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ある駅にて発生した運命的出逢い

作者: 橘雅

 つやっとした黒い髪。ぷりっとした唇。ちょっと赤いリンゴほっぺ。くりっと大きな目。女子高の制服がマジ似合うチョー好みドストライク!

 俺が夢中になっているのは、電車も降りる駅も一緒のあの子。あーかわいい。マジかわいい。横顔もマジかわいい。あ、笑った。面白い本なのか? 携帯をいじってんじゃなくて読書してんのもポイント高いぜ。あーかわいい。マジかわいい。こっそり見てるだけだけど、もう我慢も限界に近い。どうにかお近づきになれねぇかな。


 たとえば、なんか落とすとか。あの子の前で、財布をポイッ。別のヤツに盗まれたらヤだな。

 じゃ、携帯。イヤ、アニメのストラップ見られたらヤベーだろ。オタクだと思われるじゃん?(アニメ好きだが断じてオタクじゃねぇ!) それに気付かれねぇで颯爽と行かれたら……マヌケじゃん?

 じゃぁ……定期! おお、ナイス! あと少しで期限切れだから盗られても痛くねぇし、改札で慌ててたらあの子も声かけやすいよな! それで「ありがとう。お礼にカフェでお茶を……」的な!! 断られても、ならコンビニで奢るよってか? おおっ、俺って天才!! 名付けて「ミッション・定期をポイ&キャッチャー」!! よっしゃ、さっそく実行だ!!


 減速する電車に反比例して俺の鼓動は加速する。駅まであと少し。あとちょっと。プシュー。はい到着!

 俺は自然に落とせるように、ポケットに定期を引っかけて歩き出した。早足であの子を抜き去り、さりげなく前に出て、ポトッと落としてランデブー!!

 と鼻息荒くした俺の目の前で、奇跡が起こった。

 なんと、あの子が、定期を落としたのだ!!

 おおーっと! これは神が与えたビッグ・チャアアアアンス!! 軽やかに目標を拾い爽やかにあの子に話しかけ滑らかにお茶デートへ繰り出すのだ!!

 俺が勇んで踏み出した、その時!


「あ?」

「え?」

「へ?」


 まったく同じタイミングで踏み出した野郎、2匹。

 3つの手が向かった先には、愛しいあの子の定期券。

 ま、ま、まさかあああああああ!! こんなところでライバル出現!?

 しかし負けねぇ!! 野郎共が怨敵のごとく睨んでくるが、ぶん殴ってでも奪い取る!! このチャンスを掴み、あの子の恋人になるのは、俺だあああああああ!!!

 が。


 ひょい。


「あ?」

「え?」

「へ?」


 一瞬で膨れ上がった俺達の戦意に気付かず、軽やかに定期を拾ったのは、通りすがりのサラリーマン。

 改札で困っていたあの子は爽やかに声をかけられ、目を丸くして……。

 え、なんでちょっと頬赤くなってんの? 見間違いじゃなかったら、お礼にお茶でも、って唇が動いたような? おお、そんなそんなと断ったなリーマン! えらいぞ! しかしあの子は、ならコンビニで奢ります! とリーマンの腕を引いて改札を抜けて行った。

 ぷわんと電車が走り出す。寂しい風が吹きつける。

 ……あれ? それって、俺があの子にする予定だったミッションじゃ……?

 やっぱ顔ですか。ちらっと見えたリーマンの顔、イケメンでしたもんねー。アニメストラップつけてる俺が拾っても同じことしてくれましたかー? イケメンな大人に拾われて良かったですねー。運命的な出逢いですねー……。良かったねー……。良かった……ねぇ……っ。ぐすっ。


「…………」

「…………」

「…………」


 ちらりと目を向けると、敗者であり同士である彼らもまた、抑えきれない涙を湛えていた。

 その後、同じ傷心を授かった者として、コンビニで焼け飲み(お茶)した俺達は、固い友情で結ばれたのだった。


 ちくしょう!!




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