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子守り男子の日向くんは帰宅が早い。  作者: 双葉三葉
【一章 遅き春、葉桜の後。】
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公園デート編幕間:優しい瞳。

 私、芹沢悠里が新垣兄妹と話したり遊んだりするようになり、一ヶ月が過ぎただろうか?

 何の変哲もないスーパーでばったりクラスメイトに出会って、凄く可愛い女の子とお菓子を食べる約束をして、今はこうして買い物まで一緒に来ている。

 しかも偶然じゃなく、私からアプローチを掛けて……。



 この二人に出会った時、先ず最初に蕾ちゃんの可愛らしさに私の理性が消し飛びそうになった。

 顔立ちが整っている事は勿論だが、雰囲気と言うか何というか……言い表すのは難しいけれど、私が思い描く『可愛い女の子像』にピッタリと一致したのだ。


 そんな子に「おねーちゃん」と呼ばれるのは反則だと思う。

 可愛くて可愛くて、何かと構ってあげたくなっちゃったし、悲しい顔をさせたくもない、嬉しそうな顔をもっと見たかった。



 私にとって意外だったのは、日向君の存在だ。

 クラスメイトで、席が私の前側なので視界によく入る。

 でもクラスでは目立たなくて、偶に成瀬君と話すのを見るぐらい。

 不思議と彼を悪く言う人は居なかったけれど、話題に上る事も無い、そんな人。


 蕾ちゃんとお菓子を食べて、なんだかんだで夕飯まで一緒させて貰っちゃって。

(今思えば、我ながら凄く図々しい申し出だったと思う。今でも偶にこう、やっちゃった感に苛まれる事もある)

 そうした時間の中で彼の、蕾ちゃんを見守る瞳が優しく細まるのが、妙に印象に残った。


 教室の中の、少し近寄りがたいような。

 私と話す時の、丁寧だけど少しだけ距離を感じる話し方。

 そのどれもが、蕾ちゃんと居る時だけは彼の周囲から消え去る。


 私の友人にも兄弟姉妹が居る子達はいるのだけど、ここまで甲斐甲斐しく面倒を見てくれる話は聞いた事が無かった。

 だから、何故彼があんなにも一生懸命に蕾ちゃんを大事に大事にするのか、ちょっと気になる。

 それとも、お兄ちゃんっていうのは普通はそういうものなんだろうか?


 何となくだけど、何か彼なりの理由があるんじゃないか、って。

 私はそう、思ってる。



 日向君と一緒に居る所を唯に見られて、今日の服装もしっかり見られた。

 うー……あれは何か察してる顔だけど、唯の事だから後で何か訊かれるんだろうなぁ。


 どんな事を訊かれるのかも、何となく予想はつくけれど。

 私はまだ、自分が彼をどう思っているのか、自分でも分からない。


 ただ、彼の表情を変化させる事が出来る蕾ちゃんと同じようになりたい。

 妹になりたい!って意味じゃなくて!


 私の言動で、彼がちょっとでもあたふたしてくれるのが楽しくって。

 もっともっと、そういう一面を観てみたいと思う自分が居る。




 今、三人でこうしてモールの中で買い物してる時だってそう。

 貴方はいつだって、蕾ちゃんの事を沢山考えてる。


 一人で用事を済ませてくるから休んでていい、だって!

 蕾ちゃんが歩き疲れてないか、心配したんでしょ?


 素っ気ない態度の中にも、一つ一つ気遣いが籠められている。けれど。


 もうちょっと、自分の事を優先してもいいと、私は思うのです。




「そういう訳だから、皆で行きましょ。」



 私は彼の提案を笑顔で断ち切り、蕾ちゃんと手を繋いで先に歩き出す。

 蕾ちゃんも、ちょっとだけ疲れてそうだけどお兄ちゃんの買い物ならと弾み足だ。

 そうして私達は、男性用ファッションのテナントへ向かう。


 いきなりだけど、店に着いて品物を物色する日向君に、私は唖然とした。


「ちょっと日向君、いくらなんでも五分で即決は無いわ!適当に選ぶんじゃなくて、もっと選んで!」

「い、いや。適当じゃないよ、ここら辺が大体いつものパターンで……大きく外す事も無いから、いいかな……って。」


 私の前のめり姿勢に、日向君が若干後ずさる。

 男女間の買い物は掛ける時間と基準が違うというが、その典型例だ。


「そのシャツ、今着てるのと大差無いでしょ。折角なんだし、夏から初秋まで着られるような物を選びましょうよ!ほら、こっちのこれ。これも!」


 私は日向君が見ているコーナーのシャツを漁り、幾つか彼に合いそうなものをピックアップする。

 買い物は先ず物量!候補を挙げられるだけ挙げて、そこから取捨選択する事、これが大事!


「あんまり自分で選ぶの得意じゃなくてさ……。ほ、ほら。この柄とか、俺にはちょっとだけ背伸びし過ぎっていうか……。」


 そう言いながら、先程までと変わらない地味~な柄や、真っ黒な色を選ぼうとする。


「そういうのは少し軽そうな見た目の人が、印象を落ち着ける時に着る方がいいの!日向君は既に性格が老成しているんだから、年相応に明るめでいいのよ!」


 バッ!と日向君の手からシャツのハンガーを奪い取り、ハンガーラックに戻す。

 手が空いた彼の身体に、私は自分で選んだシャツを当てがう。


「うん、やっぱりおかしくは無いわね。若干違和感あるのは、髪型のせいかしら。まぁそれは今後の課題にしておくとして。」


「課題て。」


 日向君の反応を黙殺する。


「蕾ちゃん、お兄ちゃんが着るとしたら、どっちがいい?」


 私は両手に持ったシャツを掲げ、蕾ちゃんに聞いてみる。


「んー」


 と手を頬に当てて首を傾げる姿が可愛らしい。護りたい、この存在。



「こっち! こっちのほうがかっこいい!」



 びしっと指差す蕾ちゃん。OK、私の予想と一緒だ。

 選んだ側のシャツを日向君に手渡し、肩をくるりと回転させる。


「はい、試着出発!」


 トンと背中を軽く押すと、彼は振り向いて少し困ったような顔になる。

 ふっふ、ガードが崩れてきたわね日向君……でもまだまだ、そっちのペースには戻さないわ。



 恥ずかしいのを堪えながら、私は手を後ろに組んで少しだけ視線を落とすように顔を前に出す。



「カッコいいとこ、見せてよ」



 私の言葉に、私は自分で少し頬が熱くなる。

 日向君は、少し驚いたような顔で私を見ると、彼も少し顔を赤くして目を逸らした。



「わ、分かったよ分かった……ちょっと着てくるから、待ってて」



 急いで試着室へ入る日向君を見送り、私は先程まで持っていた服を丁寧にラックへ戻した。

 蕾ちゃんも私の真似をするように、服を取っては戻し、取っては戻しを繰り返す。

 そしてふとこちらを見る。



「さっきのゆーりちゃんとおにいちゃん、おかあさんとおとうさんみたいだった。」



 彼が試着室に入っていてくれて良かった、と心の底から私は安堵した。

悠里視点。

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