日和ちゃんの疲労にとっくに気付いてるよな、狙われるか」


 雅が選手のペースアップを見て言った言葉に、日向は答えない。

 日向が今座っているのは、観客席だ。あのコートの中に日向は居ない。

 今の日向では、日和の力になれない。


(………何をしてあげられるんだろう、俺は)


相手のサービスが日和とペアの間、センターラインをギリギリに乗るコースで駆け抜ける。

ワイドに構えた日和の手は、そのボールを捕まえる事が出来なかった。



『15-0』 ポイントのコールが行われる。



 日和のペアがリターンした打球は、少し浮き上がってしまい相手前衛の格好の餌食となる形で日和達のコートに叩き付けられる。



『30-0』 ポイントのコールが行われる。



「日和ちゃん、お願い……もうちょっとだけ、頑張って……」


 悠里が目を閉じて両手を組んで祈る。



「日和ちゃんいけー! これが終わったら新垣君がめっちゃ褒めてくれるぞー!」


 唯もまた、日和の勝利を信じてエールを送る。



 サービスをリターンした日和の打球を、相手の前衛がカットして日和のペアが立つ足元へと送り込まれる。

 瀬戸際で二年生の女子はその打球をロブで打ち上げるが、不十分な高さのロブは相手のスマッシュによって再度、日和達のコートへ叩き付けられる。



『40-0』 時計の針が、遂にギリギリの所まで進められてしまう。



 もう一つポイントを落せば、このゲームを取られてしまい、相手の連取になる。

 それでも次のゲーム、その次のゲームと日和達が優勢な事には変わりない。

 そこまで体力を温存して、そこで勝てばいい、そう考える事も出来るのに。


「日和」


 そんな日和を日向は見たくなかった、先程までの力強く輝いた日和のまま、勝利して欲しかった。

 そう思うと、日向の口からは自然と日和の名前を呼ぶ声が出る。


 声が聞こえたとは思えなかった。

 日向の場所から、日和が居る場所までは声を張って届くか、という距離だ。


 相手の選手がサービスポジションまで歩き、日和がリターンに構えた。

 日和は前衛の位置で、ペアの二年生を見る様に身体を横に開いたまま、視線で日向を捉える。



 今の日和に、日向が届けられるエール。

 日和が伝えてくれたメッセージに、日向は一番伝えたい言葉を伝える。





「ガットを、張ったんだ……! また始めるんだ! だから……!」




 少しだけ張った日向の声がかろうじて届いたのか、日和が日向を見て目を見開く。

 サービスポジションに辿り着いた選手が、ゆっくりとボールを地面に二度ほどバウンドさせて呼吸を整えた。


 日和が日向に視線を向けたまま、ゆっくりと口を開いた。





『おかえり』





 口元だけで呟やかれた言葉。声は聞こえない。

 一瞬だけ、日和の顔が泣きそうになって……笑ったのが見えた。



 次の瞬間には、日和は相手の選手を見据えていた。


 相手の選手からトスが上げられ、サーブが放たれる。日和のペアがそれをクロスにリターンした時、相手の前衛がコースをカットする様に動いた。そのままフォアハンドのボレーで日和の足元へ打球が返される。


 日和が冷静に、その打球をローボレーでクロスに捌く。

 相手の選手が冷静に、ワンバウンドしたボールを日和とペアの子の間を通す様にストロークで狙い撃つ。



「あーやばいやばい!」


 唯が口に手を当てて慌てる姿を、日向は後ろを見なくても想像出来た。

 恐らく悠里や雅も似た様な状況になっているだろう。



「ふっ……!」


 短い呼気と共に、日和がローボレーでギリギリ届かせるが、またボールが少し浮いてしまう。

 前衛に残った相手の選手が、それを日和が動いている逆サイド……オープンスペースとなったフォアサイド側へと送る。



 センターに寄せた後、サイドへ振って決める。誰でも分かる必勝のセオリーの一つ。

 致命傷となるその一打を、日和は身体を反転させて追った。



「っっつあああぁぁ!」



 小柄な日和が必死に伸ばしたその手は、振り下ろす事こそ叶わなかったが、それでも打球はそのラケットに捉えられ相手のコートへと落ちると、二度バウンドした。



ようやく特殊な業務が終わりました……合間の時間が全然取れずでした。

日和の大会関係は、後1~2話で終わる感じです、多分(定型文)


この後にまたどこかで日向君のテニスシーン入れるとか、もうラブコメじゃなくてスポコンになるからどうしようか、日和頑張ったからこれでいいんじゃないか、って自分に問い掛けてる最中です。


ここからは御礼を……。

なんと200万PVを達成しておりました……本当にありがとう御座います。

200万回も私の練習文章を読まれたのかと思うと、ほとんど恥ずかしさで悶えるばかりで御座います……!


脳内では恐らく物語は折り返している感じなので、お付き合い頂ける方は今後とも御指導、御鞭撻の程を宜しくお願い致します。

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↓角川スニーカー様より、書籍版が2019年2月1日より発売されます

また、第二巻が令和元年、2019年7月1日より発売となりました、ありがとう御座います。(下記画像クリックで公式ページへとジャンプします)

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