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子守り男子の日向くんは帰宅が早い。  作者: 双葉三葉
【一章 遅き春、葉桜の後。】
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続・子守り男子とお菓子のクラスメイト。

 普段とは違う、賑やかな昼食を過ごした日の放課後。

 掃除の当番である日向は、同じ班の生徒達と手早く掃除を済ませて、帰る準備をしていた。

 班は席の近いものが8人単位で5班に別れる為、日向の班には雅、悠里、唯が居る。

 雅と唯は部活動へ行ってしまい、残りの女生徒と男子生徒もそれぞれ帰り支度をしながら談笑中だ。


 鞄を持ち上げた日向へ、周りの様子をちらりと気にしながら悠里が近寄ってきた。


「新垣君、蕾ちゃんは元気にしてる?」


 身体を微かに日向に寄せながら、悠里がこそっと質問してくる。


「うん、元気なんだけど、一昨日から少し熱が出てたからさ。今日久し振りに幼稚園行ったんだよ。」

「え、風邪でも引いちゃったの?平気?」


「初日だけ39度近く出たんだけどね。次の日にはもう平熱まで下がってて、一応は爺ちゃんの家で休ませてて。今日は平気だろう、って事で幼稚園に行ったんだけど、まだちょっと本調子じゃないみたいでさ。」


「39度!? ちょ、ちょっと! 蕾ちゃん放っておいて平気なの?! わ、私も心配だけど、過保護な新垣君が普通に登校して過ごしてるのが信じられないんだけど!」


 日向の言葉に驚いた悠里が、思わず声を大きくしてしまう。

 クラスメイトが何事かと一瞬二人に目を向けるので、バツが悪くなり少しお互いに距離を取ってしまった。


「こ、ここだと話し辛いし、帰りながら話そうか」


 日向の提案に、悠里もコクコクと頷いて鞄を取ってきた。




「子供が熱を出すのって実はよくあって、元々平熱も高いから割と40度近くまで上がる事があるんだよ。」


 帰り際、下駄箱に向かいながら日向は悠里を落ち着かせるように語り掛ける。


「だからまぁ、慣れてるというか。小児科に連れて行って、特に何か大きなものが無ければ、後は先ず休ませる。今回も熱は派手に出たんだけど、本人は割とピンピンしててね。幼稚園行けない分、暇で暇で元気さは余ってるみたいでさ」


 苦笑いしながら話す日向に、悠里は不安そうな表情を見せた。


「そ、それじゃ季節外れのインフルエンザとか、そういうのじゃなかったのね……はー、良かった。あんなに可愛い子が病床でぐったりしてたら、可哀想で見ていられないもの……」


「はは、ありがとう。それこそあれ以来、蕾が偶に騒ぐんだよ、悠里お姉ちゃんと遊びたい、って。それこそ昨日なんて熱が無くて元気さはあったからさ、俺が学校に来る前なんか『お兄ちゃん、悠里お姉ちゃん連れてきて!遊びたい!』って聞かなくてさ。ちょっと参っちゃったよ。」


 そう言って笑う日向に、蕾から名指しで指名を受けた悠里は胸に手を当てて何かに悶え始めた。


「う……蕾ちゃんがそんな…わ、私を必要としてくれているなんて……。って、なんでそれを早く言ってくれないのよ!それを教えて貰ってたら、私は万難を排して蕾ちゃんを慰めに行ったのに!」


 日向に噛み付きそうな気迫で悠里は日向を問い詰める。


「い、いや……急に蕾にそう言われても、はい分かりました、なんて言える筈も無いし……それに、その」


「それに?」


「か、彼女でも無い女の子を、家においで、なんて軽々しく誘える筈も……無いでしょ」


 勘弁してくれとばかりに顔に掌を当て、少し照れくさそうに言う日向に、悠里もハッとした表情をして顔を少し赤らめた。


「そ、それも……そうね……うん、確かに、そうだよね……」


「でしょ?だからまぁ、我が家のかぐや姫から仰せつかった難題に、俺はただ平伏して嵐が過ぎるのを待つしかなかった訳でね……」


 弁解するような日向の顔をマトモに見る事が出来なくなり、悠里も足元を見ながら歩いてしまう。


 やがて、会話も途絶えがちになった辺りで二人とも下駄箱につく。

 無言で二人、上履きと下足を履き替えて校門を出た。

 気持ちゆっくりと歩き、日向の祖父母宅がある商店街方面と、住宅街方面への分かれ道に差し掛かった。

 日向と悠里は、お互いに何か言葉を探すようにして、視線を交わらせる。


 やがて、日向が「それじゃ、また明日ね」と口を開いた所で、悠里がグッと息を一度呑み込み、顔を上げた。


「あ、新垣君っ! 後でお宅にお邪魔させて貰ってもいいですか!」


 そして、はっきりと通る声でそう提案してきた。


「え、えぇ!? 今日、この後?!」


「そ、そう。でもほんと、お邪魔でなければで構わないのよ!蕾ちゃんのお見舞いさせて欲しくって、私もあれから蕾ちゃんと会ってないし、会いたくって……」


 最初の勢いにかなり勇気を絞ったのか、後半になるにつれて声量が小さくなってしまう。

 日向は面食らっていたが、ふっ、と一度息を吐いて悠里を安心させるように微かに笑って見せた。


「そうしてくれると、蕾も喜ぶよ。30分もあれば家に着くだろうから、それ以降でもいいかな?大体五時前を目安にしてくれると大丈夫だと思う」


 日向がそう答えると、悠里はパッと顔を上げて表情を綻ばせた。


「あ、ありがとう!じゃあ私、途中で冷たいものか蕾ちゃんが好きそうなお菓子でも買っていくわ!ふふっ、なーにがいいかなー」


 はーっと息を整えた悠里は安心したような笑顔で行動予定を考え始める。


「こちらこそありがとう、芹沢さん。蕾にはサプライズゲストという事で、知らせないでおこうか、その方が喜びそうだ」


 日向がちょっと悪い顔でそう呟くのに、悠里も一緒にクツクツと堪えるような笑い声を漏らしてみせた。

子供って、ほんと急に40度とか出るんですよね。

それで胃腸炎起こしてるのに、ピンピンしながら普通にご飯食べたり。

そして「割と軽いのかな?何でもなかったのかな?」と油断した大人が見事に伝染され、極大な苦痛に襲われるまでが完全に出来レースなのです。

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