先生、旅に出る※未修整
「寒い、寒いですよ高坂さん」
「何当たり前の事を言ってるんですか。冬に北海道に来て寒くないわけないじゃないですか」
「だって、こんなに着込んできるんですよ。それなのにまだ寒いんです。何で高坂さんは平気なんですか」
「寒いのは苦手じゃないんです。でも、僕だって寒いは寒いんですよ」
「良いですね。私は寒いの駄目なんですよね」
「ああ、そう言えば前に言ってましたね。あれ?でも、前に暑いのが苦手だって言ってませんでしたか?」
「ええ、暑いのも苦手なんです」
「・・・先生、南の方の出身でしたよね?」
「奄美大島より南にある離島の出身ですよ」
「なのに暑いの苦手なんですか?」
「出身は関係ないんですよ。駄目なものは駄目なんです」
「先生が引きこもりになる理由が良く分かりましたよ」
「春は外に出ますよ。過ごしやすいですからね。あ、でも、秋は駄目ですね。秋はもうすでに寒いです」
「先生・・・」
寒いのが苦手な私が冬に北海道にいる理由はただ1つ、小説のためだ。あれは2週間前の事・・・。
「先生、どうしたんですか?今回の話はほとんど進んでないみたいですけど」
「うーん、どうしても続きが浮かばないんですよね」
「ええ!もしかしてスランプですか!!」
「いや、元から私は興が乗らないと書けないんですよね」
「え、でも、先生が書けないのなんて初めて見ましたよ」
「外に出て人間観察したり、友人達の話を聞いてると良いネタが沢山ありますからね。良いネタさえあれば書く気になるんですよ」
「今はないんですか?」
「いや、ネタはあるんですよ。ただ私が上手く想像出来ないんですよね」
「それってやっぱりスランプなんじゃないですか?」
「いいえ、違います。想像できないのは」
「想像できないのは?」
「想像できないのは、私が寒いのが苦手だからです!!」
「は?」
「今書いている話は北海道が舞台なんですよ。基本的に実際に行った事がなくても資料を集めれば話は書けるんですけど、今回は全く駄目なんです。雪が降り積もる寒い場所とか全然想像が出来ないんですよね。と言うか想像したくないんですよ。そんな寒そうな状況」
「写真は沢山あるんですからそれで何とかならないんですか?」
「写真だとどんなに寒いのかが良く分からないですからその寒い場所で主人公達が何を思ってどうするのかが想像できないんです。おかげで全く続きが書けません」
「それじゃあ、別の話でも書きますか?」
「いいえ、私は今、この話を書きたいんです。そして私は書きたい話以外は書けないです」
「でも、書けないんですよね?」
「はい、今のままでは無理です」
「だったら」
「だから、北海道に行きます」
「え?北海道ですか?」
「想像できないなら実際に体験してこればいいんです」
「確かにそうですけど・・・」
「さて、そうと決まれば準備しなきゃいけないですね」
「えっ、本当に行くんですか?」
「行きますよ。貯金はありますし、締め切りまでまだ時間もありますからね。あ、編集長にも連絡しておいた方がいいですよね?」
「それなら僕がしておきますけど」
「本当ですか?ありがとうございます」
「あの、本当に行くんですか?」
「だから行くって言ってるじゃないですか。何回同じ事を聞くんですか?」
「1人でですか?」
「そうですね。いきなり誘って北海道まで行けるほど暇な人はいないでしょうから」
「先生、北海道行った事ないんですよね?」
「北海道どころか関東より北の方に行った事ないですよ」
「大丈夫なんですか?」
「北海道がどんな感じなのか体験してくるだけですから別にそんなに心配しなくても大丈夫ですよ」
「でも」
「なら高坂さんも一緒に行きますか?」
「へ?」
「旅費なら私が出しますよ」
「え、いや、自分の分ぐらい自分で出しますよ」
「そうですか?私は自分のためですけど高坂さんは関係ないんですから遠慮しなくてもいいんですよ?」
「いいえ、僕は先生の担当なんです。関係ないって事はありません」
「そう言われればそうですかね?」
「はい。ってあれ?いつのまに行く事が決定したんだ?」
「何やってるんですか?こっちに来てください。早く予定を立てないといけませんから」
「あ、はい」