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子守り男子の日向くんは帰宅が早い。  作者: 双葉三葉
【二章 再会の夏、新緑の芽吹く季節に。】
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花火大会その後。

 霧子を見送ってその後、日向は雅の隣へと戻り、打ち上げの時間も僅かとなった花火を見上げる。

 戻ってきた日向を見ても、雅が特に何か言う事は無かった。日向にとって雅とは、大事な事は自分が言葉にするまで聞かずに待っててくれる、得難い親友だ。

 その気遣いと同じぐらい強い信頼が、日向には心地良かった。


「おお、でっかいのきたー!」


 蕾が夜空を見上げ、両手を挙げて体中で興奮を示す。

 隣に居る悠里も、日和も、唯もその姿を見て一緒に笑い合っている。


 赤と青と黄色、緑と鮮やかな色を咲かせる花火は交互に競い合うように夜空に打ち上げられ、轟音と共にその姿を現す。

 やがて最後に一際大きい音が連続で響き、何度も何度も花火が咲いて、最後に三度、閃光を撒き散らし、全てが打ち上がったのか、周囲が一瞬静まり返ると、花火の余韻だけが周囲を漂っていた。


「みみが、きーんってなってる……」


 蕾が耳を澄ませるように、目を瞑ってじっとしている。


「終わったねー、凄い綺麗だった……」


 悠里も目を細めて、花火の景色をもう一度目の奥で再現しているかの様に夜空を見つめていた。

 やがて周囲から一人、また一人と見物客が石階段を下りて帰って行く姿が見える。


「さーって、こっちも帰るかぁ」

「はい、ずっと座ってたらお尻痛くなっちゃいました」


 唯が猫の様に身体を伸ばして欠伸をすると、日和も同意して立ち上がる。

 次に悠里が立ち上がって蕾を見ると、蕾は何か言い辛そうな表情で日向を見ていた。


「蕾ちゃん?」

「蕾、どうした?」


 悠里と日向の声が重なり、一瞬だけお互いの目が合うが、すぐに視線は蕾へ戻される。

 蕾は少しもじもじしながら、一生懸命に言葉を振り絞る。


「あのね……つぼみも、はなびしたいな……」


 花火をしたい、とお願いされた日向は、即答はせずに一度頭の中で咀嚼するように考える。


「今日、花火は見ただけじゃ面白く無かった?」

「ううん……」


 一つ一つ、蕾が委縮してしまわないよう、努めて優しい声色で訪ねていく。

 最近は素直だった蕾がこうして何かを要求してくるのも久し振りなので、日向は頭ごなしに否定はしたくなかった。


「おうちでやりたい、って事かな?」

「……うん、それでも、いい」


 成程、花火を見ていて楽しくなって、まだその光景から離れ辛いのか……それとも、自分でやりたくなってしまったのか。日向自身も幼い頃に花火を見た後、自宅にあった花火のバラエティセットを見て、すぐにやりたくなったのを覚えている。


「……今日はもう遅いから、明日か、その次の日ぐらいとかに一緒にやろうな?」

「…………」


 ここで蕾が答ずに俯く。とすると、今の質問自体に蕾の欲求が隠れているのだ。


「兄ちゃんと二人じゃ、ダメか?」

「そんなこと、ない……おにーちゃんといっしょがいいけど……」


 今度は言いながら、目線を下に向けてしまう。肯定的な否定だ、つまり日向と一緒がいいけれど、もっと強い欲求がこの先にあると日向が判断を付ける。

 そうして、思い至った。


「………そっか、蕾は今日、皆で花火やりたいか」

「………っ」


 ぐっ、と何かを堪えるように更に顔を下に向けてしまう。

 現在の時刻は八時を過ぎている、普段であればお風呂を済ませている時間で、外に居る時間ではない。

 それに、女子も居る中であまり遅くまで連れ回す訳にはいかないし、と日向が考えていた時だった。



「いいじゃん! やろうよ! コンビニで買えば手持ちの花火なんて沢山あるし!」

「え……?」



 唯が、いつもの場を明るくする笑顔で言い放ち。


「だな。花火だけ見て解散ってのも、味気無いだろ。まぁ蕾ちゃんの保護者の了承が出ればだけどな」


 雅が、鷹揚な態度で賛同する。


「面白そうですね! 私も日向先輩と一緒だって言えば、お母さんも許してくれるって言うと思いますし、キャンプの時に花火やりませんでしたもんね、そう言えば!」


 掌を合わせながら、日和も皆を見渡してそう言った。


「ふふ、じゃあ私だけ一人帰るって訳にもいかないし……夏休みで、高校生なんだからもうちょっとぐらい、遅くなってもいいわよね。蕾ちゃん、一緒にお兄ちゃんにお願いしよっか?」


 悠里が、蕾の手を取って立ち上がらせて、そっと後ろから抱きしめる様に体を支えた。



「ちょっと、皆……」


 日向が戸惑っていると、背後から回される悠里の手にそっと触れながら、蕾が日向を見上げる。


「はなび、したいな……」


 そんな風にお願いされて、懸念事項だった周りの反応も乗り気で、日向に断れる筈も無かった。


「……分かった、やろうか」

「よっしゃー! やーるよー花火二次会だよー!」


 苦笑いで答える日向に唯が右手を突き上げて喜びを体現する。

 花火の二次会なんてそうそう聞く言葉では無いと思ったけれど、今は夏休みだ。

 少しぐらいの夜更かしは大目に見ないといけない。



 それから皆で石階段を下りて商店街傍のコンビニへ赴いて、花火を買う事にする。

 コンビニの中は他にも浴衣姿の客が見られた。河川敷方面へ見物に行ってた人達だろうか、買い物籠にはお酒や肴の類を入れてる大人の姿や、女性同士で雑誌を立ち読みする姿もある。


「俺等も大人になったら花火見た後に酒を呑むようになるのかなぁ」


 ぼそりと言う雅だったが、その視線は浴衣の女性から離れる事は無い。

 成人すればあの人達と一緒に杯を交わす事も出来るのか考えているのだろうか。


「あ、これ面白そうじゃん、ヘビ花火……」

「恵那先輩はもっと派手なのやるイメージでした、ロケット花火とか……どっちにしろそれはダメです、煙凄いですもん。面白くないし……」


 唯が持つ黒いマグネットみたいな花火を見て日和が眉尻を下げて抗議する。


「まぁ本人がロケット花火みたいなもんだから、同類嫌悪してるんじゃない? 自分より目立つ存在が嫌いとか」

「どういう意味だよー!」


 横合いから覗いた悠里の言葉に唯が白い歯を剥き出しにするが、悠里は唯には取り合わず花火の下見を続行している。


 そんなやり取りをしながら花火を購入し、一同は最寄で庭付き、蕾が眠くなってもすぐ対処が出来るようにと条件が揃った新垣家へ再び赴く。


 行きは四人で帰りは六人という大所帯で、日向は家のドアノブを回すと、抵抗なくドアが開いてしまった。


「あ、母さんか父さんか、帰って来てる」


 今の時間だと少し早いぐらいの帰宅で、特に珍しい事ではないのだが、この状況を一体どう説明しようと思って玄関に入ると、物音に気付いた明吏が玄関へ出てきた。



「日向、蕾もおかえり。花火は楽しめた? ………どうしたの?」


 先に玄関に入った二人の子供達を見て安堵する明吏だったが、その後ろに控える浴衣の女子達と雅を見て瞠目してみせた。


「えっと、花火は観終わったんだけど、皆でもう少しだけ、花火する事になって。うち使っちゃダメかな?」


 流石に夜のこの時間に、いきなり家を使って花火をさせてくれと母親に頼むのは気が引けた。

 しかも女子同伴で幼稚園児も居る状態だ。軽く雷を落とされても仕方のないし、もっと言えば事が決まった時に母親に電話でもして先に了承を取れば良かったのだ。

 なんだかんだで気持ちが浮ついて、そこまで思い至る事が出来なかった事を日向は後悔した。


 明吏は、一同を見渡し、一点で視線が止まる。

 そこには、はにかんだ様に笑う日和が居る。

 ぺこりとお辞儀をする日和を見て、明吏も日和へ微笑みを返すと、日向に視線を戻した。


「いいわよ、日向がこんなお願いするなんて珍しいもんね。今日ぐらいは大目に見ましょ……その代わり、女の子達は私に家の電話番号教える事! 私から家の方に連絡するからね、娘が遅くに帰ってこないなんて、親としては心配なんだから。そんな所居ないで入って入って! 後でスイカ切ってあげるから、先にリビング入ってなさい!」


 明吏はそう言い残して行ってしまう、台所へ向かったのだろうか。


「いいお母さんだよね」


 悠里の言葉に、日向も頷く。一応、神社を出た辺りで女子達は保護者へ連絡し了承は得ているものの、実際に日向の母親から連絡するとしないでは、その安心感は段違いだろう。

 そういった部分に責任を持つ、大人というのはそういう事なのだろうと、日向は自分を情けなく思ってしまう。


「先輩の家、久し振りですね……二年ぐらいじゃそんなに変わらないなぁ」


 皆が家に上がって行く中、日和は玄関から廊下を見通してそう呟いた。

 以前に日和が家に来たのは一体いつだったのか、何となく中学三年に上がってからは記憶がほとんど無いが、恐らくその前後なのだろう。


「後で母さんに捕まるかもね、日和が来るのを心待ちにしてたから」

「……はい、そうなったら、精一杯お相手させて頂きますね」


 そして中へと上がる日和に続いて、日向も家に中へ入って行く。


 現在時刻は午後の八時半。

 ただの花火見物が、二次会に続いて日和の新垣家再訪という、家を出る時には予想すらしていなかった事が起きた。

花火大会のエピローグ的なものを書こうと思ったら、案の定長くなりました……もう定期としか……


金曜日から四日間ほど、我が家のお盆があるので更新が無くなるかもしれませんが

生きてますので、こいつ……死んでる……とは思わないで下さいね!


↑これをさっきまで前書きに書いてしまっていたという、大ポカをやらかす。

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