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俺の同僚と児童たちが無様すぎる

ブクマありがとうございます!

 ……俺はいま、ものすごいものを見ていた。

 ちょっと想像してみてほしい。

 先ほどまで居丈高に振る舞っていたシャーロットが、顔を真っ赤にして怒鳴り散らし、挙げ句には泣き出してしまうような、そんな光景を。

 まあついさきほどまで、校長に弄られて発狂していたわけだが、それとくらべても、それこそ「豹変」とも言えるほどの変わりっぷりだった。

 ……いやあ、なんか、もう。


 どうしてこうなった。



「じゃあさー、あとテキトーにやっといてー」


 俺とシャーロットのお茶目(?)な会話劇により、すっかりやる気を失くしてしまったフィオナ校長は、俺たちから背を向け、手をヒラヒラと振った。


「……な、なんて無責任な……」


 校長の態度に、さすがのシャーロットも絶句していた。

 投げやりもいいところだ。

 こんなちゃらんぽらんな幼女が校長では、この学校の行く末が案じられる。

 校長室から出て、扉を閉めたシャーロットは、目を伏せ、ため息交じりにつぶやいた。


「……まったく、先が思いやられますね」

「おまけに同僚は毒舌だしな」

「なにか言いました?」

「めっちゃ可愛い子が同僚でウレシー(棒)」

「……ば、ばか」


 照れるところか? 照れるところなのかそこ?

 ……まあ、とはいえ、校長に失望しているのは変わらないようだ。

 俺も、雇い主があんな感じだったので、よく言えば肩の力が抜け、……悪く言えば萎えてしまっていた。

 ……というか、そもそも、この学校を運営してる母体はどこなんだ?

 俺の一般常識であれば文部省なんだけど、この国は王政っぽいし……、そもそも全国を統治する機関があるかどうかすら分からない。


 ……にしても、拍子抜けである。

 せっかく気張ってきたのになー、なんだかなー。

 まあ校長(トップ)がガチガチ硬派な人物じゃなかっただけ良かったとしよう。

 ちょっとの失敗でも突っついてくる厳格な人間が校長だとしたら、逃げ出したい気持ちでいっぱいになるだろうが、……正直、あの幼女にいくらなじられてもあんま悔しくない。

 ……ああ、もしかして。


「あのさ、シャーロット、あのよう――校長ってさ」

「いま幼女って言いかけました?」

「妖怪みたいな校長さあ」

「いや、あの、訂正してるようで逆に酷くなってますが……」


 似たようなもんだろ。

 得体の知れないって意味で。


「俺の肩の力を抜くために、あえていい加減な態度を取ったってことはない?」

「ないですね。一から十まであんな感じです」

「お前んとこの校長しょうもねえな(笑)」

「あなたの校長でもあるんですがそれは……」


 そんなこんなで、木張りの床を歩く俺とシャーロット。

 掲示板の類なんかはない簡素な学校で、校舎というよりは大きな家、という印象だった。

 塾……というには、規模も雰囲気も生活感がありすぎる。

 まあそれでも、西洋風の建築であるため、物珍しいことには変わりないのだが。

 窓は大きめに作られてあるが、横にスライドするタイプではなく、どうも前後に開閉するタイプっぽかった。

 周囲をキョロキョロと見まわしていた俺に、シャーロットは尋ねる。


「なんですか、そんな見まわして。田舎の校舎が珍しいですか?」

「田舎とかそういうレベルなのか……これ」


 これじゃあまるでファンタジーだ。

 どうにもとんでもないところに迷い込んだものだ、と、今さらながら感慨にふける。

 悠長に振る舞っている場合でもないんだろうけど、日本に帰る方法が分からない以上、目の前の状況に適応していくしかない。

 そんな、物珍し気な俺の態度を、校舎の設備に不満を抱いていると受け取ったのか、シャーロットは顔をしかめた。


「なにか文句でもあるならハッキリ言ったらどうです? ボカされるのは嫌いです」

「いんや、掃除が行き届いてるなあと思って」

「……そう、ですか……?」


 俺の適当な感想に、シャーロットが顔を赤らめた。

 あれ、俺なんか褒めるようなこと言ったか?

 シャーロットは、長い髪の毛を右手の指で弄りつつ、ボソボソとつぶやく。


「まあ……、その、掃除してますから、わたし」

「へえ……、一人で?」

「ええ、用務員の方も毎日来るわけではないですし、私が率先して――」


「そいつァよくないな」


「……」


 ――シャーロットの目が、驚きで見開かれる。

 たぶん、自分の功労を褒めてもらいたかったんだろうけど、俺としてはそれは受け入れがたかった。


「なんで子供たちに掃除させないんだ? 自分たちの学び舎なんだから、自分たちで綺麗にするべきだろ」


 現に、俺が小学生の頃はそうだった。

 教師も掃除に参加するべきではあるが、なにも彼女だけが率先してやることではない。 別に、特別なことは言ってないと思う。

 しかし、俺の当然ともいえる指摘に対し、シャーロットは、なんというか、ばつの悪い顔をしていた。


「それは……、その、領主のお嬢さんもいますし――」

「関係なくない? お前の教育方針だっつーんなら別に口出ししねえけど、俺は納得できない」

「……あなたはまだ、何も知らないから、そんなこと言えるんですよ」


 そうかなー? 普通のことだと思うんだけどなー?

 それに、子供の頃に掃除のこととか覚えてないと社会に出てから苦労すると思うんだけど。ソースは俺。

 いやあ、ゴキブリ屋敷ってわりと簡単にできるんですよね(白目)。


 それからシャーロットは、不意に、2・3歩、俺の先を急いた。そしてくるりと反転し、神妙な顔で俺に向き直る。

 右手で、俺から見て左側の教室を指さした。


「ここが、生徒たちのいる教室です」

「マジか……!」


 どうしよう、まだ心の準備できてないんだけど。


「え、なに、もう入るの?」

「なに言ってるんですか、前からそう決めていたでしょう? 一昨日の余裕はどうしたんですか?」


 どうやら俺は、一昨日から彼女(シャーロット)と会っていたらしい。

 ちょっと連絡不行き届けにも限度があるんじゃないですかね、一昨日の俺。

 まあ全部俺なんだけどさ。


「ヤッベ、ぜんっぜん記憶がねえぞ……?」

「あーそういえばあなた記憶喪失って設定でしたっけー」


 シャーロットが冷めた視線をコチラに送った。

 いわゆるジト目というやつである。

 やめろよ、美少女にそんな目で見られたらゾクゾクしちゃうだろ。

 もちろん、そんなことは口に出さないが。ドン引きされること請け合いだし。


「設定っていうな。こっちはわりと真剣なんだから」

「あなたの様子を見る限りさほど迷ってはいなさそうですが……」


 シャーロットは、呆れたようすを見せつつも、主導権は握ったとでも言わんばかりの余裕を見せつけていた。

 具体的に言うと、どことなく見下ろすような視線で、口角がほんのり上がっている。

 ぶっちゃけイラッときますね☆


「まあいいです。せいぜいそこで見ていてください。私の手腕を」


 髪をファサっとかきあげ、したり顔で俺を睥睨するシャーロット。

 うわ~、すっげえ死亡フラグくさいぞぉ~?

 しかし、俺の不安をよそに、シャーロットはドアの取っ手に右手をかけた。

 ゆっくりとそれを開け、教室の中へ入ろうとする。


 ……が。


 ――ベチャッ、と、シャーロットの顔に何かが当たった。


 その……白くてデカい何かが。


「やったぜ、10ポイントゲットォ!」


 ……そんな声が、教室の中から響いた。

 あまりの出来事に、俺は茫然としてしまう。

 なに? なにが起こってんの?


「……あの、シャーロット……?」


 俺は同僚に声をかける。

 シャーロットの顔から、白くてデカくてなんか粉っぽい匂いがする何かがずり落ちた。

 ベチャッ、と床に落ちた「それ」。

よく見ると、どこかで見覚えがある気がする。


 ――ああ、これ、パイだ……。


 ほら、今でもバラエティ番組とかでよくやるやつ。

 パイ投げ。

 彼らは――それをしていたのだ。

 シャーロットの顔に命中(ヒット)したことを確認するや、教室から歓声が上がった。


「おっしゃー、10ポイント!」

「すっげー! さいしょから顔にあてるとはー!」

「ねーえ、俺にもやらせてよ!」

「パイある⁉ まだいっぱいある⁉」

「ちょ、ば、俺にぶつけんなロア!」

「いえーい、ぶつけれー!」


 瞬間、児童たちから一斉にパイが投げつけられた。

 なんつーか、もう、あれ、真面目なファンタジー作家がキレそうなレベルの量のパイが、次々とシャーロットに当たっていった。

 シャーロットはなすすべもなく、ベチャベチャとパイを浴びた。

 余すところなく、全身に。


 意気揚々とパイを投げていた子供たちであるが、ふと、目の前の、白くてドロッとしたものにまみれた女教師(文字にするとなんかエロい)が、無言で佇んでいたのを見て、なにやら危機を悟ったようで、ヒソヒソと、小声で相談しあった。


「……ねえ、せんせーおこってない?」

「あ、やっべ、逃げる?」

「逃げたほうがよくない?」


 児童たちが、口々にそんなことを言い始めた。

 だが、もう遅い。


「……ふ、ふふ……!」


 シャーロットが、地を這うような声をとどろかす。

 やべえ、この子、たいそうご立腹でいらっしゃる。

 なんか知らないけど、背中に瘴気っぽいのが見える。

 さすがに心配になって、俺は声をかけた。


「……あの、シャーロットさ――」


「わりゃあああああああああクソガキャアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!」


「ええええええええええええええええええええ⁉」


 ブチ切れた⁉ ブチ切れたよこの子⁉


「調子にのってりゃいい気になってええええええええええええ‼」

『うわあああああああああああああああ逃げろおおおおおおおおおおおおお‼』


 シャーロットが顔を真っ赤にして怒鳴っている。

 なんかもうさっき戦ったオークよりも魔物っぽかった。

 そんくらい殺気とか色々ヤバい。

 こんな子が初体験(意味深)だったら腰を抜かして泣いてたってレベル。

 オークが初体験でよかった(錯乱)。


「みんなー、こっちー!」


 児童の一人が窓の外を指さす。

 それを聞くや、数多の児童たちが一斉に外へと駆け出した。


「待ちなさい! 今日という今日は――」

「スキありッ!」


 窓から外へ飛び出していく児童たちに注意を向けていたシャーロットは、足元からこちらに走り寄ってくる児童に気づかなかった。

 その児童――っていうかマセガキは。


 シャーロットのスカートをめくって、股下を潜り抜け、廊下へと逃げていった。


「おひょー!」


 奇声を発しつつ走り去っていくクソガキさん。

 規制が必要なくらいのハレンチな行為を平然とやってのけた。


「ひ、ひええええええええええ⁉」


 児童の思いがけない痴漢行為に、シャーロットは狂ったように喚いた。

 両腕をさすっているところ見ると、肌が粟立っているのだろう。

 ……とまあ、冷静に観察してる俺ですが、シャーロットのパンツを目撃した瞬間。

 ……その、下品なんですが……不覚にも『勃起』してしまいましてね……。

 シャーロットはパンツを抑え、半泣きで叫ぶ。


「み、みみみ、見ました?」

「んー、なんのことかなー?」


 俺はしらばっくれた。

 しらばっくれるしかなかった。

 本当のことを言ったら殺されそうだから。

 シャーロットは、ムッと俺を睨みながら、不意に顔を俯けて――


「……今日、彼と寝るんです」

「あ、やっぱ勝負下着だったんだ、あれ」

「やっぱり見えてたんじゃないですかああああああああああああああああああああ‼」


 ガチ泣きしたシャーロットが俺に殴り掛かった。

 不意のことで、俺は避けきれず、モロに鉄拳を浴びてしまった。


 もうやだ、この学校。

 超帰りたい。


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