表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
委員長のゆううつ。  作者: 香澄かざな
STAGE 2 委員長の旅立ち。
18/20

STAGE 2 委員長の旅立ち。 -その4-

 修学旅行のやり直しと銘打った異世界生活も今日で三日目。海の中の生活にはなんとなく慣れた。具体的には朝起きて窓の外にクラゲが浮かんでいても驚かないくらいに。

「……六時四十分か」

 むしろクラゲを見て時間を確かめれるようにもなった。ちなみに地球と霧海ムカイの時差はおおよそ六時間。腕時計の地球時間と照らし合わせて判明した。それでも家に連絡を入れる約束になってるから地球時間の把握のためにも腕時計はかかせない。

 このふよふよとただようクラゲ、海月時計くらげどけいと呼ばれているらしい。理由は簡単。クラゲ自体に時計の針が浮かんでいるから。地球と異世界の時間枠とか根本的に違ってたらどうしようとか思ってたけど、幸いにも海月時計の針はあたしがはめている腕時計のものとまったく同じだった。あと試しに触ってみたらちょっとだけびりびりした。正確には体に気持ちいいくらいの電流でそのうちマッサージにでも使えそうだ。

 いつものように顔を洗って髪を結ってメガネをはめて、といきたいところだけどここには水道がない。そもそも水の中に水があるというのも変な話だし。そんなわけで顔を洗うのは断念して、タオルで顔をふくだけにしておく。

 ストラップの石のおかげで水の中でも息はできるし霧の中でもある程度の見通しはつくようになった。本当は水を飲まなくても生活できるようになるらしい。なんでそんなことができるんですかと尋ねたら『乙女の秘密』と返された。しかもハートマークつきで。この世界ではリズさんの力とやらがあればある程度なんとでもなるらしい。つくづくわけのわからない自称叔母さんだ。

 なんなら霧海ムカイにいる間だけでも飲まず食わずで生きていけるようにしてあげようかと提案されたものの慎んで辞退した。ただでさえとんでもない世界にきてるのに、このままとんでも体験ばかりしてるとそのうち魚になってしまう。だから、水のかわりにこうしてジュースを飲んでいる。手鏡はあらかじめ持ってきておいたからそれをたよりに髪を三つ編みにしてメガネをかける。

 パジャマがわりのジャージからリズさんに見立ててもらった服に着替えて。

「よし」

 軽く頬をたたいて扉を開ける。いよいよ本格的に父親捜しのはじまりだ。

「おはようございます。早いんですね」

 ――の前に、翠玉すいぎょくの瞳とぶつかった。昨日と同じ民族衣装のような格好で腰には剣をたずさえている。たぶん物語に出てくる騎士とかってこんな感じじゃないかしら。

「ただの習慣です」

 家ではいつも朝六時半に起床している。学校までは駅まで徒歩五分と電車で二十分、終点から徒歩十五分の合計四十分かかる。課外は受けてないし八時過ぎに着けば充分だから早めに起きて家で勉強することもある。人間、長年つちかった習慣はなかなか抜け出せないということだ。

「カリンさんも早いですね。いつもそうなんですか?」

 同じ言葉を返すと彼はうなずきを返した。

「変な夢をみてしまって。もう一度眠ろうとしたんですが、散歩をしていたらいつの間にかこんな時間になってしまいました」

「変な夢?」

 おうむ返しに尋ねると、海の中は何度来ても慣れないからうまく寝付けなかったんだろうとのことだった。異世界の住人なら誰でも水に慣れているんだろうと思っていたら、どうやら違ったらしい。

「故郷を離れてしばらくたちますから。皆さんは元気にしているのか、イオ様はどうしていらっしゃるのかと考えているうちに夜がふけてしまったみたいです」

 聞き慣れない名前に首をかしげると、なんでもないですと淡く微笑まれた。

「息災に過ごしていてくださればいいんですけど、なかなか言うことをきいてくださらない人ですから。僕達がどれだけ気をもんでいるかも知らないで」

 眉を寄せてぶつぶとつぶやく様は、ちっともなんでもないですって表情には見えない。詳しく訊いていいものかとタイミングをうかがっていると、それよりもと急に顔を近づけられた。

「どうしてセイルさんは『センパイ』なのに僕は名前のままなんですか?」

 真顔で、かつ半分怒っているような雰囲気で。

「カリンさんは同じ学校に通っていたわけじゃないですし」

 たじろぎつつも正直に告げる。むこうは仮にも同じ学校で過ごした在校生なのに対し、目の前の男の人は異世界で初めて会った住人だ。おそらくあたしより年上ではあるだろうけど『先輩』と呼ぶには無理がある。それともこっちの世界では先輩という概念がないんだろうか。

 そのことを伝えると、だったらせめて彼と同じように呼んで下さいとの応答。なんだか無茶苦茶な気もする。だったらあたしに対する丁寧口調もやめてくださいと言えば口調は生まれつきなのでそう簡単には変えられないとのこと。押し問答の結果、結局カリンくんと呼ぶことで了解を得た。

「カリンくんはどうやってみんなと知り合ったんですか?」

 新しい呼び名にやや抵抗を覚えつつ質問する。今いるメンバーは目の前のカリンくんに先輩、リズさんに海の妖精マリーナさんの四人。それについ先日あたしが加わって合計五人になってしまった。もっとも『自称叔母さん』とか『どう見ても人魚』とか頭に変な枕詞がついてしまうけど。

「怪我をしているところを手当してもらったんです」

 返ってきたのはいつかの先輩のそれとまったく同じものだった。

「怪我って、事故にでもあったんですか?」

「そんなところです。もしかしたら死んでいたかもしれませんが」

 意外だった。物腰柔らかい目の前の男子が怪我をするような大事をおこすなんて。

「僕は地上人ちじょうびとですから。あんなことがなければ海人うみびとのリズさんとはまず会うことはなかったでしょうけどね」

 チジョウビトとかウミビトとか『あんなところ』の指すものを是非おしえてもらいたいところだけどぐっと我慢する。こういうことは自分から話してくれるまで聞くべきではないんだろう。

「怪我はもういいんですか?」

「さすがに一年もあれば完治しますよ」

 なかなかすごい発言に絶句しそうになり、ふと以前の会話を思い出す。記憶が正しければ数百歳がどうのこうのとそれこそ絶句ものの台詞を口にしていたような。

「あの。カリンくんっていくつなんですか?」

 おそるおそる尋ねると翠玉の瞳の男子はこう言ってのけた。

「見た目通り普通ですよ。180歳です」

 全然普通じゃなかった。

「シホさんは? 僕と同じくらいに見えますが」

 そんなに長生きできるはずはない。

「……普通に16歳です」

 ここは見た目と年齢が一致しない異世界だということがよくわかった。この人の一年はあたし達地球人のいうところの何日になるんだろう。そして、自称叔母さんの実年齢はいくつなんだろう。今度、先輩にも実年齢を確認しておこう。

 思わず背筋が凍ってしまったあたしをよそに彼は会話を続ける。

「ある人から頼み事をされているんです。それが完了するまで怪我くらいで寝込んでいることはできませんから」

「それが『イオ様』って人?」

 なにげなくと呼ぶよりも今までの流れからつぶやくと、カリンくんは穏やかに微笑んだ。

「そろそろ行きましょう。みなさん待ってますよ」

 この時はまだ、彼の微笑みの意味に気づくこともなく。彼の後ろに着いていくのが精一杯で。先輩といいカリンくんといい、男子は怪我をするのが好きなんだろうか。というよりも異世界ってそんなに危険な場所なんだろうか。

 なんてことを思案していると時間はあっという間にすぎていって。

「身支度もととのったしそろそろ行くさね」

 気づけばマリーナさんの声に顔をあげていた。

「行くってどこにですか?」

 気づいたら異世界で翌日は湖にダイビング。三学期の終業式が終われば即異世界へ。いい加減この展開にも慣れてきた。

 今いるのは『水の里』。地元にも同じ名前のお土産屋さんがある。実家にもどった時に念のために立ち寄ってみたけどそことは何の関係もなかった。手ぶらで帰るのも気がひけたから手近にあったふりかけを霧海ムカイの手土産に買ってきたというエピソードもある。 そんな中で今度はどこに行くのかと首をかしげると、待ちに待った出発だという声が返ってきた。

「しーちゃんの目的は何?」

 リズさんに顔をのぞきこまれる。旅の目的が何かと訊かれたら答えるのはただひとつ。

「親父を捜してぶん殴る」

「おー、詩帆ちゃん勇ましい!」

 隣で先輩が合いの手を入れる。だってそうじゃないか。わけのわからない場所に飛ばされたのは先輩に接触したからで、加えれば自称叔母さんのリズさんに興味を持たれたからで。叔母さんということは母親もしくは父親の妹ってこと。お母さんに妹はいないから残るは父親ってことで。元はと言えば、父親のとばっちりでこんなことになったわけ。顔もろくに覚えてないけどお母さんのぶんとあたし、二人分の落とし前はしっかりつけてもらおう。

「お父さんをぶん殴るには居場所をつきとめないとね」

 まったくもってその通りだ。でもそれですぐ見つかれば苦労はないし、そもそも居場所がわかっていたら母親が捜してすでにぶんなぐってる。

「心あたりはあるんですか?」

「あるよ」

 半信半疑で聞くとあっさり告げられた。

「どこにいるんですか」

「時の城」

 またわけのわからない単語が出てきた。今度は地元の土産物屋にもない名前だ。

「その『時の城』とやらは、どうやったら行けるんです?」

「教えてもいいけど、しーちゃん一人で行くつもり?」

 図星をついた質問返しにドキッとした。目の前の人達を信用してないわけじゃないけれど、いかんせん顔を合わせたのはつい先日で。なにしろ母曰く『ふらっと出てきてふらっといなくなる人』らしいから。今だって本当にそこにいるかも怪しい。ここで手間取ってるよりも直にのりこんだほうが早いんじゃないかと思念していた矢先のこの指摘。見た目に反して自称叔母さんはなかなかあなどれない。

「気持ちはわかるけどさ。ちょっと落ち着きな」

 簡単に行けるところじゃないから手順をふんでいかなきゃならないと続けてマリーナさんにたしなめられても気持ちは焦る一方で。なにしろ春休みは二週間、正確にはあと十日あまりしかない。ただでさえ眉唾ものの話なのに、ここでもたついていたら見つかるものも見つからなくなってしまう。

「お兄ちゃんはあれでも神様だったから、一人で捜すのは大変だよ。でもわたしが一緒なら大丈夫」

「そうそう。急いてはことをしそんじるってね」

 人が焦っている時にこの台詞。前から思ってましたけど先輩ってやけに日本のことわざ詳しいですねと皮肉を込めて言うと、ぼくって勤勉家だからと笑顔で応酬された。一体どこまで本当なんだか。

「じゃあ『時の城』ってところに向かう。当面の目的はそれでいいんですね」

 確認の意味をこめてリズさんを見つめる。

「うん。いーよ」

 紫色の瞳はにこにこと微笑んでいた。それ以上は時間がおしいのであえてつっこまないことにする。詳しいことはおいおい話してもらうことにしよう。

 深呼吸をしてあらためてリズさんに声をかける。

「ここからそこまでって、どれくらいかかるんですか」

「うーん。地球時間で一ヶ月くらいかなあ」

 ちょっと待った。

「リドックを径由することになるでしょうから、それなりの準備がいるんじゃないですか?」

「そっか。じゃあ二ヶ月先かな」

 なおさら待った。

「リドックってどんなとこ? ぼく行ってみたいな」

 先輩の話はどうでもいい。

「順序をおって話そうか」

 マリーナさんの説明によるとこうだ。時の城とは霧海ムカイや地球よりもずっと遠い場所にあるとのこと。そこに行くためには青の神殿とやらに行かないといけないらしくて。さらにその神殿に行くためにはリドックという場所を径由しないといけないらしい。らしいらしいの連続だけど、見たことも聞いたこともない話だから簡単に断定はできない。

 じゃあ、ここから具体的にどうやってリドックへ行くのかというと。

「さ。出発だよ!」

 威勢のいいかけ声の先にあったもの。それはあたしが湖から落っこちてきた時に見つけた大きな柱だった。

またもや大幅におくれました(涙)。もうちょっと定期的に更新できるといいんですけど。

ちなみにただいま午前中ですが暑いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ