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子守り男子の日向くんは帰宅が早い。  作者: 双葉三葉
【二章 再会の夏、新緑の芽吹く季節に。】
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カラオケ内の静かな攻防

 そうして蕾の歌を切欠に、唯が後に続いた。

 どうやら唯としては先手だけが苦手な様で、一度誰かが歌ってるのを見るとテンションが上がって来るらしく、今度は意気揚々とマイクを持つ。


「それじゃ、次はあったしー! 皆じゃんじゃん入れてこー!」


 唯が選んだのはCMでも流れている女性歌手の歌だった、これは日向にも分かる。


「あ、私この歌手分かります! 曲もダウンロードしてるんですけど、凄いなぁ……この人の歌、難しくて歌うのキツそうなのに……」


 日和がイントロ聴いて、画面のタイトルを指差して笑顔になる。

 最初の蕾のお蔭で肩の力は抜けたらしく、良い感じにリラックスしていた。


「唯の歌、上手いのよねー……私もあんな風に通る声だったら良かったなぁ」


 悠里もまた日和と顔を合わせて笑い合って、手でリズムを取っている。

 部屋に響く音量も程よく抑えられていて、蕾も耳を塞いだりせず楽しそうに聴いている。もしかして最初の機材調節は、ボリュームが程よく抑えられているのか確かめていたのだろうか、と日向は思った。


 彼女の声量は良く通り、音程もかなりしっかりしている。キャンプの時に車中でも聴いているが、上手い。

 人の歌を聴く機会の少ない日向だが、此処に居る女性陣は基本的に歌が上手いと思える。


「あーりがとうー! そしてありがとう!」


 最後にマイクを片手に高く挙げた唯の顔は、心なしか赤らんでいる。

 テンションで飛ばしたけれど、少々恥ずかしさがあったのかもしれない。


 唯の楽曲が終わると、すぐに次の曲が流れ始める。

 マイクを持った悠里が、ドリンクを少しだけ口に含み「ん、んー!」と喉の状態を確認した。


 悠里の選んだ曲も女性の歌手で、唯とは違いフォークシンガーの、少し落ち着いた感じの曲だった。

 最初こそ少し声が震えていたものの、サビの部分に掛かる頃にはすっかりと力が抜けて、彼女の透明な声色が響く。


「うわー……芹沢先輩、声綺麗……あ、あぁぁ次は私、私だっけ……ええっと、」


 悠里の隣に座る日和は、悠里の声を楽しみたいが、次に回ってくる自分の番に慌ててしまってそれどころでは無くなる。

 機械の操作と人前で歌う恥ずかしさ、何を選曲すればいいのかであたふたしている。

 まるで小動物が使い方の分からないオモチャを渡された時みたいに「あれ、違う……反応しない? あ、したした、連続で押しちゃってる! あああ違うこれじゃない……!」と見ているだけで和むというか、妙な親近感を日向が感じていた。


 そうこうしている内に悠里の曲も終わり、画面には何かのプロモーションが流れ始める。


「あ、ごめんなさい! 私まだ入れてなくって……ああー……」


 申し訳無さそうに肩を縮こまらせながら慌てる日和に、隣の悠里が顔を寄せて一緒に画面を覗き込む。


「平気平気、別にすぐ入れなくちゃいけない訳じゃないもの。日和ちゃんってどんなの聴くの?」

「わ、私は……えっと、自分で調べたりする事無くて、学校の友達から勧められたりとか、テレビで耳に残ったものを、とか……」


 そうして二人で画面の操作をしながら画面を見ていると、不意に日和が「あっ……」と声を上げる。

 悠里が日和の目線を辿りると、一つの楽曲名が出ていた。


「あー! これ懐かしいね! 前の五輪で流れた曲だっけ! 今も偶に流れてくるよねー!」


 悠里の声に、日向も画面を覗き込むと、そこには日向にも覚えのある曲名がある。

 日向達がまだ小さい頃、二人組のシンガーが五輪のタイアップで歌った曲だ。

 日向も好きで、よく気分がいい時に鼻歌を歌ってしまう程に馴染みがある。


「あ、はい……えっと、これ、私の……身近な人が好きで、私も好きになって……」


 そう言いながら日和はちらりと日向を見上げた。

 その視線に何が含まれているのか、ほんのり上気した頬と弱気になっている瞳に見据えられ、日向は少しだけ心臓の鼓動が跳ねるのを感じる。


「あの……日向先輩、これ……一緒に歌えません?」


 思わぬ日和からのパスが飛んできた。

 前衛がボレーしてくれると思ったら、後衛の自分にカウンターを任された、そんな状況になる。

 日向は一瞬、ピタッと動きを止めるが……。


「いいよ、俺で良ければ。……あんまり上手くないから、フォローは完全に任せるけどね……!」


 不安そうな日和を放っておく事も出来ず、かつ自分一人で歌うよりもよっぽど心理的に楽になる、そう思い笑って頷いた。


「ありがとう御座いますっ、では入れちゃいますね……! あ、これ……マイクです」


 日向の返答を聞いた日和は安堵してマイクを手渡し、タッチパネルを親の仇の様に睨んでからグッと押しす。

 その様子を見ていた唯は、ストローで自分のアイスコーヒーを吸い込んだ後。


「凄い……引きながら押している……後の先を取る、達人の技か……」


 と呟き、その隣では悠里がマイクを持つ二人を少しだけ羨ましそうな視線で見ていた。



「これきいたことあるー! おにーちゃんたまにきくうたー!」

「蕾ちゃん、これ使いな、お兄ちゃんと日和ちゃんを応援してあげるんだ!」


 イントロが始まり、蕾が画面を指差す隣で雅が席の後ろにあったタンバリンとマラカスを持ち出して蕾に渡した。


「がっきだー! あはははは!」


 シャンシャンと鳴るタンバリンを振り回しながら、もう片手でマラカスをぶんぶんと振り回す。


「ちょ、蕾ちゃん、マラカスは振り回しちゃいけない! それはストリートファイターにしか許されていない!」


 蕾が振り回すマラカスが右手にあるので、右隣に座る雅の耳元で風を切る音が聴こえ、雅は冷や汗を流した。

 そんな二人のやり取りを見て、日向も日和も肩の力が抜けたのか、顔を見合わせて軽く笑い合う。


 曲が入り出すと、二人はおずおずと歌い始めた。

 どっちがどの部分を歌うなんて決めていないので、全パートが二人で合唱になる。

 最初は小さい声量も、段々と大きく、伸び伸びと歌える様になってくる。


 隣では蕾がタンバリンを楽しそうに振り回し、両脇からは唯と雅が囃し立てる。


「新垣君いけるいける! いいじゃんいいじゃんー!」

「日和ちゃんもいいじゃん、やっぱ女の子の声はいいなー! 日向要らないんじゃない?」


 唯の応援に日向は戸惑いながらも目線で返し、雅の野次は日和の冷たい視線によって黙殺された。


「わ、私もなんか……二人で歌えるもの……!」


 悠里は悠里で、何か自分も同じ様に一緒に歌えるものは無いかと探すが、その背中にソファーの上を歩いてきた蕾が覆い被さってきた。


「つ、蕾ちゃん?!」

「ゆーりちゃん! つぼみもいっしょにうたいたいー!」


 楽曲が鳴り響く部屋の中で、ハイテンションになっているのか、いつもよりもスキンシップが激しくなっている蕾を負ぶさる形で悠里が笑う。


「ふふ、うん! それじゃ、蕾ちゃんは私と歌いましょうか! なーにがいいーかなー?」


 テーブルの上にあるリモコンを手元に引き寄せ、蕾と頬を寄せ合いながら楽曲を探していく。

 悠里としては日向と一緒に歌いたい事には変わらないが、この小さなアイドルと一緒に歌うのも十分に魅力的なのだ。


 唯が更に日向と日和を囃し立て、悠里は蕾と一緒にリモコンの画面を見ながら歌えるものを探していく。

 歌っている二人も、まだ幾分マイクを持つ姿は堅さが残るが、それでも楽しそうに歌い上げて行く中で。




「え、俺の番は飛ばされた感じ?」



 隣に一人分のスペースが空いた雅が、誰にも気付かれない呟きを漏らした。

昨日は全然時間取れなくて、更新が遅れてしまいました……その分、頭の中では皆が暴れていました。

書く事が無い、というよりも書かないとシーンが溢れて来て、という状況になってる……にも関わらず、カラオケに何話使うんだよ、と頭を抱えてました。

雅が居ると楽、好き。(告白)


あ、あと最近ちゃんとお礼を言えてませんが、ブックマークや評価入れて頂いたり、感想を沢山書いて頂けたり、本当にありがとう御座います!

これからも慢心せず、この作品を書き始めた初心を忘れずに励みます、ありがとう御座います。

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↓角川スニーカー様より、書籍版が2019年2月1日より発売されます

また、第二巻が令和元年、2019年7月1日より発売となりました、ありがとう御座います。(下記画像クリックで公式ページへとジャンプします)

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