公園デート編・3
唯を見送り、日向と悠里は気を取り直し、蕾の服を買いに女性服のショップが揃うモールの2階へ来ていた。目当ては子供服売り場である。
と言っても、ここは悠里の独壇場で日向は特にやる事が無い。
蕾に似合うであろう服を選んだとして、それが本人の好みかは分からない。
もっとも蕾ならば兄に気を遣って喜んでみせるだろうが……。
それでも本当に好きな服を選んで欲しかったし、悠里ならば蕾の好みを把握しながらコーディネイト出来るだろうと思う。
「蕾ちゃん、好きな色とかある?どんなのがいいなーとか」
「んー……。みどり、すきだけど……きょうはゆーりちゃんといっしょの、あおがいい!」
蕾は手を後ろに組み、少し恥ずかしそうに悠里へ要望を告げる。
身内贔屓混じりでも可愛らしい仕草に、日向はつい頬が緩んでしまう。
一方で、目の前に居る悠里は胸元を押さえて蹲っていた。
むしろ悶えていると言っても正しい。
「ゆーりちゃん、どうしたの?おなかいたい?」
蕾は悠里と目線を合わせるように屈んで、悠里の顔を覗き込んだ。
「だ、大丈夫よ。最近の流行り病なの……」
「そ、そうなの?だいじょうぶ?おなかさすったらなおるかなぁ……」
こういう時だけは、いつも掴み所が無く少し大人びている悠里が、アホっぽく見えると日向は思う。
真正の兄バカである自分が言えた義理ではないが、最近は悠里が傍に居ると自分を客観視出来るのだ。
「よし、おっけー……。気を取り直して選びましょうか。青系探してみるけど、蕾ちゃんも気に入ったのがあったらじゃんじゃんキープしてね! 買い物は物量と選択よ!」
「はーい!」
発作から立ち直った悠里が店内を猛禽類の瞳で見回した。
店内を物色し、幾つか試着を繰り返して小一時間ほど。
手には店のロゴが入った紙袋を持つ、ホクホク顔の蕾が居た。
「凄いな芹沢さん……。青系と緑系、二着も買って七千円以内……ぴったり予算内だよ…」
感心した声を告げる日向に、悠里は得意気な顔を見せた。
「へっへー、そりゃね! 買い物は女の嗜みだもの。それに私とお揃いを蕾ちゃんが希望してくれたのは嬉しいけど、出来れば本人の好きな色も買ってあげたいじゃない。でも丁度いいのがあって良かったわー!」
首を回して身体を解しながら悠里は安堵の溜息を吐く。
そして隣に居る蕾へ顔を向ける。
「蕾ちゃん、今度それ着てまた一緒にお出掛けしようね!」
「いいの?! やったー! ぜったいね、ぜったい!」
「うん! 絶対行こうね、夏休みも近いし、色々遊んじゃおう!」
顔を合わせて笑い合う二人に、日向はどこか胸が温かくなるのを確かに感じる。
そうして二人を眺めていたら、ふと蕾が日向の手を握る。
「おにいちゃんも、いっしょね」
そして逆の手で悠里の手を握った。
「さんにんで、いくの」
そのまま二人の手を引き寄せるように引っ張る。
引き寄せられるまま二人は膝を少し落とし、自然とお互いの目が合った。
「まぁ、そうなるよね」
「仕方ないわね、保護者は必要だもんね」
お互いにそう口にして、何となく気恥ずかしくなって、咄嗟に目を逸らしてしまう。
「うん!」
蕾は満面の笑みで、元気に頷くのだった。
そして流れで三階へ向かい、日向はふと用件をもう一つ思い出す。
それは財布にある、もう一枚の一万円札の使い道だ。
「ごめん、二人ともどこかで軽く休んでてくれない?ちょっと寄りたい所があってさ……」
日向の提案に、悠里は目を丸くする。
「どうしたの? 別にそんな事言わなくても付き合うけど……」
と言って、すぐに目を細めて口角を上げた。
「あ、もしかしてぇ……見られたくないものでも買うのぉ……? 日向君ったらやーらーしー!」
むふふ、と口を手で隠してみせる。
日向は溜息を吐いて悠里を見返す。
「そういうんじゃないよ、俺も少し服を見てこようと思って。…男物の服とか見ててもつまらないでしょ?」
「日向君も服を選ぶんだ。別につまらなくは無いわよ? 男物の服って興味あるし……。蕾ちゃんは、どこかで休みたい?」
人差し指を頬に当てて、悠里は蕾の顔色を見る。
「だいじょうぶだよ、へいきー」
蕾は首を横に振りながら、ぴょんと跳ねてみせる。
悠里は頷いて日向に視線を戻した。
「そういう訳だから、皆で行きましょ?」
首を傾げて告げる表情は、どこか優し気な雰囲気だった。
今回短めですが、これは次のシーンで所謂~side~というのを試してみよう、と思った……から……です、たぶん。(言い訳)
冒頭に習作とある通り、私自身どういう書き方が自分に合ってるのか分からず、なんとなく
『ラブコメって一人称視点が多いから、三人称視点αのような感じで試してみよう!』だったのですが
三人称視点だと、私の表現力の問題でキャラクター達が何を考えているのか、伝えきれないのではと感じました。
個人的には多人称視点のオムニバス形式って凄い好きなんです、大御所だとブギーポップとか……。
話題が変わりますが、気付いたらまたブックマしてくれる方が増えておりました。
本当にありがとう御座います……。暇潰しになれば幸いです。
色んな方の小説を読みながら思うのは、こうして自分の作品を読んでくれる方が居るというのは幸せな事なんだなぁ、という事です。
感謝を忘れず、いつか音を置き去りに出来るよう頑張ります。