公園デート編・1
日向が軽い頭痛を覚えながら玄関へ行くと、母親と挨拶を交わす悠里の姿があった。
「いつも日向君と蕾ちゃんとは楽しく過ごさせて頂いております、何度かお宅にもお邪魔させて頂いたのにご挨拶が出来ずにいて申し訳ありません」
「いいえぇ、こちらこそ…。私達なんて家の事は日向に任せっぱなしで……蕾の事も普段はあまり構ってあげられなくて、悠里ちゃんのようにしっかりした子が居てくれると助かるわぁ!」
クラスメイトが自分の母親と挨拶を交わす光景……。
妙な既視感がある。
何だったかと記憶を探ると、すぐに答えが出てきた。
家庭訪問の時、担任が自分の両親と挨拶を交わす時の微妙な心情に似ているのだ。
「こんな所で長居させるのも悪いわね、入って入って! 二人とも準備しているから、お茶でも飲んで待っていてね!」
そういって母は来客用スリッパを悠里の前に揃えて置き直し、自分は奥へと引っ込んで行く。
すれ違い間際に目線が合う。
雰囲気こそニコニコと朗らかだが、目は口ほどに嘘を付けない。
完全にお昼のワイドショーを見ている時の目と一緒だった。
「なんだよ……」
「いいえーなんにもー! 悠里ちゃんいい娘ね、可愛くて礼儀正しくて……あなたにはちょっと勿体ないんじゃない?」
むふふ、と意味深な表情のままリビングへと消えて行く
「こんにちわ、日向君。お邪魔するわね」
靴を脱いでスリッパに足を通した悠里が、廊下に立つ日向へと声を掛けてきた。
改めて悠里の姿を見ると、彼女は水色と白を基調としたワンピースに、小さなショルダーバッグを身に着けている。
今は脱いで手に持っているが、陽射し避けに麦わらの帽子という、避暑地に来た令嬢のような装いとなっていた。
いつもの制服姿とは違う、初めて見る悠里の姿だった。
先程、名前を呼ばれた事もあるだろうか、日向は少しだけ頬が熱くなる。
内心の動揺を、一呼吸して落ち着ける。
いつも通りの、平静な自分に戻すのに少しだけ苦労した。
「いらっしゃい、突然来るもんだから本当に驚いたよ。前々から思ってたけど、芹沢さんってサプライズ好きだよね……」
肩を少し落しながら笑う日向に、悠里は作戦成功、という風に手を口に当てて肩を揺らした。
「ふふ、そうかも。蕾ちゃんの驚く顔って可愛いし、それなのに日向君は何しても平然としてるっていうか、ポーカーフェイスが過ぎるから何とか崩してやろう! って思っちゃうのよね。そういう意味では大成功だったみたい」
「表情に出てないだけで、今まで何度も驚いてるから……。そして何故名前呼びに…?」
「新垣君って呼ぶと、新垣家の御家族全員を呼ぶ事になるでしょ、TPOの問題よTPO。なーに、私に名前呼びされるのは嫌なの?」
ずいっと顔を近付ける悠里から逃げるように日向は反射的に腰を引かせる。
「い、いえ、大丈夫です好きなように呼んで下さい……」
返答には満足したようで、大きく頷くと悠里はまた歩き出した。
二人でリビングへ入ると、待ちかねていたかのように蕾が和室から飛び出してくる。
「えへへ、ゆーりちゃんだ!」
既に着替え終わっていた蕾は、はにかみながら笑顔を向ける。
両親の前だから少し大人しい、というか見栄を張っているように思える。
いつもの体当たりが来るかと一瞬身構えた悠里だったが、今日は控えめな蕾の態度に少々残念そうだ。
「蕾ちゃん、その服可愛いねー!うん、いい……凄くいい……」
悠里による手放しの褒め言葉に蕾がもじもじと身体を捻る。
そして悠里のワンピース姿に「ふわー…」と感嘆の息を漏らして、母親をちらりと見た。
明吏は蕾の視線に苦笑いしながら首を左右に振った。
「残念ながら、ワンピースはあるけど去年買ったのは身長的に着られませーん」
「えー! つぼみもワンピースきたいー! かわいいのがいいー!」
両手をグーにして地団駄を踏む蕾に明吏は困りきった顔をしたが、不意にポンと何かを思いついたらしい。
「そうだ、どうせなら蕾もワンピース買ってきたら? これから着る事も多くなるんだし、丁度いいじゃない!」
明吏の提案に蕾は「いーの?!」と顔を輝かせる。
「うんうん、でもお兄ちゃんは女の子の服装センスとか絶望的だからねぇ。悠里ちゃん、蕾のコーディネートをお願い出来るかしら?」
突然話を振られた悠里は驚いて背筋をピンと伸ばす。
「え、え、私が選んじゃっていいんですか?」
「うん、この子も悠里ちゃん選んだものなら喜ぶだろうし、お願いしちゃいたいな。」
「私でいいのなら、喜んで!」
「ゆーりちゃんとおかいもの! ふくーかうのー!」
やったー、と蕾と悠里が両手を合わせて一緒に喜ぶ。
完全に蚊帳の外に置かれた日向だったが、女性のファッションに関しては口を出さない方がいい、と身に染みて分かっているので何も言わない。
「それじゃ日向、これ蕾の服代と昼食代ね。もし足りなかったら立て替えておいて」
財布から一万円を出し、日向に差し出す。
多い気がするが、足りないよりはいいだろう。
それに女性の服がどのぐらいの相場なのかも日向には分からないので、ありがたく受け取る。
「分かった。それじゃそろそろ出てこよっか。いい時間だね」
札を財布に仕舞い、日向が立ち上がる。
そこへ仁がリビングへ入ってきた。
「おー、駅前に行くんだろ。今日は暑いし送るよ。乗って行きなさい」
車のキーを指先で振り回しながら言い終わると、仁は悠里へ視線を向けた。
「日向と蕾がお世話になってます、父の仁です。悠里さん、今日は二人の事を宜しくお願いするね」
ニッと人の良い笑みを浮かべた父に悠里は居住まいを正して深々と一礼する。
「芹沢悠里です、こちらこそ宜しくお願い致します。それと、お二人の事は頼まれました、しっかりと手綱を握りますね」
そう言って笑顔を返す悠里を見て、仁は視線を日向に戻し。
「お前には勿体無い気がするなぁ」
と母親と同じ事を呟いた。
前回ポイントの話をしたら、ポイント入れて下さった方が居らっしゃいまして……。
「なんか催促したみたいになったかもしれない!」と悶絶しました。
すみません、ありがとうございます、励みに致します。
もう一つ、私の筆が進むタイミングとして『早く続きが読みたい投稿作品』が更新されていない時だったりします。
自分で書いてみると、更新を続けるって面白いけど大変だ!という事がよく分かったので、お体に気を付けて頑張って下さい!としか言えない。けど読みたい!
伝われこの気持ち・・・!