表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
子守り男子の日向くんは帰宅が早い。  作者: 双葉三葉
【二章 再会の夏、新緑の芽吹く季節に。】
40/172

夏休みキャンプ編8 夜道にて。

 日向が火の番をしながら三十分程した頃、女子側のテントから悠里が外へ出てきた。

 少しだけ眠そうな顔で靴を履き、日向を見つけた悠里は安心したように顔を綻ばせた。


「悠里、寝てなかったの?」


 椅子から身体を起こして日向が悠里を迎えると、悠里は少し恥ずかしそうな顔で日向を見た。


「う、うん……あの、ごめん日向君……お手洗いまで、付き添って貰っていい?」


 そう言われて、日向は周囲の景観を見渡す。

 トイレは宿営地の傍にもあるが、ここら辺のものは虫が多く、不慣れな女性ならばオートキャンプ場のレストハウスに設置されているものの方が綺麗で使い易い。

 ただ、少しばかり距離がある為、暗闇の中を一人で歩くのは心細いのだろう。


「いいよ、行こうか」


 日向は鷹揚に頷き、フラッシュライトを片手に持つ。

 それを悠里に見せながら笑って言った。


「これ、買っておいて良かったでしょ。変な人が出ても平気なやつ」


 駅前に事前準備で行った際、蕾の護衛用にと冗談で言っていたものだ。

 なんだかんだで購入してしまっている辺り、果たして冗談なのかは本人以外には謎だったが、日向としては半分冗談半分本気である。


「もう……普通のライトでもいいのに。でも確かに安心だね」


 そうして連れ立って二人で夜道を歩く。

 ライトが照らす足元は、流石に光源が狭くてあまり離れると足元を見失う。

 その為か、いつもより悠里と歩く距離が近い。手が時折触れ合うのを日向が感じていると、悠里も同じなのか、距離を離しては近付きを繰り返していた。



「それじゃ、ここで待ってるから、急がなくていいからね」


 レストハウスに着いて、中のロビーにあるスツールに日向は腰を掛けた。


「うん、ありがとう……ごめんね」


 恥ずかしそうに女子用トイレへ入って行く悠里を見送ると、ロビーの中を軽く見て回る。

 掲示板を見つけて寄ってみると、そこにはラフティングの写真や学校行事での記念撮影等、様々な写真が案内文と共に張られていた。


「学校行事でも、こんな所に来るもんなんだな……」


 そしてパンフレットや何やらに目を通していると、悠里が戻ってきた。


「お待たせ、戻りましょっか!」


 ロビーから出て、二人でまた暗闇の中を歩き出す。

 そういえば、と日向は悠里に声を掛ける。


「蕾が居ない状態で、二人だけで歩くのって……かなり珍しいよね、学校以外じゃさ」

「……確かに、そうかも。気が付いたら結構色んな所行ったり、出掛けたりしてるのに、二人だけで歩くのがこういう時だけって、ふふ…」


 肩を揺らして悠里が笑うと、先程のように日向の傍に寄ってくる。


「多分この先もまだまだ、今じゃ予想出来ない事が起こるんだろうね。唯がどこかに行くぞーって言い出したり、そうじゃなくても、何処かに出掛けたり、遊んだり」


 一つ一つ数えるように、この先の事を語り出す。それは予想しているというより、未来にある何かを期待している様に聴こえた。


「不思議だな……」


 だからなのか、日向が呟いた静かな声は、少しだけ遠くから響くように悠里へ届いた。


「俺は、目の前の事だけ見てて…学校行って、勉強して、就職して、出来るだけ早く家に帰って……蕾が大きくなるまで、こういう楽しい事からは少し遠ざかるんだろうなって思ってた」


 日向が歩く先の風景を見据える。そこは確かに暗闇だったが、僅かな光がぽつぽつと先の道を照らしてくれている。今もまた、フラッシュライトが足元を照らす今の状況が、まるで自分の道のように思えた。


「悠里と会って、恵那さんと話すようになって、雅もまた一緒で、ちゃんと蕾も居て……そして日和と、またこうして一緒に居られるようになって」


 純基は言っていた。いつもある風景でも、見る事を目的としなければ、気付けないものがあると。


「悠里と出会ってから、色んな事が連鎖して、誰かと繋がって、それが重なって……今こうしてここに居る事が、不思議なんだ」


 そう言って静かに笑う日向は、いつも通りの少しだけ大人びた表情で。

 悠里は何故か、それが凄く気に入らなかった。


「不思議な事なんてない…」


 日向の事は、日向にしか決められない。

 始まりが優しさで、その行動も本物で、日向が蕾に与える愛情も本物なのは、悠里は十分理解している。

 だけど、本来は享受して然るべき事を、彼は不思議だと言い放った。

 それが、悠里には何よりも気に入らない。


「だから、これからまだまだ、沢山遊ぼうね。時間が足りなくなるぐらい」


 悠里は先程よりも半歩だけ日向に寄り添う。

 ほとんど肩が密着する悠里に、日向は困惑したように身を捩る。


「悠里……ちょっと、歩き辛いんだけど……」


「こういう時にそういう事言わないの! 男の子なんだから、エスコートしてよ!」


 蕾の事以外はまだ何も考えていない日向に、悠里は怒りながら笑う器用な表情で罵倒した。

少し短いのですが、これが前の話と一緒に書こうと思ってた辺りで、時間が作れたので書きました。

いっそまだ先の展開と一緒に、と思ったのですが、自分なりに上手く纏まった気がしたので、加筆も添削もせずにこのまま提出致します(レポート風)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

↓角川スニーカー様より、書籍版が2019年2月1日より発売されます

また、第二巻が令和元年、2019年7月1日より発売となりました、ありがとう御座います。(下記画像クリックで公式ページへとジャンプします)

i353686/ i353686/
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ