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子守り男子の日向くんは帰宅が早い。  作者: 双葉三葉
【二章 再会の夏、新緑の芽吹く季節に。】
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夏休みについて。

 前期の終業式の日、拳王こと小野寺教諭が教卓の前で一同を見渡す。

 この時ばかりは、普段騒がしい生徒もじりじりと何かに耐えるように私語を止めて前を向いている。


「以上で前期の行程は終了となる。明日より夏期休暇に入るが、くれぐれも大きな怪我や余計な過ちを犯さぬように。……何事もなく、楽しく過ごして来なさい。以上、帰宅して良し」


 そう言ってクラスの名簿をパタンと閉じた途端、教室内は一気に騒がしくなる。

 本日この時より、夏休みが始まった。


「きたきたきたー! ここからが高校生の本番だよね! さーて何する何する??」


 日向の背後で唯の咆哮が聞こえる。

 誰に対して話してるのかは分からないが、大方悠里であろうと予測していた日向は手元の成績表に目を通していた。


 学業の評価は全く問題なく、一部点数が取り辛かった教科以外はほぼ最高評価だ。

 安堵の息を吐き、教師からのコメント欄を見る。


 《前年度に引き続き優秀な成績と良好な生活態度を保ち、非常に印象が良い。行事等への積極的参加があれば尚良い》


 と記されている。

 小野寺教諭らしい、シンプルな文面だった。


「行事への積極的参加かー……」


 一人呟いてみるも、なかなかに難しい問題だった。

 正確には、日向としては選び辛い問題なのだ。

 何故ならば、この問題は応えれば応えるだけ、蕾との時間が失われる事になる。幼児に保護者は必須だが、こちらは必須科目ではないが、関わらないのも度が過ぎると無責任となってしまう。


  とりあえずは出来る範囲での積極性を持とうと結論付けて、根本的な解決は後回しにした。

 そんな風に日向が一人、物思いに耽っていると、後方から再び唯の声が聞こえてくる。


「新垣くーん! おーい、聞こえてる? ……ほう、行事への積極的参加……」

「いっ?!」


 思っているより余程近くに唯の声が響き、吐息が首筋を撫でた。

 日向は驚き、身体を縮ませて半回転に捻ると、その反応が面白かったのか、唯はお腹を抱えて笑い出した。


「ぷっ……ふ……ふふ、新垣君さ、反応いちいち面白いんだよねー、なんだろ。普通に声掛けるの勿体なくなっちゃう」

「あのね、人の成績表を後ろから覗くのは……あー……。うん……とりあえずいいや、どうしたの?何か用だった?」


 途中から唯への注意が特に意味を為さないだろう、と言葉を切り、用件を聞き直す。

 流石に他の生徒にはやらないだろうし、少なくとも日向にとっては見られて困るものでもない。


「あ、えーっとね。……その前に、あたしのも……見る?あたしだけが君のを見たのは不公平だから……お互い恥ずかしい部分を……」

「何か用だった?」


 日向は心を無にして重ねて問い合わせる。

 ここで下手な反応を見せると蟻地獄となるのは先刻承知済みだ。

 唯は「ぶう…」と口を尖らせたが、すぐに平静に戻ると。


「あんね、夏休み、……空いてる?」


 と聞いてきた。

 あまりにも直球な聞き方に、周りを見ると数名の生徒が日向と唯を凝視している。

 その中で、悠里もまた顔を青ざめさせて日向を、むしろ唯を見ていた。口許が「あわわ……」という風に震えている。

 他の生徒より日向に近い位置に居る雅は、ただ一人窓の外を見ていた。スケープゴートにはならないという、徹底抗戦の構えだ。


「…うん、日によるけど、特にこれといった予定はまだ入れてないけど。…………何か、用事だった?」


 日向は目線で強く唯へと訴える。

 これ以上はいけない。先程の発言とこの後の発言、言い方を間違えると完全に男女の逢瀬か、それに伴う何かだと思われる。


 特定の異性に休みの予定を聞く、文面だと簡単だが内容はかなり際どい。

 以前の勉強会も際どいが、あれは試験という名目と、席が近い四人という免罪符が存在する。


(頼む、事務的な言葉か、それともいっそ適当に濁して後で聞かせてくれ……)




「あのね…新垣君と一緒に、キャンプ行きたいなーって思って!」




 教室がざわめくのが分かる。一部女子が黄色い声を上げた。

 そりゃそうだ、と日向は真っ白い教室の天井を見た。

 さて、ここからどうやってこの場を収めたものか、考えるだけで面倒臭くなった時。


「皆でね! なんかパパが新垣君のお父さんとそんな話をした事あるみたいで、今年の夏休み中に行くかーって盛り上がってさ! 来年受験だし! 大勢で行く方が楽しいだろうって!」

「わざと?」

「なにがぁ?」


 きょとんと口を開ける唯に、日向はもう何も言わずに場が収まるのを待った。


 先程より幾らか日向と唯に向けられる好奇心の目が薄らいだ所で、二人は教室を出て歩き出した。

 そして少し立ち止まると、悠里も遅れてやってくる。


「唯……あの言い方はダメでしょ、完全に誤解されるわ……」

「あはは、ごめんて! あんなに皆、ちゃっかり聞いてるとは思わなかったわー」


 がっくりと肩を落とした悠里に、日向は同情を隠せない。

 とりあえず三人で動いても目立たない場所までと思惑が一致した事で、そのまま下駄箱へ行き外へ出た。


 夏休み前のロングホームルームだけで終わった今日は、下校時間といってもまだ正午より前である。

 グループで帰宅する生徒が多いのは、日向達のように夏休みの相談や、早速これから遊びに行くのだろう。


「とりあえず、詳細は後から送るねー、なるべくどこでも行けるように日程空けといてね!」


 そうして部活のミーティングがあるという唯は、部室棟へ走って行った。

 後には日向と悠里だけが残される。

 目が合うと、どうする?どうしよう?と視線でやり取りがあり、やがてとりあえずという風に歩き始めた。



「流石、唯のお父さんだよね。……エマージェンシー、だっけ」


 道中、悠里が思い出したかのように笑いを噴き出す。


「やってくれるよね、初対面ですらないのに巻き込まれてる。この様子だと、うちの父さんもだろうな……」


 日向も釣られて笑い出す。


「でも、ちょっと嬉しいね」


 そんな事を言い出す悠里の横顔を、日向がそっと盗み見ると、悠里も日向を見ていたのか、視線が合った。


「日向君のお父さんがもし来るなら……それでなくても大勢で行けるなら、蕾ちゃんも一緒に行けそうじゃない? 今度は前みたいに、遊んで蕾ちゃんだけお別れ……じゃなくって。一緒に寝るまでお話とかも出来るもん」


 日向から目を逸らさずに悠里は言い切る。


「それに、高校生の想い出としては、絶好のイベントだよね!」

「発案者が危険物とその娘だから、安全に終わるかは全く謎になったけどね」


 なんとなく気恥ずかしくなった日向が、そんな憎まれ口を叩く。



「でもまぁ、何にも予定がない夏休みより、いいかな」


 それは間違い無く、日向の本心だった。

 隣を歩く悠里が、一歩前に出て日向へ振り返る。


「ねぇ、日向君」


「うん?」


「楽しい夏休みに、しようね」



 そして夏が、始まった。

夏休み編(仮)の導入として、いつもと違うスマホでの書き出し……なので、誤字脱字は後程チェック致します。移動中、暇で暇で……。


※という事で、帰宅して改稿致しました。お見苦しいものをお見せしてすみません。

夏休み編ですが、前半パートと後半パートで書きたいものがそれぞれあります。

私の技術で書けるのかは甚だ疑問ですが、頑張ります。(主にキャラクター達が)

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