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委員長のゆううつ。  作者: 香澄かざな
STAGE 1 委員長の受難。
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STAGE 1 委員長の受難。 -その2-

 時間は少しさかのぼる。

 って、そんな大げさなものじゃないけど。でも現状を語る上ではかかせない。あの頃はこんなことになるなんて思っても見なかったんだから。

詩帆しほ。しーほ」

 友達に声をかけられたのは午後一時すぎ。ちょうどお弁当を食べ終わった後のことだった。

「どしたの?」

「あそこの先輩かっこよくない?」

 あそこと言われても。

 季節は秋。涼しさよりも残暑が際立つ九月のはじめ。空になったお弁当箱を片付けながら友達の視線を追う。窓の外。校庭にいたのは、この学校には珍しい容姿をした男子生徒だった。

「プラチナブロンドって生で初めて見た」

 和訳したら金髪とも言うけど。それとも銀髪だったかしら。あたしと同じ学校の制服を着た男子は、一年教室から少し離れた校庭の芝生の上に寝転んでいる。どうして寝転んでいるかがわかったかというと、男子が身動きひとつしなかったから。

「この学校って交換留学生とかあったんだ」

 単純な疑問を口にする。そもそも教室から見ただけで、なんで先輩だとわかったんだか。

「外国人の先生がいるくらいだから、生徒だっているんじゃない?」

 確かに。公立の中学校でさえ外国の教師が授業をすることだってあるんだ。現にあたしのクラスだって産休に入った田中先生の代わりに外国人の男の先生がきたし。高校で外国人の先生や生徒がいても今の時代、それほど珍しくないのかもしれない。

「ところで、なんでかっこいいってわかるの」

 教室の窓から身をのりだしてみる。ここからわかるのは銀色の髪の男子が寝そべっているということ。付け加えるなら男子がいるのは校庭で、あたし達がいるのは二階の、一年六組の教室。よほど視力がいいならいざしらず、どれだけ目をこらしても窓の外からはこれくらいしかわからない。

「英語の先生がかっこいいんだから、生徒もカッコよくなくちゃ。ちなみに一年にはあんな髪の人いないから」

「ご丁寧に解説どうもありがとう」

 だからひと目でわかったのか。それでも外国の人だって日本人だって容姿は人それぞれだろうに。万が一、カッコよくなかったらどうするんだ。

「休み時間がもうちょっとあったら下まで降りるのに。ずっと放課後まであそこにいないかなぁ」

「それはないでしょ」

 この時のあたしは、さしたる感慨もなく友人の声に耳を傾けていたのだった。

 あたし、高木詩帆たかぎしほは1年6組の委員長。小学校中学年からはじまって中学、果てには高校までクラス委員を歴任してしまった。いわば、筋金入りの委員長。

「高木、ちょっといいか」

 どこの学校でも授業は6時限で終わる。ましてや平日じゃよくて5時限だ。そんなことはどうでもいいとして。今日も授業を終え帰路につこうとすると、クラスの担任に呼び止められた。

「行事のことでちょっとな。職員室にきてくれ」

「わかりました」

 二つ返事でうなずき教室を後にする。

「詩帆、今日もお残り?」

「そうみたい。悪いけど先帰ってて」

 友達に目配せすると片手をふって職員室に向かう。肩書きが委員長である以上、無視して帰るわけにもいかない。偉そうな役職名ではあるものの、かといって、生徒会役員やましてや会長ほど多忙な業務を行うわけでもなく。

「アンケート?」

「文化祭があるだろ。早いうちから出し物も決めておいたほうがいいからな」

 どちらかというと先生達や生徒会の伝達事項を受け継いだり、逆に、数十人のクラスメイトの意見や苦情を聞いたり。いわば、しがない中間管理職ってところ。

「ついでに頼んでいた備品が届いたから補充しといてくれ」

「それって私の仕事ですか?」

「ついでに頼む。な」

「……わかりました」

 それでも任されたからにはやるしかない。先生に呼び出されては雑用を手伝い、行事があればみんなを一つにまとめていく。委員長とはかくもきびしい職業なのだ。

 備品室から頼んでいた備品を、チョークと黒板消しを探し物品用ノートに自分の名前を書く。これって掃除当番か先生がやってもいいんじゃ。とんだ職権乱用だ。

 教室にもどってもらってきた物品を補充する。よく見ると、黒板消しが真っ白いままになっていた。今日の掃除当番、ぜったい手抜きしたな。今度言ってやらなきゃ。

 仕方ないから窓を開けて二つの黒板消しをはたく。ぱんぱんとはたくたびに白い煙がたっていく。

 黒板消しをはたきながら、さっき先生が言っていたことを考える。

「文化祭の出し物か」

 二学期の二大行事といえば体育祭と文化祭。もっとも、あたしの学校では体育祭の代わりに全学年合同のクラスマッチだけど。文化祭は11月。今は9月だから本番には二ヶ月余裕がある。だけどおざなりにしてたら後で痛い目みるってことか。

 お店でいくのが定番よね。喫茶店とか。でも色を狙って別のものを考えるべきか。先生の言うようにアンケートなり多数決なりとったがよさそう。

「……ん?」

 黒板消しをはたき終わって窓を閉めようとして。ふいに友達の言葉を思い出す。

『ずっと放課後まであそこにいないかなぁ』

 いくらなんでも夕方まで寝てはいないでしょ。あとプラチナブロンドだってはしゃいでたっけ。

 プラチナブロンド、かぁ。確かにカッコよさそうな響きだ。男の人だっていうのはわかったけど実際はどんな容姿なんだろう。教室から見えるぶんだけじゃなんとも言えないけど、漢民族特有の黒髪じゃないってことはわかった。さらに詳しいことを知りたいなら、もうちょっと近づくしかない。

 頭をふって通学鞄を手に取り、今度は帰路につくために教室を後にする。階段を下りて、靴箱の前で上履きからローファーに履きかえて。せっかくだから買い物でもしてこうといつもと違う道を歩いて。売店近くの裏庭にさしかかると。

 彼は、いた。

 確かに彼は、外国人だった。少なくとも日本人の髪は、こんなに綺麗な色には染められない。ただ教室から見たのと違ったのは髪の色がプラチナ(白金)ではなくシルバー(銀色)だったこと。昼休みの時は、陽の光が当たってたのと遠目だったからそう見えたのか。シルバーブロンドなんて言葉あったかしら。近所のおじいちゃんと同じ髪の色に見えないこともない――って言ったら失礼か。

 そろそろと近づいて、男子のかたわらに膝をついて。あらためて留学生を視察してみる。

 腕を枕にして寝そべっている。ここらへんは教室から見たときと変わりない。留学生と呼ぶにふさわしい真っ白な肌。うらやましい。黄色人種のあたしとはえらい違いだ。背はあたしよりも高い。当たり前か。男子なんだし。

「もしもーし。起きてますか」

 小声で呼びかけてみる。反応なし。わかるのは胸が規則正しく上下に動いてることくらい。

 腕時計を見ると、時計の針は午後五時をまわっていた。さすがに日も暮れてきたし、このままだと風邪をひいてしまう。でも見ず知らずの人をたたき起こすのも気がひける。第一、日本語通じるかもわかんないし。

 どうするべきか考えあぐねていると。

「なかなか大胆だね。君って」

 男子の方から声をかけられた。

 瞼にとざされたはずの瞳はしっかり青だった。サファイアを散りばめたような深い青。透明感のあるそれには誰もが目を奪われてしまう。

 大げさに言ったらこんなところ。でも差し引き半分にしても、目の前の男の人の瞳は青かった。

「さっきから、ずっと見てたよね。ぼくに何か用?」

 青の瞳があたしの方をじっと見ている。耳に聞こえる言葉はれっきとした日本語。ちゃんと話せるのね。英語でもしゃべられたらどうしようかと思った。

 それ以前に『さっきから』って言った。もしかして教室から見てたのばればれだった?

「ごめんなさい。そんなつもりじゃ」

 謝罪の言葉を口にする前に。男子の手があたしの髪に触れる。この間、わずか三秒。言葉を紡ぐ暇もなかった。

「ここの世界の女の子ってずいぶん積極的なんだ。ひょっとしてぼくに気があるの?」

 体を起こして。髪を触っていた手が今度はおさげに移動する。男子とあたしの差は十センチ。初対面なうえに近すぎるにもほどがある。少女漫画だったらここで女の子の頬が紅くなって、キスまで一気にいくところかしら。

 じゃなくて。

「うぬぼれないで下さい」

 我にかえり、慌てて男子から距離をおく。

「風邪ひかないかって心配したけど。その様子なら大丈夫そうですね」

 瞳の色は宝石色でも、話してるのが日本語なら日本人のあたしにも太刀打ちできる。

「それじゃあ」

 立ち上がってスカートについた草をはらう。つられて男子も立ち上がって大きくのびをした。背はあたしよりも高い。正確に言えば男子の中でもそこそこ高い。かといって2メートルもありそうなのっぽさんというわけでもない。中肉中背といったところだろうか。周りがカッコいいと言ってたのもなんとなくうなずける。

 なんて考えてても仕方ない。あたしはこう見えて忙しいんだ。

 一礼して鞄を握りなおし、今度こそ、本当のほんとにさっさと返ろうとすると。

「ちょうどよかった。君ってこのガッコウってところのセイトってやつだよね?」

「それ以外の何に見えるんですか」

 うろんな視線を向け思わず素で言い返してしまうと。

「この世界のこと案内してくれない?」


 それが先輩との出会いだった。

2011年2月時点で執筆できてるのはここまでです。

なお、この作品は自サイトで掲載しているものと同じです。ちょっとずつ更新していけるといいんですけど。

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